March 2016

March 27, 2016

ストーリーで考える「見積り」の勘所

キーワード:
 中村秀剛、見積り、工数、コスト、勘所
システム開発時の見積りについて解説されている本。以下のような目次となっている。
  1. イントロダクション システム開発における「見積り」とは?
  2. 第1章 引き合いからヒアリングの準備まで
  3. 第2章 ヒアリングから提案方針の検討まで
  4. 第3章 提案方法のディスカッション
  5. 第4章 工数の算出
  6. 第5章 見積り金額の策定
  7. 第6章 全体を振り返って
  8. 第7章 より良い「見積り」のために
  9. 第8章 よくある落とし穴の紹介
(目次から抜粋)
本書は仮想のシステム開発案件をストーリー仕立てにし、システム開発をするときに必要な期間やコストを求める「見積り」方法が分かりやすく示されている。そして、見積りの流れとして以下のステップが示されている。
  1. 引き合い
  2. 資料の事前調査
  3. 客先訪問、ヒアリング
  4. 要件分析
  5. 実現方式検討
  6. 工数算出
  7. スケジュール検討
  8. 開発実費算出
  9. 見積り金額の合意
  10. 見積り提示
それぞれのステップで架空の登場人物たちのやり取りとサンプル成果物が示されていて、参考になる。

本書の主な想定読者は受注側のSI系企業の上流工程担当者である。なので顧客からの要望(RFP)に対してどのように提案していくか?、そしてそのときのシステム開発の見積りをどうやるか?を考えるときに参考になる。

見積り、といっても決定的な手法が確立されているわけでもなく、実際にプロジェクトを進めていくと要件が変わったり、使用する技術の不備などで開発工数が予想外に多くなったりで、スケジュールがずれてきて、結局当初の見積りからもずれることが多い。それでも経験を積んでいくしかないのだけどね。

そもそも本書を読んだのは、顧客側(発注側)の立場として開発ベンダーに開発要件を伝えた後に提示された見積りが妥当かどうか確認したいという理由からだった。要は、提示された金額は妥当かどうかを知りたかった。

しかし、『開発実費算出』の章で、「残念ながら金額の決定方法については、具体的な手順を説明することはできません。」と示されていて、肝心のところが載ってない!!と思った。そこは企業秘密的な部分であるし、会社によって人月単価は異なるから一般化できないところだろうから仕方のないところだけど、発注側としてはそこはサンプル的な数字でよいので示してほしかったかなと。

受注側が提示してくる見積り金額の妥当性をどうやってチェックするか?を考えてみると、適切な工数から算出されているか?を確認するしかないかなと。要は新規開発なり改修であったりするときの改修対象が網羅されているか、その対象の機能一覧がそれぞれどれだけの工数(人員とスケジュール、つまり人日、人月等)がかかるかを発注側もある程度計算するしかないかなと。そこで受注側の提示工数と乖離があるかどうかで判断する。競争入札の場合は、提案企業ごとに比較できるので、安い高いが判断しやすいが、1社単独の場合は、比較しようがないので、計算するしかない。

また、著者や著者の周りで何度か提案活動を進めていくなかで、「最低限これだけは必要ではないか」という見積り工数を算出するための元ネタになるドキュメントが以下のように示されている。
  • 作業内容一覧
  • WBS
  • スケジュール
  • 機能一覧
  • テーブル一覧、データモデル図
  • システム論理構成図
  • システム物理構成図
一部は設計工程で詳細に作るものなので、提案段階で詳細化はしないだろうが、それでも大雑把に作っておくことで見積りがわかりやすくなると示されている。受注側はこれらから見積りを実施すればよいし、発注側は見積りの根拠は何か?を問う時に受注側からこれらが提示されているかどうかで見積りの妥当性を確認できるのではないかと思う。

タイトルに『勘所』とあり、著者もイントロダクションで示すように、本書を読めば誰でもすぐに見積りが作成できるわけでもない。どうしても経験の積み重ねが重要になってくるが、何もわからない状態で経験を積み重ねるよりも、本書に示されている著者のこれまでの経験値としての『勘所』を基礎にして経験を積むほうがよいし、それぞれの章で示されるその『勘所』のコラムがとても勉強になる。

