May 17, 2009

本当に生きるための哲学

本当に生きるための哲学 (岩波現代文庫)
本当に生きるための哲学 (岩波現代文庫)

キーワード:
 左近司祥子、哲学、ソクラテス、幸福、飛躍
哲学者によって、本当に生きるとはどういうことか?ということが示されている本。以下のような目次となっている。
  1. 第一章 複雑な人・ソクラテス
  2. 第二章 宗教と哲学・神の声
  3. 第三章 宗教と哲学・殉教
  4. 第四章 自然・移り行くもの
  5. 第五章 自然・よい生き方
  6. 第六章 私・大事なもの
  7. 第七章 私・重い実感
  8. 第八章 私・連続するもの
  9. 第九章 私・自由
  10. 第十章 私・本当の望み
  11. 第十一章 誤り・ディアレゲスタイ
  12. 第十二章 飛躍・「魔ざし」現象
(目次から抜粋)
この本は、1990年前期学習院講座での講演を元に書かれている。そのため、口語的で読みやすい。また、この本で499冊目の書評となる。

本書のテーマは、『本当に生きること』で、それは言い換えれば、『幸せであること』ということになるようだ。そのテーマに関して、古代ギリシャの哲人、ソクラテスを媒体に語られている。

全体像を示すのはかなり難しい本なので、特に印象に残った部分を引用しておく。

メロドラマに良くある設定として、好きな人がいたのに親の言うことを聞いて、嫌いな人と泣く泣く、あるいはいやいや結婚したというものがある。これは、著者によれば絶対に嘘ということになる。なぜならば、嫌いな人と一緒になりたくないという思いよりも、親に良く思われたいという願望が上回っていただけに過ぎないからであると。そして、結局親に良く思われたいというほうを選択したのだとあった。その部分に続いて、以下のように示されている。
 ここでサルトルの話との接点が出てくるのです。私たちは自分のいやなことを無理強いされたりすることはないのです。いつも、私の行動は私が選んでいるのです。私の未来は私が決めています。大きい問題にしろ小さい問題にしろ同じことです。でも、この見解を取るかぎり他人からの同情は期待できなくなります。メロドラマの主人公でいられなくなるからです。その上、あのときああしていたら今頃私は、という半分は甘い回想も不可能になります。ああしなかったのは私だからです。こういった具合に私の生き方の全責任が私にかかってきてしまうのです。
(pp.158)
厳しいようだが、この自己責任論が生きていく上で念頭においておかなければならないことのように思えてくる。

自分自身に限っては、あとのとき、ああしていればよかった、と思うことは枚挙に暇がない。何度そのように思ったことか。けれど、結局は『今』の自分は、過去の自分の選択の結果なのだということになる。選べなかったことのように思えても、結局は自分で選択したのだ、ということになる。

この自己責任論を昨今の雇用情勢に当てはめてみると、派遣切りにあって苦境に立たされている人も、結局は派遣で生きることを選んでいたに過ぎない、ということになる。厳しいようだが、派遣労働が不安定な雇用情勢であるのに、その状態に甘んじていたか、そこから脱却しなかった、という選択をしたということになる。たとえ、派遣で働くしかなかったという理由があったとしても。
 サルトルの主張は、一度目のみ効く興奮剤なのでしょうか。たしかに、興奮剤としては、一度しか効きません。でも、この聞き手の心のなかには、こういった生き方しかできない人間ということを意識したことによって、落ち着いた覚悟が生まれているはずです。過去の出来事は、結局私の引き起こしたことだ。だから、未来の私の行為も私が決めるものだといった覚悟です。かのじょの心は、決して高揚していないでしょうが、落ち込みもしていないでしょう。こういった覚悟を持って、これからは自分で判断していくのです。そういうことになれば、意識せず、知らず知らずのうちに判断を下していたときと比べて、「今自分は自分に判断を下しているのだ」という意識をしっかり持って判断できるのです。意識しつつ判断しているということは、ある人たちの好んで使う表現によれば、本当の、目覚めた自分として判断を下しているということになります。
(pp.166)
この主張は、こういった成り行きのなかで生きているのだと意識させることで、その人のこれからの生き方を生きさせるのに役に立つと示されていて、なるほどと思った。毎日が些細な判断の積み重ねで、その判断によって未来がおのずと規定されていくのを意識していこうと思った。もっと言えば、毎日がターニングポイントの連続なのだ。

