April 30, 2009

ニューロマンサー

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)
ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)

キーワード:
 ウィリアム・ギブスン、SF、サイバーパンク、マトリックス、死霊使い
ありとあらゆる電脳空間系の作品に影響を与えている、サイバーパンクの原点的SF小説。以下のようなあらすじとなっている。
ハイテクと汚濁の都、千葉シティの空の下、コンピュータ・ネットワークの織りなす電脳空間を飛翔できた頃に思いを馳せ、ケイスは空虚な日々を送っていた。今のケイスはコンピュータ・カウボーイ能力を奪われた飢えた狼。だがその能力の再生を代償に、ヤバい仕事の話が舞いこんできた。依頼を受けたケイスは、電脳未来の暗黒面へと引きこまれていくが・・・・・・新鋭が華麗かつ電撃的文体を駆使して放つ衝撃のサイバーパンクSF!
(カバーの裏から抜粋)
また、目次は以下のようになっている。
  1. 第1部 千葉市憂愁(チバ・シティ・ブルーズ)
  2. 第2部 買物遠征(ショッピング・エクスペディション)
  3. 第3部 真夜中(ミッドナイト)のジュール・ヴェルヌ通り
  4. 第4部 迷光仕掛け(ストレイライト・ラン)
  5. 結尾(コーダ) 出発と到着(デパーチャとアライヴァル)
496冊目は、『ニューロマンサー(Neuromancer)』。攻殻機動隊(GHOST IN THE SHELL)、マトリックス、その他電脳空間系のアニメ、映画に多大な影響を与えた作品であり、それらの作品に病的に惹かれるものがある場合は、このサイバーパンク作品を読まないわけにはいかない。それほどの位置づけの作品であり、そしていろんな意味で衝撃的な作品である。本エントリでは、自分の感覚的な感想を示しておこうと思う。

この作品がなぜ衝撃的なのか?個人的な読了後の感覚から示せば、あまりにも内容が理解不能だったからだ。普通の小説やちょっと描写が複雑なSF小説だったとしても、ストーリーの流れや登場人物の位置づけ、役割などを読了後に思い描くことができる。しかし、この作品はまったくそれができない。何よりも、文章が頭に入ってこない。例を示そう。主人公、ケイスの紹介部分から。
 ケイスは二十四歳。二十二の頃は、カウボーイであり、やり手であり、《スプロール》でも一流だった。師匠が一流中の一流、業界内の伝説のマコイ・ポーリーとボビイ・クワインだったのだ。その頃のケイスときたら、マトリックスと呼ばれる共感覚幻想の中に、肉体を離脱した意識を投じる特注電脳空間(サイバースペース)デッキに没入(ジャック・イン)して―若さと技倆の副産物でもあったろうが―ほぼ恒常的なアドレナリン昂揚状態で活動していたものだ。盗っ人として、別のもっと豊かな盗っ人に雇われていた。雇い主が新種の素材(ソフトウェア)を提供し、それを使って企業システムの輝く壁を貫いて、データへの沃野への窓を穿つのだ。
(pp.15)
ここら辺はまだ問題なく理解できる。次は、マトリックスの簡潔な(?)説明を見てみよう。
「マトリックスのルーツは、素朴なアーケイド・ゲームです」
とナレーションが言っている。
「さらには初期の映像(グラフィクス)プログラムであり、頭蓋ジャックによる軍用実験です」
 ソニー・モニタ上では、二次元宇宙戦争が薄れ、代わりに数学的に生成された羊歯(しだ)の茂みが現れて、対数螺旋の空間への応用を見せる。冷たい青の軍事フィルムが輝いて、試験システムに配線された実験動物、タンクや軍用機の砲火制禦回路につながったヘルメット。
「電脳空間(サイバースペース)。日々さまざまな国の、何十億という正規の技師や、数学概念を学ぶ子供たちが経験している共感覚幻想―人間のコンピュータ・システムの全バンクから引き出したデータの視覚的再現。考えられない複雑さ。光箭が精神の、データの星群や星団の、非空間をさまよう。遠ざかる街の灯に似て―」
(pp.90)
なぜこの作品の文章が頭に入ってこないかというと、文章の抽象性に原因がある。上記引用箇所をタイプするにあたって、読めない漢字、言い回しについては、IMEパッドの手書きを発動しなくてはいけない。そして、電脳空間や荒廃した都市を表現する独特の言い回し、例えば、短針銃(フレッチャー)、集中操作卓(コンソール)、離脱(ジャック・アウト)、迷光(ストレイトライト)保護システム、自由界(フリーサイド)、東京湾(トウキョウ・ベイ)などの現象、事物などの羅列で文章が構成されている。そういう文章が続いていると、頭の中に文意が入ってこない。例えるなら、ネットワークのパケット通信において、送信元からデータを送るときにはデータを小さなパケットに分割してネットワーク上に転送するが、受信先でその分割されたパケットが正常に再構築できないような感覚に似ている。言い換えれば、文字、つまりシニフィアンは理解できるが、それがシニフィエ(シニフィアンとシニフィエ - Wikipedia)としてイメージできない部分が多かった。

