July 23, 2008

君に舞い降りる白


君に舞い降りる白

キーワード:
 関口尚、青春小説、鉱物、盛岡、石の花
岩手県盛岡市を舞台とした、大学生修二を取り巻く青春小説。あらすじをカバーの裏から抜粋。
もう誰も、好きにならない。鉱石店でアルバイトをする大学生の修二(しゅうじ)は、そう心に決めていた。しかし、店に来る少女・雪衣(ゆきい)のことが少しずつ気になり始める。次第に距離を縮めるふたりだったが、彼女は自分の素性を一切話さない。だが、ついに彼女が隠していた秘密を知ってしまう。その時、修二は―。人を深く想うということを描いた、心に響く美しい青春小説。
(カバーの裏から抜粋)
今日は風邪を引いて、会社を休んだ。そのため、病院に行って一応診てもらった。通院後には熱も下がりつつあったので、何となく中野ブロードウェイの本屋に行って、何か小説を買って家でのんびり過ごそうと思った。

ベッドの上で気軽に読めるような小説を買うつもりだった。しかし、色々と文庫コーナーを散策してみたが、いまいち何かぴんとくるものがなかった。そこで、読んだことのない作家、外の灼熱の暑さから夏の文庫フェア、青春小説というキーワードから本を探ることにした。そうして、集英社の夏の文庫フェア、ナツイチ(集英社文庫ナツイチ2008)として平積みされていた本書が目に留まった。何となくタイトルと表紙のイラストに惹かれ、さらにカバーの裏のあらすじを読んで、悩んだ末にこの本とともに午後を過ごすことを決めた。

この作品は当たりだった。自分の中では、何となく店頭で買った小説で当たりが来る確率はきわめて低い。それほどまでにすばらしい作品だと思った。物語としては以下のような3章構成になっている。
  1. 第一章 さよならの水晶
  2. 第二章 とまどいの蛍石
  3. 第三章 思い出のアレキサンドライト
物語の舞台は、岩手県の盛岡市で、大学生をしている修二を取り巻く群像劇が展開する。第一章で2歳年上の劇団員を目指す彩名との馴れ初めから別れを、第二章では、修二のアルバイト先の『石の花』に短期バイトでやってきた美人の志帆との関係、そして第三章では、アルバイト先の『石の花』の社長との信頼関係がメインに描写されている。そして、全章を通して、修二と雪衣の出会いから、そして未来へと続く関係も描写されている。

物語を解説することはよそう。ネタバレはこの物語の面白さを半減させてしまう。だから、解説の最初の3行を抜粋しておくことにする。
 この、読後感の心地よさはなんなのだろう。
 美しい結末を迎えた物語への感動。それだけで胸は一杯だというのに、プラスアルファがある。いいモノを読ませてもらった、という満足感が、胸の奥でふくれ上がって仕方がない。
(pp.397)
文庫の解説は共感できないものが多い。しかし、これはまったくその通りと言わざるを得ない。ここまでの読後の心地よさを引き出す青春小説はそうはない。少なくとも、この書評ブログの文学作品カテゴリの中でもそうはなく、今まで読んだ青春小説の中でもひときわ優れた作品だと思った。少なくとも自分の主観の中では、心に残る作品だと思った。なぜここまでに惹かれてしまったのかを考えてみると、自分もまた岩手県盛岡市周辺で大学生活を送っていたからだろうと思った。

物語の舞台は盛岡市であるので、自分が行ったことのある場所が多く示されていた。修二のアルバイト先の紺屋町、何度も描写され待ち合わせの場所としても使われる中津川の上ノ橋、さんさ踊りの描写や大通り、菜園のデパート、旧盛岡銀行本店、岩手山などなど、自分の大学生活と馴染み深いものが多く描写されていた。その描写が出てくるたびに、あぁ、修二と雪衣は今、あの辺で会話しているのだなとか、さんさ踊りで修二と浴衣を着た志帆と雪衣は大通りのあの辺を歩いているのだなと、情景が手に取るように浮かんできた。だから、この作品に言いようのない親近感を覚えたのだと思う。それと同時に、この物語は、自分が大学生活で出来なかったことが全て示されているような気もした。

この作品は2004年8月に『あなたの石』というタイトルで出版されていたものを、2007年9月に今のタイトル『君に舞い降りる白』と改題されて文庫化されたようだ。全章に示されている鉱物にまつわる話が多いので、『あなたの石』となっていたのだろうと思う。確かにそのタイトルも悪くはない。しかし、文庫のタイトル『君に舞い降りる白』のほうが、この物語にぴったりな気がした。『君』は雪衣のことで、『舞い降りる白』は・・・。それは読んで確かめて欲しい。

大学時代にこの物語を読めていたら、もっと共感できたのかもしれない。出版当時は、自分は修二と同じ大学3年生だったのだから。しかし、その当時に読まなくてよかったのではないかなと思う。自分の大学生活とこの物語の修二の生活はあまりにもかけ離れていて、とても読みすすめられなかったと思う。この物語は、修二の大学生活4年間の成長が、様々な人の別れや葛藤を通して描写されている。だから、岩手を離れ、東京で就職した後に大学生活を振り返るという観点から読めた今のほうが、心地よい読了感を得られたのだと思う。

400ページ近い作品だったが、中断することなく一気に読みすすめられた。ここまでの分量の小説でそのように読める作品は少ない。また、自分が読んできた文学作品の中で自信を持って薦められるものは少ないが、これは断然によかった。自信を持って薦められる。特に、今盛岡周辺で大学生をしている人や、盛岡周辺で大学生活を送った人はこの夏これを読むべし。きっと自分の中の何かが変わると思う。

実際に盛岡周辺で大学生活を送って、この作品に出会えたことを嬉しく思う。そう思えば、今日という日は、明け方前の発熱とダルさで苦しみ、会社を休み、病院で、肺炎の可能性があると言われてX線検査をして少し不安になり、その後本屋に行ってこの作品とたまたま出会い、この物語を読めたということに意味があったのだと思う。

ちなみに、集英社の『君に舞い降りる白 試し読み』というところで、物語の冒頭が試し読みできる。

美しい青春小説を読みたい人は、ぜひこの作品を読んでみたらいいと思う。

読むべき人:
  • 盛岡市周辺の大学生(だった人)
  • 蛍石、水晶などの鉱物に関心がある人
  • この夏に良質な青春小説を読みたい人
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トラックバック一覧

1. 君に舞い降りる白  [ 思考++ ]   September 15, 2008 21:52

久しぶりに小説を読みました。たまにはいいものですね。 読みやすく、あっという間に読み終わりました。石を売っているお店のアルバイト店員の話でなかなかなじみがないですが、簡単にイメージすることができよかっ

コメント一覧

1. Posted by イッパイアッテナ   August 14, 2008 00:49

はじめまして! 今日図書館で借りて一気に読みました。いいお話でしたね。ありがとうございました!

2. Posted by Master@ブログの中の人   August 14, 2008 06:30

イッパイアッテナさん

コメントありがとうございます。
この作品は本当にお薦めで、読了後の満足感は他にないものだと思います。

また、お役に立てて嬉しいです。

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