October 2011

October 29, 2011

パルムの僧院

パルムの僧院 (上) (新潮文庫)パルムの僧院 (下) (新潮文庫)
パルムの僧院 (上) (新潮文庫)
パルムの僧院 (下) (新潮文庫)

キーワード:
 スタンダール、イタリア、貴族、政治、恋情
スタンダールの文学作品。以下のようなあらすじとなっている。
イタリアの大貴族デル・ドンゴ家の次男ファブリスは”幸福の追求”に生命を賭ける情熱的な青年である。ナポレオンを崇敬してウァテルローの戦場に駆けつけ、恋のために殺人を犯して投獄され、獄中で牢獄の長官の娘クレリア・コンチと激しい恋におちる……。小公国の専制君主制度とその裏に展開される政治的陰謀を克明に描き、痛烈な諷刺的批判を加えるリアリズム文学の傑作である。
(上巻のカバーの裏から抜粋)
叔母のサンセヴェリーナ公爵夫人やその愛人で公国の宰相モスカ伯爵、クレリアらの助けでファブリスは脱獄に成功した。だが愛する人への想いに駆られ、自ら 牢獄へ戻る。やがて政争の果てに新大公が誕生、放免されたファブリスは聖職者となるが……。恋に、政治に、宮廷に生きる人々の情熱的な姿を鮮やかに描き、ル ネサンス期のイタリアを愛したスタンダールの晩年を代表する名作。
(下巻のカバーの裏から抜粋)
新潮文庫で、上巻359ページ、下巻435ページと文庫本としてはそこまで長編ではないが、6月ごろから読み始めてようやく今日読み終えた。4ヵ月ほどかかったことになる。それほど時間がかかった。

内容に関してはほぼ以下の記事で網羅されている。まぁ、最後はネタバレしているけど、ここを読めば大分物語の流れがよくわかる。というか、この記事を改めて読むと、なるほど、こういう物語だったのかと改めて分かった。それほど読んでいて、誰が何をしてどうなったのか?がよく分からなくなっていったので・・・。

また内容の解説的な部分は、下巻の訳者である大岡昇平氏の以下の部分が参考になる。
『パルムの僧院』もこれらの作品の執筆の着想を得、書かれた。正確にいうなら、口述された。それは一八三八年十一月四日から十二月二十六日まで、五十三日という驚くべき速さで、この間スタンダールはコーマルタン街八番地(マドレーヌ寺院付近)五階の部屋に閉じこもりきりで、この大作を口述したのである。
 すでに五十五歳、視力は衰え、健康も脅かされていた。スタンダールはこの作品の中に、彼の生涯で愛したもののすべてを盛り込んだ。イタリア、ナポレオン、恋愛、音楽、絵画―すべては戦争と警察と革命の影に浸されている。幼年時代の思い出、保護的女性に対する憧れ、一八一八―二〇年のミラノでのマチルドへの恋―マチルド・デンボウスキーは夏をコモ湖の南デジオで過ごした―が、グリアンタの生まれの若い主人公ファブリスの恋と冒険に一挙結晶したのであった。それは霊感と即興の尽きることのない連続で、五十三日の文学的奇蹟を生んだのであった。
(下巻 pp.430-431)
これが口述というのは初めて知った。よくもこんなものを全て口述できるものだなぁと。クレリアの控え目なファブリスへの恋情とかもスタンダールの口から語られたのかと想像すると変な感じだ(笑)。ファブリスは10代のうちはナポレオンに憧れて戦争に行くけど、結局は何も成果を出すこともなく帰ってくる。そのうちナポリに留学し、20歳を超えてから色気づいてくる。そして、道化役者のジレッチという男に切りかかられて、正当防衛としてその男をナイフで殺してしまう。

いろいろあって逮捕され、ファルネーゼ塔に収監される。ここらへんのクレリア・コンチとの恋愛模様がこの作品の見どころかなと思った。ファブリスは塔の窓から反対側の建物にいるクレリアと紙に一文字ずつ書いた交信をしてお互いの中を深めていく。その間にファブリスの叔母であるジーナに脱獄を勧められているが、この牢獄から出ることでクレリアを見ることができなくなるのなら、この場所から抜けたくない、この場所が一番の幸福の場であるとまで言っている。

毒殺されそうになったりで、結局脱獄するが、そのあといろいろとジーナの計らいによって、ファブリスが無罪となって主席大司教補佐となるが、クレリアは別の侯爵の婦人となってしまう。クレリアはファブリスを見ないことを聖母マリアに誓い、ファブリスを遠ざけようとしつつも、ファブリスのことが気にかかっている。そういう政略結婚的な部分がある中で、ファブリスを思い慕わずを得ない部分が何とも言えないなぁと思った。

今の時代はそういう政略結婚的な部分がないので、そういう制約条件とかがある中で想う人がいるというのはなんだか切ないものだなぁと思った。

ファブリスの一生の物語なのだけど、情熱的で感情的な部分もあり、その情動に終始常に突き動かされている感じがした。そしてクレリアはいけません、いけませんと言いながらもファブリスに惹かれている部分があって、もどかしい気もした。でもまぁ、自分の立場(父が牢獄の監督者)とかを考えなくては生きていけないのだから、それはそれでしょうがないねぇと同情もするね。

28章構成なのだけど、1日1章読むのもしんどかった。通勤時間の帰りの15分だけで読んでいたので、4ヵ月もかかった。独特の言い回しや年代が割と古いということや、耳慣れない名前の登場人物が多数出てきて、それぞれの思惑で長いセリフを言いたい放題言っているので、ちょっとでも気を抜くと字面を追っているだけで内容が全く頭に入ってこないことが多かった。なので、かなり集中して読む必要がある。

ところどころスタンダールが神の視点から、『わが主人公ファブリスは』といった表記もあったり、1行で突然年月が過ぎていることが示されていたりしてなんだか普通の文学作品を読んでいるような感じではなかった。