220ページほどで、内容もストーリー仕立てで会話調なので、すらすらと読めるし、分かりやすい。何とか1日で読了できた(実質4時間くらい)。僕のように発注側の人が読んでも勉強になるし、役立つ内容である。




読むべき人:
  • 上流工程を担当することになった人
  • 見積りの妥当性をチェックしたい発注側の人
  • ビジネス側の視点も強化したいSEの人
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March 21, 2016

Webエンジニアの教科書

キーワード:
 佐々木達也、Web系、概要、フルスタック、基礎
Webエンジニアが取得すべき技術の概要が網羅されている本。以下のような目次となっている。
  1. CHAPTER-01 Webエンジニアについて
  2. CHAPTER-02 Ruby on Railsでの開発
  3. CHAPTER-03 PHPでの開発
  4. CHAPTER-04 NoSQLデータベース
  5. CHAPTER-05 フロントエンドの実装
  6. CHAPTER-06 ログについて
  7. CHAPTER-07 データの可視化について
  8. CHAPTER-08 環境構築の自動化
  9. CHAPTER-09 便利な外部サービス
(目次から抜粋)
WebサービスやWebアプリケーションを開発するエンジニアが扱う技術領域は幅広くなってきており、各自の専門領域だけに目が行きがちで、他の領域も最低限知っておかなくてはいけないという意識があっても、なかなかキャッチアップができなかったりする。本書はWebエンジニアが知っておいた方がよい技術領域の概要が網羅されており、他領域のキャッチアップのきっかけになる。

内容について補足すると、2,3章はRuby on Rails、PHPの導入についての手順やフレームワークなどが紹介されている。4章のNoSQLではKey-Value型のRedis、ドキュメント指向データベースのMongoDBが紹介されている。5章のフロントエンドについては、CoffeScript、TypeScript、Angular JSなどが示されている。8章の環境構築の自動化については、Vagrant、Ansible、Serverspec、Dockerなど仮想化、プロビジョニングソフトが示されている。

どの章も概要とそれぞれのインストール方法、簡単な使い方が示されている。概要レベルを網羅しているだけなので、あまり深い説明などは載っていない。そこはそれぞれの専門書なりWeb上のドキュメントを見て詳細を把握していくしかないが、よくはてブなどで日々上ってくる、見たことあるけどあまり知らない技術やソフトの概要を知ることができたのでよかった。

3月から転職して、結果的にWeb系のエンジニアになって、しかも自分の所属部署でエンジニアが実質自分一人という状態である。さらに今後も新規開発をやりたいということで、なんでもある程度できるようにならなくてはいけないポジションにある。かっこよくいえばフルスタックエンジニア、ということなのだけど、Web系の技術に関しては大学時代にPHP+MySQL+SmartyでWebアプリケーション開発をやったことがあるくらいで、最近の技術はさっぱりついて行けておらず、さて何から勉強すべきか?を考えた時に、まずは全体像を知る必要があると思った。本書はその目的を十分に果たしてくれたと思う。

それぞれ何が流行っているのかをまず把握し、そこからどこを重点的に補強して勉強していくか?の優先順位付けをする必要があるなと思った。いくらフルスタックといっても全領域の技術を深く習得して使いこなせるようになることはないので、得意不得意、仕事での重要度を鑑みて決定していけばいいのかなと思う。とはいえ、どの領域もそんなに詳しくないので、せめて概要くらいは把握しておきたい。

また、本書が書かれたのは2015年4月なので、賞味期限は今年いっぱいという感じかな。

Web系のエンジニアとしては駆け出し状態だけど、IT知識や開発経験が0からスタートするわけでもなく、それなりに下地があるから速習できるはずでしょ!?と楽観的にかつWebサービス開発を楽しんでいけたらと思う。



Webエンジニアの教科書
佐々木 達也
シーアンドアール研究所
2015-03-26

読むべき人:
  • 2,3年目のエンジニアの人
  • 最新技術を目にするけど試せていないエンジニアの人
  • フルスタックエンジニアになりたい人
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March 13, 2016

