August 20, 2016

WORLD WAR Z

WORLD WAR Z〈上〉 (文春文庫)WORLD WAR Z〈下〉 (文春文庫)

キーワード:
 マックス・ブルックス、ゾンビ、戦争、政治、群像劇
映画にもなった原作小説。以下のようなあらすじとなっている。
中国で発生した謎の疫病―それが発端だった。急死したのちに凶暴化して甦る患者たち。中央アジア、ブラジル、南ア…疫病は急速に拡がり、ついにアウトブレイクする。アメリカ、ロシア、日本…世界を覆いつくす死者の軍勢に、人類はいかに立ち向かうのか。未曾有のスケールのパニック・スペクタクル。大作映画化。
(上巻のカバーの裏から抜粋)
死者の大軍を前にアメリカ軍は大敗北を喫し、インド=パキスタン国境は炎上、日本は狭い国土からの脱出を決めた。兵士、政治家、主婦、オタク、潜水艦乗り、スパイ…戦場と化した陸で、海で、人々はそれぞれに勇気を振り絞り、この危機に立ち向かう。「世界Z大戦」と呼ばれる人類史上最大の戦い。本書はその記録である。
(下巻のカバーの裏から抜粋)
ときどき、1か月周期ごとにゾンビに追われるような夢を見る。ゾンビそのものはそこまでリアルではないのだけど、ゾンビらしき人間ではない何かに追われて不安になってうなされる夢。何かにとりつかれているように。そんな体質?なのだから、ゾンビ物にはどこか惹かれるものがある。

最初のゾンビの出会いは何だったろうか?小学校低学年ごろに見た『バタリアン』だったろうか?それからいろいろとゾンビ物映画を見たり、ゲーム(といっても『バイオハザード』は初期1,2だけだったり、最近だと『The Last Of Us Remasterd』)し、最近の漫画なら『アイ・アム・ヒーロー』を読んだり、アメリカドラマの『ウォーキングデッド』シリーズにドはまりしているという状況。しかし、ふと振り返ってみると、ゾンビ物の小説は読んだことがなかった。

以前2chのまとめスレか何かで映画化されたこの原作本がよいという情報を得ていたし、たまたま図書館で発見したので、借りて読んだ。

Amazonのレビューで『問題は、「麦茶だと思って飲んだらウイスキーだった」という違和感にある。』と評されているが、まさにそんな感じだった。特定の主人公はおらず、ゾンビパニックものの定番である、ホームセンターでの籠城もなく、なめた行動をとったヤンキー的な奴が速攻で食われるという感じでもなくw、お色気担当的な女性キャラも出てこない。

ネタバレではないけれど、これは人類が遭遇した『世界ゾンビ大戦』で生き残った人たちのインタビュー集という形をとっている。様々な国の様々な立場の人たちが、ゾンビパニックの終結間近で過去の惨状を振り返り、自分たちがその時どういう状況にあって、どのように行動し、生き残ってきて、大戦を振り返って何を思っているか?という内容である。

様々な登場人物として、最初に中国の地図にも載ってないような山奥でおそらく最初のゾンビ感染者を診た医者であったり、ブラジルの心臓移植手術の外科医が感染の瞬間を目撃したり(中国からの合法、違法な臓器移植で世界中に感染が広がる!!)、アメリカの女性空軍パイロットが掃討作戦時に飛行機墜落後に無事にパラシュートで脱出後のサバイバルであったり、京都の引きこもりコンピュータオタク少年が命からがらマンションのベランダ伝いに脱出したり、全面戦争時の軍隊所属の兵士だったり、CIAの長官的な立場の人だったり、ゾンビ大戦に人々を勇気づけるために映画を撮っていたアメリカの青年などなどが出てくる。また、北朝鮮が独裁国家で常に管理体制があったのでゾンビパニックに意外に対応できてたとかいろいろな各国の特性を活かした逸話がさも本当にあったかのように語られている。

やはり本作品は単純なゾンビパニックものという感じではない。国家が崩壊していく様子があったり、パニック下の国同士の利害関係が描かれていたり、各国がゾンビパニックにどう対処していくか、そしてゾンビと相対していった各個人たちはどうなっていくのか?(精神的に壊れて肉体的には感染していないが突如ゾンビのようにふるまう人や、軍人たちが突如自殺に走ったり)などがそれぞれの個人を通して軍事、政治的、群像劇的、有機的に描かれている。本質的なテーマはゾンビよりもタイトル通り『戦争』がぴったりな気がする。ただし、敵は不眠不休で痛みも疲労も知らず、ただ捕食しようと跋扈している不死の奴らというのが大きな違いだが。

そしてよくここまで有機的、網羅的にかつリアルに感じさせる世界情勢を描いているなと思う。京都が舞台の日本のインタビュー者の様子などもよく日本の特性を調べているなと思わされる(ダウンタウンの二人の名前が出てくる)し、他の国の人たちもリアルな感じがする。いろんな人に本当にインタビューしたのではないかと思わせられる。そしてそれぞれの個人が割とどこにでもいるような人でもあったりして、身近に感じる。

いろんな切り口から語れる本だと思う。インタビュー的な口語体なので、スピード感をつけて没頭して読める。そして、解説も秀逸で、本編のインタビューの形を踏襲しており、過去のゾンビ作品、ゾンビの由来、著者についてなどがわかってゾンビマスター?になるための読み物としても興味深く読める。また、まさにその通りと思うようなところがあったので、その部分を引用しておこう。
さまざまな地域のいろいろな階層・職業・年齢・性別の人間の証言をコレクトして時系列順に配すると、あら不思議、断片の集積から大きな物語が見えてくるという手法。実に、ネット情報収集時代にふさわしい形式だ。ただし、普通の小説を読みなれている人には、話を統一する役割の感情移入できる主要キャラがいなくて、もちろん心理描写などもなくて、魅力や深みにかけるなんて思うかも知れない。でも、リアリティは抜群だよ。数世紀後に人類の死滅した地球にやってきた異星人が本書を解読したら、ぜったいに歴史的事実を記録した文書だと思うにちがいない(笑)。
(下巻 pp.331-332)
ほんこれ‼!w

