April 05, 2008

東京奇譚集


東京奇譚集

キーワード:
 村上春樹、短編集、偶然、幻想、喪失
村上春樹の短編集。以下の5つの不思議な物語が収録されている。
  1. 偶然の旅人
  2. ハナレイ・ベイ
  3. どこであれそれが見つかりそうな場所で
  4. 日々移動する腎臓のかたちをした石
  5. 品川猿
『偶然の旅人』は村上春樹の知人の話が元ねたである、あるゲイのピアノの調律師の偶然、神様の話。『ハナレイ・ベイ』はサーフィンをする息子をハワイで亡くした母親の話。『どこであれそれが見つかりそうな場所で』は夫が高層マンションの階段から失踪した妻の話。『日々移動する腎臓のかたちをした石』は小説家である男の書いている本のタイトルの話。『品川猿』は名前忘れが起こってしまう女性の話。どの話も一見現実味を帯びているが、しかしどこか覚めない夢のような著者独特の世界観が描かれている。

これらに共通するのはやはり喪失感なんだと思う。村上春樹の作品のほとんどが喪失をテーマに書かれおり、この短編集も同様であると思われる。『偶然の旅人』のゲイの調律師はゲイであることから姉と疎遠になり、人間関係が失われている。『ハナレイ・ベイ』は母親が息子を亡くしている。『どこであれそれが見つかりそうな場所で』は夫が行方不明になり、記憶が喪失している。『日々移動する腎臓のかたちをした石』は本当に意味を持つ女との関係を喪失している。『品川猿』は名前を喪失している。

しかし、喪失だけが描かれているのではなく、そこから得られるもの、気づくことなども描かれている。それらの解説まではしない。そんなのはあまりやるべきことではない。面白みにかける。

一番自分が惹かれたのは『日々移動する腎臓のかたちをした石』。腎臓病を患っているから、腎臓とタイトルにあるだけで何かを感じた。この本のテーマのように。文脈を完全に無視しして、どうししても気になった部分を抜粋。
「誰かと日常的に深い関係を結ぶということが、私にはできないの。あなたとだけじゃなく、誰とも」と彼女は言った。「私は今自分がやっていることに完全に集中したいの。もし誰かと日常生活をともにしたり、その相手に感情的に深くのめり込んだりしたら、それができなくなってしまうかもしれない。だから今みたいなままがいい」
(pp.160)

最近は小説を読むことが億劫になっていた。どうしても字面を追っているだけで世界観に入り込めないでいた。しかし、村上春樹だけは特別だ。いつも現実に少し幻想を付加した世界観に引き込まれていく。そして読了後はいつも現実世界かどうか分からないあいまいな夢から覚めたような気になる。

ほんのちょっと不思議な世界に浸りたいときに、この本を読めばいいと思う。

読むべき人:
  • 短編集が好きな人
  • 喪失感を抱え込んでいる人
  • 夢と現実の区別がつかないような夢を見る人
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コメント一覧

1. Posted by eno   April 06, 2008 08:49

4 「東京奇譚集」面白かったですね。
私は「品川猿」が一番好きです。
表紙の猿の絵もよろしく〜ENOKI〜

2. Posted by 師匠   April 06, 2008 09:40

榎さん

コメントどうもありがとうございます。まさかカバー装画の作者からコメントをいただけるとは。。。

この本自体は、新幹線に乗る直前の時間のないときに何か小説をと思って買いました。そのときやはりこの猿に惹かれたのだと思います。もちろん『品川猿』の幻想的な話は好きです。読了後、改めて表紙の猿を見てみると、まさに人語をしゃべりそうな感じで、不思議な話の内容にぴったりだなとお思いました。

今後ともよろしくお願いいたします。

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