February 14, 2009

疲れすぎて眠れぬ夜のために

疲れすぎて眠れぬ夜のために (角川文庫)
疲れすぎて眠れぬ夜のために (角川文庫)

キーワード:
 内田樹、幸福論、人生論、ワンランク下、聴く
戦う哲学者の異名を持つ著者による、ワンランク下の人生論。以下のような目次となっている。
  1.  心耳を澄ます
  2.  働くことに疲れたら
  3.  身体の感覚を蘇らせる
  4.  「らしく」生きる
  5.  家族を愛するとは
(目次から抜粋)
著者はフランス現代思想が専門で、武道をされているということから、戦う哲学者と言われたりするようだ。そんな著者によって、「無理はいけないよ」、「我慢しちゃだめだよ」、「あんまり自分で立てた原理原則なんかに縛られないで、その場の気分に乗って、気楽に生きましょう」ということが家族論、文化論、身体論などから示されている。著者のブログは以下になる。疲れすぎて眠れぬ夜のために』というタイトルの内容を端的に表しているのが、『ワンランク下の自分に』という節タイトル部分になる。著者によれば、向上心を持って、常にワンランク上を目指すような不充足感を原動力にした生き方というのは、もうやめたほうがよいとある。なぜなら、自分たちの未来には無限の可能性があるようで、実はそれほど無限でもなく、自分にできることできないことがある。そのため、そのような生き方をしていると常に不充足感を抱きながらストレスを感じ続け、精神的にも体力的にもしっかり優先順位付けを行わないと、壊れてしまうからであるとある。こういうことが、若い人にわかっていないことが多いとあった。以下、その続きの核の部分を抜粋。
 疲れたら、正直に「ああ、へばった」と言って、手を抜くということは、生きるためにはとてもたいせつなのです。疲れるのは健全であることの徴です。病気になるのは生きている証拠です。飽きるのは活動的であることのあかしです。
 でも、「一ランク上の自分」に取り憑かれた人は、身体や精神が悲鳴をあげるまで痛んでも、なかなか休みません。疲れて立ち止まると、そういう弱い自分を責めます。
 それは自分の身体に対しても、精神力に対しても、酷ですよ。
 向上心は確かにある方がいい。でも、あり過ぎてはいけない。
 人は夢と現実を同時に生きなければなりません。この匙加減がとても難しいのです。
 (中略)
 自分の可能性を最大化するためには、自分の可能性には限界があるということを知っておく必要があります。
 (中略)
 自分の潜在的可能性の「限界を超える」ためには、自分の可能性には「限界がある」ということをしらなくてはいけません。
(pp.14-15)
この部分がとても身にしみる。なぜなら、自分も「一ランク上の自分」に取り憑かれ、激しく自分のレベル上げをしていた時期があり、体が悲鳴をあげているのに気づかないフリをして、結果的に限界を超えて体が病んでしまったからだ。

大学3年時くらいから激しく勉強していたし、1限目からフルコマ講義終了後、夕食を食べて19時から深夜までシステム開発に従事するというのが半年ほど続いて、かなりいっぱいいっぱいになっていた。かなり心身ともに疲弊していたと思う。そして、それが直接的な原因であるからか分からないが、卒業後に腎臓病が発覚した。その後、しばらく入院して休息していたが、そのときに自分の弱さを責めていたと思う。だから、この部分は、限界を超えて病んでしまった自分にとっては、あまりにも身にしみる。ストレングスファインダーの『最上志向』という強みが自分にもあり、無駄に向上心も持っていて、このままではいけないとか思って無理をして激しくレベルアップをしたくなる気持ちもまだあるが。それでも、もう無理をすると冗談じゃなく、本当に疲れすぎて眠れなくなる。だから、この部分の主張はその通りだなぁと、妙に納得した。

自己啓発本を読んだり、セミナーに参加したり、将来の理想の自分像を思い描いて努力したりするのはいいけど、どこかで自分の限界を知っておかないと、本当に大変なことになる。

他にもいろいろ引用したいところが多い。しかし、あと一箇所だけにしておこう。『個性』について一部抜粋。
 でも、個性的であるというのは、「記憶の共同体」への住民登録を求めないということです。頭にぎっしり詰め込まれた「偽造された共同的記憶」を振り払い、誰にも共有されなかった思考、誰にも言えなかった欲望、一度もことばにできなかった心的過程を拾い集める、ということです。
 これは徹底的に知的な営みです。メディアでは人々が「個性的に」ということを実にお気楽に口にしていますが、「個性的である」というのは、ある意味で、とてもきついことです。誰からも承認されないし、誰からも尊敬されないし、誰からも愛されない。そのことを覚悟した人間だけが「個性的であること」に賭金を置けるのですから。
 そんなことができる人間は本当に小数です。ですから、ほんとうに個性的な人間というのは「オレは個性的な人間だ」と思い込んでいる人間の数の千分の一もいないのです。
(pp.108)
真に個性的な人間は、自分のことを『普通だ』と思っているんだけど、世間一般の人とどこかずれていて、結果的に苦しんだりする人のことかもしれない。そういう普通感、個性については、以下の本に通じると思う。個性的である、と自己主張することは、誰にも承認されないで生きることを宣言するようなもの。さすがにその覚悟は自分にはない。

武道の話や家族の話、著者の高校時代の話、文化の話、女性の働き方、優れた作家のコミュニケーションの高さなど幅広く論じられており、とても知的刺激を受けた。また、この本は語りおろしらしい。それでも結構抽象的な用語が出てくるが、難しくはない。

向上心を原動力に激しくレベルアップしていくことに意義はあるのか?とふと疑問に思ったり、残業続きで過労気味で土日は寝てばかりだったり、最近良く眠れずにへんな時間に目が覚めたり悪夢を見てうなされてしまっているような人は、絶対読んだほうがいい。

他にも、著者の本では以下がお薦め。

疲れすぎて眠れぬ夜のために (角川文庫)
疲れすぎて眠れぬ夜のために (角川文庫)

読むべき人:
  • 常にワンランク上を目指している人
  • 体系的な思想について触れたい人
  • 最近、いろいろなことに疲れてきたなと思っている人
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