August 10, 2008

他力本願―仕事で負けない7つの力


他力本願―仕事で負けない7つの力

キーワード:
 押井守、映画論、自伝、仕事論、スカイ・クロラ
映画監督、押井守氏の『スカイ・クロラ(押井守監督最新作 映画「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」公式サイト)』を制作するために使った7つの力が示されている本。以下のような目次となっている。
  1. プロローグ なぜ「今」、この映画を監督するのか?
  2. 第1章 対話力―「企画会議」でしゃべり倒して、作品の世界観を創り上げる。
  3. 第2章 妄想力―「ロケハン」でリアルな風景を肉体に刻み、画面の中に空気を生み出す。
  4. 第3章 構築力―肉体と小道具の細部までの設定が、「キャラクター」の性格と人生を描く。
  5. 第4章 意識力―偶然は起こらないアニメーション。すべて意図的に「演出」する。
  6. 第5章 提示力―「音響」は雄弁に、作品の本質を語る。
  7. 第6章 同胞力―「音楽」が映像と融合した時、作品はより輝く。
  8. 第7章 選択力―悩み抜いた果てに出会った、運命的な「声」。
  9. エピローグ 「痛み」だらけの人生だった。
(目次から抜粋)
この本は、一見仕事で使えるビジネス書のようなタイトルだが、実際は押井守氏による映画論、自伝といった内容となっている。これは映画好き、押井作品のファンにはたまらない内容だなと思う。同時期に出版された『凡人として生きるということ』が即効性のある主張が多く示されているのに対して、こちらはどちらかというと遅効性の主張が多く示されているような気がした。それだけに、なぜこのようなタイトルになってしまったのか?という疑問がわいてくる。もっと言い当て妙なタイトルがあったのではないかとも思った。

7つの力というのは目次にあるようなもので、映画を作るためにこのような力を使ったようだ。『凡人として生きるということ』では若干しか示されていなかった『スカイ・クロラ』についての言及が、この本では製作過程を通して多く示されている。『スカイ・クロラ』の監督を引き受ける経緯、『こもり』と称して旅館にこもりっきりになってスタッフと延々企画について議論する話、アニメ作品であるのにロケハンを慣行し、さらにその土地の風景写真をどっさり買い込むという話など。他には、声優の選び方、シーン一つ一つに必ず根拠示す、最強の敵『ティーチャー』が姿を現さない理由といった映画製作の話が多く示されている。そのため、この本は、どちらかというと、『スカイ・クロラ』を見る前に読む本ではなく、見た後に読むべき本だと思った。

線を引く部分がありまくりだったので、ポイントを絞って列挙するというのではなく、本当になるほどなと思った考えなどの部分を引用しておく。プロローグの『仕事の本質とは何か』という部分から。
 さて、ここで一つ、読者に問いかけをしてみたい。それは、「映画とは何か」ということである。「そんなの分かりきっていると」と言う人も多いだろう。だが「映画とは何か」という一見簡単そうに見える定義を、本質まで切り込んで考えていくことは、実はそれほど簡単なことではない。世に映画監督と呼ばれている人でも、そこをきちんと理解しないまま、何となく映画を撮っている人が多いように僕には思える。
 僕は何事においても、常に本質的に物事を考えるように努力している。なぜなら、いつもそのように物事を考えるようにしないと、どんどん仕事が本質から離れてしまい、いつの間にか自分が何をしているのか、本当は何をしたいのか、が分からなくなってしまうからだ。
 それはきっと映画の仕事だけではなく、どんな仕事にも当てはまることだろう。世の中では多くの人が実に様々な仕事をしているが、結局は本質を見極めながら仕事をする人と、そうでない人の二種類に分けられる。そして、本質を見極めた人だけが仕事にイノベーションをもたらすことができる。なぜなら本質を知らない人には、革新すべき点を見出せるはずないからだ。
(pp.17-18)
これは自分の仕事にも当てはまることだなと思った。SE、プログラマの仕事の本質は、ただシステム構築をするということではなく、『そのシステムによって顧客に利益をもたらすことができる』ということだと思う。だから、作ればいいってものではないということだと思う。そういうこうことは、このような本を読んだりして、自分の場合はどうだろうか?ということを振り返らない限り、なかなか分からないと思う。

