July 2014

July 27, 2014

マルドゥック・ヴェロシティ〔新装版〕

マルドゥック・ヴェロシティ1〔新装版〕 (ハヤカワ文庫JA)マルドゥック・ヴェロシティ2〔新装版〕 (ハヤカワ文庫JA)マルドゥック・ヴェロシティ3〔新装版〕 (ハヤカワ文庫JA)
マルドゥック・ヴェロシティ1〔新装版〕 (ハヤカワ文庫JA) [文庫]
マルドゥック・ヴェロシティ2〔新装版〕 (ハヤカワ文庫JA) [文庫]
マルドゥック・ヴェロシティ3〔新装版〕 (ハヤカワ文庫JA) [文庫]

キーワード:
 冲方丁、SF、加速、爆心地、虚無
マルドゥック・スクランブルの前日譚。以下のようなあらすじとなっている。
戦地において友軍への誤爆という罪を犯した男―ディムズデイル=ボイルド。肉体改造のため軍研究所に収容された彼は、約束の地への墜落のビジョンに苛まれていた。そんなボイルドを救済したのは、知能を持つ万能兵器にして、無垢の良心たるネズミ・ウフコックだった。だが、やがて戦争は終結、彼らを“廃棄”するための部隊が研究所に迫っていた…『マルドゥック・スクランブル』以前を描く、虚無と良心の訣別の物語。
(1のカバーの裏から抜粋)
廃棄処分を免れたボイルドとウフコックは、“三博士”のひとりクリストファー教授の指揮の下、9名の仲間とともにマルドゥック市へ向かう。大規模な再開発計画を争点にした市長選に揺れる街で、新たな証人保護システム「マルドゥック・スクランブル‐09」の任務に従事するボイルドとウフコックたち。だが、都市政財界・法曹界までを巻き込む巨大な陰謀のなか、彼らを待ち受けていたのはあまりにも凄絶な運命だった―。
(2のカバーの裏から抜粋)
ギャングの世代間抗争に端を発した拷問殺人の背後には、闇の軍属カトル・カールの存在があった。ボイルドらの熾烈な戦いと捜査により保護拘束された女、ナタリアの証言が明らかにしたのは、労組対立を利用して権力拡大を狙うオクトーバー一族の影だった。ついに牙を剥いた都市システムによって、次々と命を落としていく09メンバーたち。そしてボイルドもまた、大いなる虚無へと加速しつつあった―暗黒と失墜の完結篇。
(3のカバーの裏から抜粋)
冲方氏によるマルドゥック・スクランブルのほうが先に発表されており、スクランブルでは15歳の少女の復讐の物語であった。そのときの敵、ディムズデイル・ボイルドが本作では主人公となっている。つまり、ルーン・バロットとウフコックが出会う前の、良心のまだあった敵ではないボイルドの物語。

クランチ文体―「=」、「/」を多用した短い文章。
クランチ文体―体現止めが多い/ジェイムズ・エルロイに影響/臨場感あふれる文体。
クランチ文体―独特のリズム/物語の加速装置/虚無をまとうボイルドのリズム。

主人公ボイルドは、元軍人で禁じられた重力制御技術を体内に持ち、あらゆる物理攻撃をそらし、壁や天井を走ることもできる。かつて麻薬漬けの状態で味方を爆撃するという罪を背負い、最強の白兵戦兵器であるネズミのウフコック、さらには同様の技術を持つ仲間たちと都市にはびこる犯罪を取り締まるO9メンバーとして活躍していく。しかし、次第に都市を巻き込む企業とギャング一族の陰謀に巻き込まれていき、いろいろなものを喪失していく。

明らかに前作と雰囲気も物語構成もテーマ性も文体のリズムも何もかもが異なっている。『ボイルド』の名の通り、ハードボイルド的で、コーチとよぶ警察の中間から事件解決の手ほどきを学び、徘徊者(ワンダー)として刑事のように事件解決に迫る。本格的なミステリ要素が強く、どちらかというとSFを媒体とした警察小説のようでもある。

もちろん、本作の魅力は事件解決、陰謀の謎が暴かれていくミステリ的な要素だけではない。あとがきに冲方氏が最初の執筆の動機として、「特殊な力を持った集団同士が戦い合う娯楽活劇」と示すように、さまざまな異能なキャラが出てくる。ボイルドの中間では、半不死のヤツ、盲目だがワイヤー武器と複数の目を持つ男、その相棒である話すこともできる不可視の軍用犬、顔面を意図した人間に変形できる男、声を操るヤツ、パチンコ玉のようなものを掃射する義手を持つ女がいる。