また、最後の章は早足で終結に向かっている感じがした。もうちょっと引き伸ばしてもよいか、ファブリスが無罪になり、クレリアが別の侯爵と結婚したあたりで終わっていたら違和感がなかったような気もする。

本作品は、いわゆる古典名作になるのだけど、そこまで面白い!!とまでは思えなかった。まぁ、もっと集中して全容が1回で把握できていたら違ったかもしれない。しかし、ファブリスの情熱的な行動に惹かれるものがあったのは確か。そういう風に生きられたらいいなぁとも思ったりする。

上下巻合わせて約1,000円で、数ヶ月は楽しめるかもしれない作品。無駄を排除し、徹底的に効率化、または速読が推奨される現代において、この作品を少しずつ長い時間をかけて読む意義は、情熱的な主人公ファブリス・デル・ドンゴの特性を自分に取り込み、さらに自分の人生についても考えることかもしれない。ここまで情熱に突き動かされて激しく愛せるだろうか?と思案したりとかね。

スタンダールの墓碑銘は、『ミラノ人アッリゴ・ベイレ 生きた、書いた、愛した』だってね。



パルムの僧院 (上) (新潮文庫)パルムの僧院 (上) (新潮文庫)
著者:スタンダール
販売元:新潮社
(1984-01)
販売元:Amazon.co.jp

読むべき人:
  • なかなか読み終わらない作品を読みたい人
  • 政略結婚をさせられそうになっている人
  • 激しい恋情を鑑賞したい人
Amazon.co.jpで『スタンダール』の他の作品を見る

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October 23, 2011

人生を決めた15分 創造の1/10000

人生を決めた15分 創造の1/10000
人生を決めた15分 創造の1/10000

キーワード:
 奥山清行、デザイン、エンツォ、仕事論、達人
ワールドクラスで活躍するデザイナー、奥山氏のスケッチ入り仕事論。以下のような目次となっている。
  1. はじめに
  2. 第1章 迷ったら、やれ
  3. 第2章 やらないよりは、失敗しろ
  4. 第3章 好きなら、極めろ
  5. 第4章 想像力を味方にしろ
  6. 第5章 メッセージを伝えろ
  7. 第6章 ”闘議”から始めろ
  8. 第7章 信じればこそ
  9. 第8章 未来の顧客のために創造する
  10. 第9章 日本人の感性を知りつくせ
  11. 第10章 自分の心に聞け
  12. 解説 茂木健一郎
(目次から抜粋)
本書は、以前GIGAZINEの以下の記事を読み、アドレナリンでまくりでこれはすごい!!と思ってその直後にアマゾって買って読んでみた。本書は著者によって、これから世に出ようとしている若い人向けのメッセージが示されている。この本、スゴ本とは若干ベクトルが違うのだけど、本当に良い本。もう今すぐ迷わずアマぞっていい。それほど読んでいて感動しつつもワクワクしてくる本。

タイトルにある『15分』については、先ほどの記事の真ん中あたりにも示されているので、詳しくはその部分を読んでほしいが、簡単に示すと、切羽詰まった状況でエンツォフェラーリをデザインした時間となる。もちろん、その15分のために何年も前から徹底的にあれこれ試行錯誤があったからに間違いない。

さらに本書のタイトルとなっている、『創造の1 / 10000』については、はじめにから抜粋しておこう。
「創造の1 / 10000」はデザインを決定するまでに1万枚のデッサンを描くこと、あるいは100枚描ける人を100人集めること、つまりそれほど懸命に突き詰めて仕事をするという、僕の仕事をするという、僕の思いを込めている。「人生を決める15分」は偶然にやってくるのではなく「1 / 10000の創造」の中から必然的に生まれる。そんな意味を込め、このタイトルとした。本書を手に取った人たちが、自分のやりたいことを見つけ、才能を発揮するための材料として、僕の経験してきたこと、考えたことを役立ててくれるなら、これほど嬉しいことはない。
(pp.011)
著者は、コルベット、ポルシェ、フェラーリをデザインをしてきており、この快挙はデザイン界ではいまだに前例がないようだ。そして車だけではなく、列車、バイク、家具、メガネ、テーマパークといったあらゆるデザインまでに仕事が及んでいる。そんな著者の仕事論は、一見普通の経営者の自己啓発本のような内容と変わらない部分もあるが、ワールドクラスのデッサンとともに示されているので、とても説得力がある。

たくさん線を引きまくったので、本当は全部示しておきたいのだけど、それはさすがにダメなので、本当にこれは!!と思ったものだけを引用しておく。

強制されて好きになることがある』という節のイラストの解説部分から。
注文が来てからデザインをするのでは遅い。どんなプロジェクトにも常に準備ができていることが大切だ。来るか来ないかわからない仕事のためにアイディアを出すわけだから、無駄も覚悟の上だ。
(pp.045)
著者は仕事だけではなく、プライベートでも家だったりカフェだったり、旅行先でも常にスケッチブックを持ち歩いたりして描いているようだ。さらにときどきその辺にある紙ナプキンにまで描いていたりするらしい。そうして温めておいたデザインが、何年かしてからそれが基になって実現したりしているようだ。

これについては自分は反省しかない。今までどれだけ準備不足でプロジェクトに参画していたことか。もちろん完全には準備はできないかもしれないが、少なくとも心構え程度は必要だなと。さらには将来必要と思われる技術、業務知識をもっと貪欲に日頃から強化しておくべきだなと実感した。まぁ、最近唯一将来に備えられたのは英語力強化かな。英語が必要になるプロジェクトにアサインが決まってから勉強していては遅すぎるので。

