February 18, 2009

【雑感】卵とシステムと物語

ノーベル文学賞に一番近いといわれている、村上春樹氏のエルサレム賞授賞式でのスピーチについての雑感。

全文は以下。

これを読むと、とてもいろいろと考えさせられた。

 しかしながら、常にそうではありません。より深い意味をもたらします。こう考えて下さい。私たちはそれぞれ、多かれ少なかれ、卵です。私たちそれぞれが壊れやすい殻に包まれた唯一無二のかけがえのない存在(soul)です。私にとってほんとうの事であり、あなたにとってもほんとうの事です。そして私たちそれぞれが、多少の違いはあれど、高く固い壁に直面しています。壁には名前があります。それはシステム(The System)です。システムはもともと、私たちを護るべきものですが、ときにはそれ自身がいのちを帯びて、私たちを殺したり殺し合うようしむけます。冷たく、効率的に、システマティックに。
ここで言うシステムは、コンピュータシステムのような狭義の意味ではなく、共同体、国家などの社会システムを示すような包括的なものだろう。僕たちは【卵】であるということにまったく異論はない。そして、それぞれが高く固い壁にも直面しているというのもなんとなく分かる。肝心なのは、誰もがその高く固い壁の存在を常に認識しているわけではないということだろう。あまりにも高くそびえ立っていて、それが壁であることが認識できないものもあるだろう。もしくはまったく透明であるが、しかしそこに確実に堅牢に立ちはだかる壁もあるだろう。だから、壊れやすい【卵】である僕らは、知らない間に壁に打ち付けられてしまったりする。

重要なのは、僕たちは壊れやすい存在であるということを忘れずに、そして立ちはだかる壁の存在に早く気づくべきなのだ。そのためには、システム(システム - Wikipedia)、つまりこの世界の成り立ちを体系的に理解しようとする姿勢が必要になる。

 私が小説を書く理由はひとつだけです。個人的存在の尊厳をおもてに引き上げ、光をあてる事です。物語の目的とは、私たちの存在がシステムの網に絡みとられ貶められるのを防ぐために、警報を鳴らしながらシステムに向けられた光を保ち続ける事です。私は完全に信じています。つまり個人それぞれの存在である唯一無二なるものを明らかにし続ける事が小説家の仕事だとかたく信じています。それは物語を書く事、生と死の物語であったり愛の物語であったり悲しみや恐怖や大笑いをもたらす物語を書く事によってなされます。生と死の物語や愛の物語、人々が声を上げて泣き、恐怖に身震いし、体全体で笑うような物語を書く事によってなされます。だから日々私たち小説家は、徹頭徹尾真剣に、創作をでっちあげ続けるのです。
村上春樹氏の物語観として、『物語の目的とは、私たちの存在がシステムの網に絡みとられ貶められるのを防ぐために、警報を鳴らしながらシステムに向けられた光を保ち続ける事です。』と示されているが、これこそが僕が物語を読む理由なのではないかと思った。なんとなく、以前からなぜ僕は物語に惹かれるのだろうと疑問に思っていた。ただの楽しみとして文学作品や小説を読む部分も多少はあるが、きっとそれ以上のものを求めていた。そして村上春樹氏の物語に強く惹き付けられていたと思う。このスピーチを読んで、やっと僕が物語に何を求めていたのかが分かった。自分なりに分かりやすく示すと、先ほどの壁と卵の話とあわせて、

システマティックな壁に打ち付けられてしまわぬように、そして物語を媒体として世界の成り立ちを体系的に理解するため

ということになると思った。これでもう古典文学作品や小説を読むことに対するためらいがなくなった。

物語には、普通のビジネス書や成功本には示されえない世界の構造が示されている。それを知るために、僕はさらに多くの物語を読んでいくだろう。

村上春樹氏の作品で、過去に書評したものは以下。そうそう、システムの話は、以下の物語に出てきたと思う。

ダンス・ダンス・ダンス〈上〉 (講談社文庫)ダンス・ダンス・ダンス〈上〉 (講談社文庫)
著者:村上 春樹
販売元:講談社
発売日:2004-10
おすすめ度:4.5

ダンス・ダンス・ダンス〈下〉 (講談社文庫)ダンス・ダンス・ダンス〈下〉 (講談社文庫)
著者:村上 春樹
販売元:講談社
発売日:2004-10
おすすめ度:5.0

初期4部作の最終作なので、それ以前の3作を読んでおくことをお薦めする。この物語を読んでから、山手線の五反田駅を通るたびに、システムの犠牲者となった五反田君のことをふと脳裏に浮かべる。

I am a System Engineer reading the Story.

bana1 にほんブログ村 本ブログへ



トラックバックURL

コメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価:  顔   星