January 21, 2007

「普通がいい」という病


「普通がいい」という病―「自分を取りもどす」10講

キーワード:
 泉谷閑示、心理療法、マイノリティ、言葉の手垢、角
精神科医である著者が、普通である存在として生きにくさを感じているマイノリティの心理状態を分析している本。かなりよい本だと思う。線を引く部分が多かった。

精神科医としてカウンセリングを行ってきた立場から、世間一般で考えられている普通という状態や、わがまま、絶望という状態を一度疑ってみるという立場から、それらの言葉の手垢をそぎ落とし、よりそれらの本質を突き止めていこうとしている。そこで、それらの状態を図解することで、精神世界の現象を一般人にも分かりやすく説明している。内容的には以下のようになっている。
  1. 不幸印のギフト〜病・苦しみの持つメッセージ〜
  2. 言葉の手垢落とす
  3. 失楽園〜人間の苦しみの起源〜
  4. 捻じ曲げられる人間〜コントロールという病〜
  5. 精神の成熟過程〜駱駝・獅子・小児〜
  6. 愛と欲望
  7. 内なる太陽〜自家発電する愛〜
  8. 生きているもの・死んでいるもの
  9. 小径を行く〜マイノリティを生きる〜
  10. 螺旋の旅路〜自分を求め、自分を手放す〜
どこかで講演や講義をしたものがベースとなっている。どの章も人間の精神の本質が紐解かれているような気がする。

最初の章では、健康であることや葛藤することはどういうことかが示されている。健康に関しては、健康であることを意識しすぎていることが不健康であり、それを忘れている状態が健康であるといったことや、葛藤できるという状態は、自分の望むものと相容れないものが抑圧されず意識されている状態で、悩める状態こそが健康な状態であると示されている。つまり病的な安定よりも健康な不安定に持っていくことが治療本来の姿であると示されている。そんなものなのかと思った。

また、病気に関することで、病気をどのように捉えるべきかということが示されている部分がある。以下にその部分を若干長いが引用する。
私は「病気に何らかのメッセージが込められている。そしてそのメッセージを受け取ることが出来れば、その病気は消えていくはずだ」と、考えるようになりました。
 そう考えるようになってから、
<病気や苦しみとは、天からのギフトのようなもので、その中にとても大切なメッセージが入っている。だが、それは《不幸印》のラッピングペーパーで包まれているので、たいていは嫌がって受け取られない。しかし、それは受け取らない限り何度でも再配達されてきてしまう。
 思い切って受け取ってその忌々しい包みをほどいてみると、そこには、自分が自分らしく生きていくための大切なメッセージが見つかる>
(pp.35-36)
そんなものなのかと思った。ここが一番強く印象に残っている。自分自身腎臓を病んでいるので、そこから何かメッセージを受け取らないといけないようだ。

他にも、人間の仕組みとして、「頭」と「心」と「身体」の役割と関連が図解されていてなるほどなと思った。

また愛と欲望、孤独であるということについて、それらはどのような状態であるのかということが示されている。これらはやはり世間一般で通用する定義とは違い、著者独自の定義となっていて、なるほどなと思った。

また、マイノリティとして生きるとはどういうことかということも説明されている。マジョリティとして生きるということは、自分の人生に責任を負っておらず、他者に追従するだけの去勢された状態で歩いているという存在であり、マイノリティとして生きるということは、どちらの道へ進もうかということを自分で判断しながら一つ一つ選択して、道なき道を行くことだとある。これこそが、自分らしく生きることであるというように示されていてなるほどなと思った。

さまざまな心理状態や考え方を示すためにあらゆる分野からの引用がある。詩であったり、ニーチェであったりルソー、フーコー、夏目漱石、聖書、歎異抄、インタビュー記事など。特に詩が多く引用されている。なぜ詩なのかということが示されているが、著者によれば、正常と異常の境界線上にあるような視点や言葉が、詩で作られているからであるとある。また、詩に限らず、このような境界線上にいるような視点で物事を見ることが出来るということが力強く生きていくうえで必要なことだとも示されている。

どこもなるほどと思うような部分が多かった。特に、自分自身はマイノリティなのだということを再認識した。生きにくさを感じていたけど、それはそれでいいんだと思えるようになった。ただ、このようにすれば生きやすくなるというようなマニュアル的なことは一切か書かれていない。それに従って生きるということは、自分の人生を放棄するようなものだからだろう。そんなことはカウンセリングを行う立場である著者は望んでいないようだ。

読んでよかったなと思った。気が楽になった。なんだかカウンセリングを実際に受けたような気がした。

読むべき人:
  • マイノリティとして生きにくさを感じている人
  • 弁証法的な考え方が好きな人
  • カウンセリングや精神世界に興味がある人
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1. 【普通じゃなくてもいいんだよ】「普通がいい」という病  [ ぱふぅ家のサイバー小物 ]   August 29, 2008 18:25

『安心して悩める』という状態が、人間の健康な状態です。

2. 泉谷閑示 『「普通がいい」という病』(1)  [ 身近な一歩が社会を変える♪ ]   January 25, 2010 01:29

自分がメンヘラで精神科に通院を続けているということは、以前にも書いた。これまでに私は、精神科医が書いた本を何冊か読んできたけど、中でも特に深く心に刻まれた本がこれ。 改めて確認することじゃないかもしれないけど、私は別に、本の紹介とか書評をやりたいのではな...

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