ブラッド・ピット主演の映画のほうはまだ見てない(劇場で見ようかなと思ったけど、ビビるかもしれないから結局スルーしたw)。借りてきてあるので、これからじっくり堪能する。

ゾンビ物が好きな人は読めば一味違ったものを鑑賞できるし、軍事的小説、政治的小説、世界崩壊的なSF作品が好きな人、ある事件のインタビュー集ようなものが好きな人は間違いなく楽しめる作品だと思う。

それにしてもなぜこうゾンビに惹かれるのだろうか?といろいろと考えたりもした。個人的にはどこかに再生、復活願望があるのかもしれないと思った。



WORLD WAR Z〈上〉 (文春文庫)
マックス ブルックス
文藝春秋
2013-03-08

WORLD WAR Z〈下〉 (文春文庫)
マックス ブルックス
文藝春秋
2013-03-08

読むべき人:
  • 世界崩壊的なSF作品が好きな人
  • 群像劇的な作品が読みたい人
  • ゾンビマスター?になりたい人
Amazon.co.jpで『マックス・ブルックス』の他の本を見る

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August 11, 2016

微睡みのセフィロト

キーワード:
 冲方丁、SF、ハードボイルド、コースター、天使
SFサイバーパンク的なハードボイルド小説。以下のようなあらすじとなっている。
従来の人類である感覚者と超次元能力を持つ感応者との破滅的な戦乱から17年、両者が確執を残しながらも共存している世界。世界政府準備委員会の要人である経済数学者が、300億個の微細な立方体へと超次元的に“混断”される事件が起こる。先の戦乱で妻子を失った世界連邦保安機構の捜査官パットは、敵対する立場にあるはずの感応者の少女ラファエルとともに捜査を開始するが…著者の原点たる傑作SFハードボイルド。
(カバーの裏から抜粋)
夏休みは慣習的に青春小説やSF小説を読みたくなる。そこで久しぶりに図書館に行ったら、冲方作品である本書が目に止まって借りた。本書は『マルドゥック・スクランブル』以前に書かれた作品で、どこか共通点があるというか、漫画家にとっての連載デビュー作の前の読み切り作品のような感じでもある。

主人公であるバットは『マルドゥック・スクランブル』、『マルドゥック・ベロシティ』のボイルド的な位置づけで、重厚なキャラで寡黙だが、半不死で肉体を再生する特殊能力を持つ。また、17歳の少女ラファエルは警察犬よりも訓練されたヘミングウェイという犬を相棒とし、あらゆる特殊能力を備える超人的な存在であり、やはりバロットの原形のようでもある。つまり、バロットとボイルドが組んで、超次元的に標的を殺さずに虫の息にバラバラにした犯人を追うという物語になる。ストーリの重厚感はあまりなく、キャラのバックグラウンドも少し薄い印象があって、全体的な完成度は『マルドゥック・スクランブル』、『マルドゥック・ベロシティ』には及ばない感じか。また、サイバーパンク的な要素もわかりにくい感じがする。もっともらしい用語で雰囲気を出しているようでもあり、いまいち描写がイメージできないところもあるし、設定の説明不足感はある。しかし、解説に示されているような「ローラーコースター・アクション」は著者独特の緩急のつけ方が光っている。

嵐の前の静けさというか、アクションが始まる前の敵の出現の前の予兆があって、何かがきっかけに急激に銃弾が炸裂する音や肉が焦げ付く匂い、血みどろの肉弾戦が繰り広げられる。そして一気にコースターが急下降したと思ったら右往左往していろんな方向に疾走し、SFアクション映画を見ているような感覚になる。これがやはりすごいと思う。

冲方氏のサイバーパンク的な作品を未読の人はこれから読むのがいいのかもしれない。その次にマルドゥックシリーズに行くと、すんなりと世界観や登場人物に感情移入して、さらに完成度の高いローラコースター・アクションを楽しめるのではないかと思う。

また、最近『マルドゥック・アノニマス 1』が発売されたので買わなくてはだなと。その前に短編集である『マルドゥック・フラグメンツ』も読まなくてはだけど。

本作品は200ページくらいなので、スピード感をつければ1日で読了できて、割と楽しめると思う。




読むべき人:
  • 疾走感のある作品が読みたい人
  • 特殊能力を駆使するバトルが好きな人
  • 戦う少女の物語が読みたい人
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August 07, 2016

マシアス・ギリの失脚

キーワード:
 池澤夏樹、政治、日本、魔術、運命
幻想的な長編小説。以下のようなあらすじとなっている。
南洋の島国ナビダード民主共和国。日本とのパイプを背景に大統領に上りつめ、政敵もないマシアス・ギリはすべてを掌中に収めたかにみえた。日本からの慰霊団47人を乗せたバスが忽然と消えるまでは…。善良な島民たちの間でとびかう噂、おしゃべりな亡霊、妖しい高級娼館、巫女の霊力。それらを超える大きな何かが大統領を呑み込む。豊かな物語空間を紡ぎだす傑作長編。谷崎潤一郎賞受賞作。
(カバーの裏から抜粋)
去年の9月に休職しているときに池澤夏樹の作品である『バビロンに行きて歌え』を読了したときに、『マシアス・ギリの失脚』もスゴ本だからとおすすめされたので、買っておいて、積んでおいた本。また、絶版になる可能性があるから見つけたら買っておいたほうがいいという助言もいただいた。Amazonで買ったけど。現時点で3冊在庫アリっぽい。

