December 26, 2009

ペスト

ペスト (新潮文庫)
ペスト (新潮文庫)

キーワード:
 アルベール・カミュ、ペスト、医者、天災、不条理
1940年代のフランスのある町を舞台とした不条理文学。以下のようなあらすじとなっている。
アルジェリアのオラン市で、ある朝、医師のリウーは鼠の死体をいくつか発見する。ついで原因不明の熱病者が続出、ペストの発生である。外部と遮断された孤立状態のなかで、必死に「悪」と闘う市民たちの姿を年代記風に淡々と描くことで、人間性を蝕む「不条理」と直面した時に示される人間の諸相や、過ぎ去ったばかりの対ナチス闘争での体験を寓意的に描き込み圧倒的共感を呼んだ長編。
(目次から抜粋)
古典に分類される作品を読むときは、気軽に読み始めることは難しい。何かきっかけがあると読む気になれる。自分の場合、この作品を読むきっかけは主に3つあった。

1つは、教養としての古典文学作品の鑑賞であり、あまりフランス文学を読んでいなかったので、それに該当する作品を何か読もうと思っていた。

2つ目は、今年の6月ごろに発売された週刊東洋経済の古典特集で、『文学作品に学ぶ』で19番目に川本裕子さんが(川本裕子 公式HP)この作品を取り上げ、『パンデミックにパニックする前に読むべき』と示していた。なるほど、と思い、買ってしばらくは積読状態だった。

3つ目は、直接的な読むきっかけになるが、それは単純に12月に入って風邪でダウンしたからだ。12月1日に37度くらいの熱が出て、軽めの風邪であったが、会社を休み、病院に行った。幸い新型インフルエンザではなかったので、安心した。

風邪、インフルエンザ、パンデミックというキーワードから連想し、そういえばこの作品『ペスト』が積読になったままであることを思い出し、風邪で休んだ日から読み始めて、最近読了した。

あらすじは、引用した部分と、Wikipediaに任せよう。この作品は、人間の力ではどうにもならない絶対的な悪や天災などを描いた、いわゆる不条理文学となる。

主人公で医者のリウーは、オランの街で発生したペスト患者を見ていくうちに、ペストがどんどん猛威をふるい、何百人と死んでいく。それにより街は閉鎖され、人々は行き場を失う。老医カステルがペストの血清を作るが、それが効かずに幼い子供を救えなかったり、街が閉鎖されてからリウーと友人になったタルーまでもがペストにおかされ、ついには死んでしまう。救えなかったという思いが数ヶ月続いていたので、街の外の療養所に残してきた妻の死さえも、平静に受け入れることができてしまう。

この作品の解説を読めば、もっとこの作品の深さがわかると思う。以下その部分を抜粋。
 『ペスト』の物語は以上三つの次元から構成されている。それは、人生の根本的な不条理に基部を浸し、頭部は「歴史」の雲のなかにつっこみながら、なかんずく現在の幸福に生きようとする、一都市の住民の闘いの記録である。
 ここに登場する作中人物についても、大きく二組に分けて考えることができる。ペストとの遭遇によって、著しい変貌を示す人々と、ほとんどあるいはあまり変わることのない人々とである。前者に属するものとしては、司祭パヌルー、判事オトン、新聞記者ランベール、犯罪者コタールなどが数えられる。すなわち、それぞれ、神の正義、社会の正義、人間の正義を代表する三人の人物と、それらの正義、なかんずく社会の正義に反抗する孤立者とであり、この未曾有の体験による彼らの深刻な変化は、正義の問題がいかに深く人生への理解と愛に繋がっているかを示している。変わらない人々としては、リウー、タルー、グラン、喘息病みの爺さん、老医カステルなどが挙げられる。カステル老人を除けば、彼らはいずれも「不条理人」であり、しかも喘息病みの爺さん以外は、すべて共同社会の連帯性に目覚めた「不条理人」である。彼らの撓(たわ)まぬ態度は、「不条理」の絶望に立脚した人間が、共同の理想と希望のためにいかに力強く闘いうるかを語ろうとしている。
(pp.467-468)
まぁ、一言で言えば、いろんな登場人物がペストによって左右されたりされなかったりしている作品である。一番変わったのは、新聞記者ランベールである。

ランベールは、たまたまこの街にやってきて、滞在中に街が封鎖されてしまい、街から出られなくなる。ランベールには街の外に残してきた妻があり、妻に会うために、将兵によって封鎖された出口を抜け出そうと仮作するが、結局自分も街の当事者であることを自覚し、街に残って医者リウーの仕事を手伝うことになる。

このくだりが、なんだか手塚治虫のブラック・ジャックのワンシーンを見ているような気がして、胸が熱くなった。解説によれば、ランベールこそが真の主人公だ、というようなことが示されていて、納得がいった。

文体はあまりにも客観的で、感情的な描写さえも排除しているように淡々と綴られている。ところどころ神の視点のごとく『筆者』という人物がでてくるが、これはカミュのことだと思っていたら、最後にこの筆者が誰か明らかになる。そして、淡々と感情的なものを排した記録的な記述となっているのも、明確な理由があり、なるほどと思った。

読み始めてから、途中、12月8日にまた風邪をひき、今度はかなり高熱が出て、最終的に39.7度までに達した。高熱の出始め時に急いで医者に行き、新型インフルエンザであるかどうかの検査をしたが、ウィルス性の風邪で安堵した。

なぜこの作品を読む気になったかというと、やはり冒頭に示した3つ目のきっかけが大きい。それは、新型インフルエンザに感染すると、冗談じゃなく致死率が常人よりも高くなるからだ。

厚生労働省の新型インフルエンザ情報(厚生労働省:健康:新型インフルエンザ対策関連情報:インフルエンザかな?症状がある方へ)に、以下の持病を持つ人は、重症化するリスクがあるというようなことが示されている。
  • 慢性呼吸器疾患
  • 慢性心疾患
  • 糖尿病などの代謝性疾患
  • 腎機能障害
  • ステロイド内服などによる免疫機能不全
自分は上記の下二つに該当するので、感染症にかからないように気をつけなければならない。腎機能障害といっても、人工透析をするほどではないので、そこまで悪化しないとは思うが、新型インフルエンザで何人か亡くなったというニュースを見るたびに、他人事ではないと思った。

ということで、『パンデミックにパニックする前に読むべき』ということを信じて読んでみた。自分にとってこの作品は、不条理文学というよりも、感染症にかかって重症化して、自分の死をイメージするような、いわば精神的なワクチンとして読んだ。ある意味、新型インフルエンザに感染したとき、いろいろと覚悟を決めるためにね。

まぁ、今までインフルエンザに感染したことがないので、何とも言えないけどね。

12月に入って、新型インフルエンザの報告件数が減少傾向にあるとニュースで示されていたが、年明け以降もパンデミックにならないとは限らないので、少しでもシミュレーションしておきたい人は、年末年始の休暇中にでもぜひ読んでおいたほうがよいかも。



ペスト (新潮文庫)
ペスト (新潮文庫)ペスト (新潮文庫)
著者:カミュ
販売元:新潮社
発売日:1969-10
おすすめ度:4.5

読むべき人:
  • 不条理文学に関心がある人
  • 風邪や新型インフルエンザでダウンしている人
  • 感染症で死のリスクが常人より高い人
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