February 23, 2008

ルノワールは無邪気に微笑む


ルノワールは無邪気に微笑む―芸術的発想のすすめ

キーワード:
 千住博、日本画家、芸術論、人生論、叫び
日本画家である著者の芸術論。芸術論といっても、難しいことが語られているわけではない。朝日新聞の読者に著者への質問を募集して、それに著者が真摯に答えるというような内容となっている。目次は以下のようになっている。
  1. 制作のこころ
  2. 教育のこころ
  3. 暮らしのこころ
  4. 経済のこころ
  5. 日本のこころ
  6. 芸術のこころ
自分は印象派のルノワールの絵が一番好きで、ルノワール+ルノワール展を見た後、会場近くの芸術系本屋でタイトルに惹かれて何気ない気持ちで買って読んでみた。これはかなりよかった。単純に芸術に対する意識が変わっただけでなく、読み物としても面白かった。以下に面白かった節タイトルを列挙。
  • うまくいかないのが人生
  • 絶対に発掘される才能
  • 展覧会で落選の日々
  • 飛行機のなかで年間30冊
  • 飢えて死んだ画家はいない
  • いかに「普通か」を問う芸術
  • 不健康と芸術は両立せず
  • ルノワールは無邪気に微笑む
線を引く部分が多かった。今回はちょっと多めに引用してみる。

まずは『絶対に発掘される才能』の部分。読者の質問は、スペシャリストとオタクはどこが違うのか?というもの。著者によれば、オタクとは仲間内だけの閉じられたネットワークのコミュニケーションで、わかるやつだけお互いをオタクと呼び合って情報交換したり褒めあうような人たちらしい。そしてそのようなオタクは芸術の世界にもいるらしい。しかし、芸術というのは分かるやつだけが分かればいいというものではないと。そして著者は芸術オタクにはならなかったと。以下印象に残った部分を抜粋。
 そのときの教訓ですが、たとえどんなに孤独感を味わっても「芸術は一人でやるもの」ということです。群れてはいけないのです。
 真にすぐれたスペシャリストの仕事ならば必ず大衆に理解されます。それには少しばかりの歳月がかかることはありますが、芸術の才能とは必ず発見されるものです。
(pp.85)
なるほどなと思った。真の芸術は大衆に理解されるべきものということらしい。

『展覧会で落選の日々』という節では、美大卒で芸術で食べていける人とそうでない人の分かれ目とは何か?という質問に対しての回答部分。ちょっと長めに抜粋。
 ではどこに差、というか違いがあったのか、と考えて見ますと、それは作品の差ではなく、打たれても打たれても舞台に立ち続けたかどうかだった、ということではないでしょうか。
 画家になりたいのなら、何としても舞台に上がり続けることです。つまりどんなに失意の連続だったとしても作品を公に発表し続けることです。発表という場数を踏めば踏むほど、舞台が大きければ大きいほど、とにかく少しずつでもよくなっていくものです。芸術とはコミュニケーションの一種ですから、こうやってひとの目に触れるなかで初めて見出されていくのです。
 私はいくつもの入試審査や展覧会の審査をやって来ましたが、才能は、人前に出されるかぎり、決して埋もれないものです。必ず見出されます。自分はそれでも見出されていない、と感じるひとは、おそくら出品する舞台が間違っているのです。
(pp.87)
なるほどなぁ、と感嘆した。

また、芸術とは何かが示されている部分がある。再三抜粋。
 芸術とは何かというと、イマジネーションをコミュニケーションしようとすることです。要するにわかりやすく言えば「オレの叫びを聞いてくれ」ということ。つまり叫び方にもうまいもへたもなく、肝心なのは相手に「叫び」を伝えたいという心の存在です。
(pp.89)
これは、なるほど!!そういうことだったのか!!と一人で納得してしまった。叫びなんだ。ということは、この書評ブログも芸術の範疇に入るという解釈でいいだろう。

タイトルになっている、『ルノワールは無邪気に微笑む』というのは最後の節。これは深い。これはあんまり紹介できないなぁ。紹介するのが惜しいくらいの内容。質問は、著者にとっての偉大な画家は誰かというもの。一番はもちろんルノワール。そしてこの節の内容を一言で要約するならば、『「何も伝えない」ための笑顔』ということらしい。この節を読んで、なぜ自分がルノワールの絵に強く惹きつけられるのかが分かった気がする。暖かさや安らぎ、癒しを感じさせてくれる作品が解説されていてとても勉強になった。

この本は芸術に関することだけが示されているわけではない。著者の若きころの話だったり、子育ての話だったり、仕事の仕方であったり、芸術にそれほど関心がない人が読んでも面白いものだと思う。また、何よりも著者の芸術観が全編で示されており、自分の芸術を見る目が養われたような気にさせてくれる。かなりの良書の部類に入ると思われる。

芸術を愛する人は必読!!

読むべき人:
  • 芸術に関心がある人
  • 芸術で生計を立てたい人
  • 叫びたいものがある人
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