長い小説をなんとなく読みたかった。そろそろ読み時かなと思って読んだ。読了には2ヵ月も要した。2ヵ月もかかったらあんまり没頭できていないような感じもするが、そうではない。やはり文庫で600ページ超と長いからというのも大きな理由だけど、熱中して読みすぎると疲れるというのがあった。不思議な魔力が込められているような感じで、精神力を要する、そんな作品。決して読みづらいという感じではないのだけど。

主人公のマシアス・ギリは60歳過ぎの小柄なナビダード共和国の大統領であり、その国はかつて太平洋戦争時に日本軍が占領したとされている。日本から47人の慰霊団がやってきて、その慰霊団を乗せたバスがどこかに消え去り、島の民家そばや海の上を走る姿など不思議なところで目撃される。マシアス・ギリは日本からやってきた政府系企業の使者と会い、またほれ込んでいるアンジェリーナという女が経営する娼館に入りびたり、そこでエメリアナという少女と出会い、マシアスの運命は失脚に向けて動き出す…。

あらすじを示そうにもあまりにも重厚でいろんな要素が盛り込まれている作品なので、なんとも形容しづらい。この作品はマジックリアリズム的で、読んでいる途中でも日本人でもこのようなものを書けるのか!!と感嘆していた。間違いなく『百年の孤独』を意識しているというか、それをベースとした著者なりのマジックリアリズムを紡ぎだしている。『世界文学を読みほどく (新潮選書) [単行本]』で確か『百年の孤独』を傑作と称賛していたので(10年くらい前に読んだのでうろ覚え)。

200年前にこの国にいた幽霊がマシアスの意見役でいろいろと議論していたり、その島の神話的な話が挿入されたり、消えたバスの動向が示されているリポートも独立して存在したり、島の祭事をつかさどる巫女の存在、魔術的な力を持つ人物なども出てきて、現実的な政治の話と超現実的な見えない力に翻弄される話が入り混じっている。また、マシアスも含めた人物の背景描写も延々と長く続いていくので、物語を奥行きを演出し、そして超現実的な事象もさえもそこに当然のようにあるように仕立てられ、ナビダード共和国が構築されている。

1点読み始める前に注意が必要なのは、物語の終盤の盛り上がっているところに唐突に『薔薇の名前』と思われる作品のネタバレ的な内容があるキャラの会話によって示されていること。リアルでファッ‼!!?って声を出しそうになったwいくら著者が世界文学に精通されていても、ネタバレ的な要素で盛り上がりを演出するのはいかがなものかと思った。それは積読してて未読なんだけど…。もうしばらく塩漬けにしておく必要がありそうだ。しかし、未読なのだから本当にその作品のネタバレなのかは確信がないのだけど、十中八九そうだろう。

暑い南の島の話だから、夏休みに一気に読むのがいいかもしれない。はまれば徹夜本らしいので。速く読んでもゆっくり読んでも、どちらにしろ読むのには時間がかかるが、神話的で幻想的でもある物語の世界にしばらくダイブしたままになれる。




読むべき人:
  • 長い物語を読みたい人
  • 幻想的な物語が好きな人
  • 夏休みに運命を感じたい人
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July 18, 2016

旅をすること

キーワード:
 小林紀晴、旅、写真、カメラ、文章
写真家によるエッセイ。以下のような目次となっている。
  1. 1 旅をすること―アジア
  2. 2 そのいい加減さに身をゆだねる決心をした―ニューヨーク
  3. 3 誰が正しくて、誰が間違っていて―映画
  4. 4 三つだけ残った段ボール箱―東京・その他の風景
  5. 5 その盆地の中でその祭りの年に生まれた―諏訪
  6. 6 世界がささやかだけど違って見える―写真
  7. 7 『深夜特急』の熱心な読者だった―本・写真集
(目次から抜粋)
西新宿のブックファーストのフェアでおすすめされていたのが目に留まって買った。旅成分が自分には足りない、旅に出たいというような気分だったので。そして先日の黄金週間中に香港・マカオ旅行中のお供として持って行って、飛行機の中や帰りの飛行機が整備不良で欠航になって急きょ延泊したホテル(無料)で読んでた。

著者は写真家として若いころは写真学校に通い、そのあとアジアを旅しながら写真を撮り、911前後のニューヨークに住んでいたりもしたらしい。著者の生い立ちから写真に興味関心が出るまで、そして見た映画や読んだ本についていろいろなことについて飾らない文章で語られている。

著者のことは何も知らない状態で読んだ。写真家としてどんな作品があるのか、何をメインで撮る人なのかも知らないし、どういうバックグラウンドを持つ人なのかも知らなかった。それでも、読んでいると飾らない文章が心地よい気がした。海外、国外のいろいろな場所で、大小さまざまな事件や日常のちょっとした出来事に関して、著者の考えや志向性が垣間見える。先入観もなく読み始めて、そういう全く知らない人の意見や考え方、日常生活の気づきなどが得られるのがとてもよかった。