次は『予想を上回る結果を出す』という節から。
過去の自分というライバルは、ある意味では最強の敵である。実力はほぼ等しく、持ち味も同じ。違いがあるとすれば、過去から現在に至る時間に自分が何を得てきたかだ。だからプロは怠けない。怠ければ、過去の自分に負けてしまうからだ。
(pp.099)
これはよく自分も考えるなぁ。一番努力していた時の自分と今はどちらがアグレッシブに攻めているか?とか。比較するべきは他人とではなく、やはり過去の自分であるのが一番かなと思う。あのころの自分と今の自分がどれだけ変わっているのか?を実感できるのが一番達成感とか充実感を得られるしね。

また、『ムダと思えることも必要』から以下の部分。
考えてみると、人生にはムダなことはない。その時は回り道やムダに思えても、後になれば必ずその経験が生きるものだ。理屈ではムダに見えても、興味が持てたり、やりたくてムズムズしたりした時は、やってみるべきだと思う。それが自分の可能性の幅を広げ、選択肢を増やすきっかけになることもあるのだから。
(pp.116)
著者はアメリカのGMで結果を出せずに、次にイタリアのピニンファリーナに移籍することが決まっていたが、その間に時間が空いて、何かしら稼がなくてはいけなくなった。そのとき、フリーランスのデザイナーとして、バットマンのバットカーやボストンの水族館、ラスベガスのカジノ、ホテルのインテリアといろいろ仕事をされたようだ。それらが貴重な経験となっていると示されている。

これはなるほどと思った。例えば自分にとっては専門分野とは違うジャンルの本を読んだり、さらにはこのような読書ブログをやっていることかな。直接は役に立たなくて、これでよいのかと思い悩んでいたことがあったけど、今ではこれらが間接的にものすごく役になっていると自信を持って言えるね。プログラミングに関して言えば、読解力がないとダメで、それは読書によって鍛えられたし、あとはブログ記事を見直す時にデバッグの訓練にもなるし、単純に記事更新による文書作成能力向上も設計書やマニュアル作成にかなり役立っているし。

一見ムダと思えることも、それをずっと継続し、違う側面から見てみると、それが仕事や他のことにもかなり活きてくるものだよ、と思えるようになったね。何でもかんでもムダを排除しすぎていたら、極論を言えば、自分の人生そのものがムダってことになる。DBで17号さんも『そのムダが楽しいんじゃないか』って言っているしねwww

最後に一番自分に強烈に響いた、『「負けるはずがない」と心に刻め』というものから。自分のすごく好きなことや大切にしていることに関しての著者の考えを以下に抜粋。
そういう場面での勝負、それはコンペでも何でもよいが、そこで大切なのは自分が日頃から打ち込んできたことを思い描き、「あれだけやったのだから、負けるはずがない」と自分で納得できることだ。僕の例で言えば、世界中のどんなデザイナーよりもたくさんの絵を描き、数多くのクレイモデルを削ってきた自負がある。「自分より多くクルマの絵を描いた人はいない。粘土をいじった回数も自分が一番多い」という事実があるからこそ「だから負けるわけがない」という自信に繋がってきた。
(中略)
そうすれば、たとえ状況が味方せずに、期待した結果が得られなくても、後悔することはない。好きなことが見つかるまでは、ふらふらしていても構わないが、いったん自分の好きなことを見つけたら、死ぬほど努力して、心の底から「負けたくない」と思うべきだ。アートセンター時代の僕がまさにそうで、好きなことのためにものすごく努力した。
好きなことを見つけたら全力集中。そして堂々と「自分は努力している」と人に語ろう。
(pp.075)
著者は間違いなくデザイン業界のワールドクラスの達人で、日頃から徹底的にスケッチをし、数十年に渡って軽く万単位の量をこなしているはず。それはもう『究極の鍛錬』によるものであることも疑いようもない。なので、このように世界中からオファーが来るほどの業績を出し続けているのだと思う。

そして、今の自分にはこの感覚が絶対的に足りない。今の自分に必要なのはこれだ。自分の専門分野でここまでの自信を抱けるほど努力しているか?と問われると、全然違う。達人プログラマーになるのだから、寝ても覚めても誰よりもコーディングしなくてはならないし、誰よりも技術本を読みこんでいるという状況にしておかなくてはならない。そういうことで、この部分にとても自分を突き動かされた。

各ページ見開きで完結するようになっていて、著者のデザインスケッチがたくさん載っている。これらを見られるだけでも、フェラーリなどのスーパーカー好きにはたまらない内容であると思う。そして、車以外のテーマパークなどのデザイン画も興味深い内容で、著者によると今後ビジネスそのもののデザインも手掛けていくとあった。

本書で取り上げられている工業製品のいくつかは著者の公式ページで見ることができる。本書はページ数としては150ページ程度なのだが、全頁カラーで写真もあったりで、雑誌の記事のようで、すごく読みやすい。短く区切ってあるので、通勤時間中に電車で読めるのもよい。価格は2500円なのだけど、これは全然高くない。ワールドクラスの一流のデザイナーの仕事論とスケッチ集がセットになっていると思えば安い。そして自分自身の将来の仕事や夢とか野望もデザインするきっかけになれば、1万円払っても安すぎる内容であると自信を持っておススメできる。

ワールドクラスで活躍するデザイナーである著者の本を読んでいて、これが世界的な仕事なのか!!と感嘆しつつもとてもワクワクした。読み進めるのが本当に惜しかった。そして自分の野望も再デザインされたと思う。

デザイン業界に関わらず、自分の仕事をワールドクラスレベルに仕立て上げたい人は必読!!僕は30歳ごろにまた読み返したいね。




人生を決めた15分 創造の1/10000
人生を決めた15分 創造の1/10000
著者:奥山 清行
販売元:武田ランダムハウスジャパン
(2008-05-24)
販売元:Amazon.co.jp

読むべき人:
  • フェラーリなどのスーパーカーが好きな人
  • 就職活動中の学生の人
  • ワールドクラスの仕事で活躍したい人
Amazon.co.jpで『奥山清行』の他の本を見る