読んでも読んでも頭の中にイメージが沸いてこないので、自分はバカなのではないかと途方に暮れていた。そんなとき、昨日の朝食会で再会した1歳年上で、小畑健の描く漫画キャラのような名前と美貌を持つ女性ファッション雑誌の編集者の方から、この作品について以下のように言われた。
『この作品はね、内容を理解するのではなく、独特の世界観を味わうものなのよ。』
(若干脚色あり)
上記のように言われて、何だかとても気が楽になったし、そういう読み方もありだと再認識した。また、こんなコアなサイバーパンク作品を読んでいる人と出逢うとも思っていなかったので、それはそれで貴重な体験だった。

この物語の最初の舞台は、近未来の千葉県になっている。そこには手裏剣や忍者や『さらりまん』や新円(ニューイエン)などが出てくるので、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか? 』が原作の『ブレードランナー』の世界観を想像していた。そして読了後、解説を読んでみると、以下の記述があった。
 映画といえば、本書の第一章を読んだ方は、まずはほとんど『ブレードランナー』を連想されたことと思う。奇怪に変質した東洋文化が退廃の影を濃くおとす、酸性雨の降りしきるロサンジェルスのダウンタウンを。けれど、本書の描く未来の千葉は、べつに『ブレードランナー』を真似たものではない。このシーンを書きおえてから映画を見たギブスンは、あまりのことに三十分で映画館をとびだしたという。
(pp.445-446)
やはりサイバーパンクものとして行き着くところは同じなのかと思った。そして、そのような日本文化が混じっている近未来の世界観という設定は、やはり日本人として共感を覚える。

主人公は24歳のサイバー空間の凄腕ハッカーという設定。プログラマーをやっていてマトリックスとか攻殻機動隊が好きで、年齢がとても近い自分が惹かれないわけがない。設定も世界観もとても好きだと思う。しかし、誰が人間で誰がAIで、ケイスの置かれている状況はどこがどうヤバい状況であるのか、モリィは何者なのか?、冬寂(ウィンターミュート)の存在とは?、『ニューロマンサー』の意味とは?といったことや、物語の流れをしっかり理解するには、1回目の読了では無理で、何度も読み返す必要があるようだ。

この作品はスターウォーズなどの作品に出演した、ヘイデン・クリステンセンが主演で近々映画化されるとか。そういうのもあって、この作品をなるべく早めに読んでみた。

この作品は、1文1文をしっかり把握しながら読み込んでいこうと思うと、大体1ページ3分はかかる。そしてこの物語は、437ページなので、単純計算で、1311分、21.85時間かかることになる。1日4時間費やせば、大体5日で読了できる。挑戦してみようと思う人はぜひ。自分は3ヶ月くらいかけて少しずつ読んだが。1日10ページ読めればよいほうだった・・・。そのため、以下のWikipediaの記事を参考に読めばいいかも。自分は昨日から8連休の黄金週間(ゴールデンウィーク)になっており、そういう長期連休にこそ、このような超大作を読むのに適していると思う。ただし、このSF作品(サイバーパンク)に没入(ジャック・イン)しても、正常に離脱(ジャック・アウト)できるかどうかの保証はできない。それほど強烈で複雑な物語(サイバースペース)だからさ。



ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)
ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)

読むべき人:
  • 電脳空間もののアニメ、映画が好きな人
  • 24歳前後のプログラマーの人
  • 自分の想像力の限界に挑戦したい人
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1. ソフトウェア (ハヤカワ文庫SF)  [ もぼなもな書房 ]   June 19, 2009 18:13

ソフトウェア (ハヤカワ文庫SF) ボロボロになるまで読み倒しました スラップスティックSF 月でロボットが反乱 そのロボット??.

2. 攻殻機動隊(1)  [ ネタの元帳 ]   November 02, 2011 01:14

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コメント一覧

1. Posted by 電車男。   January 31, 2013 21:17

5 勿論ニューロマンサーは楽しいですよ。
無論ニューロマンサーは面白いですよ。
当然ニューロマンサーは嬉しいですよ。
寧ろニューロマンサーは魅力的ですよ。

2. Posted by つきみ   January 19, 2014 08:31

こらこらこらっ、何が24歳前後のプログラマーにお勧め、ですかぁ。ぷんぷんぷんっ!
1984年の秋、この本が発表されたときSFの第一人者がレビューで「この本は25歳以下の人間が読んでも理解出来ないよ」、と書きやがってね・・・余計なお世話でした。今でもウィリアムギブスン3部作の大ファンです。

3. Posted by Master@ブログの中の人   January 19, 2014 14:47

>>つきみさん

すんません、主人公が24歳という設定なのでついw

ギブスン作品の他のはまだ未読なのでそのうち読んでみたいです

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