前半部分は一つのタイトルで2,3ページ(長くて10ページほど)で、ニューヨーク滞在時に語学学校に通っていた時のクラスの人たちや写真仲間たちとのやり取りが示されている。それが上質な短編小説を読んでいるような感じでもあり、短い文章の後に不思議と余韻が残るような感じがして、そのテーマについて自分ならどう考えるか?と自然と思索をさせられる感じだった。もしくは自分自身ならそのような出来事をどうとらえるか?といったことなども考えさせられる。そういうのがエッセイを読む効用というか、どこかで期待していることのように思えた。

テーマは旅でもあり、写真でもあるので、自然と写真を撮りたくなる。もちろん香港・マカオ旅行中はデジカメ(コンデジ)を持ち歩いて撮りまくった(700枚ほど)。撮っているときはこれはうまく撮れた‼と一人で納得しているのだけど、帰ってきてからPCの大画面で見てみるとピンボケしてたり、構図がいまいちだったり、撮りたかったものと微妙に違っているのが大半だったりして、自分が良いと思う写真を撮るのは毎回難しいなと思わされるのであった。

写真を撮るのが好きな人はいろいろと参考になると思う。撮り方などテクニックみたいな話は全く出てこない。著者が写真にはまるきっかけなどや、何を撮ってきて、写真をどうとらえてきたのか?などの考え方が参考になると思う。また、旅でもあるので、いろんな場所でいろんな人と出会うのが好きな人にも共感できることだろう。あとは、エッセイが好きで、飾らない、短編小説のような文章が好きな人にもよいと思う。

ページ数は多めなので、じっくりと日常生活の合間、もしくは旅の途中の休憩時間、移動時間に読むとより堪能できる。



おまけ。
sky100
香港・マカオ旅行中で唯一一番よく撮れたと思う写真。sky100というビルの展望台から。



旅をすること
小林 紀晴
エレファントパブリッシング
2004-10

読むべき人:
  • 旅行が好きな人
  • 上質なエッセイを読みたい人
  • 写真家になりたい人
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July 03, 2016

Amazon Web Services企業導入ガイドブック

キーワード:
 荒木靖宏、クラウド、AWS、移行、計画
AWSの導入時のポイントが網羅されている本。以下のような目次となっている。
  1. #1 [概要編] クラウドコンピューティングとAWS
  2. #2 [概要編] AWSのさまざまな利用シーン
  3. #3 [概要編] AWSのサービス
  4. #4 [概要編] AWSのセキュリティ概要
  5. #5 [戦略・分析編] クラウド導入のプロセス
  6. #6 [戦略・分析編] 現状分析の進め方
  7. #7 [戦略・分析編] クラウド標準化
  8. #8 [戦略・分析編] PoCによる事前検証
  9. #9 [概要編] クラウドにおけるTCOと費用見積り
  10. #10 [設計・移行編] クラウド利用時の開発プロセス
  11. #11 [設計・移行編] クラウドにおけるシステム設計
  12. #12 [設計・移行編] クラウドにおけるサイジングと性能測定
  13. #13 [設計・移行編] クラウドへの移行
  14. #14 [運用・改善編] AWSにおける運用監視
  15. #15 [運用・改善編] クラウド活用の最適化
(目次から抜粋)
自社のシステムがデータセンターで運用をしていて、月々の運用コストがかかっているのでコストダウンを図りたいよね、そしてその後のシステムの拡張性などを考慮するとクラウドに移行がいいよね、いろいろ調べたらAzureよりもAWSかな?、ということで移行よろしく!!という仕事が発生しとき、そもそもクラウドって何?AWSで何ができるの?、そんでいくらコストかかるの!?教えてエ〇い人!!みたいな状況だった。

普通はAWSについて調べようと思と、本家のサイトを見ればよいのだけど、S3、EBS、RDS、VPCなど独自の略語やタカナ語が多すぎるし、あまり構造化されてないのでどっから見ればよいのかわかりにくいし、サービス紹介動画を見ても激しく眠くなるしw、ブラウザ上で何時間も慣れない文章を読むのは疲れる。そんなとき、先月中旬に発売した本書がたまたま目に留まり、速攻で買って読んでみたわけだ。

本書はAWSのサービスの概要、AWSを導入時に検討すべきポイント、サービスのサイジング、クラウド移行の計画の立て方、移行してからの運用監視についてなどが網羅されている。

出回っているAWS本はすでに導入した後の使用時の設定について書かれていることが多いが、AWSを導入するときに何を考慮しなくてはいけないのか?、移行計画とか何を考えればいいんよ?とか導入以前のことがほとんど書いてなかったりする。しかし、本書は僕のような状況時に移行前に知りたいことがほぼ網羅されている印象で大変役に立った。

特に勉強になったのは、クラウド移行の目的を先に明確化すべきというところかな。いくつか示されているが、コスト削減、伸縮自在性や柔軟性の向上、インフラ調達効率の向上などがあり、その中でも優先順位付けをすべきとあった。そして、サービスレベル要件、性能要件、セキュリティ要件などクラウドで達成すべき要件を洗い出すと費用やスケジュールが明確になるようだ。

そして、移行が決定したらどの順番でどのように移行するか、どれくらいコストがかかるのかを判断するための現状分析が必要になるが、その流れが以下のように示されている。
  1. 移行対象の選定
  2. アーキテクチャ検討
  3. ロードマップ策定
  4. コスト試算
プラットフォームの全面移行などの仕事をしたことがある人にとっては、当たり前のことなのだけど、そういう経験がないと、どっから手を付けてよいのかわからないので、このように示されているのは本当にわかりやすくて、そのまま仕事に使える。