敵対する奴らは、カトル・カール=誘拐/暗殺/脅迫/拷問を得意とする13名のメンバーからなる半分アンドロイドのような狂ったやつら。全員が医療技術の心を持ち、金で雇われれば、ターゲットを四肢切断し、絶妙なところで命をつなぎとめて心身ともにこれ以上ないというくらいの苦痛をもたらす。人間的な容貌とは程遠く、トナカイ型、下半身が車輪のヤツ、噛みつきが得意で顔の半分が機械化している奴らなどなど、イカれっぷりの描写が半端ない。

そして、単純なミステリとは違うのは、圧倒的な戦闘描写があること。前作も同様に戦闘描写が自然と脳内に再現されるようであったが、今作はさらにその脳内映像化がより鮮明になっているような気がする。それは間違いなく独特のクランチ文体からなる文章のリズムによるもの。もちろん、最初は違和感があり、慣れるまでほんの少し時間がかかる。しかし、次第に自然とページがどんどん進む。それはまるで、重厚なモンスターマシンが徐々に加速度を付けて限界点を突破していくように。

前作よりもかなり残虐で暴力的になっている。拷問の結果の惨殺体やボイルドの大砲のような64口径の銃撃で血しぶきをあげて肉体を吹き飛ばしたり、最強の敵によって仲間がバラバラにされてしまったりとかなり血みどろになっている。マルドゥック・スクランブルは劇場アニメ化されたが、本作は暴力的過ぎてアニメ化するのに限度がある気がした。こちらを見た後にヴェロシティを読んだので、ボイルドのイメージがより具体性を持つことができた。

物語自体はあまり救いのないような、切ない感じだった。スクランブルの結末がプロローグとして始まり、100章から徐々にカウントダウンし、ボイルド自身の爆心地(グラウンドゼロ)に向けて加速度がつき、虚無へと誘われるボイルドの圧倒的な筆力による物語を堪能せよ!!

あと、マルドゥック・スクランブルはハリウッド映画化するとかしないとか。ところで、次回作「マルドゥック・アノニマス」はいつ発売になるのだろうか!?早川書房のTwitterアカウントによれば、今春(2014年)予定とつぶやいているのだけど、まだ発表されていないようだし。それまでは、『マルドゥック・フラグメンツ (ハヤカワ文庫 JA ウ 1-11) [文庫]』を読んで気長に待つか。





冲方 丁
早川書房
2012-08-23

読むべき人:
  • サイバーパンク的バトル作品が好きな人
  • ハードボイルド作品が読みたい人
  • 虚無へのカウントダウンを堪能したい人
Amazon.co.jpで『冲方丁』の他の作品を見る

bana1 ベロシティクリック☆  にほんブログ村 本ブログへ



July 26, 2014

システム設計の謎を解く

キーワード:
 高安厚思、システム、設計、アーキテクチャ、指南書
システム設計の指南書。以下のような目次となっている。
  1. 序章 本書の構成と概要
  2. 第1章 設計の謎
  3. 第2章 設計へのインプット~要件定義行程の概要~
  4. 第3章 設計する前にやるべきこと~共通設計~
  5. 第4章 アプリケーション設計としてやるべき作業
  6. 第5章 アーキテクチャ設計としてやるべきこと
  7. 第6章 本書の知識を現場で活用するために
(目次から抜粋)
本書の概要がまえがきに示されているので、そこから抜粋。
 本書は、著者の豊富な現場経験と幅広いソフトウェア工学の知識に基づき、「設計」というシステム構築の要諦を体系的かつ実践的に習得させることを目的に記された指南書である。
(pp.iii)
あまり経験がない場合、システム開発における「設計」というと、いったい何をどうすれば設計したことになるのか?というのが感覚的にわからなかったりする。画面設計、DB設計、IF設計、帳票設計などなど、その中身もいろいろとある。本書は「Webシステムを利用した基幹業務系システム」を例に各種設計の具体的なサンプルが示されている。

書店に行ってもシステム設計の具体的なサンプルが示されていたり、何をどうやって設計すればよいのかを示した良書があまり見当たらなかったりする。そもそも「設計」にフォーカスした書籍もそんなに多くない。まったく、設計の本がないわけではないが、あってもあまり使えないものだったり、サンプルの例が古すぎたりする。しかし、これはかなり実践的にそのまま使える本。