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October 22, 2011

ねじまき少女

ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF)
ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)
ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF)

キーワード:
 パオロ・バチガルピ、SF、タイ、アンドロイド、カルマ
2009年のSF賞を総なめにした作品。以下のようなあらすじとなっている。
石油が枯渇し、エネルギー構造が激変した近未来のバンコク。遺伝子組替動物を使役させエネルギーを取り出す工場を経営するアンダースン・レイクは、ある日、市場で奇妙な外見と芳醇な味を持つ果物ンガウを手にする。ンガウの調査を始めたアンダースンは、ある夜、クラブで踊る少女型アンドロイドのエミコに出会う。彼とねじまき少女エミコとの出会いは、世界の運命を大きく変えていった。主要SF賞を総なめにした鮮烈作。
(上巻のカバーの裏から抜粋)
聖なる都市バンコクは、環境省の白シャツ隊隊長ジェイディーの失脚後、一触即発の状態にあった。カロリー企業に対する王国最後の砦〈種子バンク〉を管理する環境省と、カロリー企業との協調路線をとる通産省の利害は激しく対立していた。そして、新人類の都へと旅立つことを夢見るエミコが、その想いのあまり取った行動により、首都は未曾有の危機に陥っていった。新たな世界観を提示し、絶賛を浴びた新鋭によるエコSF
(下巻のカバーの裏から抜粋)
読むのしんどかったけど、読了したらこれは結構面白い!!と思えた作品だった。めっちゃ面白い!!絶対買い!!とまでは言えないかもだけど。

作品概要の説明は面倒なのでもう大御所の弾さんのところに外注(笑)。主要な登場人物が5人出てきて、そいつらが水没しかかっている近未来のタイ王国を舞台にそれぞれの思惑で行動していく。

下巻に訳者による登場人物の紹介が軽く示されているけど、それをまるまる抜粋するのも微妙なので、読了後の自分の勝手な印象から5人を示してみたいと思う。
  • アンダースン・レイク―外国人で工場を経営していて、ホク・センをこき使っている。物語の1行目から登場するけど、全体を通して影が薄いので主人公っぽい感じがしない。秘密任務を担っているらしいけど、最後のほうになるまでさっぱりわからなかった。エミコの実質的な主人となる。
  • タン・ホク・セン―中国系難民老人でアンダースンにこき使われているが、アンダースンの工場にある金庫の中身を常に狙っている。狡猾で用意周到なイメージで、実に抜け目ない。マレーシアで豪商だったが、家族が虐殺されたりとあまりよい人生ではない。一緒に工場で働いていた13歳の少女、マイに割と心酔。
  • エミコ―表紙にもなっている遺伝子操作されて生まれた新人類と呼ばれるアンドロイド。陶器のような肌にするために毛穴が少なく、活動しすぎると体温上昇によってオーバーヒートしてしまうので、常に水で冷やす必要がある。日本製で、京都にいたころは源道という老人の秘書として仕えていたが、タイで捨てられる。多言語を操れたりとかなり有能な働き手ではあるが、娼館で虐げられながら生き延びている。
  • ジェイディー・ロジャナスクチャイ―バンコクの虎の異名をもつ環境省の隊長。正義感が強いイメージでタイ王国に忠誠を誓っている感じ。後にバラバラに殺害されるが、霊となって部下のカニヤにまとわりついている。なんだかシェイクスピアのハムレットとかに出てきそうな幽霊のイメージ。
  • カニヤ・ティラティワット―ジェイディーの女性部下だが、ジェイディーの死後に隊長の座を引き継ぐ。下巻の物語をどんどんひっぱって、だんだんと虎になっていくイメージ。一番葛藤とか心理描画が描かれていたような気もする。自分の中では裏主人公。
他にも細かい登場人物がたくさん出てくるのだけど、正直人大杉!!って感じで、上巻を読み進めるのがかなり大変だった。

まず世界観を把握するのが大変だった。タイの街や中国人、タイ人の独特の名前になじみがなく、登場人物を想像しづらかった。さらには、漢字のルビにタイ語のカタカナ表記がたくさん出てきて、脳内をかき乱される感じがした。逆にその微妙な分からなさが引き合いに出される『ニューロマンサー』のように、この作品を特徴づけるようでもある。あと全編を通して細かい設定、カロリーマンとか蔓延する瘤病とか、環境省が保管する種子などやそれぞれの登場人物の思惑が説明不足なまま進む。さらに1章ごとに人物の視点が変わっていくから、なおさら誰がどこで何を意図して行動していくのか?があまりにもわかりづらくて、上巻読了までに若干挫折しそうになる。上巻読了までに3週間以上も時間がかかった。夜に仕事に帰ってきてから疲れている状態で読んでいて、寝落ちしたことが何度もあったけど、それは読みづらさも影響があったと思う。

しかし、下巻に入って一気にページが進んだ。それぞれの思惑からタイ王国を舞台に対立している勢力がぶつかり合っていく。それがなんだか先の読めない展開で、割と意外性に満ちていたと思う。断片的な登場人物たちが、最後に一つの舞台に集約されていくような感じだった。

読了後、これはなかなかの作品だなと思って感嘆してアマゾンレビューを確認すると、賛否両論な感じだった。まぁ、確かに冷静に振り返ってみると、細かい部分は気になるなぁと思ったりする。結局北にあると言われるエミコのようなねじまきたちが住む世界がちゃんとあったのかとか、何の説明もなく霊となって普通にカニヤと会話しているジェイディーの存在とか、日本人の描写とかね。そもそもこの作品の主人公は誰だ?とか。

でもこの作品は細かい部分には目をつぶって勢いで読んでいくとよいかもしれない。とにかく上巻をさくっと読み終わらないと下巻の面白さにたどり着けなくなる可能性があるので。