あとはAWSは使った分だけ課金するモデル(オンデマンドインスタンスの場合)なので、利用を変動させられるのが特徴である。そのため、固定作業と可変作業のコストを最適化できるので、サービスの直接コスト、間接コストを見積り、比較するための財務指標になるTCO(総所有コスト)をある程度の期間想定して評価することが重要らしい。まぁ、要はいろんなAWSサービスの構成を組み合わせた時にいくらかかって、ROI的にどうなるのか?をしっかり考えるべきと。お金は大事だしね。

実際の見積りには本書では以下のようなツールが示されている。あとは本書には載ってないけど、金額見積りをExcelベースで算出できる割と便利なものが以下にある。全部使ったわけではないけど、とりあえずExcelが楽かな。

本書はAWSの中の人が書いているので、内容としては間違いはないだろうし、何よりもユーザ企業がAWSを導入するときに何を検討すべきなのかがよく分かっているというか、そのような導入時に検討すべきことがナレッジとしてそれなりに蓄積されているのだろうと思われる内容だった。もうすでにAWSを利用して運用している人には、デジャブ感いっぱいの内容かもしれないが。しかし、AWSの移行前に何をすればよいかわからない!!、というときはまずはこれを読むのがよいだろう。

技術本は今抱えている仕事の解決策になるのか、ヒントを得られるのかどうか?を目的として読むので、使える、使えないが割とはっきり評価しやすいが、本書はかなり使える!!と思った。




読むべき人:
  • AWSの概要について知りたい人
  • IT戦略などの意思決定をしなくてはいけない人
  • クラウド移行を検討している人
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June 19, 2016

新米IT担当者のための Webサイト しくみ・構築・運営がしっかりわかる本

キーワード:
 池谷義紀、Web、開発、担当者、入門書
Webサイトの構築・運営の基本的なことがまとまっている本。以下のような目次となっている。
  1. 序章 Web担当者の仕事を知ろう
  2. Chapter1 Webサイトの仕組みを知ろう
  3. Chapter2 Webサイトの構築準備をしよう
  4. Chapter3 Webサイトを構築しよう
  5. Chapter4 Webサイトを運営しよう
(目次から抜粋)
転職してから、SI的なSEから自社のWebサービスの開発・運用の担当に仕事が変わったので、Web全般の基本的なことを知る必要があると思った。そもそも一般的な業務システムの作り方とWeb系は同じシステム開発といっても似ているところもあれば、全然違ったりするので、今までの知識体系だけでは足りないだろうというのもあったし。そこで、書店で何かないか探してみて、本書が目に留まった。

タイトルに『新米IT担当者のための』とあるとおり、入門書的な内容となっており、そもそもインターネットとはどういう仕組みか?といったところから、Webサイトの企画から構築までに必要なこと、制作会社の選び方、Web特有のUI/UXの基礎やSEOやアクセス解析、Webマーケティング、セキュリティ、個人情報、著作権など法律的な部分に関連するところまで幅広く基礎的な内容が網羅されている。

ある程度基礎的なことは分かっているけど、やはりWeb特有の概念、特にWebマーケティング的な部分、UI/UXなどデザイン的な観点はあまり詳しくないなと分かった。特にWeb系特有の略語、例えばEFO、CVR、SEM、LPOなどWebサービスを開発したり運営している人にとってはなじみのあるものだと思われるが、仕事でもこれらがときどきよく出てきて何のことかわからなかったりした。そういうものの概念や基礎がわかって勉強になった。

Web系の技術は昔に比べていろいろと発展してきて、選択肢も増えて誰でも作れるような環境にはなってきているけど、収益を出す、アクセス数を稼ぐ、使ってもらえるWebシステムを作るには、単純な実装技術だけが分かってもダメなんだなと最近仕事をしつつ実感している。

そもそものWebサービスなどのアイディアが重要だったり、デザイン的なものも重要だったり、サイト更新のスピード感なども重要だったり、Googleの検索エンジンの仕様の更新に大きく左右されたりするのでそれらも考慮しなくてはだし。また、ネット上に公開されるWebシステムは業務システムのように誰が使うかが確定していないのが一番の違いでもあるし。

Web系の特有の技術や用語、流行り廃りを常にウォッチしていく必要があるなと思った。学ぶことがいろいろとあって、もっと勉強しなくては!!と思いつつ、最近はなんだかあまり技術勉強ができていないので、何とかやっていきたい。

本書はWeb担当者として自社なりのサービスの構築・運営に初めて携わる人には重宝する内容と思われる。大型書店でいろいろと見て回ったが、あまりこういう入門的な本は、ありそうで類書がなかったりするし、あっても内容が古すぎたりするので。Web系の仕事に初めて就くような新入社員、もしくはSI系から転職したなどの人が読むとよいと思われる。




読むべき人:
  • Web担当者の人
  • Web系の会社の新入社員の人
  • Webで儲けたいと思っている人
Amazon.co.jpで『Webサイト』の他の本を見る

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May 21, 2016

ニッチを探して

キーワード:
 島田雅彦。ニッチ、ホームレス、サバイバル、正義
大都会サバイバル小説。以下のようなあらすじとなっている。
背任の疑いをかけられた大手銀行員・藤原道長は、妻と娘を置いて失踪した。人目を避けた所持金ゼロの逃亡は、ネットカフェから段ボールハウス、路上を巡り、道長は空腹と孤独を抱え、格差の底へと堕ちてゆく。一方、横領の真の首謀者たる銀行幹部たちは、事件の露見を怖れ、冷酷な刺客を放つ―。逆転の時は訪れるのか。東京の裏地図を舞台に巨額資金を巡る攻防戦の幕が開く!
(カバーの裏から抜粋)
書店でなんとなく手に取って、読んだことのない作家だったので読んでみたらなかなか面白かった。

