November 2013

November 30, 2013

さよなら、愛しい人

キーワード:
 レイモンド・チャンドラー、私立探偵、ハードボイルド、比喩、タフガイ
村上春樹訳のレイモンド・チャンドラーの作品。以下のようなあらすじとなっている。
刑務所から出所したばかりの大男へら鹿マロイは、八年前に別れた恋人ヴェルマを探して黒人街にやってきた。しかし女は見つからず激情に駆られたマロイは酒場で殺人を犯してしまう。現場に偶然居合わせた私立探偵フィリップ・マーロウは、行方をくらました大男を追って、ロサンジェルスの街を彷徨うが…。マロイの一途な愛は成就するのか?村上春樹の新訳で贈る、チャンドラーの傑作長篇。 『さらば愛しき女よ』改題。
(カバーの裏から抜粋)
村上春樹のエッセイによくタフガイの象徴として、本作品の主人公、フィリップ・マーロウが出てくる。なので、気になっていたので買って読んでみた。

あらすじは、カバーの裏にある通りなのだけど、なかなか事件が解明されていかないというか、主人公のフィリップ・マーロウは当初の殺人事件から全然違う別の仕事を進めて行ったりする。意図せず殺人を犯したマロイは冒頭に出てから、あまり出番がないし。しかし、本当にラスト50ページくらいで全然別の事件が収束して謎が解明するという感じがしてよかった。

この作品の良さ、面白さはストーリーそのものよりも、主人公、フィリップ・マーロウの魅力によるところが大きい。独り言が多かったりするし、シニカルな会話で相手をイラつかせたり、ギャングなどに殴られたり痛い目に合ったりするが、自分で自分をタフガイなんだと自己暗示をかけるように鼓舞し、危険を顧みず適地に単独で乗り込みつつ最後には辛抱強く事件を解決していく。僕もタフガイになりたいと思わせてくれる。

あとは、独特の比喩表現が多いなと思う。村上春樹の作品自体も特有の比喩があるが、それは間違いなくチャンドラー作品からの影響だろうなというのがよく分かる。なんだか大げさな表現にも思えるのだけど、それでも的を射ているというようなものがある。『八十五セントの夕食は、捨てられた郵便袋みたいな味がした。』とか。どんな味だろうか?と一瞬思案するけど、でもまずそうなのはよく分かる。

最後に村上春樹のあとがきが載っている。それによるとこの作品のフィリップ・マーロウは30歳前後のイメージ像らしい。ということは大体今の僕と同じ年齢ということになる。読んでいる途中は40歳くらいのダンディな感じをイメージしていたが、違ったようだ。僕は、とても主人公のように一人で金にもならず、そして危険を伴う仕事を地道に進めてはいけないだろうなと思った。

そして、村上春樹のあとがきに以下のように示されている。
チャンドラーの小説のある人生と、チャンドラーの小説のない人生とでは、確実にいろんなものごとが変わってくるはずだ。そう思いませんか?
(pp.477)
この作品を読了したので、チャンドラーの小説のある人生になりつつある。いろんな物事に翻弄されたりすることもあるけど、主人公、フィリップ・マーロウのようにタフガイであり続けたいと思った。

そのうち『ロング・グッドバイ』も読みたい。



さよなら、愛しい人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
レイモンド チャンドラー
早川書房
2011-06-05

読むべき人:
  • ハードボイルド小説が好きな人
  • 地道にものごとを進めるのが得意な人
  • タフガイになりたい人
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November 17, 2013

あのとき始まったことのすべて

キーワード:
 中村航、青春、修学旅行、中学、タッグ
青春小説。以下のような目次となっている。
社会人3年目、営業マンとして働く僕は、中学時代の同級生、石井さんと10年ぶりに再会した。奈良の東大寺を訪れた修学旅行や、複雑な気持ちを秘めて別れた卒業式。当時の面影を残す彼女を前に、楽しかった思い出が一気に甦る。そして新たに芽生えた思い…。しかし、一夜を共にした僕らに待っていたのは意外な結末だった―。きらきらと輝いていたあの頃を丹念に掬い上げた、切なくて甘酸っぱい最高純度のラブストーリー。
(カバーの裏から抜粋)
重厚で入り組んだ、非現実的な物語にどっぷりつかった後は、割と軽めの小説を読みたくなる。ということで、本書を読んでみた。でも、この作品の内容も僕にとっては非現実的なお話なのではあるが。

たまたま席が隣だった中学生の同級生と社会人3年目、25歳くらいに再開することになった。そこから二人の関係が始まるというお話。そして中学時代の修学旅行で一緒だった班のメンバーなども出てきて、中学時代の話もいろいろと出てきたり、社会人になって変わってしまった部分なども描かれている。読みやすく読後は爽やかな青春小説という感じだった。青春小説としてはありふれた話かもしれないが、安心して読める。

しかし、こんなのはフィクションに過ぎない!!と自分の中学時代を思い返してそのギャップに違和感ありまくりなのも何とも言えないなとも思った。読みながら中学生のころ何やってたんだっけ?とか、そもそも修学旅行はどこ行ったのだっけ?とか(この作品の舞台のように京都、金閣寺などにも行ったね)思い出した。でもまぁ、中学時代は別に暗黒時代でもなかったのだけど、それなりに面白かったし、友人なら何人かは今でも続いている。男だけだけどね!!w

過去回想型の青春小説って、なんだかいつまでも過去の栄光?を心のよりどころになっている部分がある気がする。社会人生活があまりうまくいってなくて、でも中、高校生時代はよかったなと回顧して、ふと昔の人たちに会いたくなったりするようなそんな感じ。それは別にそれでよいのだけど、やはり現在進行形の今を中、高時代よりも良いものにして生きたいなと思う。まぁ、中、高時代の『今』を大切にしてなかったらダメなのだけど・・・。