エミコが娼館でおもちゃのように扱われていたり、タイ市街戦などの描写もあったりで、ところどころでエログロだったりする。SFっぽさは確かに薄めなのだけど、そういう部分は割と強烈かもしれない。そういうのに耐性があまりない人は読まないほうがいいかもしれない。

タイ王国を舞台とした権力争い、遺伝子ハック、ディスク型殺傷兵器、蔓延する疫病、近未来なのに人力車が走る雑踏、ぜんまい動力、市街戦、宗教的な要素、日本製のねじまきなどなどいろんな要素が詰め込まれた世界観とか構成力はよかったかなと思った。物語そのものは面白いかはちょっとわからないけど、それでも読了後に何か強く残るものがあったのは確か。

あと、どうでもいいことだけど、社会人になって最初のプロジェクトの上司にタイ人がいたことを思い出した。日本語ペラペラで、お世話になったなぁと。また、それしか自分とタイの関連性はないのだなということを実感した。

近未来のタイの独特の世界観を味わいたい人はぜひ。



ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)
ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)
著者:パオロ・バチガルピ
販売元:早川書房
(2011-05-20)
販売元:Amazon.co.jp

ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF)
ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF)
著者:パオロ・バチガルピ
販売元:早川書房
(2011-05-20)
販売元:Amazon.co.jp

読むべき人:
  • タイに旅行に行ったことがある人
  • 日本製美少女アンドロイドが好きな人
  • アジアンなSF作品の世界観に没頭したい人
Amazon.co.jpで『パオロ・バチガルピ』の他の作品を見る

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October 16, 2011

究極の鍛錬

究極の鍛錬
究極の鍛錬

キーワード:
ジョフ・コルヴァン、鍛錬、達人、天才、継続
あらゆる分野で天才的なパフォーマンスを発揮する人たちの成功の鍵が、究極の鍛錬によるものであるということが示されている本。以下のような目次となっている。
  1. 第1章 世界的な業績を上げる人たちの謎
  2. 第2章 才能は過大評価されている
  3. 第3章 頭はよくなければならないのか
  4. 第4章 世界的な偉業を生み出す要因とは?
  5. 第5章 何が究極の鍛錬で何がそうではないのか
  6. 第6章 究極の鍛錬はどのように作用するのか
  7. 第7章 究極の鍛錬を日常に応用する
  8. 第8章 究極の鍛錬をビジネスに応用する
  9. 第9章 革命的なアイデアを生み出す
  10. 第10章 年齢と究極の鍛錬
  11. 第11章 情熱はどこからやってくるのか
(目次から抜粋)
この本は本当にいろんな意味でヤヴァイ、スゴ本というか、もしかしたら自分の人生を変えるかもしれない。今年読んだ中で間違いなく一番!!

僕は達人プログラマーになろう!!と決めた。そのために、内発的動機付け、モチベーション3.0について理解し(※1)、1万時間のトレーニングを積めばよいことを知り(※2)、さらにはマスタリーに至る学習プロセス(※3)を学んだ。そして、さらに達人になるためにどうやるか?のHowの部分がまだ欠けていたので、本書を読んでみた。

ゴルフのタイガー・ウッズ、音楽のモーツァルト、チェスのチャンピョン、ビジネス界のジャック・ウェルチ、あらゆる分野での傑出した業績を残す人物の鍵が究極の鍛錬によるものであるということがさまざまな論文をもとに示されている。原題は『Talent Is Overrated』で訳としては「生まれつきの才能は過大視されている」となる。

一般的に前述した天才的な人物のその要因として、生まれつき才能にあふれていると考えられがちである。また、科学者やチェスのチャンピョンやビジネスで圧倒的に成功した人は傑出して頭がよかったりと思われたりもする。さらに、年齢を重ねることでそのような能力は衰えていくものであったりするとも考えられがちになる。しかし、それらがすべてNoであると本書で示されている。

第3章まではそのようなことがいろいろな研究論文を基に示されている。そして、天才が天才、もしくは達人たる一番の要因は、圧倒的な練習量、努力量によるものだと示されている。さらにその練習は、慣れたただの繰り返し処理のようなトレーニングではなく、究極の鍛錬を10年以上にわたって従事してきていると示されている。

誰もが行うただの鍛錬としてゴルフの例が示されている。打ちっぱなしでカゴ2杯ほどのボールを購入し、8,9番アイアンで打ち始める。そしてとても悪いショットを打ち、次こそまともであってほしいと願いながらなるべく早く次のボールを打ち、そのときに打った悪いショットを忘れてしまう。ときどきなぜショットが悪いのかを手を止めて考えるべきだと思い、ボールを打つ際5千か所ほど悪いところがあるように思えてくる。その一つを直そうとし、次の失敗打までには上達したように感じられるように自分自身を納得させようとする。

しばらくするともう一度悪いボールを打ち、そのときまた5千か所のうちの別のもう1か所を直さなくてはならないだろうと感じるようになるが、買ったボールがなくなるとクラブハウスに戻り、十分練習したことに自己満足し、次のゴルフ場の実践を楽しみにする。僕も最近ゴルフを始めて、打ちっぱなしに行ったりするからこんな感じだけど、著者によれば、この鍛錬もどきを通じてゴルフの上達に関しては何一つ成し遂げていることにならないとある。

ではその道の頂点を極めている達人がやるような究極の鍛錬とはどのようなものか? 究極の鍛錬には普通の鍛錬と違い、特徴的な以下の5つの要素があると示されている。
  1. しばしば教師の手を借り、実績向上のため特別に考案されている
  2. 何度も繰り返すことができる
  3. 結果に関して継続的にフィードバックを受けることができる
  4. チェスやビジネスのように純粋に知的な活動であるか、スポーツのように主に肉体的な活動であるかにかかわらず、精神的にはとてもつらい
  5. しかも、あまりおもしろくもない
まず1に関しては、自分一人では自分自身のどこが悪いかが分からないというのがある。そのためその人に合った最適なトレーニングメニューを教師やコーチ、師匠から教わる必要があるようだ。そのときの原則として、居心地のよい慣れたコンフォートゾーン(comfort zone)ではなく、身に着けようとしている技術や能力がもう少しで手の届くラーニングゾーン(learning zone) を強化することで成長するので、常にここの自分の能力の限界に挑戦するようなものではないとダメらしい。これはなるほどと思った。