3章の最後から、押井氏のアニメーション監督の思想が現れている部分。
 全てのシーンには意味があり、すべてのカットには根拠がある。僕が、一時期、映画の中ではアニメーションがすべての上位に君臨すると言ったのは、そういう意味である。
(pp.94)
これは、もう少し解説すれば、アニメというのは普通の実写映画と違ってキャラクターも風景、背景などもすべて0から作り上げなければならないということに由来する。だからアニメ映画というのは自由であり、アニメーション監督には全能感が許されると示されている。ここはなるほどなぁ、と思った。アニメ作品に対する見方が結構変えられたような気もする。

もう一箇所気になった部分をプロローグから抜粋。
 アニメーションで映画を撮る、ということはそれ程、難しいことなのだ。だからこそ、特にアニメーションで映画を撮る時は、そこに映画を撮った人間のどうしようもない思いとか、身悶えするような苦悩の中から磨き上げた表現とか、そんなものが必ず必要になる。
(pp.22)
エピローグでは、著者の子ども時代から映画監督になるまでの経緯が詳細に述べられている。そこでは、最初の監督映画『うる星やつら オンリーユー(ノーカット版)【劇場版】』は大失敗に終わったということや、何が失敗だったかといった原因分析まで示されている。そういう経緯から、このようなことが示されているのだと思う。

『スカイ・クロラ』についてかなり詳細に示されているので、『スカイ・クロラ』を見ていないと、正直話についていけないかもしれない。逆に、『スカイ・クロラ』をさらに楽しむにはこの本は必須だと思う。最初に『スカイ・クロラ』を見たときに、どうしても違和感というか、消化不良感みたいなのが残った。どういう意図でこのような作品を作ったのかが、いまいちつかみかけていたから。だから、『スカイ・クロラ』を10倍楽しむには、以下の手順を踏むというのが良いと思う。
  1. 凡人として生きるということ』を読む
  2. 『スカイ・クロラ』を映画館で鑑賞する
  3. 本書『他力本願―仕事で負けない7つの力』を読む
  4. 原作小説『スカイ・クロラ (中公文庫)』を読む
  5. 再度、『スカイ・クロラ』をDVDなどで鑑賞する
このプロセスを経ると、シーンの一つ一つの意図がしっかり分かり、奥の深い作品として鑑賞できるのだと思う。自分はまだ2の段階までしか至っていないので、次は、原作小説を読む必要がある。どうも原作と映画の結末は違っていて、押井氏は原作の結末に納得できなかったとあったので、とても気になる。

この本は、映画好き、アニメ好き、押井作品好きには絶対良い内容の本だと思う。本当にお薦め。また、自分は『うる星やつら』とか『機動警察パトレイバー 劇場版』はまだほとんど見たことがないので、チェックしよう。

この本で、400冊目の書評となる。ちょっとした節目が五つ星評価の本で少し嬉しいと思った。

読むべき人:
  • 押井守作品が好きな人
  • 『スカイ・クロラ』を見て違和感を覚えた人
  • 映画監督になりたい人
Amazon.co.jpで『押井守』の他の作品を見る

にほんブログ村 本ブログへ bana1 面白かったらクリック!!



トラックバックURL

トラックバック一覧

1. 他力本願―仕事で負けない7つの力  [ 書評リンク ]   August 10, 2008 21:13

書評リンク - 他力本願―仕事で負けない7つの力

コメント一覧

1. Posted by バーバリー ネクタイピン   December 01, 2013 22:45

他力本願―仕事で負けない7つの力 : 賢者の図書館 (Under Construction) : livedoor Blog(ブログ)

コメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価:  顔   星