青春小説は、その主人公たちと同時代のときに読んでおくのが一番いいかもね。そうではない場合は、過去、現在、そしてこれからを考えるよいきっかけになるのかもしれない。

あと、同著者の作品は以下を読んだことがある。あのとき始まったことのすべて』のほうが個人的には好きだなと思った。



あのとき始まったことのすべて (角川文庫)
中村 航
角川書店(角川グループパブリッシング)
2012-06-22

読むべき人:
  • 社会人生活がうまくいってない人
  • 青春を疑似体験したい人
  • 中学時代の好きだった人をふと思い出す人
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November 03, 2013

都市と都市

キーワード:
 チャイナ・ミエヴィル、警察、都市、考古学、ブリーチ
SF小説。以下のようなあらすじとなっている。
ふたつの都市国家“ベジェル”と“ウル・コーマ”は、欧州において地理的にほぼ同じ位置を占めるモザイク状に組み合わさった特殊な領土を有していた。ベジェル警察のティアドール・ボルル警部補は、二国間で起こった不可解な殺人事件を追ううちに、封印された歴史に足を踏み入れていく…。ディック‐カフカ的異世界を構築し、ヒューゴー賞、世界幻想文学大賞をはじめ、SF/ファンタジイ主要各賞を独占した驚愕の小説。
(カバーの裏から抜粋)
本屋で帯付きで平積されていたのが気になっていた。その帯には『カズオ・イシグロ絶賛!!』と。あらすじを見ると、『ディック‐カフカ的異世界を構築し、ヒューゴー賞、世界幻想文学大賞をはじめ、SF/ファンタジイ主要各賞を独占した驚愕の小説。』とある。そして買った。スゴ本だった。

さわりだけほんの少し示しておこう。

舞台はバルカン半島にあると想定される架空の都市国家、べジェルとウル・コーマ。時代設定はiPod、スターバックスなどが存在する2010年前後。その2国はかつて分断され、2度ほど戦争があったらしいが、現在は友好関係を築いている。しかし、入り組んだ作りとなっている2都市の境界線上付近では、人々は相手国の人や建物を<見ない>ようにしなくてはいけない。もしそれをやってしまうと<ブリーチ>となる。許可された以外の場所で国境を超えることも<ブリーチ>となり、<ブリーチ>という2国間の超法規的で絶大な権力組織に捕らえられてしまう。

あるとき、べジェル側で若い女性の死体が発見された。その事件担当となった過激犯罪課のボルル警部補はその女性の死の真相を追うことになる。べジェル側で殺されたのか?その女性はいったいなぜ殺されたのか?事件の真相を少しずつ追うごとに2国間の歴史、統一をもくろむ集団たちの存在、2国間の間に存在するとされる寓話のさらなる都市の謎などが複雑に絡み合っていく。

表面上はSFではなくて、警察ミステリー小説なのだけど、この作品の何がスゴイかというと、架空の都市国家2つの緻密な設定、世界観としか言いようがない。2つの国の言語、べジェルはべジェル語、ウル・コーマはイリット語となっていたり、通貨も異なり、それぞれ身につけている服も異なる(着てよいものは規定されていて、それに違反すると<ブリーチ>)。考古学的な話も出てきて、2国間の分断前の遺跡からの出土品、<原形(ルート)>があるとか、さらには架空のアーティストやウル・コーマ風のお茶が出てきたりする。

そして、本作品のSF要素としての2国間の様子を表す<完全>な部分(相手国が見えない完全に自国の領土)、<異質>(完全に相手国の領土)、<クロスハッチ>(おそらく2国間の国境)、そしてどちらの領土とも確定していない<紛争地区>(括弧の説明は僕の解釈。どこにもそれらの説明が詳しく出てこないので。)があり、さらに<ブリーチ>という権力装置による2国間の監視がアクセントとなっている。

うまく言えないのだけど、舞台設定、そこでの2都市の文化、経済、政治もすべて架空なはずなのに、それが本当に存在するかのような細かい設定、描写が多く、SFであることを忘れるようなミステリー仕立ての作品となっている。さらに<ブリーチ>までもが本当にあり得るように思えてくる。そしてミステリーとしても犯人は誰でなぜ女性が殺されたのか?という謎がどんどん深まりつつ、2都市の構造、謎の権力組織<ブリーチ>も絡み合って続きが激しく気になっていく作品だった。

しかし、500ページ程の作品でページ数をあまり気にせずに読み進められる反面、集中して読めるのは1日3章、約60ページくらいでもある。舞台設定の描写が多く、その2都市間の舞台そのもの、つまり『都市』に関心がないと合わないかもしれない。また、Amazonのレビューにあるように、翻訳がよろしくないようだ。最初のほうはあまり気にならなかったのだけど、特にクライマックスあたりから会話の描写があれ?と思うような、一読しただけではよく分からない部分があったりする。最後の話は入り組んだ謎解明の部分なのだけど、純粋に日本語が変というか。

それでも久しぶりに続きが気になる!!っていう作品だった。こういうのは今まであまり読んだことがないほどで、スゴ本と断言してもいいだろう。ミステリー好きで特殊な都市の舞台設定、考古学、そしてディストピアSFによくある監視組織などが出てくる物語が好きな人は読んでおいて損はない。



都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)
チャイナ・ミエヴィル
早川書房
2011-12-20

読むべき人:
  • ミステリー作品が好きな人
  • 架空の緻密な舞台設定を楽しみたい人
  • 都市が好きな人
Amazon.co.jpで『チャイナ・ミエヴィル』の他の作品を見る

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