例えば、画面項目設計では、ID、項目名称、ラベル、部品種類、型、桁、フォーマットなどなど定義すべき項目の一覧が示されている。さらにその項目の一覧から設計サンプルが示されている。これを元に設計書にそのまま利用できるくらい。もちろん、これから自分の仕事の対象のシステムにそのまま利用できない部分もあるが、各設計で気をつけなくてはいけないことなども示されている。

さすがにそれなりに設計経験があるので、何をどう設計すべきかは感覚的にわかっている。それでも、改めて一通り示されている内容を読んでみると、やったことない部分などもあるし、復習にもなったと思う。

ただ、『決済』と『決裁』の漢字の誤記の部分が全体的に何か所かあり、それは業務系SEにとっては間違えてはいけない漢字なのだけどなと。校正があまいなと思う。よく間違えがちな漢字だけど、どっちがどっちの意味かはちゃんと覚えておきましょう。

初めて設計する場合は、このようなサンプル的な本がとても役に立つと思われる。2,3年目くらいのときに読みたかったなぁと思う。また、以下の本と合わせて読んでおけばより設計の知見が深まるはず。本書は2,3年目くらいに読みたかったなぁと思った。もちろん、必要に応じて読み返して読むに値する本。暗記するくらい読んでもいいかもしれない。




読むべき人:
  • はじめて設計をする人
  • Webシステムの開発者の人
  • 強いSEになりたい人
Amazon.co.jpで『設計』の他の本を見る

bana1 設計クリック☆  にほんブログ村 本ブログへ



July 23, 2014

Head First Java 第2版

キーワード:
 Kathy Sierra, Bert Bates、Head First、図解、Java
オライリーのHead FirstシリーズのJava学習本。内容の概要、目次、サンプルなどがちゃんとオライリーのページにあるので、そちらを参照。商品説明が他の出版社よりも多くてわかりやすいのでとてもよいのだけど、正誤表が完全ではないので注意。ここに示されている正誤表は全体の間違いの3割くらいしかカバーされていないような印象。完全版の正誤表は出なさそうなので、第3版が出版されるの待ちか。

オライリーのHead Firstシリーズは脳が効率よく学習できるようにイラストや図解、写真が豊富に示されている。どうでもいいガチョウとか赤ん坊とか犬とかエイリアンなどなど。それらによって認知能力が高まるらしいという研究結果に基づいて作られているようだ。そのため、680ページ近くあるが、他の技術本に比べてかなり楽しんで学習できる。

今年の目標はJavaだ!!と思って本書をなんとか最後までやり遂げた。本書を買ったのはちょうど入社したての頃の8年前で、ずっと積読状態だったww4割くらいまでやって結局仕事でJavaを使うようなPJTに行かなかったので、読まずじまいだったのだけど、割と時間のあるタイミングだったので学習できた。保留事項を一つ完了にできた気分。

本書の初版が2006年で、扱われているJavaのバージョンが5.0で、まだSunの時代。今ではOracle傘下になっており、バージョンもだいぶ先まで行っているので若干注意が必要かも。それでも基礎的なことは十分学べる印象。ただ、ServletやJSPなどのサーバサイド部分はほとんど触れてないので、それらは別で学習するしかない。

手書きで本書に書き込んだりちゃんと自分で考えようというコンセプトなので、割と忠実にそれにしたがってやった。章の最後のエクササイズなども自分でやってみた。また、プログラミング言語学習は読むだけでは学習効率が悪いので、ちゃんとサンプルプログラムをほぼEclipseで打ち込んで実行してみた。時間はかかるけど、しっかり習得しようと思うなら、読むだけではなく写経のように一応自分でタイプするのがいいかな。

本書の大きな欠点は、間違い、誤記が頻出していること。自分で正誤表を作ろうかと思ったけど多くて面倒になってやめた。むしろ間違い探しのエクササイズだと思ってやるのがいいかも。誤記でその解説内容が全く意味不明という部分はなかったけどね。

本書は基本的な部分だけの解説がメインで、Javaのすべては網羅されていないので(バージョンも古いし)、本書の対象範囲外は他の本で補完する必要がある。Javaの本はいろいろあるのだけど、これが最初の1冊としては最適かもしれない。もちろん、分厚いし自分で考えて手を動かす必要があるので、しっかりやろうと思うと2,3か月はかかるかな。それでも、微妙な他の本をたくさん買って分からないままよりはいいと思う。