主人公は妻子持ちで大手銀行のそれなりの地位にあるが、支店長の不正融資を告発し、自身にかけられている横領の疑惑から逃れるために妻子には告げずにひっそりと都会に身を隠していく。逃走資金を用意し、サバイバルグッズをそろえてから、都会でサバイバルする前に銀座の高級寿司店で腹ごしらえし、マンダリン・オリエンタル・ホテルに泊まり、添い寝嬢を手配し、日常からの決別の前夜祭のように楽しむ。

そして、次の日からは安いネットカフェに泊まったり、食費を削減するために試食コーナーを回ったり、ホームレスの炊き出しに並んだりする。公園のホームレスの長老的な存在に諭されてここを出たほうがいいと言われ、単身別のところに行き、野宿する生活までに落ちていく。大都会東京の中で警察や追手から逃れ、正義を執行する日が来るまで、自分のよりどころとなる『ニッチ』を探して。

なんだかこれを読んでいると、明日から安心して東京でホームレスになれるような気がしてくる。食事に困ったらどこの炊き出しに並ぶべきかや、図書館に行って食べられる野草を確認し、また料理本を眺めてフルコースを食べた気になる『空食』を実施し、スーパーで試食コーナーをスーツ姿で回り、ショッピングのカゴの中に残っていたキャベツの葉や畑にある大根を失敬したり、はては金に困ったときは中野のゲーセンにあるフィギュアをUFOキャッチャーで取ってまんだらけに売れば2000円になるとか(これは真偽不明だけど)、寝床の探し方(特に川の中州がニッチらしい)などなどがとても参考になる。

ある意味大都会でのサバイバル本のような、そんな感じでも読める。そしておやじ狩りとの闘い、追手との攻防もあったりで、読んでいてハラハラする展開もある(そこらへんは後半少しだけ)。ほとんどは主人公、藤原道長視点でのいかに大都会で他人にあまり頼らずに1人サバイバルしていくかに焦点があてられていて、自堕落に転落していったのではなく、自分の正義の意思で一時的にサバイバル生活をしているので、不思議と主人公に肩入れして読んでしまう。

そして文章がすんなりと頭に入ってきて、違和感もなくリズムがよく、大都会東京のところどころに変わる舞台の歴史的背景などの薀蓄もありで、読んでいて勉強になる。さすがにベテラン作家、そして小説指南書を書くだけはあるなぁと思って読んでいた。読みやすく面白く、割とさくっと読めると思う。

明日からいきなり路頭に迷ってしまったらどうしよう?という最悪のパターンを想像することはよくある。そうなったときも、まぁ、何とかなるんじゃないかというよく分からない安心感も得られた気がする。大都会でのホームレスサバイバル生活をシミュレーションできた。

あと本作品のテーマである『ニッチ』に関して、自分の『ニッチ』はどこだろう?と考えた。物理的な部分はあまりないかもしれない。ある意味このブログが電脳空間上の自分の『ニッチ』のような気がする、と思ったのであった。



ニッチを探して (新潮文庫)
島田 雅彦
新潮社
2015-12-23

読むべき人:
  • ホームレス生活を疑似体験したい人
  • 妻子ありで自分の正義を貫きたい人
  • 自分のニッチを探している人
Amazon.co.jpで『島田雅彦』で他の作品を読む

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April 29, 2016

ブラッド・ミュージック

キーワード:
 グレッグ・ベア、パニック、パンデミック、細胞、救済
パニックSF小説。以下のようなあらすじとなっている。
伝子工学の天才ウラムは、自分の白血球をもとにコンピュータ業界が切望する生体素子を完成させた。だが、会社から実験中止を命じられたウラムは、みずから創造した“知能をもつ細胞"を捨てきれずに、体内に注射して研究所からもちだしてしまった……この新細胞ヌーサイトが人類の存在そのものを脅かすことになるとも知らずに! 奇才が新たなる進化のヴィジョンを壮大に描き、新時代の『幼年期の終り』と評された傑作
(カバーの裏から抜粋)
久しぶりにSF小説を読みたいと思っていたところ、年初に読んだ『戦略読書』にお勧めされていた本書を買って読んでみた。

あらすじは↑に示した通りで、研究者が偶然作成してしまった知能を持つ細胞、ヌーサイトがパンデミックのように世界中に蔓延していくというお話。前半戦は徐々に感染が広がっていくパンデミックものパニック映画的。主人公は特に限定されておらず、いろいろな登場人物に視点が変わる。その一人がスージーという若い少女で、家族全員が感染して別の存在に成り替わったのだが、スージーだけは元の生身の状態で誰もいない都市部を歩き回り、崩壊前のワールドトレードセンターのビルにまで行く。

この誰もいない街を闊歩していく描写は、ウォーキングデッドや28日後などのゾンビパニック映画的でもある。とはいっても感染者は別に襲ってくるわけではなく、ヌーサイトと同化して別次元の存在になりつつも元の人格を保持し、同化するように対話してくる。

結末は『幼年期の終り』的と評されているが、幼年期はオーバーロードによる世界の変革に巻き込まれる人類を描いており、あまり救いがない結末だけど、こちらはミクロの世界で人類そのものの救済のような結末になる。それが抽象的で精神的な描写が多く、情景を脳内再生するのが若干難しいのだけど。

テーマ的にも情景的にもデジャブ感いっぱいな感じがしたのは、これを元にしたと思われるアニメ、映画などが多いからのような気がする。なので、あまり驚きや新鮮味がなかった。描写はそこまで難しくはないのだけど、登場人物の視点がころころ変わるので、一気に読まないと全体像がぼやけてしまうなと。

