August 2015

August 09, 2015

幽霊たち

キーワード:
 ポール・オースター、ニューヨーク、探偵、作家、前衛
ニューヨーク3部作の2作目。以下のようなあらすじとなっている。
私立探偵ブルーは奇妙な依頼を受けた。変装した男ホワイトから、ブラックを見張るように、と。真向いの部屋から、ブルーは見張り続ける。だが、ブラックの日常に何の変化もない。彼は、ただ毎日何かを書き、読んでいるだけなのだ。ブルーは空想の世界に彷徨う。ブラックの正体やホワイトの目的を推理して。次第に、不安と焦燥と疑惑に駆られるブルー…。’80年代アメリカ文学の代表的作品!
(カバーの裏から抜粋)
ニューヨーク3部作の1作目が、以下の作品であった。別に1作目の完全続編というわけでもない。舞台がニューヨークであることと、主人公のアイデンティティーが次第に揺らいでいく部分以外は、まったく別物であると言っていい。

主人公はブルーという私立探偵で、かつてブラウンに師事して探偵のイロハを覚えた。ある日ホワイトという男に、ブラックという男を監視して週1回報告書を書いてくれと依頼される。実に簡単な仕事だと引き受け、ブラックのアパートの道路の反対側の部屋からブラックを逐一監視する。しかし、ブラックがやっていることは何かを書き物して、読書をして、ときどき街に出かけるだけで、事件らしいことが何も起こらず、次第に疑心に駆られていく・・・。

象徴的にこの物語を示すなら、DB管理システムにおけるデッドロック状態みたいなものだ(勘の良い人ならなかばネタバレしてしまうような例えだが・・・)。しかし、主人公のブルーだけが自分が何をやっているのかがはっきりと分かっていない。確かにブラックを監視しているが、ブラックは何者かもわかっていない。ブルーを紐づけるブラックを監視すること、という仕事の意義も見失われていき、自分が「誰でもない人間」になっていく過程が不安を掻き立てられた。

訳者あとがきには、『オースターは、カフカ、ベケット、安倍公房といった作家たちと比較されてきた』とある。あぁ、なるほどと思った。安倍公房的だなと思った。前作の『ガラスの街』は『燃えつきた地図 (新潮文庫) [文庫]』のようだし、『幽霊たち』は若干『他人の顔 (新潮文庫) [文庫]』に近い。共通するのは、自身の存在が揺らいでいき、不安にさせられる点。安倍公房が好きな作家なので、ポール・オースターもこの系統なのかと分かって満足した。

そういえば、以前TOEIC対策のために英語リーディングを強化しようと、以下の洋書で本作を読もうと試みたのだった。結局ブルーがブラックを監視し始めたところで止まって、本棚に置いておいたのにどこかに消えてしまった。幽霊みたいに(本作の「幽霊」は全く別の象徴なのだけどね)。


新潮文庫のほうは130ページと少ないし、訳も読みやすいのですぐに読めると思う。特に最後のほうはペースが速まる。しかし、分かったような、分からなかったようなもやもやしたものが読後に残る。よって、またいつか再読だ。



幽霊たち (新潮文庫)
ポール・オースター
新潮社
1995-03-01

読むべき人:
  • 探偵小説が好きな人
  • 安倍公房が好きな人
  • 不安になる小説が読みたい人
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August 01, 2015

ガラスの街

キーワード:
 ポール・オースター、探偵、ニューヨーク、作家、迷子
ニューヨークを舞台とした小説。以下のようなあらすじとなっている。
「そもそものはじまりは間違い電話だった」。深夜の電話をきっかけに主人公は私立探偵になり、ニューヨークの街の迷路へ入りこんでゆく。探偵小説を思わせる構成と透明感あふれる音楽的な文章、そして意表をつく鮮やかな物語展開―。この作品で一躍脚光を浴びた現代アメリカ文学の旗手の記念すべき小説第一作。オースター翻訳の第一人者・柴田元幸氏による新訳、待望の文庫化!
(カバーの裏から抜粋)
まとめスレのおすすめ小説として、ポール・オースターのニューヨーク3部作が示されていたので、試に買って読んでみた。本作品が3部作の第1作目。

主人公は元ミステリー作家のクインという男。ある日夜中にかかってきた間違い電話に出ると、「ポール・オースター探偵事務所ですか?」という内容だった。何度かその間違い電話に出るうちに、クインはその探偵に成りすまして、電話の主の元を訪れる。電話の主はピーター・スティルマンで、幼少のころに父親に監禁されていたという話を聞く。そしてその父親がニューヨークに帰ってくるらしいので、父親を監視してほしいという依頼を興味本位から受けて、主人公はニューヨークの街を闊歩する依頼主の父親を尾行しはじめる。

主人公は依頼主の父親に気づかれないように尾行して、後筋をメモしていくとアルファベットのように見て取れることを発見したり、いつどこで何をしているかを逐一観察し、父親の素性を知ろうとしていく過程が探偵小説っぽい内容である。しかし、終盤に向けて探偵小説ではなくなっていく。次第に主人公が翻弄されていき、ニューヨークの都市に埋没していく。自分がやっていた探偵真似事が何の成果も見いだせないままに。

"ポール・オースター"という登場人物が出てくる。間違い電話の話題の人物であるが、実際には作家として妻も子供もいる。クインが実際に会ってその境遇に羨望のまなざしを抱くほどクインと対照的である。物語の視点は、クインの1人称でもなく、作中の"ポール・オースター"でもなく、別の誰かであることが最後に分かる。また、訳者あとがきには作者のポール・オースターは妻と出会えていなかったらどうなっていたかを思い描こうとして書いたとある。結局、"ポール・オースター"は現在の自分、クインはバッドエンドに向かう自分を描写したのだろうと想像できる。もちろん、他にもいろんな読み方はできるが。

この作品は特に文章に惹きつけられる。
 ニューヨークは尽きることのない空間、無限の歩みから成る一個の迷路だった。どれだけ遠くまで歩いても、どれだけ街並みや通りを詳しく知るようになっても、彼はつねに迷子になったような思いに囚われた。街のなかで迷子になったというだけでなく、自分のなかでも迷子になったような思いがしたのである。
(pp.6)
訳者の柴田元幸氏もこの部分を引用して、『圧倒的に惹きつけられたのは、その透明感あふれる文章である』と示している。海外文学は、文章が自分に合う、合わないがはっきりわかるが、ポール・オースターの文章は違和感もなくすんなり入り込んでいけた。もちろん、そうなるような秀逸な翻訳によるところも大きい。

ポール・オースターの作品は以下の青春小説を読んだことがある。これも読みやすく、なかなかよかった。

『ガラスの街』は、主人公が不条理に翻弄されて都市に埋没していくのが割と好きな内容だなと思った。



ガラスの街 (新潮文庫)
ポール オースター
新潮社
2013-08-28

読むべき人:
  • ミステリー小説が好きな人
  • ニューヨークに行ったことがある人
  • 埋没した感覚を味わいたい人
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