Javaの基礎を習得したので次のPJTはJavaかな!?と若干期待していたのだけど、次もC#案件だった件wwまぁ、前回からの延長ということでいいのだけど、今後C#(.NET)案件にはアサインされなさそうなので、いずれJavaをしっかりできるようになる必要がある。あと、一応Javaの基礎を習得したので、今年の目標はほぼ達成したことにしよう!!(これだけじゃ足りません)ww




読むべき人:
  • プログラミングをしてみたいと思ったことがある人
  • Javaを学びたい人
  • 楽しく勉強したい人
Amazon.co.jpで『Head First』の他の本を見る

bana1 Head First Javaクリック☆  にほんブログ村 本ブログへ



July 13, 2014

世界のすべての七月

キーワード:
 ティム・オブライエン、村上春樹、群像劇、短編、人生
ティム・オブライエンの小説。翻訳は村上春樹。以下のようなあらすじとなっている。
30年ぶりの同窓会に集う1969年卒業の男女。結婚して離婚してキャリアを積んで…。封印された記憶、古傷だらけの心と身体、見果てぬ夢と苦い笑いを抱いて再会した11人。ラヴ&ピースは遠い日のこと、挫折と幻滅を語りつつなおHappy Endingを求めて苦闘する同時代人のクロニクルを描き尽して鮮烈な感動を呼ぶ傑作長篇。
(カバーの裏から抜粋)
書店でなんとなくタイトルが気になって買った。ちょうど七月だったし、翻訳が村上春樹だったということもあって。ティム・オブライエンはこれが初めての作品だな。本書はもともと短編作品だったものをいくつかまとめて長編として出版されたものらしい。主な章タイトルとその登場人物、簡単なあらすじを示しておこう。
  • 1969年7月・・・デイヴィッド・トッド。元野球選手だがベトナム戦争へ行き、死にかけて足を失う。そこでラジオを通して不思議な声を聞き始め、マーラ・デンプシーとの結婚生活がよくない方向に向かうと示唆を得る。
  • 勝ち続け・・・エイミー・ロビンソン。弁護士。夫と行ったカジノで人生の運をすべてそこで使い果たすように勝ち続ける話。
  • リトル・ピープル・・・ジャン・ピュープナー。元ストリート劇団員。大学生の時に始めたお金のためのヌード写真ビジネスがいろいろとトラブルを巻き込む話。
  • 二人の夫と暮らすのは・・・スプーク・スピネリ。二軒の家、二人の夫を持つ。協議して弁護士の夫と哲学者の夫と二重生活を送る。しかし、その二人以外にも男が現れて・・・。
  • ウィニペグ・・・ビリー・マクマン。徴兵を忌避してカナダのウィニペグへ行くが、その当時付き合っていたドロシー・スタイヤーがついてきてくれるものと思っていたが、結局来てはくれない。
  • 聞くこと、聞こえること・・・ポーレット・ハズロ。女性牧師。ある老婆の家に夜間に侵入してしまい、職を失う。
  • ルーン・ポイント・・・エリー・アボット。結婚しているが、不倫中ででかけた海で、不倫相手が溺死してしまう。
  • 半分なくなった・・・ドロシー・スタイヤー。ビリー・マクマンの元恋人。乳癌を患い、半分切除していて、余命5年だという状況。
  • ノガーレス・・・カレン・バーンズ。退職者コミュニティーに勤務。51歳の時にウォーキングツアーを引率中に死亡。
  • 痩せすぎている・・・マーヴ・パーテル。モップビジネスで成功し、また驚異的なダイエットにも成功。そして、自分の美人秘書に自分は作家でもあるとウソをついたことから、生活が一転する。
  • うまくいかなかったこと・・・デイヴィッドとマーラーの結婚生活の話。結局二人は別れる。
他にも『1969年度卒業生』という章が何度か繰り返し出てきて、その舞台は2000年の7月7日の金曜日の夜からの、30年ぶりの大学での同窓会。1969年度卒業生なのに、2000年で30年ぶりなのは、30年目に同窓会を開催するのを忘れたため。そのため、2000年に30年ぶりの同窓会ということになる。そこでは、各章の人物がみな52歳として登場している。

