August 04, 2006

村上朝日堂はいかにして鍛えられたか


村上朝日堂はいかにして鍛えられたか

キーワード:
 村上春樹、安西水丸、エッセイ、おまけ、後日付記、身辺雑記
村上春樹のエッセイ。とぼけたイラストを描く安西水丸氏との共著。この本は、他の著者のエッセイと違い、かなり分厚い。344ページもある。

「週刊朝日」に1995年11月から1年1ヵ月連載されていたものが書籍になったもの。今回は、後日付記が載っている。つまり、連載中に書いたものに対する読者の意見に答えたり、補足説明的なものだったり。そこがなんだかよかった。

あいかわらず、著者はいろいろおかしなことを考えているようだ。共感できる部分が多く、もっともだと思うものがある。例えば、標語は意味がないとか。その内容を読んでから、街にある標語に目が行くようになった。確かに、まったく何の役にも立っていない気がする。

一番興味深く思ったものは、『傷つかなくなることについて』というもの。その部分を抜粋。
精神的に「傷つく能力」だって落ちてくる。これは確かだ。たとえば若いうちは、僕もけっこう頻繁に精神的に傷ついていた。ささやかな挫折で目の前が真っ暗になったり、誰かの一言が胸に刺さって足もとの地面が崩れ落ちるような思いをすることもあった。思い返してみると、それなりになかなか大変な日々であった。この文章を読んでいる若い方の中には、いま同じような辛い思いをなさっておられる方もいらっしゃるかもしれない。こんなことでは自分は、これからの人生を乗り越えていけるのだろうかと悩んでおられるかもしれない。でも大丈夫、それほど悩むことはない。歳をとれば、人間というものは一般的に、そんなにずたずたとは傷つかないようになるものなのだ。
(pp.128-129)
この部分は、病院で診察を待っているときに読んだ。自分自身、結構悩んでいたときだったから、へぇ、そんなものなのかと思って、気が楽になったような気がした。村上春樹もけっこう若いころは悩んだりしたんだなと思った。この部分だけでもかなり満足したので、買ってよかった。

他にも面白かったエッセイのタイトルを挙げておく。
  • 空中浮遊クラブ通信
  • 全裸家事主婦クラブ通信
  • 趣味としての翻訳
  • 長寿猫の秘密・寝言編
  • 引き出しの中の煩悩の犬
  • ペンネームをつけておくんだったよな、しかし
  • 日本マンション・ラブホテルの名前大賞が決まりました
  • 村上にもいろいろ苦労はあるのだ
ときおり妄想をかきたてるようなものから、著者の社会の事象に対する意見、また日常生活の瑣末なこと、切ない内容のものなどさまざま。本当にあのような文体の小説を書く人なのかな?と思ってしまう。なんだか別人のような気もする。

安西水丸氏の絵がなんだか一番しっくりくるような気がする。とぼけた感じの味のあるイラスト。これがないと村上春樹のエッセイを読んでいる気がしない。安西水丸という人がどういう人かよく分からなかった。しかし、『プロ論。』を何気なく読み返してみると、載っていた。なんでも、誰よりも絵を描くのが好きだったらしい。他にも若いころ何をしていたのか分かって面白い。

ページ数が多いし、1つのエッセイは5ページほどなので、隙間時間に読める。何かを待っているときなど。カフェで気楽に読むのもよいかもしれない。一日で一気に読むのはあまりお勧めしない。なんだかもったいない気がする。そんな本。

読むべき人:
  • 村上春樹の小説しか読んだことがない人
  • エッセイが好きな人
  • 日常の些細なことが気になって仕方ない人
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1. 村上朝日堂はいかにして鍛えられたか [村上春樹]  [ + ChiekoaLibrary + ]   August 07, 2006 14:01

村上朝日堂はいかにして鍛えられたか村上 春樹 新潮社 1999-07 裸で家事をする主婦は正しいのか?あなたの空中浮遊の夢はどのタイプ?読者から多数の反響を呼んだ「通信」シリーズを筆頭に、「真昼の回転鮨にしかけられた恐怖の落とし穴」「宇宙人には知られたくない言葉」か...

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