面白くないわけでもなく、テーマ性もよいのだけど、ところどころの抽象的な描写、ヌーサイトとの対話の部分が若干かったるい感じがした。しかし、『幼年期の終わり』とともに傑作と評されるSF作品なので、読んでおいて損はないかなと思う。




読むべき人:
  • パニック映画が好きな人
  • 生物的なSFが好きな人
  • 人類の救済について考えたい人
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April 24, 2016

リーン・スタートアップ

キーワード:
 エリック・リース、MVP、仮説検証、ピボット、スタートアップ
リーン・スタートアップというビジネスの開発手法について解説されている本。以下のような目次となっている。
  1. 第1部 ビジョン
    1. 第1章 スタート
    2. 第2章 定義
    3. 第3章 学び
    4. 第4章 実験
  2. 第2部 舵取り
    1. 第5章 始動
    2. 第6章 構築・検証
    3. 第7章 計測
    4. 第8章 方向転換(あるいは辛抱)
  3. 第3部 スピードアップ
    1. 第9章 バッチサイズ
    2. 第10章 成長
    3. 第11章 順応
    4. 第12章 イノベーション
    5. 第13章 エピローグ ― ムダにするな
    6. 第14章 動きに参加しよう
(目次から抜粋)
リーン・スタートアップというのは、『リーン(lean)』、つまり「余分な肉がなく細い」意味の語源からきているビジネス上の開発手法であり、元シリコンバレーのエンジニアである著者によって提唱された。詳細については以下参照。ソフトウェアの世界では開発手法としてアジャイル開発手法がある。本書そのものは、どちらかというと著者のアジャイル開発経験をもとに、プロダクトそのものの開発や企業の在り方までに対象を広げ、起業という分類にとどまらず、企業の規模や発展段階を区別せずアントプレナー的に何か製品開発をする人に向けてリーンスタートアップとして再定義されたものとなる。

著者はインスタントメッセンジャーの開発をするときに、事前に練った事業戦略と製品開発の無駄をなくせるはずだ、と信奉していたアジャイル開発手法で作っていった。しかし、そもそもの仮説が間違っており、実際の顧客となる人に使ってみてもらったところ、顧客が欲しいと思っている機能ではなく、6か月分に及ぶコード量は無無用の長物となってしまった。その経験から、リーン・スタートアップの中核として以下が示されている。
リーンな考え方における価値とは顧客にとってのメリットを提供するものを指し、それ以外はすべて無駄だと考える。
(pp.69)
言われてみれば、まぁ、そうだよねと思うのだけど、実際に製品開発時の始まりでは何が顧客にとっての価値か、メリットか?などは分かるものでもない。なので、以下のように仮説と検証を随時やっていくことが重要になるようだ。
 一番のポイントは、どのような業界であれスタートアップは大きな実験だと考えることだ。「この製品を作れるか」と自問したのでは駄目。いまは、人間が思いつける製品ならまずまちがいなく作れる時代だ。問うべきなのは「この製品は作るべきか」であり「このような製品やサービスを中心に持続可能な事業が構築できるか」である。このような問いに答えるためには、事業計画を体系的に構成要素へと分解し、部分ごとに実験で検証する必要がある
(pp.79)
検証には定量的にデータを取っていく必要があるようだ。

そして、次のステップで構築フェーズに入り、実用最小限の製品(minimum viable product)、通称MVPを作っていく。これは、最小限の労力と時間で開発できるもので、最低限必要な機能のみを実装し、すぐに顧客に見せて反応を得るというフェーズである。XPなどの開発手法ではYou Aren't Going to Need It.(必要なことだけ行う)やオンサイト顧客ですぐ見せられる状況にしておくなどが近いプラクティスとなる。

そもそもなぜ本書を読んだかというと、転職してそうそう所属部署での新規事業プロジェクトの中核要員としてアサインされて、このリーン・スタートアップの考え方で行こう!!となったので、プロジェクトメンバーの共有認識としての必須図書となったからである。2011年提唱なので、あまりまだ一般的に浸透していないのもあって、あまり知らなかった概念ではあるが、XPベースのアジャイル開発を少し経験したことがあり、ケント・ベック本を読んだことがある身としては、割とすんなり受け入れられる概念だったと思う。

ただアジャイル開発手法は、ある程度要件が固まっているもの(もちろん変化を受け入れつつ柔軟に対処するのが前提だけど)に対して『どう作るか?』に主眼に置いているが、リーン・スタートアップはどちらかというとビジネスモデルやアイデアの部分の『何を?』をメインで扱っているのが異なる。そのため事業がある程度進んでスケールできず収益が見込めないとなると、思い切って『Pivot(方向転換)』が必要になってくる。そういうソフトウェアの開発とビジネスの開発の微妙な違いがあったりする。

本書の内容自体は著者の実体験やその他シリコンバレーのさまざまな企業の事例が載っており、その辺は参考になるが、ボリュームが多く、一気に読まないと内容を忘れてしまいがち。あとは図解が少なく、全体像を把握するのに若干時間を取られる気がする。

まだ転職して2ヵ月も経ってはいないのだけど、こういう新規事業に携われるチャンスが巡ってきた。転職活動中に『Yコンビネーター』を読んでいたのも影響してそこに引き寄せられていったのかもしれない。さらにもっと言えば、Yコンビネーターを読むきっかけとなったのは今年の年始に読んだ『戦略読書』であり、ここからリンクして今に至っている気がする。ちなみに『戦略読書』にも本書『リーン・スタートアップ』が起業・応用編として取り上げられている。

