June 22, 2011

本は、これから

本は、これから (岩波新書)
本は、これから (岩波新書)

キーワード:
 池澤夏樹編、本、電子書籍、紙、読書論
作家の池澤夏樹氏が筆頭となって、紙の本についていろいろと論じられている本。紙の本に携わってこられた各界の識者37人がやはり紙の本がいい、と言うようなことを示している。それらの識者は全部示すと冗長なので、岩波新書の以下のページを参照。やはり気になるのは、初めから紙の本のアンチテーゼとして電子書籍が捉えられている部分か。紙の本を脅かす黒船来航、という位置づけでiPadやKindleを筆頭とする電子デバイスを捉えられている気がした。それはそれで仕方のない部分があるかもしれない。

ここで意見を述べられてる識者の平均年齢は大体60歳前後なので、紙の本の出版や執筆、そして読書を長く携わられてきた方々だろう。誰だって長く携わってきたものに対しては愛着がわいて、それに対する評価にバイアスがかかり、客観性を保つことは難しいだろう。そして、そもそもこれらの方々がどれほど電子デバイスを使いこなしているか?ということが気になった。

PCやIT技術の発展と共に育ってきた平均年齢が40歳前後の識者たちで執筆陣を構成したなら、きっと電子デバイス礼賛が多かっただろう。けれどそこには別に紙がダメだという意見もたぶんそんなにないだろうと思う。

結局、紙か電子かの単純な二項対立で終始するのは違うのではないか?と思った。紙と電子の両方の特性を理解したうえで、では本はこれからどうあるべきか?ということを考えていくべきではないのかなと思った。

とはいえ、この本はとてもいろいろと考えさせられることが多かった。例えば、内田樹先生の『活字中毒患者は電子書籍で本を読むか?』というタイトルのもの。内田先生によれば、電子書籍の場合は「宿命的な出会い」が起こらないと示している。曰く、電子書籍で読む場合は、事前に読みたい本が分かっていて検索して読むことができる。

しかし、その場合は著者もタイトルも知らなかった本をたまたま手にとって出会うという偶然性がなくなるらしい。宿命の本との出合いには、『独特のオーラに反応して、引き寄せられるように手に取った』という物語が必要で、それは紙の本でしかありえないらしい。

これはなるほどと思った。これはよく大型書店に行くと実感する。本の背表紙とか装丁のデザインに引き寄せられ何となく買った本が当たりだった!!ということは結構ある。その反面はずれもあるけど、そういう偶然性の楽しみがあるから書店に行くかな。まだ電子デバイスを使いこなしてないから、本当に電子デバイスだと偶然性が起こりえないのかは確認できないけどね。

あとは柴野京子さんの『誰もすべての本を知らない』で示されていること。曰く、電子書籍の出版状況に限らず、インターネット書店の発展もあり、世の中に本があふれている状況となっている。そのような状況での本を選択することの難しさが示されている。以下その部分を抜粋。
 ごく単純に考えて、人が認識し、現実に見ることのできる本の量には限界がある。選べる対象がいくらふえても、こなせる量がふえるわけではあるまい。むしろ選択肢がふえればふえるほど、選ぶのにエネルギーを費やさなくてはならなくなる。早くて便利な検索エンジンは、この問題をたやすく解決してくれるかのようにみえるが、時間と手間が短縮されたからといって余裕が生まれるとは限らない。にもかかわらず、知らないうちに「すべての本の中から〔最適なものを〕選ぶ」ということだけが、無条件によいこととしてスタンダードになっている。
 いかに「すべて」を網羅して「最適」なアルゴリズムを設計するか、が問題になっている。けれども、ほんとうはどう考えても「すべての本」を見ることなどできないし、人間がそこから「最適な一冊」を選びとることなどできはしない。それにどういう回路を経てきたとしても、一冊の本が一冊の本でしかないのなら、手の届く範囲でめぐってきた本を読むことと、何万、何億という書物のなかから最適として選び出されたものを読むことに、どれほどの違いがあるだろうか。
(pp.110)
大型書店で本を買うとき、新たに本を読み始めるとき、この読書ブログで記事を書くときにいつも本を選択することについて意識させられる。読みたい本は大量にある。けれど、こちらの本を読めば、あちらの本は読めなくなる。攻殻機動隊のような電脳化が実現されない限り、常に読むべき本を選択せざるを得なくなる。

そういうとき、いつも悩む。目的を絞って選択的に読むべきか?それともたまたまめぐってきた本、自分の興味関心、直感に従って読むべきか?前者は仕事で成果を出すといった場合にはとても重要な観点。後者は自分自身の生き方、幅を広げるには必須。それぞれ一長一短があり、使い分ける必要がありそうで。しばらくは選択と集中がテーマなので、前者でいこうと思う。

生きている間に読みたい本は全部読めないだろう。
 人はさまざまなことをきっかけに、一冊の本を手に入れる。あたりを見渡せば、あらゆるところに本はある。その中で、納得できる何冊かの本とほどほどに出会える才能がありさえすれば、たとえ「すべての本」に行きつかなくても人は幸福に生きていくことができると思うのだ。
(pp.111)
とても励まされる言葉で。そして、この本もまた、お薦めされて手に取った本となる。そういうのがとても楽しい部分でもあるし、だからすべて読めなくてもいいかなと思い込むことにしよう。足るを知るという境地で。

電子書籍か紙か、という媒体で終始していると本質を見失うのではないかなと思う。これから生き残る出版社は、紙とか電子とかいった媒体を売るようなところではなく、それらの中身、もっと言えば読者の需要を満たす良質なコンテンツを供給するところだろう。

電子化の流れは止められない。電子書籍になる分、出版の敷居が低くなって、出版点数はもっと増えるだろうね。そうなると、よりコンテンツが重要になる。一読者として、必要なのは紙とか電子といった表層的な媒体ではなく、その中身なのだ。

個人的には漫画、技術書、ビジネス書、写真集とか旅行記、レシピ本などはもう全部電子でいい。カラー写真とかと相性がよいし検索性にも優れているからね。特に漫画は本当に全部電子化してほしい。本棚があふれかえっている状況だし。逆にフィクション、物語、小説、エッセイなどは文庫サイズの紙の本がよいかなと思う。

紙も電子も含めて、本は、これからといったところか。そして、本書が読書ブログを始めて600冊目の記事となる。このブログもまだまだこれから、ということだね。



本は、これから (岩波新書)
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販売元:岩波書店
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読むべき人:
  • 紙の本が好きな人
  • iPad、Kindleなどの電子デバイスで本を読んでいる人
  • 本のこれからについて考えてみたい人
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