2に関しては、ただ慣れたことを1万時間やれば達人になれるわけではなく、1をベースとした適度にきついラーニングゾーンの活動を徹底的に繰り返すことが重要らしい。例として、30年たった現在でも大学バスケットボールの現役選手として記録が破られていないピート・マラヴィッチという選手は、学生のころ朝体育館の開館と同時に行き、夜閉館になるまでシュートの練習を続けたとか。ポイントはきつい練習を続けることらしい。

3に関しては、訓練の成果が分からなければ、決して上達せず、さらには注意深く練習をしなくなってしまうようだ。だから、フィードバックを得るために、先生やコーチ、メンターの存在が欠かせないようだ。独学の限界がここにあるようだね。

4は、対象を特に絞り込み、集中して努力することが求められているようだ。徹底的に自分に厳しい鍛錬を積む必要があり、どの分野でも共通してみられる要素として、究極の鍛錬の練習時間は1日に4,5時間が上限らしい。最高水準の音楽家、チェスチャンピョンもこのような練習時間だと報告があるようだ。

最後の5は、不得意なことにしつこく取り組むことが求められるようだ。そうして、つらく難しいことをやることで技が向上することがわかり、鍛錬を繰り返し実行する必要があるようだ。これら5つのプロセスを最低でも10年以上継続していくことで達人、天才と言われるような人たちの領域に到達できるようだ。

この鍛錬方法を読んでいて、なんだか本当にドラゴンボールとかハンター×ハンターなどのバトル漫画のキャラが修行するようなものをイメージした。一番近いのは、ハンター×ハンターのネテロの『感謝の正拳突き1日1万回』のような感じ。もうあれが究極の鍛錬の5つのプロセスに大体当てはまるでしょうww

さらに6章では、究極の鍛錬によって、他人が気づかない細かな差異がわかり、もう一つの物事をより多く認識でき、さらには専門分野の情報について驚異的な記憶力を持つようになるようだ。その例がチェスのチャンピョンで示されている。また、専門分野の知識の絶対量が最後にものを言うようだ。以下その部分を抜粋。
 達人の驚異的な記憶力が自然に手に入るものではないのは明らかだ。それは専門分野に関する深い理解のうえに構築されているので、何年もの集中的な学習によってしかもたらされないのだ。新しい情報を高度な概念に絶え間なく関連づけることも求められており、大変厳しい課題だ。このように考えれば、達人の卓越した記憶力が専門分野以外には及ばないことも簡単に理解できるだろう。専門分野の知識は達人の能力の中心的な要素であり、専門分野と切り離すことはできないのだ。一般的な能力とはまったく異なり、何年もの究極の鍛錬を通じてのみ最終的に手に入れることのできる能力なのである。
(pp.148)
ということで、自分も専門分野のITの勉強を徹底的にやって、知識の絶対量を増やす必要がある。まだまだ読まなければいけない技術書が山のようにあるからね。

7章以降は日常生活でフィードバックを受けることが重要とか、ビジネスでも応用できるとか、創造性にも突飛な能力が必要なわけではなく、知識の絶対量を増やし、究極の鍛錬をベースに試行錯誤する必要があるなどと示されている。さらに、究極の鍛錬を続けることで、年齢による衰えをある程度超越することができると示されている。

そして、このつらく厳しい何年にもわたる修行のような鍛錬を成し遂げるには、内発的動機が重要であると示されている。特に重要だと思った部分を最後の章から抜粋。
なぜ特定の人が何年もあるいは何十年にもわたり、自らを傷めつづけるような厳しい訓練に毎日身をさらし、ついには世界のトップクラスに達することができるのか、一般論としては、そのことを十分説明することができない。もはや科学者から助言を求めることはできないところまで、この問題を検討してきた。ここからは、検討してこなかった唯一の場所、自分の心の内側を見つめはじめる必要がある。高業績を上げるCEOやウォール街のトレーダー、ジャズピアニスト、訴訟弁護士などになるために必要となる膨大な努力をさせるものはいったい何だろうか。何がそうさせるのだろうか。答えは、あなたが次の二つの基本的な問いに、どう答えるかにかかっている。あなたが本当に欲しいと思っているものは何か。あなたが本当に信じているものは何か。
 本当に、深く求めているものを知ることは、欠くことのできない要素だ。「偉大な業績」を上げる人間になるには、これまでにしたことのないような投資をしなければならないからだ。この先何年もの間、目標に向けて自分の人生を完全につぎ込まなくてはならない。とてつもない力でその目標をつかみ取ろうとする者だけが成功するのだ。
(pp.283)
本書がいろんな意味でヤヴァイのは、本書を読んでしまうと、何かの分野で達人を目指して途中で挫折しそうなとき、才能がないとか、頭がよくないとか、すでに年だから遅すぎるという言い訳ができなくなるということだ。確かにタイガー・ウッズのように2歳から父親からゴルフを教え込まれているような環境的な要因や始めるのが早いほうが有利であるということはある。けれど、最後は何年にもわたって究極の鍛錬を続けたかどうかになる。そしてそれは、強い内発的動機を持っているか、言い換えれば本気であるかどうか?に帰結する。

達人プログラマーになる!!と決めた以上、もうやるしかない。昨日今日、ここ数カ月でそのように決めたわけではない。社会人になってからいろいろと経験し、そして熟考してきて、ようやく最近になってやはり自分の専門分野を極めるべきだという結論に達し、モチベーション3.0の極意に目覚めた自分なら大丈夫なはず!?そして10年後くらいに真の意味でMasterになるんだ!!

