June 24, 2008

貧乏するにも程がある


貧乏するにも程がある 芸術とお金の"不幸"な関係

キーワード:
 長山靖生、貧乏、小説家、負け組み、自分らしさ
歯科医であり、評論家でもある著者による、芸術と経済の関係が示されている本。以下のような目次となっている。
  1. 序章 「自分らしさ」は悪なのか
  2. 第1章 経済格差と「文化」の値打ち
  3. 第2章 「文化」は差別的である
  4. 第3章 芸術家の貧乏はロマンチックか
  5. 第4章 貧乏にも程がある
  6. 第5章 作家的貧乏・借金生活の覚悟について
  7. 第6章 作家では「食えない」のが本道
  8. 第7章 夏目漱石の経済戦略
  9. 第8章 交渉する作家たち
  10. 終章 マイナスがプラスになる世界
(目次から抜粋)
朝は速読で自己啓発本を。夜はこのような本をゆっくり読むのがいい。ということで、少し多めに内容を紹介するようにする。

少し内容が硬いので、ポイントを絞って列挙するということができないので、引用ベースで内容を示すことにする。かなり恣意的なものになるが。

まずは、この本は何が書いてあるかが示されている部分を序章から抜粋。
 私はこの本のなかで、「自分らしく生きる」ということが、どうしたら可能なのかを、さまざまな作家たちの生き方をとおして、追求してみたいと考えている。といっても、文化論や精神論を振りかざして、社会を糾弾するつもりはない。経済効率VS.文化的価値といった安易な構図を持ち出すことも控えたい。そうではなく、あくまで関心は、自分らしく生きたいと思う人間の経済状態にある。
 自分らしさを貫くあまりに、しばしば損をし、常々貧乏をしていた作家たちは数多い。それでも彼らは作家をやめなかったし、どうにか生き延びた。どうすればそれが可能なのか。彼らから低空飛行の経済戦略を学ぶのである。なかには、本当に破滅してしまった作家もいるが、それならそれで、破滅に至った経緯をつぶさに観察し、その回避法を学べばよい。
 そういう目で見ると、作家たちはけっこうしたたかに、さまざまな生き残り戦術を駆使して、社会と切り結んできたことが分かる。それはわれわれに、今後の自分の生き方や社会のあり方を考える上で、大きな示唆を与えてくれるだろう。
(pp.14)
この本に引用されている作家、小説家は主に以下のようになる。
  • 正宗白鳥
  • 夏目漱石
  • 石川啄木
  • 葛西善蔵
  • 内田百
  • 森鴎外
  • 芥川龍之介
  • 永井荷風
  • 二葉亭四迷
  • 田山花袋
その他、名前だけなら山ほど出てくる。ほとんどが、幕末から明治、大正、昭和の文豪や作家が取り上げられている。それらのみなが生活に困っているような人が多く、借金をし、そして借金を踏み倒すのが常識みたいな感じで、借金取りを感心させたりしていたとある。作家になるということは、不幸になるということと同義だったようだ。その中で、特に夏目漱石の戦略は意外だなと思った。朝日新聞に就職するにあたって、給料の交渉をしていたり、脱税をしようとしていたらしい。漱石も貧乏するほどではないが、金に困っていたりしたようだ。

以下、恣意的に自分が惹かれた部分を抜粋。
文学でも音楽でも美術でもいいのだが、何らかのジャンルで「自分らしい表現」を、仕事としてやっていくのであれば、芸術を経済的にも「仕事=報酬を得られる労働」として成立させ、なおかつ世間から「芸術は特別だ」とみなしてもらえるような「仕事=独創的な成果」として示すことが重要である。つまりもし芸術を仕事として選択しようとするなら、「芸術は特別だ」という感想は、前提ではなく結論として、自分ではなく他人に感じさせなければならない。そこにこそ、芸術の(そして、芸術家の)勝利があるのだし、「自分らしさ」が他人にとっても意味のあるものとなる契機が潜んでいるはずだ。
(pp.47)
何かを表現するようなもので食っていくためには、それを享受する人に特別なものとして示さなければならないようだ。なかなか難しいことだなと思った。

作家というものは、アウトローな存在で、文化資本の豊かさに基準を置いてないと示されている部分がある。
 そもそも世の人々の安寧の底に潜む何事かただならぬもの、恐るべき真実を暴き出そうというのが物書きだ(上手く暴ける作家は少ないが)。である以上は、実生活の幸福なんて願うべきではなく、出家遁世を超えて蟄居閉門、生まれてきてスミマセンの心構えでなければならないのだ(何だかこの辺り、書いていて、自分に言い聞かせているような気もするが、でもそうなのである)。
(pp.107)
だから作家は貧乏になってしまうようだ。

最後に一箇所。小説を読む理由について。
 われわれはこれまで、文学に取り込んできた人たちの、文学的営為ではなく、もっぱら下世話な生活面について眺めてきた。それはかなり情けなく、有名人であるという点を除けば、「負け組」に分類される体のものだった。
(中略)
 にもかかわらず、われわれはやはり小説を読むし、情けない人間像を描いた作家に、一種の畏れにも似た敬意を抱かずにはいられない。われわれは、自分もまたそういう人間の一人であることを、薄々は知っているからだ。知っているからこそ、自分の心の奥底を眺めるのをやめて、代わりに小説を読む。自分で英雄的冒険をする代わりに、冒険小説を読むのと同じように、自分自身の真実を見つめる代りに、小説の中の他人の真実を見つめるのである。
(pp.236)
これはなるほどなと思った。逆にとことん自分の内面を曝け出し、恥もかなぐり捨てて何かを書くことができる人が作家になるのだなと思った。もちろん貧乏になることを厭わずに。

とても興味深く読めた。いつの時代も作家というのは、一部の人気作家を除いてまともに生活していくのも困難なほど貧乏らしい。もちろん作家の借金癖とかもあるが、色々あるんだなと思った。また、文学作品を書くような人にはどのような特性が求められるのかといったことも示されていて、とても参考になった。

著者の文体は結構好きなほうだなと思った。どこか冷淡に作家を見つつも、同情心も含めているような文章。リズムがあっていい。けれど、一気には読み進められなかった。

作家とはどういう生活をしていたのかということを知りたい人には、面白い本だと思う。お薦め。

読むべき人:
  • 明治の文豪の作品が好きな人
  • 自分らしく生きたいと思っている人
  • 小説家になりたい人
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1. ここは酷い食えないですね  [ 障害報告@webry ]   February 22, 2013 16:31

貧乏するにも程がある 芸術とお金の“不幸"な関係 (光文社新書)光文社 長山 靖生 Amazonアソシエイト by 芸術で生計を立てたり商業的に行動するのはかっこわるいという話が どうあっても専業では喰っていけない芸術家というもの という前提として変貌を遂げてしまうんだ

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1. Posted by 別冊編集人   June 25, 2008 09:47

TB恐縮です
タイトルもまた秀逸ですよね

2. Posted by Master@ブログの中の人   June 25, 2008 23:08

別冊編集人さん

コメントありがとうございます。

著者の本は他にも『不勉強が身にしみる』、『人間嫌いのいい分』、『若者はなぜ決められないか』といったインパクトのあるタイトルが多く、どれもタイトルにひきつけられて読みました。

どれもお薦めです。

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