52歳。人生の後半戦に差し掛かっている年代で、全員に共通するのは、人間関係や健康などがいろいろと問題を抱え込み、思うようにいかなかったという現実が描かれている。持病を患っていたり、望んだ人間関係が築けなかったり、離婚していたり、どこか満たされず、失敗と挫折が多かれ少なかれそれぞれの人物に内在する。しかし、同窓会を通して昔からのつながりの人間関係の中で、見失ってしまった自分自身をここで再確認して、これから立て直していこうという感じもする。

読むのが少し早すぎたのかなと思った。僕は30歳になったばかりだし。約20年後の50歳前後の時に、これを読むと自分自身のこととして受け入れられるのかもしれない。しかし、今の時期に読んでも、こういう未来にならないようにしようと危機意識を得られるのもいいか。

面白くなかったわけではない。むしろかなり没頭して読めた。それぞれが短編小説として独立しているので、そこだけでも面白い。それ以上に、全編を通してそれぞれの人間関係のつながり、葛藤、生きていくうえでの困難や折り合いをつけなくてはいけないことなどが村上春樹の読みやすい翻訳によって描かれていた。簡単に言えば、いろんな人生が描かれていた。

村上春樹は、このティム・オブライエンの作品が特に同世代作家として気になっており、アメリカでの評判はいまいちだけど、どうしてもこれを自分で翻訳したかったとあとがきに書いてあった。

52歳だけど、まだ完全に終わっていない、まだ先があるというような感じで物語が終わる。切なさも残るが、割と心地よい結末でもあった。作品を通して自分の人生を振り返ってみるのにいいかもしれない。



世界のすべての七月 (文春文庫)
ティム オブライエン
文藝春秋
2009-06-10

読むべき人:
  • 50歳前後の人
  • 同窓会というイベントが好きな人
  • 自分の人生について考えたい人
Amazon.co.jpで『ティム・オブライエン』の他の作品を見る

bana1 7月の同窓会クリック☆  にほんブログ村 本ブログへ



July 09, 2014

ソフトウエア開発55の真実と10のウソ

キーワード:
 ロバート・L・グラス、ソフトウェア、研究、真実、ウソ、銀の弾丸
ソフトウェア開発における真実が55、ウソが10個示されている本。本書の内容が大まかにわかる目次が出版社のページにあったので、そちらを参照。著者は企業に所属する技術者、または大学での研究者としてソフトウェア工学の世界に45年以上(本書出版は2002年なので、現在では60年近く!?)携わってきており、書籍を25冊、論文を75本書いているようだ。そんな著者によって、ソフトウェア開発における一般的に知られている真実、またはまったく知られていない真実、そしてウソを各種文献、論文をもとに列挙している本となる。

各種の真実、ウソの構成として、最初に概要を述べ、次にその反論を示している。最後に真実の情報源が論文や各種文献として示されている。

本書は以下の本で、『初級』レベルより上に進むために開発者が読むべき本として取り上げられていたので、読んでみた。CODE COMPLETEにもつながる内容が多く示されていたなと思う。

さて、前述のリンク先の目次をざっと眺めてみると、聞いたことがある、経験則的にわかっているというものも多いと思う。例えば、『真実3:遅れているプロジェクトに人を追加すると、もっと遅れる。』は、ソフトウェア工学をちゃんと勉強した人なら当然知っている、ブルックスの法則だね。本書に示されているように、この真実を根本から否定する人はほとんどいないとある。まぁ、そうだよねと。人員投下で何とかなったためしがない。表面上スケジュールに間に合ったとしても、コスト面では赤字になったりとかね・・・・。

そして次は『真実8:プロジェクトが大失敗する原因には二つある。一つは見積もりミスだ』を見てみよう。本書によれば、見積もりの大部分は非現実的で単なる希望に過ぎず、21世紀になっても、適切な見積もり手段がないと示さされている。これはもう自分のタスクでも正確に見積もるのが難しいと実感するのに、大規模見積もりとなると、不正確にならざるを得ない。あとは、競争入札で勝つために無謀な見積もりになっていたり・・・。さらには、見積もり手法としてファンクションポイント法や他の開発プロジェクトを参考にするというのがまったく有効でないということもいろいろと示されていて、そうだよねとうなずくばかり。

さらに『真実10:見積もりは、上層部かマーケティングが実施する場合がほとんどだ。実際にプログラムを開発したり、開発プロジェクトの直接のマネジャが見積もることはない。結局、適切な人が見積もっていないのだ。』はみんな実感しているだろう。やっぱりプログラミングや開発経験のない人が提案して全体の開発スケジュールを決めるのはダメだよね。そんでいざPJTが開始になって、デスマーチ確実で下っ端は死ぬ!!!!wwということになりかねない。