今までどれだけ鍛錬不足であったのかを突き付けられた気がした。究極の鍛錬をやるには、今の自分には師匠が必要だ。自分の専門分野の師匠。今まで我流でやってきたけど、そろそろ限界を感じている。いろいろなバトル漫画の物語のように、そろそろ自分も師匠探しをする必要があるようだ。

冒頭で示した※印に対応する、本書と合わせて読みたい書籍は以下となる。本書は『モチベーション3.0』の必読書15冊の1冊に含まれていて、気になったので読んでみた。そして、これらは達人になるための基礎理論を強化するために全部必読!!相互に関連付けられた内容なので。あと一つ達人基礎理論!?を強化するために必要な本があって、キーワードだけを示せば、それは『フロー体験』となる。なるべく今年中に読んでおきたいところ。

本書は案外他の有名ブログで取り上げられたりしていないし、大きめの書店にも置いてなかったからなんだかもったいない気もする。発売は去年の4月なのだけどね。しかし、Amazonでの評価はかなり高い。

あらゆる分野で達人を目指すすべての人に必読書。僕はこの究極の鍛錬をがんばってやろうと思う。今年はまだ準備期間なので、来年から達人目指して本気出す!!www



究極の鍛錬
究極の鍛錬
著者:ジョフ・コルヴァン
販売元:サンマーク出版
(2010-04-30)
販売元:Amazon.co.jp

読むべき人:
  • 自分の専門分野で成功したい人
  • アグレッシブに修行したい人
  • 達人になりたい人
Amazon.co.jpで『達人』に関する他の本を見る

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October 02, 2011

達人のサイエンス

達人のサイエンス―真の自己成長のために
達人のサイエンス―真の自己成長のために

キーワード:
 ジョージ・レナード、達人、マスタリー、修行、旅
達人になるための指南書。以下のような目次となっている。
  1. 第1部 達人の旅 The Master's Journey
    1. 第1章 「マスタリー」とは何か?
    2. 第2章 ダブラー、オブセッシブ、ハッカー―マスタリーに到達できない三つの典型的なタイプ
    3. 第3章 マスタリーの道とアメリカとの戦い
    4. 第4章 プラトーを好きになるには
  2. 第2部 達人への五つのキーポイント The Five Master Keys
    1. 第5章 キー1・指導
    2. 第6章 キー2・練習と実践
    3. 第7章 キー3・自己を明け渡すこと
    4. 第8章 キー4・思いの力
    5. 第9章 キー5・限界でのプレイ
  3. 第3部 マスタリーへの旅じたく Tools for Masstery
    1. 第10章 決意がくじける理由―
    2. 第11章 マスタリーのエネルギーを得るために
    3. 第12章 マスタリーの道での落とし穴
    4. 第13章 平凡なことをマスターする
    5. 第14章 旅の準備
(目次から抜粋)
達人というキーワードから、ジャンプとともに育った自分としては、ドラゴンボールの初期に出てくる亀仙人クラスの武術の達人であったり、ハンター×ハンターに出てくるネテロ会長をイメージしたりする。そのようなイメージの達人クラスに至るまでに必要なことが、合気道の指導者である著者によって示されている。

本書はこのブログでのハンドルネームが「Master」である自分に絶対必要な本だと思った。

内容の網羅性に関しては、83年会の同志、hiro氏の以下の記事をご参考に。自分なりにこの本がどうして必要であったのかを実体験とともに示しておこう。

本書の重要なキーワードとして「マスタリー(MASTERY)」というものがある。これは以下のように示されている。
マスタリーとは、「初めに困難であったことが、練習や実践を重ねるにしたがい、しだいに簡単で楽しいものに変わっていく不思議なプロセス」である。
(pp.2)
著者は合気道の指導者でもあり、「エクスファイア」誌でこのテーマについて記事を書いたところ、多くの反響があったようだ。そして、著者によるさまざまなインタビューから、このマスタリーという特性は合気道だけではなく、会社の管理職、芸術家、パイロット、学校の生徒、大学生、大工、スポーツ選手、子供を持つ親、宗教的献身者、さらには発展途上の文化全体に至るまでの広範囲でみられるようだ。

そして、本書全体で示されていることは、てっとり早く安直な成果を求めてしまう世間の打算的な考え方に対して注意を喚起するとともに、達人といわれるようなレベルに達するまでに必要なことが奥義書のように示されている。

達人に至る道は険しい。2,3ヶ月修行したからといってマスターしたとはなかなか言えないものでもある。そして、それは著者によれば、マスタリーへの道は終わりのない旅をするようなもので、最終的な目的地に到達することはありえないとある。その理由は、最終的に完全にマスターできるような技能は、たいした技能ではないからとあるようだ。

マスタリーに至るまで独特の成長曲線があると示されている。そのときのキーワードになるのが「プラトー(plateau)」となる。これは、学習高原の意味で、学習が伸び悩んでいる時期で、学習曲線が水平になっている状態となる。これがマスタリー型の典型的な学習曲線で、以下のように示されている。
 実際は、これ以外の道などありえない。初めての技能を学習する場合はいつでも、短期間の上達のスパートがあり、その直後はだいたい直前のプラトーより少し高めのプラトーに向かってゆっくりと下降する。上の曲線は、分かりやすくするために理想的に表現したものだ。実際の学習経験では、進捗はもっと不規則で、上達のスパートの仕方もいろいろあるし、それぞれのプラトーにも固有の上り下りがある。しかし、全体的な進み方はこのようになる。
 マスタリーの旅をするには、自己の技能を磨き上げ、次の段階の能力を得ようと勤勉に練習しなければならない。そしてかなりの時間をプラトーで過ごし、その間はたとえ先が見えなくても、練習を続けなくてはならない。これはマスタリーの旅の厳粛な事実なのだ。
(pp.21)
この説明とモデル学習曲線が示されているが、その図を示せない代わりに、自分の体感したTOEICでの事例を示しておく。