この本のキーワードとして『飛躍』がある。これは、先ほどの結婚の例を挙げると、今までの自分の生きかた、これからの未来を考えて親の薦める人と結婚しようと思っていたが、直前になって思わず「別の人と結婚します」と口走ることと示されている。つまりこの『魔ざし』によって、今まで準備してきたいろいろな考慮を超えて、飛躍していき、飛躍的に幸せになれるようだ。
人間の私たちはたとえ自分のことであっても、十分分かっていないからです。そして、それが、それまでの準備をすべて反故にするほど力強い欲求であるなら、そういった欲求を最後の瞬間に私が思わず持ち出してしまったとするのなら、どうしてそれが本当の私の欲求ではないはずがあるでしょう。本当の私が今目覚めたのです。この件をきっかけにして。そうだとしたら、この欲求に従うのこそ、私の正しい行為であり、私が本当に生きることなのであり、幸せになることなのです、とりあえずは。連続する私に、突然割り込んできた飛躍した私、それについての、いろいろな考察はあとのことです。あとでゆっくりすればいいのですし、するべきです。そして、実際私たちはそうしています。
(pp.211)
もしかしたら、自分にもこの飛躍が近々訪れるのじゃないか?という気がしないではない。とりあえずはIT技術者になろう、と準備をしているが、どこかでやっぱり違うことをやろうと直感的に思うのだと思う。そうなったら、その直感にしたがってそれをやればいいのかなと思った。細かい考察は後でいいんだとわかってよかった。

口語的な文章ではあるが、示されていることはかなり抽象的な部分が多い。古代ギリシャのソクラテスの無知の知から、プラトン、ゴルギアス、ヘラクレイトス、ギリシャ神話の神々、サルトル、デカルトなどなど、さまざまな哲学者が出てくる。そういう古代ギリシャ哲学に関心がある人は面白く読めると思う。

著者はネコ好きらしい。それが表紙のイラストの並木道にたたずむネコに現れている。

連続する自分の中に突然訪れる、飛躍に身を任せる。これが、自分が本質的に生きていく上で重要なのかなと思った。

さて、どのような飛躍が自分に起こるのだろうか?

次で500冊目の大台。500冊目が一つの節目。500冊目は、もしかしたら5月中には無理かも。気長にお待ちを。



本当に生きるための哲学 (岩波現代文庫)
本当に生きるための哲学 (岩波現代文庫)

読むべき人:
  • 古代ギリシャ思想に関心がある人
  • ネコが好きな人
  • 本質的に生きることを考えたい人
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コメント一覧

1. Posted by トーマス   May 17, 2009 19:36

Masterさん、こんばんは。
本記事も興味深く読ませていただきました。
特にp158からの引用部分↓は考えさせられました。
「こういった具合に私の生き方の全責任が私にかかってきてしまうのです。」

うまくは言えないのですが、「自分の人生において責任をとると決めた範囲」がその人の「伸びしろ」になるのではないかと感じました。
そして、その「伸びしろ」の中で起きた「飛躍」を摑まえていくことで、自分が成長し、責任をとれる範囲が広がっていき、幸せにつながっていくのかな、と。

つまり、最初は責任を取ると「決める」ことが大事なのかなと漠然と考えています。

長々と書いてしまいました。
500冊目も期待しております。

2. Posted by Master@ブログの中の人   May 17, 2009 23:17

>>トーマスさん

コメントありがとうございます!!
いつも他の人のは短いコメントなので、むしろ長いコメントのほうが嬉しいです

>>つまり、最初は責任を取ると「決める」ことが大事なのかなと漠然と考えています。

これはなるほどなぁと思いました。最初は負える責任は小さいものですが、だんだん範囲を自分で決定して大きくしていくことが重要なのだなと思いました。

500冊目、ちょっとすぐには無理かもですが、期待に添えるようにがんばりたいと思います!!

3. Posted by TMstar   May 18, 2009 22:07

こんにちは★
500冊目はまだかまだかと、最近頻繁にチェックしております。

ぜひともMasterさんらしい500冊目にしてください。期待しています。

(他の人同様)短いコメントですけれど(笑)。

4. Posted by Master@ブログの中の人   May 18, 2009 23:36

>>TMstarさん

コメントありがとうございます!!
短くても全然問題ないです(笑)

500冊目は、明日から読み始めます

5. Posted by シンジ   May 22, 2009 02:19

はじめましてMasterさん
ステキな本をチョイスされていますねっ^^
哲学本関連の本は僕も好きなのですっ。

相互リンクしていただけませんでしょうか?まだまだ小さなブログで申し訳ないのですが(涙

こちらからは、リンクさせていただきました。

6. Posted by Master@ブログの中の人   May 22, 2009 07:04

>>シンジさん

コメントありがとうございます!!

サイドバーのリンク欄に追加しました!!

こちらこそよろしくお願いします

7. Posted by YURiii   May 28, 2009 23:30

ふむふむ。
すごく面白い本ですね。
以前坂田篤史さんが
「すべての責任は自分にある」
っておっしゃったんですけど、
これと同じことだなと思いました。

500冊目楽しみにしています^^

8. Posted by Master@ブログの中の人   May 28, 2009 23:33

>>YURiiiさん

コメントありがとうございます!!

「すべての責任は自分にある」

なるほど、さすが坂田さんのお言葉!!
その通りですよねぇ。

500冊目は、ちょっと6月中に紹介できるかも怪しくなってきました・・・。

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