保守のカテゴリでは『真実41:保守には、ソフトウエアのコストの40〜80%(平均60%)がかかる。従って、ソフトウエア・ライフサイクルの最重要フェーズである』とある。これは、ソフトウェア技術者がよく忘れる真実の代表として挙げられている。なので、ソフトウェアサイクルで最も重要なフェーズとして示されている。

そして、『真実45:優れたソフトウエア・エンジニアリングに沿ってプログラムを開発すると、保守は減らず、かえって増える』は、最大級の意外性で、これはどういうことだってばよ!?wとなった。その部分の理由を以下に引用。
新技法で開発したシステムは、何度も変更を繰り返すため、保守期間が長くなる。このシステムは、構造がきれいなのでエンハンスが容易であり、それゆえ、何度も変更を繰り返すのだ。
(pp.199)
保守というのは、『問題』として扱うのではなく、すでに出来上がったソフトウェアの改善に導く『解法』であるという考えにつながるようだ(真実43 保守は解法であり、問題ではない。)。

また、真実21に関して、著者が本書でこれだけは覚えておいてほしいという部分があるので、そこを引用しておこう。
この本を読んで、すべて忘れてもよいが、次のことだけは、覚えていてほしい。「対象となる問題の複雑度が25%増加するたびに、ソフトウェアによる解法の複雑度は100%上昇する」。また、この問題を一挙に解決する「銀の弾丸」はないことも、記憶してほしい。ソフトウェアが複雑なのは、ソフトウェアの性格なのである。
(pp.98-99)
そして、さらに、真実31(ソフトウエア開発のライフサイクルで、不良除去に最も時間がかかる。)に関して、以下の部分も引用しておこう。
この真実は、本書で繰り返し述べている「圧倒的な真実」、すなわち、「ソフトウェアを開発することは、きわめて難しく、エラーが入り込みやすい」ということの一部である。希望や革新的技術や銀の弾丸では、この真実を変えられない。
(pp.147)
本書を読めば読むほど(そして自分の過去の経験からも)、『どんなに頑張ってもあなたはバグのない完璧なソフトウェアを作り上げることはできない』という絶望にまみれた真実を突きつけられるのであった!!(なんかもう転職して職業を根本から変えたくなってくるね!!w('A`))

2,3ページで1つのトピックなので割と読みやすい。自分の経験則と照らし合わせて、あるある!!と共感する部分も多いし、はて、それは本当に正しいと言えるのだろうか!?と思うものもある。本書の知識を実際の現場で有効活用できればいいのだけどね。

本書はすでに絶版になっているようだ。もしかしたら大型書店で売れ残っているかもしれない。ソフトウェア開発、システム開発の仕事をしている人、ソフトウェア工学を学ぶ学生、そして研究者の人も中古でもいいから買って読んでおいて損はない。



ソフトウエア開発 55の真実と10のウソ
ロバート・L・グラス
日経BP出版センター
2004-04-08

読むべき人:
  • ソフトウェア開発者の人
  • ソフトウェア工学を研究している人
  • 完璧主義者の開発者の人
Amazon.co.jpで『ロバート・L・グラス』の他の本を見る

bana1 ソフトウェア開発クリック☆  にほんブログ村 本ブログへ



July 06, 2014

人形つかい

キーワード:
 ロバート・A. ハインライン、SF、侵攻、ナメクジ、人間
ハインラインのSF小説。以下のようなあらすじとなっている。
アイオワ州に未確認飛行物体が着陸した。その調査におもむいた捜査官六名は行方不明になってしまった。そこで、秘密捜査官サムとその上司、そして赤毛の美人捜査官メアリは、真相究明のため現地に向かう。やがて、驚くべき事態が判明した。アイオワ州の住民のほとんどは、宇宙からやってきたナメクジ状の寄生生物にとりつかれていたのだ。人間を思いのままに操る恐るべき侵略者と戦うサムたちの活躍を描く、傑作冒険SF。
(カバーの裏から抜粋)
いつか読もうと思っていて、図書館で発見したので借りて読んだ。書かれたのは1951年と約60年前であるが、今読んでもまったく古びていなくて、そしてかなり面白く、楽しんで読めた。