村上春樹 雑文集

キーワード:
 村上春樹、雑文、小説家論、牡蠣フライ、物語
村上春樹のさまざまな種類の文章がまとめられた本。内容詳細は新潮社のページが一番わかりやすいので、そちらを参照。群像新人賞の受賞のあいさつから数年前話題になったエルサレム賞の『壁と卵』の全文、ジャズの話、しょうもないギャグ的なフィクション、翻訳について、にしん、アイロンのかけ方までいろいろ雑多な文章が1冊になっている。短い文章から割と長い文章まで。

以前図書館通いをしていたときに、これは借りて読もうと思っていたら昨年に文庫化されたので買った。特に村上春樹のエッセイなどはかなり好きな方なので、大体は読んでいる。すべてではないと思うけど。本書に収録されている文章は種類が多く、書かれている対象が多岐にわあり、全体像をまとめて紹介しようと思うとぼやけてしまうので、特に印象に残ったところだけを簡単に紹介しておこう。

その一つが一番最初の文章である『自己とは何か(あるいはおいしい牡蠣フライの食べ方)』について。これは小説家とは何か?というテーマに関しての文章となっている。細かい内容は省略するが、「自己とは何か?」について小説家は物語の形に置き換えていくことを日常の仕事にしているようだ。そしてあるとき読者から就職試験で『原稿用紙四枚以内で、自分自身について説明しなさい』という問題が出てしまい、自分自身を説明できなかった、村上さんはどうしますか?という質問が来た。

それについて以下のように回答している。一部抜粋。
自分自身について書くのは不可能であっても、たとえば牡蠣フライについて原稿用紙四枚以内で書くことは可能ですよね。だったら牡蠣フライについて書かれてみてはいかがでしょう。あなたが牡蠣フライについて書くことで、そこにはあなたと牡蠣フライとのあいだの相関関係や距離感が、自動的に表現されることになります。それはすなわち、突き詰めていけば、あなた自身について書くことでもあります。それが僕のいわゆる「牡蠣フライ理論」です。今度自分自身について書けと言われたら、ためしに牡蠣フライについて書いてみてください。
(pp.25)
別に牡蠣フライではなくてもメンチカツでも海老コロッケでもよくて、単に著者が牡蠣フライが好きだからのようだ。そしてそれは「牡蠣フライについて語る、故に僕はここにある」ということにつながるようだ。

奇しくも僕も牡蠣フライが大好物で、冬季はほぼ週1回ペースで牡蠣フライを食べている。そしてここを読んだ当時はまだ休職中で今後の方向性について模索していた時だったので、自己とは何か?と自問自答していた時でもあった。牡蠣フライについてぜひ書くべきだ、と催促されたような気がした。ということで、自分なりに牡蠣フライについて書いた。例え好物の牡蠣フライについて書くといっても、原稿用紙4枚以内に抑えて書くのはなかなか難しいものだと思った。雑記ブログに書く文章はたいていはそんなに推敲はしないのだが、この文章は日をまたいで推敲を重ねた。それだけ間接的に自分自身について書くことは、なかなか難しいということを体感した。

この牡蠣フライ理論の話の文章そのものは、ここだけを読むと漠然としすぎてよく分からないと思うけど(恣意的に取り上げているだけだし)、この本全体に通じる村上春樹の思考の核の片鱗を示すような重要な文章なので、ここだけのために本書を買って読む価値はある。もちろん牡蠣フライ好きな人ならなおさらだ。

雑多な文章が短いページ数で区切られているので、電車の中で読むのに割と適していた。もちろん、家でリラックスしながらジャズとかかけて、ソファにゆったりと座り、サイドテーブルにウィスキーを準備して読むのもいいと思う。僕はジャズもウイスキーもそんなに詳しくないけれど、まぁそんな雰囲気で。



村上春樹 雑文集 (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社
2015-10-28

読むべき人:
  • 雑多な文書で気分転換したい人
  • 正しいアイロンのかけ方が知りたい人
  • 牡蠣フライが好きな人
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