まだプロジェクト自体は始まったばかりで、要件定義や仮説を設定している段階で、MVPを回すまでに行っていないのだけど、いろいろな経験が積めそうで不安よりも期待のほうが上回っている。社内ベンチャー的でもあり、大変なのは間違いないが、ここでビジネス観点でもシステム開発観点でも経験値を積んでおきたい。

類似のリーン・スタートアップ本はいろいろあるが、オライリー社から出ているものがより実践的、システム開発よりの内容のようなので、こちらも合わせて読んでおきたいところ。

直近1年、このリーン・スタートアップを基本に新規事業を回せていけるかどうか、確かめていきたい。



リーン・スタートアップ
エリック・リース
日経BP社
2012-04-12

読むべき人:
  • リーンスタートアップについて知りたい人
  • アジャイル開発を経験したことがある人
  • スタートアップビジネスをやりたい人
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April 15, 2016

【祝】ブログ10周年

本日でブログ開始から丸10年経過しました。つまり、10周年記念となります。

はじめから10年も続けるつもりなど毛頭もありませんでした。そもそも、このブログの開始時期、ちょうど社会人になりたてのころは、おそらく人生で一番どん底であった時期でもありました。社会人になりたての頃、初めての東京生活、若干の不安もありながら未来に対する希望を抱いていたときに、父親との死別と同時に腎臓病の発覚、そしてそれが不治の病の宣告であり、食に付随する各種イベントに制限がかかって、何もかもが暗転してしまいました。当時思っていたことは、これからどうやって生きていくべきか?そもそも僕には未来がないのではないか?という茫漠とした不安に飲みこまれていき、自分自身も未来も見失っていたときでした。

もともと読書ブログ自体はやってみたいとは思っておりました。そのときに日記的な雑記ブログと分けることを意識しました。ブログを始める動機づけの一つの理由は、アフィリエイトで儲けようと思っていたことでした。結果的に10年続けてみて、お金にはほとんどなりませんでした。そもそもアフィリエイトはアクセス数がすべてであるので、この弱小ブログでは普通に働いたほうが効率がよいということがわかりました。それでも、この10年、辞めずに本を読んで、書いてということを繰り返し、今日までに806冊更新することができました。

10年で約800冊という数字については多い、少ないといった基準は人それぞれあると思われます。単純に読むだけであれば、そこまで多い数字でもなく、難しくもないでしょう。しかし、振り返ってみると800冊について書くというのは、やってみると案外大変だったなと思いました。毎回1000〜3000字ほどの文量で書いておりました。少し難解な本になると、何をどう書くべきか?とキーボードを打つ手が止まることも多かったですが、なんとか書き続けられました。

続けられた理由には、本が好きだったというのが第一にあり、また書くことも好きであり、得意だと思い込んでいたからだと思います。それでも、更新し続けられた一番の理由は、一冊読んで書くごとに自分を生かし続けることにつながったからだと思います。心身共にぐちゃぐちゃになって破綻しかけていたときに、生きることそのものが苦行のように思えて仕方なく感じ、そのために本に救いを求めていた側面がありました。やはり本に救われたというのがって、それと同じ経験をネット越しのどこかの誰かに届いたらいいなという気持ちもありました。アフィリエイトではまったく儲かりませんでしたが、このブログのおかげで何とか生き続けられたことが一番よかったことだと思います。

他にも続けてよかったなと思ったことは、このブログをきっかけにリアルの世界でも人間関係が大幅に広がったことでした。25歳ごろに結成した同世代の集まりである83年会であったり、スゴ本オフに参加しはじめたりしたことによって、普通に会社と家の往復をしていたらまず出会わなかった人たちと関係を築くことができ、自分の生活が精神的に豊かになったというのは間違いありません。この部分に関しては、ブログを続けて人生が好転したと言っても過言ではないでしょう。リアルで会う人の刺激を受け、読む本もだいぶ変わっていきました。その点に関しては本当に感謝しております。

そして、何よりもbookdiaryとURLに設定している通り、このブログは個人的な読書日記でもあり、社会人になりたての22歳からの10年間の成長記録でもあります。10年前の自分と比べて何かが劇的に変わったという実感はあまりありませんが、いかに生きるべきか?に思い悩み、迷い、途方に暮れて、自分の抱える内在する不安と向き合って、読んで、考えて、書いて生き延びてきたという自負はあります。この10年があるから、今後のどんなことが起こっても何とかサバイバルしていけるだろうという自信のようなものは得られたかもしれません。

そして10年書き続けたことによって文章力も大分向上したのではないかと思います。今でもうまく書けたと思うことは少ないですが、それでも一般的な人よりも書いた絶対量は多いだろうと思います。また、仰々しく『賢者』とブログタイトルに設定しておりますが(一応名前が賢なので)、そのような存在になれたとはとても言えません。それでも10年前よりも教養や知恵を身に付け、賢くなったと思い込んでおきたいところです。

このブログはlivedoorのサービスが終了したり、僕が死んでしまったりしない限りは続く想定です。そして今後のこのブログの可能性の一つとして、物理的に具現化するという構想(妄想)もあったりします。それはおそらく早くて次の10年後くらいに実現できたらいいなと思う次第です。どうなるかはわかりませんが、それも将来の楽しみの一つとして、淡々と更新し続けられたらいいなと思います。

また、10周年記念パーティーのようなものをやれたらいいなと思ったりもしますが、人が集まらない可能性があるので微妙なところであります(笑) もし開催されたら参加したいという人がいたら※欄などにでも表明どうぞ。実際にやるかはわかりませんが。

最後にこのブログが誰の役に立っているのかあまり実感がありませんが、それでもウォッチしてくれている読者の方々。そしてリアルの人たちに感謝いたします。ありがとうございます。

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