舞台は2007年の7月12日のアメリカ(もう過去になってしまったね)で、主人公サムは秘密捜査官(エージェント)であり、上司に呼び出されて不時着したUFOの調査に向かう。そこで、UFOの周囲にいた人間の様子がどうやらおかしく、調査していくとナメクジ型の異星人に人格を乗っ取られていることが判明した!!ナメクジ野郎は自己分裂してどんどんアメリカの人間を支配していき、主人公が所属する特殊機関と軍、大統領を含めてアメリカ奪還を目指すというお話。

異星人侵略、寄生ものの古典的な位置づけらしい。ナメクジに支配された人間は、背中にとりつかれて、一応最低限の人間社会をそのまま維持し、意識はあるが、ナメクジを通して思考や行動を強制され、どんどんナメクジネットワークを広げられていく。ナメクジは人間だけではなく、必要あらば犬や猫、その他動物までに憑依して、支配者(マスター)としてそのホスト(宿主)を傀儡のように操る。

服を着ているとナメクジとりつかれているかどうかわからないので、アメリカ全土に大統領により<上半身裸計画>が発動される。それでも不十分なことが分かって、<日光浴計画>つまりほぼ全裸状態が発動されたりする。それでもアメリカの各州は次第に侵略されていき、アメリカ以外の衣服を簡単には脱がない国(イスラム圏とか)なども侵略されていく(なぜか日本に関しては、『日本人は平気で着衣を脱ぐせいで、助かった』と記述があり、いったいどういうことだ!?と思ったw今も昔もきっとそんなに人前では脱がないだろうw)。

ナメクジにどんどん侵略されていき、主人公も途中でとりつかれたりして危機が迫る。また、光線銃や空飛ぶ車、変装の特殊メイク、立体テレビなどもSFな要素がそれなりに出てくる。そして、誰がとりつかれているかの疑心暗鬼の様子、さらに侵略の危機をどうやって克服してナメクジ野郎たちを一掃するのか!?の攻防も面白く、なんだか上質なハリウッド映画を見ているような気になれた。ちなみに、個人的に異星人憑依系の映画で好きなのは、ロバート・ロドリゲス監督作品の『パラサイト』。『人形つかい』では、ナメクジの侵略の動機が憑依した人間の口から語られる部分があり、その部分を読んで、ナメクジは共産主義的なユートピアのメタファーなのだな!!と思って読んでいたら、解説に以下のように示されていた。
『人形つかい』を反共小説として読むのは簡単だし、ハインライン自身もそれを否定しなかったにちがいない。
 しかし、”ナメクジ”に乗っ取られた者と共産主義者とは、この作品では同一視されていない。はっきり別のものとして扱われている。そこに注意を払っておきたい。
 もし、”ナメクジ”が単純に共産主義のアレゴリーであれば、本書はベルリンの壁の崩壊やソビエト連邦の解体とともに過去の遺物と化していたことだろう。ソ連が存在する世界を描いていることで歴史的作品となっていることは間違いないが、ストーリーの本質は時代遅れになっていないのである。ハインラインが描いた「人間の心をもたない人間」の恐怖は、イデオロギーの異なる人間を排除する気持ちを超えた、さらに普遍的かつ根源的なものだった。
(pp.442-443)
なるほどなと思った。個人的には、ナメクジを機械に置き換えればマトリックスの世界かなと(じわじわ侵略されるという感じではないけど)。このように、ナメクジの侵略でいろんな読み方ができると思う。

ハインラインの作品は以下のものを読んだことがある。個人的には『人形つかい』が一番面白くかつ没頭して読めた。『月は無慈悲な夜の女王』はいまいち没入できず、『宇宙の戦士』はそれなりに面白いが途中説教くさい部分が多い。『夏への扉』は心地よい終わりでよいが、『人形つかい』ほどエンタメ性はそこまで高くないかなと。まぁ、人それぞれで評価はだいぶ変わると思うので、暇な人は全部読み比べて見たらいいかもね。他のハインライン作品なども。

難しい表現もあまりなく、主人公サムに割と心情を投射しやすく、没頭して読めるのでオススメ。



人形つかい (ハヤカワ文庫SF)
ロバート・A. ハインライン
早川書房
2005-12

読むべき人:
  • 異星人侵略ものが好きな人
  • マトリックスなど管理体制ものが好きな人
  • 人間の本質について考えてみたい人
Amazon.co.jpで『ロバート・A・ハインライン』の他の作品を見る

