August 04, 2011

おおきなかぶ、むずかしいアボカド

おおきなかぶ、むずかしいアボカド 村上ラヂオ2
おおきなかぶ、むずかしいアボカド 村上ラヂオ2

キーワード:
 村上春樹、エッセイ、アンアン、日常、ひきだし
村上春樹氏のエッセイ。女性ファッション雑誌、アンアンで2009年ごろから再連載されていたものが収録されている。全52の短めのエッセイが載っている。全てを示すのは冗長なので、目次は以下のリンク先を参照。このエッセイは、村上春樹氏の日常生活で体験したこと、くだらない疑問、普段考えていることなどが面白く示されている。このエッセイを読めば、ビールが飲みたくなり、散歩したくなり、1人で料理(特に牡蠣フライ)が作りたくなり、オープンカーに乗りたくなり、そして海外に住みたくなる、はず。

普段何げなく過ごしていると見過ごしてしまいそうな気付きが得られる。例えば映画のセリフに「夢を追わない人生なんて野菜と同じだ」というものがあり、そこからいろんな野菜の心や事情に思いをはせて、そして自分の人生を考えこんでしまったり。

もしくはソックスに右左形が違うものがあるのを最近知って、そこから右利きと左利きの話になり、世の中は右利き用にいろいろと作られているから左利きの人は大変ですねとか。さらには携帯電話のない世界を思い浮かべながら、ビールの栓抜きがなかったらどうかと試案してみたり。くしゃっとつぶれたビールの空き缶に切なさを見出したりといろいろ。

普段忙しくて日常生活で見落としていることを、このエッセイを読みながらいろいろと気付かされた気がした。あまりにも忙しく生きすぎると、何もかもが通り過ぎて無味乾燥なものになってしまったような気もするけど、このようなエッセイを読むと、ふむ、自分の日常生活も悪くはないな、ちょうどよい、と思えたりもするもので。エッセイを書くような視点に立てば、自分の生活に満足感を見出せるような気もしてくる。

僕は村上春樹氏の長編作品は全て読了済みで、エッセイもそれなりに読んできた。そのたびにいつも思うのは、長編小説では暴力的で不条理なことが描かれているのに、エッセイでは日常生活の割と健全なささやかなことが多く示されていて、そのギャップが大きいなぁとひしひしと感じることだね。だってね、「海辺のカフカ」でジョニー・ウォーカーの猫の虐殺を描いたり「ねじまき鳥クロニクル」の拷問による人間の皮膚を剥ぐなんて恐ろしい描写をする作家がね、アリクイにディープキスされるところを想像してたりするんだよね。

このエッセイの文体もかなりマイルドで親しみやすいしね。著者的な観点から示せば、それは作家としてのさまざまなひきだしを持っているということなのだろうと思う。いいね、ひきだし。そういえば自分が箪笥代わりに使っているボックスの引き出しはいつも着ない服であふれているね。どうでもいいことだね。

各エッセイの最後に『今週の村上』という一言文が載っていて、それがとてもくだらなくて面白い。3つだけ抜粋。
  • 「婚約破棄」と聞くといつも捨てられたコンニャクを思い浮かべるんだけど、下らないですね。(「手紙が書けない」 pp.73)
  • そうえいば僕はスターバックスで普通のコーヒー以外のものを飲んだことがないな。人生で損をしているのだろうか?(「キャラメル・マキアートのトール」pp.145)
  • 僕は「ハンマー」と「メンマ」で韻を踏んだ歌詞を書いたことがあります。これもお手軽なのかなあ?(「ジューン・ムーン・ソング」pp.213)
普段はエッセイとかには線を引いたりしないのだけど、著者の本は思わず引かざるを得ないところがはっと出てくる。そこの部分を抜粋。「ベネチアの小泉今日子」というエッセイの最後の部分から。
 人はときとして、抱え込んだ悲しみやつらさを音楽に付着させ、自分自身がその重みでばらばらになってしまうのを防ごうとする。音楽にはそういう実用の機能がそなわっている。
 小説にもまた同じような機能がそなわっている。心の痛みや悲しみは個人的な、孤立したものではあるけれど、同時にまたもっと深いところで誰かと担いあえるものであり、共通の広い風景の中にそっと組み込んでいけるものなのだということを、それらは教えてくれる。
 僕の書く文章がこの世界のどこかで、それと同じような役目を果たしてくれているといいんだけどと思います。心からそう思う。
(pp.217)
これはね、僕もこのような読書ブログを書いていると、本当にそう思うね。ネットワーク越しのどこかのだれか(これを読んでくれているあなた)のためになっていればいいなと思って、今日もがんばって早起きして更新した。

過去に取り上げた村上春樹氏のエッセイは他には以下がある。本書は村上ラヂオ2なので、前作と引き続き、大橋歩さんの銅版画が各エッセイに添えられていて、よい感じになっている。

日常生活をほんの少し実りのあるものにしたい場合は、ゆっくりと本書を堪能するのがよい。ビールでも飲みながら。



おおきなかぶ、むずかしいアボカド 村上ラヂオ2
おおきなかぶ、むずかしいアボカド 村上ラヂオ2
著者:村上 春樹
販売元:マガジンハウス
(2011-07-07)
販売元:Amazon.co.jp

読むべき人:
  • 日常生活の気付きを得たい人
  • 忙しすぎていろいろ考えられない人
  • 作家のひきだしに触れてみたい人
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