以下は2009年5月のTOEIC初回受験、565点から今年、2011年1月の955点にいたるまでの得点推移となる。

graph_955

800点を越えたあたりで、みごとに著者の示すようなプラトーに陥ったのがわかる。800点に到達したのが2010年の1月で、ほぼ2010年は800点前半の壁を越えられずにいた。その間は本当にしんどくて、毎月コンスタントに100時間以上のペースで学習していても、全然点数上昇につながらず、得点結果が出るたびにもう無理じゃないかと何度も諦めそうになった。

それでもずっと諦めずにコンスタントに学習(1日平均4時間半の学習なので、本当にほぼ修行みたいな境地(笑))していったら、本書で言うところのスパート期間として今年の1月に一気に130点ほどアップして955点まで到達できた。それまでに費やしたトータル学習時間は1年半で約1,300時間となる。

これがマスタリーに至るプロセスなのだ!!と今改めて本書を読むと分かった。TOEIC900点以上の点数そのものは、英語力としてはあまり価値がないが、それでも上位1%の領域にたどり着くまでのこのしんどいプラトーを含めた学習プロセスを体感できたのは本当によかった。もうこれは一生の財産になるといっても過言ではないくらい。

なぜなら、上達に至るまでのプラトーを含めた成功体験があるかどうかで、新しく何かを習得しようと思った時に、自分にはできないかもしれない、途中で挫折するかもしれないという不安が大分軽減されるから。一度この成功体験があると、次もきっと同じように回せるだろという自信につながるんだよね。

マスタリー、達人になれずに挫折する人の多くはこのプラトーでやられる。だだっ広い草原で自分がどこにいるかも、そしてどれくらいスタート地点から進んでいるかも分からず、先が全く見えないところにいるような感じ。これが本当につらい。これを超えられるかどうかが達人になれるかどうかの分かれ道となる。

第2部の「達人への五つのキーポイント」で特に重要なのは、キー2・練習と実践となる。それが端的に示されている部分を以下に引用。
 昔の武道には次のような言い伝えがある。「達人とは誰よりも、毎日五分でも長く畳の上にいる者だ。」
(中略)
 どんな競技の場合でも、達人はたいてい練習の達人である。
(pp.83-84)
結局最後はこれだ。武道でもスポーツでも芸術、仕事でも最後にものを言うのは、絶対量をこなしているかどうかだ。誰よりも練習したり訓練したり、修練を積んでいるものが最後には達人になり、その道の超一流の存在になるのだと分かった。

最後に第11章から、マスタリーのエネルギーを得る七つの法則を示しておく。
  1. 肉体の健康(フィットネス)を維持する
  2. マイナス要素を知った上での積極思考
  3. 努めてありのままを話す
  4. 素直であれ、ただし自己の暗い部分に振り回されるな
  5. するべきことの優先順位を決める
  6. 公言し、そして実行
  7. マスタリーの道を歩み続ける
細かいことは本書で確認してほしいが、この中で一番重要なのは「すべきことの優先順を決める」であると思う。これは以下のように示されている。
 自己の潜在エネルギーが使えるようになる前に、それを使っていったい何をするのかをはっきりさせておく必要がある。そしてどういう選択をするにせよ、あなたはある途方もない事実に直面するだろう。―一定の方向を目指すには、それ以外のすべてを諦めねばならないという事実に。
 一つの目標を選ぶとは、多くの選択可能な他の目標を諦めることである。私の友達の一人は二九歳の今も人生の理由や目的を探求しているのだが、その彼がこう私に言った。「われわれの世代は、自分の選択の幅は広げたままにしておくべきだという考えで育ってきました。だけど自分の選択の幅を本当に広げたままにしていたら、結局何もできないですね。」
 すなわちこれは、どれか一つの目標を選択することが、どうすればそれ以外のすべての選択や目標に含まれた可能性を補って余りあるものになるか、という問題なのである。
(pp.140-141)
TOEIC900点突破までのトレーニングで実感したことは、選択と集中が何よりも大事だということだ。英語以外の分野の読書をしたり、ブログを更新したり、映画も見たり、飲み会も行ったり、遊びに行ったりということを並行していては、月平均120時間の勉強は決してできなかった。そして、これくらいのペースでトレーニング積んでいかないとまったくものにならないということも体感した。一部の超天才以外は、絞っていかないと結局何者にもなれない。30歳が迫っている自分は何を目指すべきか?を割と真剣に考えてきた。このブログで何度も書いているが、そろそろ絞り始めなければいけない時期だと実感している。

著者自身が合気道の指導者でもあるので、本書を読んでいるとなんだか武道の師匠から指導を受けているような気になってくる。よくわからないけど、正座して読んだほうがいいような気もしてくる(笑)。そして、武道の思想とともに名言のようなものも多く示されているので、もっともっと修行しなくてはと思わせてくれるし、やる気がわいてくる。

また、達人、マスタリーは終わりのない旅のようにも例えられている。
 旅を始める方法?それは最初の一歩を踏み出せばよいのだ。いつから旅を始めるか?その時はいつだって「今」なのだ。
(pp.189)
いろいろと考えて、僕は達人プログラマーになろうと思う。そのためには、TOEIC900点突破トレーニングの何倍も修行しなければいけないけど、本書をバイブルとして修練を続ければきっとなれると楽観的に考えている。なってみせるさ!!

そして、名前負けしない、真の意味での Master になるためにもね。



達人のサイエンス―真の自己成長のために
達人のサイエンス―真の自己成長のために
著者:ジョージ レナード
販売元:日本教文社
(1994-03)
販売元:Amazon.co.jp

読むべき人:
  • 達人になりたい人
  • 武道、スポーツをやっている人
  • 終わりなきマスタリーの道を楽しみたい人
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