bana1 THE PUPPET MASTERSクリック☆  にほんブログ村 本ブログへ



July 03, 2014

シップブレイカー

キーワード:
 パオロ・バチガルピ、船、解体、ジュブナイル、家族
ヤングアダルト向けSF小説。以下のようなあらすじとなっている。
石油資源が枯渇し、経済社会体制が激変、地球温暖化により気候変動が深刻化した近未来アメリカ。少年ネイラーは廃船から貴重な金属を回収するシップブレイカーとして日々の糧を得ていた。ある日ネイラーは、超弩級のハリケーンに蹂躙された後のビーチに、高速船が打ち上げられているのを発見する。船内には美しい黒髪と黒い目をした少女が横たわっていた……。『ねじまき少女』でSF界の頂点に立った新鋭が描く冒険SF。
(カバーの裏から抜粋)
本作品はローカス賞のYA長編部門を受賞しているらしい。YAはヤングアダルト、つまりティーン向けの作品らしい。

舞台は何年か未来のアメリカの海岸沿いのさびれた村で、地球温暖化で北極が溶けて海面上昇しており、都市の一部は水没している。その村では旧世代の動力源の石油で動いていた座礁している船を解体する作業員、つまりシップブレイカーたちが船から得た銅や鉄、ワイヤーなどを売って生活している。そこで15歳ほどの少年ネイラーは常に飢えており、体が大きくなるとシップブレイカーとして働けなくなり、また常に解体のノルマが課せられ、解体する船で危険な作業に従事している。

父親はドラッグ漬けで、ドラッグをキメているときはありえないほどの敏捷性を発揮し、誰も戦って勝てる者はいない。母親が死んでからネイラーは父親に常に殴られており、父親は自分の息子の命を何とも思っていなかったりする。村全体が貧しく、働けない場合、運がないヤツ、仲間を裏切ったヤツは死が近くなる。

そんなある日、村を大型のハリケーンが襲い、ハリケーンが去ったあと、普段解体する船とは別の新型の船が座礁しているのをネイラーは発見する。その船はどうやら金持ちの所有らしく、船員はほぼ死んでいるので、仲間と銀食器などの戦利品を物色していると、黒髪の美しい少女が一人生き残っており、その少女をとりあえず助けることにする。助けた少女は、北部の海運業者一族の娘であり、ネイラーはその娘を助けて報酬を得ようとするが、その娘を追っている一団がいることを告げられる、というお話。

ヤングアダルトというには割と主人公が置かれている境遇は過酷で、貧乏で文字もろくに読めず、父親から暴力を受けており、この村から一生抜け出せないでいる。15歳の主人公が殺人をせざるを得ない状況であったり、敵に襲われて痛めつけられたりする。そういう部分は、中学生には刺激が強いかも。高校生以上向けかな。

しかし、それなりに面白かった。割とすぐにページが進んでいき、主人公と囚われの少女の関係はどうなるのか!?という部分でぐいぐいと引き込み、そして船や海の独特の描写もすんなりイメージできて臨場感もあった。前作の『ねじまき少女』は読了済みで、『ねじまき少女』はかなり読みにくい作品であったが、本作はすんなり読める。また、『ねじまき少女』はところどころエログロな描写が出てくるけど、『シップブレイカー』は、ヤングアダルト向けなので、エロは皆無であるけど、ところどころ暴力的で血みどろな感じ。

物語としては、Boy meets Girlで『親方!空から女の子が!』のようなよくある構造w また、SF要素としては、石油が枯渇した世界であったり、『半人』と呼ばれる犬、虎、ハイエナ、人間の遺伝子を持つ人型で獣じみた奴らが出てきたりする。そいつらは知能も人間並みで普通にしゃべれるが、顔立ちは犬っぽく、獰猛でボディガードや戦闘向きで、主人に忠実な存在だったりする。あとは、車が走ってない道路には木々が生えていたり、ビルが水没した世界観である。しかし、アメリカのごく一部の世界の話で、世界観が案外広がっていなかった。

夏休みに読むには割と最適な作品かもしれない。何も考えずに、没頭できて、430ページほどあるけど、頑張れば1日で読めるかも。海とか船の描写が夏っぽいし、そしてSFだし、ジュブナイルだし。



シップブレイカー (ハヤカワ文庫SF)
パオロ・バチガルピ
早川書房
2012-08-23

読むべき人:
  • 夏休みっぽい作品を読みたい人
  • ジュブナイル的なSFが好きな人
  • 家族について考えたい人
Amazon.co.jpで『パオロ・バチガルピ』の他の作品を見る

bana1 シップブレイカークリック☆  にほんブログ村 本ブログへ