November 2014

November 21, 2014

旅のラゴス

キーワード:
 筒井康隆、旅、SF、超能力、人生
SF旅小説。以下のようなあらすじとなっている。
北から南へ、そして南から北へ。突然高度な文明を失った代償として、人びとが超能力を獲得しだした「この世界」で、ひたすら旅を続ける男ラゴス。集団転移、壁抜けなどの体験を繰り返し、二度も奴隷の身に落とされながら、生涯をかけて旅をするラゴスの目的は何か?異空間と異時間がクロスする不思議な物語世界に人間の一生と文明の消長をかっちりと構築した爽快な連作長編。
(カバーの裏から抜粋)
最近なぜかこの『旅のラゴス』が売れているという現象が発生しているようで、気になっていた。また、10月に神楽坂にできたスポット、la kaguに新潮文庫のすべてのタイトル約3000冊が売られており、そこで見つけて手に入れた。ちなみに、1ヵ月前ほどに西新宿のブックファーストで平積になっていた。フェアというほどでもなかったけど、一押しなのかね。

筒井康隆の作品はこれが初めてだった。別に敬遠していたわけでもなく、ただ何となく生きている作家は後回し、それよりも海外文学がいいかなと思って日本人作家の作品はあまり読んでなかったりする。特にSFというジャンルに関しては。

30歳くらいの男、ラゴスが主人公。重厚な表現が多い作品を読んでいたりすると、ラゴスの一人称で簡潔な表現による旅行記のような文体に最初は慣れなかった。そしていきなりある村で超能力によって集団転移をするというところから始まる。行先はシュミロッカ平原と聞きなれない場所、スカシウマ、ミドリウシなどの架空の動物が出てきて、どうやらこの世界は地球ではないように思える。

ラゴスは行く先々でいろいろな人と出会う。奴隷になったりしてその場所で何年も労働したりしなくてはならないこともあるが、ラゴスの人徳によって行先の人々に慕われてまた次の目的地に旅立っていく。そんな旅の話。

途中までは不思議な世界を傍観しているようであったけど、最後のほうになって、『あぁ、旅だ』、と思った。人生そのものが旅であるというようなテーマ性もあるのだけど、純粋に『旅』だと思った。目的地に至るまでのトラブルを含めた過程、移動すること、自分の知識、経験の枠を超えるような体験をすること、いろいろな他者に出会って、最後は自分自身を知る、というような旅。そんな印象を最後に抱いた。

個人的なことだけど、最近カンボジアのアンコールワットを巡る旅行に行ってきた。本書を読了してから旅立ったけど、改めて本書を振り返ると、感嘆と称賛を伴って『あぁ、旅だ』としか言えない。そこにはうまく言語化できないさまざまな含意が込められている、そんな境地。

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カンボジア旅行記を日記ブログに書いたので、暇な人はどうぞ。本書は『旅』のテーマそのものもよいのだけど、SF的な文明の盛衰なども描かれてワクワクした。読めばきっと旅に出たくなるはず。そしたら、思い切って行けるときに行っておこう。



旅のラゴス (新潮文庫)
筒井 康隆
新潮社
1994-03-01

読むべき人:
  • 旅が好きな人
  • 失われた文明に関心がある人
  • 自分の人生について考えたい人
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November 16, 2014

旅行者の朝食

キーワード:
 米原万里、ロシア、小咄、旅、食い気
ロシア語通訳者による食エッセイ。以下のような内容となっている。
「ツバキ姫」との異名をとる著者(水分なしでもパサパサのサンドイッチをあっという間に食べられるという特技のために)が、古今東西、おもにロシアのヘンテコな食べ物について薀蓄を傾けるグルメ・エッセイ集。「生きるために食べるのではなく、食べるためにこそ生きる」をモットーに美味珍味を探索する。解説・東海林さだお
(カバーの裏から抜粋)
この本は2年前の『旅』がテーマのスゴ本オフでいただいたもの。ずいぶん放置していたし、そろそろ『旅』な気分だったり何かエッセイを読みたいと思っていた。個人的にはこれは『旅』よりも『食』的な印象を強く受けた。

著者の米原万里のことは正直何も知らなかった。著者紹介には元ロシア語会議通訳、作家とだけある。他にどんな本を書いていて、どういう経験をされているのかもしらずに読んでみたら面白かった。さすがスゴ本。2006年に逝去されているようだ。残念。

面白かったエッセイのタイトルを列挙しておこう。
  • ウォトカをめぐる二つの謎
  • 旅行者の朝食
  • キャビアをめぐる虚実
  • 夕食は敵にやれ!
  • シベリアの鮨
  • キッチンの法則
  • 食い気と色気は共存するか
『ウォトカをめぐる二つの謎』では、ウォトカを最も美味しく飲める理想的なアルコール比は39度でも41度でもない、40度である、と発見したのは化学元素の周期律を発見した化学者メンデレーエフであると、自著に書いたらいろいろと情報の出所に問い合わせがあったとか。実際はガセネタだったらしいけど、そこに至るまで、ロシアのウォトカ事情、歴史がいろいろと分かって面白い。

本書のタイトルにもなっている『旅行者の朝食』というのは、ネタバレするから詳細は示さないけど、普通の旅行中の朝食のことではなく、そこにはロシア人が何度聞いても笑い転げる小咄(フォークロア)がネタになっていて、ロシア人の友人に「何なのよ、『旅行者の朝食』って!?」と問い詰めるが、「クックックックッ」と笑いをかみ殺すような反応が返ってくるようだ。これはなかなか面白いエピソードだと思った。ここもロシア人の気質などが窺い知れる。ここは読んで確認がよろしい。

『キッチンの法則』では面白い法則がいくつか示されている。「料理上手は掃除下手、掃除上手は料理下手」という古今東西を貫く法則があるらしい。ほうほうと思いつつも、僕はどっちが上手が下手かも判断不能だが。他にも「台所器具の価格とその使用頻度は反比例する」とか「キッチンが立派になればなるほど、料理は粗末になる」、「料理を作るのにかけた時間とそれを平らげるのにかかる時間は反比例する」とか「一生懸命作った料理ほど客には評価されない」など著者独自の視点もある。料理をよくする人ならうんうん、と賛同するのではないかしら。

著者はどちらかというと「生きるために食べる」のではなく「食べるために生きる」と自認するほど食に関心が高いようで、個人的には激しく同意と思う。学生時代以前は好きなものを好きなだけ食えるほどのお金も食の範囲もないのだから、そんなに食に関心が向かないのだけど、ある程度の食経験が増えてくると、「食べるために生きる」という感覚が芽生えてくるなと。といいつつも、持病のせいで食事制限しなくてはいけない身なので、好きなものを好きなだけ食うということは依然としてできないのだけど。

著者の語り口がとても面白くて読ませられる。料理に関する挿絵や写真など皆無なのだけど、ロシアの見たことも聞いたこともないお菓子や料理が脳内で勝手に想像されて激しく食いたさをそそられる。よって『旅』的なテーマとして海外旅行中に読むのは絶対お勧めしないな。絶対後悔する。激しく腹が減ってしまうし、現地の食に満足できない場合は特に。僕は通勤の行きに読んでいたけど、それでも食指を動かされて朝から腹が減ってしまった。

気軽に読めるエッセイであまりなじみのないロシアのことも面白く分かるし、食に関する知見もいろいろと広まるのでお勧め。



旅行者の朝食 (文春文庫)
米原 万里
文藝春秋
2004-10

読むべき人:
  • 気軽なエッセイを読みたい人
  • ロシア事情に詳しくなりたい人
  • 食べるために生きている人
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