June 19, 2006

人間そっくり


人間そっくり

キーワード:
 安部公房、SF作品、地球人、火星人、緻密、火星病患者
安部公房のSF作品。新潮文庫。

あらすじをカバーから抜粋。
《こんにちは火星人》というラジオ番組の脚本家のところに、火星人と自称する男がやってくる。はたしてたんなる気違いなのか、それとも火星人そっくりの人間か、あるいは人間そっくりの火星人なのか?火星の土地を斡旋したり、男をモデルにした小説を書けとすすめたり、変転する男の弁舌にふりまわされ、脚本家はしだいに自分が何かわからなくなっていく・・・。異色のSF長編。
(カバーより抜粋)
一言で言えば、かなりおもしろいと思った。

舞台は、どこかの集合住宅の一室でのことなんだけど、徹底して会話と話者の描写のみで構成されている。特に話者の心理描写が映像化できるようにかなり細かく描かれている。そのような文体に、読者は一気に引き込まれていく。二転三転するシーソーの上に、もしくは、メビウスの輪に。

脚本家と自称火星人との会話の応酬のみで物語りは進み、自称火星人は徹底して、屁理屈ともいえる回答で脚本家を惑わしていき、脚本家は次第に火星人に取り込まれていく。

そこがなんとも恐ろしい。何よりも、物語構造がかなり練られている印象を受ける。また、トポロジーや位相幾何学など数学的な用語が出てくる。これは著者は医学部卒であるが、一時数学者を目指していたことが影響していると思われる。

この物語は、SF作品なのだけれど、かならずしも宇宙的、科学的な展開ばかりではない。そうではなく、SF的に現代小説として成り立たせている。そこには自分が何であったのかわからなくなっていく不安、背理法的に自分の存在証明を行わなければならないほどの自己の危機感というようなものが描写されていると思う。

映画を見ているような気になった。世にも奇妙な物語など、どんでん返しがあるような話が好きな人にはかなりおもしろいと思う。

176ページほどだが、一気に読める。逆にゆっくり読むべきものではない。ゆっくり読むと、たぶんおもしろさが半減する。

安部公房はカフカ的なシュールレアリスムの手法が多いが、これもそれに近い。ただ1つ違うのは、あくまで現実的に物語が進む点。どちらかというと『砂の女』に近い作品。だんだん取り込まれていくさまが恐ろしい。

読むべき人:
  • フランツ・カフカ的な作品が好き
  • SF小説が好き
  • 屁理屈が好きな人
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1. 人間そっくり  [ いもむし ]   June 20, 2006 08:31

人間そっくり 作者: 安部 公房 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1976/04 メディア: 文庫 自分が狂っているのかそうでないのかを、自分で判断することはできない。同じように、自分が狂っている、もしくは正常であるということを、他人が保証することもできない。な...

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