November 12, 2006

ザ・クレーター


ザ・クレーター

キーワード:
 手塚治虫、短編、ミステリー、複雑怪奇、起承転結
手塚治虫の短編作品。全2巻。

1話ごとに複雑怪奇な物語が展開する。簡単に言えば世にも奇妙な物語に出てきそうなものが多い。

例えば、大学で化学兵器を研究している男が、ある夜に教室で学生を発見する。しかし、その学生は戦時中の学生の幽霊らしく、軍で化学兵器を作っていたようだ。その学生が戦時中に開発中の化学兵器の恐ろしさを知らしめるために、自らにそれを使った。そして体が解けて骨だけになり、その骨が、大学に標本として戻ってきた。それを知った男は、同じように化学兵器研究を破棄しようとするが、大学で盛んになっていた学生デモに巻き込まれて、幽霊となった学生のように化学兵器を浴びることになって解けて死んでしまうというような話。

このように、結構シュールで人が死んだりするものが多い。他にも宇宙人が出てきたり、未来から過去を変えようとやってきたりする人間がいたり、平安時代の呪いの仮面の話だったり、古代メキシコのいけにえの話だったりと幅広い。そのどれもが、かなり練られた内容となっている。1話がだいたい30ページほどだが、どれも起承転結の構造を持つ。幅広いジャンルが描かれているので、ものすごい想像力だなと思う。

印象に残ったもので、漫画家になるか大学に進学して会社員か迷っている学生の話がある。ある日迷っていたら、見知らぬ老婆にコインで決めろといわれ、主人公は漫画家になる。また、その老婆からは、別の運命に一度だけ変更できると聞かされていた。その後、主人公は漫画家として成功するが、かきたい漫画がかけず、いやになって別の運命に変更することを選ぶ。しかし、変更した後にまた漫画家になりたいと思ったら破滅すると老婆から聞かされていて、最後にはやはり漫画家になりたいと思い、破滅するという話。

この話は、なんだか手塚自身のスランプ時の心理描写のような気がする。かいてもかいてもいいものができず、壁にぶち当たり苦しみを知ったという一コマがあるが、まさにそう考えていたのではないかと思う。

長編作品もかなり話が練られていて面白いが、短編もまた独特の面白さを持っている。

読むべき人:
  • シュールな短編作品が好きな人
  • 手塚治虫の短編を読んだことがない人
  • 世にも奇妙な物語が好きな人
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