June 05, 2008

叡智の断片


叡智の断片

キーワード:
 池澤夏樹、引用句、ウィット、皮肉、名言
小説家である著者が、古今東西の偉人、有名人の名言を引用して綴っているエッセイ。少し多いが、目次を示しておく。
  1. 政治家たちよ!
  2. リッチマン、プアマン
  3. 映画について、主席に言うべき二、三のこと
  4. マルクス兄弟主義宣言
  5. TV!TV!
  6. 科学者を信用しよう
  7. 愛国心について
  8. 結婚の真実
  9. 旅に出よう
  10. 死について
  11. 酒飲みの言い訳
  12. 口腹の幸福
  13. 戦争ですよ
  14. 悪口は楽しい
  15. 言葉、言葉、言葉
  16. 成功の甘き香り
  17. 愛と嘆きの自動車
  18. 作家という奇人たち
  19. モンローマニア
  20. スコットランドの人と土地
  21. 恋の季節
  22. 老人たちよ
  23. 王さまは大変だ
  24. 組閣しましょ
  25. 看板に偽りあり
  26. 魅惑と疑惑のアメリカ
  27. お絵描きの時間
  28. 暖かいですね
  29. 罪と罰、犯人と警察官
  30. 嘘ばっか!
  31. 我が師の恩
  32. 自殺の誘惑
  33. ナウ・ユー・ハズ・ジャズ
  34. イギリス人は・・・・・・
  35. アメリカ人のお買い物
  36. あとがき
(目次から抜粋)
以上35のエッセイが示されている。タイトルだけでも、何が書いてあるのだろうかと好奇心と想像力をかきたてられる。実際中身も、ウィットに富んだものが多く、大変面白かった。本当に。

このエッセイは、『月間PLAYBOAY』の2005年1月号〜2007年11月号まで連載されたものに加筆修正を加えたものらしい。雑誌の前の方の二ページを埋めるコラムで、あるテーマついての引用を解説しながら紹介するという構成になっている。そして、なるべくユーモラスなものを取り上げているようだ。

引用がテーマの本だけに、普段の記事よりもかなり多めに引用してみる。引用の引用になってしまうが。

いきなりあとがきから一箇所。引用とは何かということが示されている部分。
 引用とは自分では思いつけないような気の利いた言葉を他人から借りることである。「たくさん引用を用意しておくと、自分でものを考えないで済むの」1とイギリスのミステリ作家ドロシー・セイヤーズは言った。その一方でで、引用とは「貧民が皇帝の紫衣に身を包む」2ようなものだと作家のキップリングは言った。所詮は借り着。孔雀の羽根を飾る鴉。ドロシー・セイヤーズだってそれを承知で皮肉を込めて言っているのだ。
(pp.220-221)
このような調子で、連載当時の世界情勢やある対象について著者のエッセイが示されている。「」の部分が著者が引用した部分であり、そのあとの数字は、引用の出展を示している。引用の出展の部分に原文が示されており、英語の言い回しの勉強にもなる。

以下、自分が面白いなと思ったものや、機転が利いた言い回し、これは使えると思ったを引用しておく。 『リッチマン、プアマン』から一箇所。
 しかし貧民がいくらからかっても金持ちは動じない。アメリカの大富豪ポール・ゲッティは、「金を数えられる間はまだ本当の金持ちではない」7と言ったとか。
(pp.19)
どれだけ金持ちなんだろうか?

『言葉、言葉、言葉』と、ハムレットがポローニアスに何を読んでいるかを聞かれたときに答えた台詞がタイトルになっているものから一部。
 どの言葉にも遠まわしな表現というものがある。はっきり言ってはいけないものをちょっとぼかして言う。先日から英語のぼかし語ばかり集めた辞書を読んでいて、これがなかなかおもしろい。
 食べ物=動物関係で拾ってみると、禁猟期に撃ってしまったキジのことは「フランスの鳩」と言ってごまかす。たぶん食卓に出したときにそう呼ぶのだろう。
(pp.98)
食卓でどこかの偉い貴族が、キジを目の前にして、真面目な顔をして「フランスの鳩」です、と言っているシーンを想像して、かなりワロタwww。一人でニヤニヤしてしまった。かなり苦しい言い訳で、言われた相手はどう答えるのだろうか?これを自分の仕事に当てはめると、システム開発プロジェクトで、システムが本番稼動後に変な挙動をするときにこう言うのだろうか?「それは仕様です」と。

『恋の季節』から。
 アメリカの漫画家リンダ・バリーがしみじみと言うのだ―「恋は巡航ミサイルのようにいきなりあなたを襲うの。『ダメ、今だけは困る』という時がまさに恋が始まるとき。逃げ道はない。恋は花火を仕込んだイタズラ葉巻なのに、人は喜んで火を点ける。」4
 自分の体験を重ねて、まったくそうだったなと思えるのが幸福な人であるかどうか。渦中にあって助けてくれ、という場合もある。喜びと苦しみがセットというところが運命は意地が悪い。
(pp.133)
なんとなく、なるほどなぁとしみじみ思った。

著者は、フランスに住んでいるようだ。その理由が以下。『作家という奇人たち』から。
 お国柄もあるかもしれない。ジェフリー・コットレルの説では「アメリカでは成功した作家だけが大事にされるが、フランスではすべての作家が大事にされる。イギリスではどんな作家も大事にされないし、オーストラリアでは作家とは何者であるかをまず説明しなければならない」8
(pp.115-116)
面白いなと思った。

著者が一番うまいと思った名言は以下。最初の連載の『政治家たちよ!』から。詠嘆なので、原文で。ゴルバチョフが言った言葉。
They say that Mitterrand has 100 lovers - one with Aids, but he doesn’t know which one; Bush has 100 bodyguards – one a terrorist, but he doesn’t know which one; Gorbachev has 100 economic advisers – one is smart, but he doesn’t know which one.
(pp.14)
訳や著者がなぜうまいと思ったのかは、しっかり示されているが、実際に読んで確認して欲しい。

名言が本当に多く出てくる。一つのテーマに10個ほど出てきて、どれも偉人はうまいことを言うものだなと思った。自分は名言とかがかなり好きなほうなので、このようなエッセイはニヤニヤしてしまうくらい面白かった。

雑誌の連載記事なので、1テーマの分量はそれほど多くない。けれど、著者の文体がとてもよい。余計なことを説明しすぎず、流れるような文章。真似したいくらいに。

表紙もいいんだよね。本棚にさりげなく飾っておいてもいいものだ。内容ももちろんよい。読むならば、じっくり読むべきだ。どこかのBarとかで、ウィスキーでも片手に『酒飲みの言い訳』でも読めばなお雰囲気が出てよい。

名言好きなら絶対満足する1冊。かならず自分にとっての一番の名言が載っているはず。自分も名言を語れるようになりたいものだ。

読むべき人:
  • 偉人、有名人の名言、格言が好きな人
  • ユーモアのセンスを磨きたい人
  • 教養を身につけたい人
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