October 31, 2008

やがて消えゆく我が身なら

やがて消えゆく我が身なら (角川ソフィア文庫 372)
やがて消えゆく我が身なら

キーワード:
 池田清彦、処世術、人生哲学、生物学、虫取り
生物学者によってマイノリティーの視点から人生哲学が示されている本。この本は、雑誌本の旅人で2002年4月から、2004年10月までに30回連載したエッセイがまとめられたものである。そのため、この本で出てくる話題は、その当時の社会事象が多く出てくる。

30章全て列挙すると冗長になるので、特に面白かったタイトルを列挙しておく。
  • 人は死ぬ
  • 人生を流れる時間
  • がん検診は受けない
  • 自殺をしたくなったら
  • 病気は待ってくれない
  • 老いらくの恋
  • 今日一日の楽しみ
  • 明るく滅びるということ
  • 身も蓋もない話
あとがきにこの本の意図が示されているので、その部分を抜粋。
 というわけで、八方塞がりの中でとりあえず、少しでも元気を出そうと思って書いたのが、本書に収められたエッセイ郡である。
 でも読み返してみると、愚痴、負け惜しみ、ごまめの歯ぎしり、といったものばかりだなあ。昔、革命を夢みた青年が、棺桶に片足をつっ込むような歳になって、負け惜しみを言って無理に元気を出しているという風情である。情けねぇけど、まあ仕方ないか。
(pp.245-246)
こんな感じで、割と極端な主張も出てくる。

特になるほどというか、共感を得た部分を恣意的に抜粋しておく。

まずは『病気は待ってくれない』という章から。著者は、生物学者であり、趣味が虫取りでもあるので、沖縄に虫取りに行っていたようだ。そのときは連日徹夜であり、東京に帰ってきてから体がおかしくなったようだ。そして、病院の検査結果に一喜一憂し、健康体を取り戻すために金と時間を費やしていたときに、運転していた車ごと崖から落ちて死にかけたらしい。そして著者、健康を待っているつもりでも、実は病気を待っているのではないかと気づいたらしい。さらに、いつも体のことを気にしていて、生きる目的が病気を治すことといった感じの人が回りに多いことに気づいたようだ。以下その部分に続くところを抜粋。
 数年間、健康のことばかり気にしていて、それで完全健康体になって、体のことは気にかけずに後はずっと楽しく生きられるというのであれば、とてもラッキーであろう。しかし大抵はそうはならずに、体の調子が完璧になることは決してなく、いつももっと健康になったらいいのにと考えているうちに、重い病になっていたというのがオチであろう。その時になってはじめて、自分は健康を待っているつもりでも実は病気を待っており、病気になった今、病気は私を待っていてはくれずどんどん進行してしまうことに気づくことになる。
(中略)
 もう少し体の調子が良くなったら、もう少しお金ができたら、もう少し暇になったら。多くの人はそう思って、自分にとって最も大事なこともやらないで、時間だけはどんどん過ぎてゆくのである。しかし、もしかしたら、体の調子はこれ以上良くならず、お金は決して増えず、暇にもならず、気づいたときは不知の病を宣告されているかもしれないではないか。
 健康はもちろんあたなを待っていてはくれないだろうし、病気でさえ待っていてくれるとは限らないのだ。人はどんな時でも、体の調子などウジウジと考えずに今一番大事だと思うことをすべきなのである。
(pp.84-86)
この記述を読めただけでも、この本を買った甲斐があった。これもうかなり共感できた。自分もすでに医者から完治はないだろうといわれている病を患っているので、『病気は自分を待ってくれるわけではない』というのがとても身にしみる。だから、著者の示すように、『人はどんな時でも、体の調子などウジウジと考えずに今一番大事だと思うことをすべきなのである。』というところにとても勇気づけられた。まぁ、そもそも今一番大事なことって何だっけ?ということも考えなければならないけど。

もう一箇所面白いと思った部分を抜粋。『老いらくの恋』から。
 遺伝子を残すためという社会生物学的な見地から「老いらくの恋」を説明するのは、所詮は無理な気がするねえ。ならばなぜ、オッサンは女を追いかけるのか。答えは「楽しいから」に決まっている。バカバカしいと言うなかれ。人間の脳には、非合理的なことを楽しいと感じる経路があるらしいのだ。問題はそれを発見してしまうか、それとも生涯発見しないで見過ごしてしまうかということだ。
 「老いらくの恋」は本人はともかく、はたから見れば滑稽意外のなにものでもない。教授が女子学生にラブレターを送ったり、社長が新入社員の女の子に惚れたりするのは、おバカの極みであろう。そういうアホなことが本人にとってなぜ楽しいのか。それは社会的な規範からの大いなる逸脱だからである。そこで脳は普段やらないことをやっているのである。
(pp.108)
なるほどなぁと思った。

著者の主張は、どう考えてもマイノリティーの主張で、世間一般からは受け入れられないものが多い。しかし、マイノリティーに属する自分としては、妙に納得できたり、共感できたり、生きていくことそのものへの勇気付けみたいなものを得ることができた。とはいえ、それは言いすぎだろとか、微妙な主張もあるが。

このようなエッセイは、自分の視野を広げるという点でとても役に立つ。それ以上に、何か強く共感できる部分があれば、それだけでがんばって生きていける。

著者の本は他にも以下がお薦め。
やがて消えゆく我が身なら (角川ソフィア文庫 372)
やがて消えゆく我が身なら

読むべき人:
  • 生物学者の主張に関心がある人
  • 虫取りが好きな人
  • 不知の病を患っている人
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