August 31, 2011

サマー/タイム/トラベラー

サマー/タイム/トラベラー 1(ハヤカワ文庫 JA)サマー/タイム/トラベラー2 (ハヤカワ文庫JA)
サマー/タイム/トラベラー1 (ハヤカワ文庫JA)
サマー/タイム/トラベラー2 (ハヤカワ文庫JA)

キーワード:
 新城カズマ、ジュヴナイル、SF、TT、未来
生年不詳作家による青春SF小説。以下のようなあらすじとなっている。
あの奇妙な夏、未来に見放されたぼくらの町・辺里で、幼馴染みの悠有は初めて時空を跳んだ―たった3秒だけ未来へ。「お山」のお嬢様学校に幽閉された響子 の号令一下、コージンと涼とぼく、そして悠有の高校生5人組は、「時空間跳躍少女開発プロジェクト」を開始した。無数の時間SFを分析し、県道での跳躍実 験に夢中になったあの夏―けれど、それが悠有と過ごす最後の夏になろうとは、ぼくには知るよしもなかった。
(1巻のカバーの裏から抜粋)
“プロジェクト”を通して、自分の時空間跳躍能力に目覚めていく悠有。いっぽう、辺里の町では不穏な出来事が進行していた。続発する放火事件と、悠有に届 けられる謎の脅迫状―「モウ オマエニ 未来ハ ナイ」。涼、コージン、饗子それぞれの想いが交錯するなか、いつしかぼくは微かな不安に囚われていた―悠有はなぜ過去へ跳ばないのだろう?そして花火大会 の夜、彼女はぼくの前から姿を消した…。全2巻完結。
(2巻のカバーの裏から抜粋)
夏になるとSF小説か青春小説を読みたくなる、というようなことをTwitterでつぶやいていたら、この本をお薦めされた。ということで、夏が終わってしまう前に、読んでみた。

読了後の率直な感想は、面白かった!!1,2巻合計600ページちょいを平日仕事をはさんでも大体4日で読み終えられた。普通はこの分量であれば、2週間くらいかかるのだけどね。

テーマは、『時をかける少女』のようなタイムトラベルものであり、16歳の高校1年生の青春小説でもあり、若干ミステリっぽいところもある。舞台は辺里市という架空の街で、そこでたくさん事件が起こって、スーパー高校生5人の「時空間跳躍少女開発プロジェクト」の暑い夏が繰り広げられていく。

スーパー高校生5人を簡単に紹介しておこう。
  • 卓人(タクト)・・・偏差値70ほどの県で1番の高校に通うIQの高い高校生。子どものころから多言語教育を受けて、現在では英語、ラテン語を読める。ラテン語の要領でスペイン語版ボルヘスの短編集を読み、年間150冊は読書をする秀才。どこかシニカルで、頭が良いだけでは事件にうまく対応できないことを知る。悠有とは幼馴染で母と生き別れた父がいる。
  • 悠有(ゆう)・・・タクトと幼馴染で旅好きなおばさんが経営する喫茶店、「夏への扉」に住んでいる。ある日マラソン大会のゴール付近で世界をすべて置いていくような3秒先の世界に跳躍する能力が発動してしまう。割と天然タイプで何でも素直に受け入れる性格で、他のスーパー高校生よりも普通な感じ。少なくとも衒学的な議論にはあまり参加しない。タクトに受験技術を叩き込まれて同じ高校に通う。
  • 響子・・・タクトと悠有とは別の寄宿生のお嬢様高校に通う才女。一族が創設した学校に通っていて、この街から出ることを許されていない。そのため、お金にもならないようなさまざまな「プロジェクト」を考案しては仲間を巻き込んでいる。また、「倶楽部」を運営し、その参加者を街中でカメラやマイクで監視、記録している。響子語録、もしくは警句の「アエリスムス」がネット上で話題。街に出られないことから跳躍できる悠有に特別な思いいれがある。性格はツンデレ系。いや、デレはなかったか・・・。ちなみに、理想の恋人像はラスコーリニコフ。
  • ・・・街を仕切っているような名家の医者の息子。背の高いかっこいい人で、サッカー部と陸上部と理科学部の物理班とコンピュータ班をかけもちしているすごいやつ。性格は割りと温和だが、いつも響子の尻にしかれている。ハッキングが得意で街の政治的な腐敗を突き詰めている。また、医学部志望だが独自の宇宙論もよく語って、2ヶ月に1つシステム手帳を消費する。
  • コージン・・・タクトとは同級生ではあるが、幼いころの病気のため、2年ほど年齢が先輩にあたる。地元のヤクザをボコったとかスタンガン装備の工業高校の連中に襲われるけどすべて返り討ちにしたりとか、中学時代は寝てばかりでもいつも高得点だったとかいろいろと噂が耐えない街の有名人。あまり表には出さないが、かなり頭もよい。しかし、年上からか一歩引いた感じで他のメンバーの議論を客観的に見て、本質を一言示すタイプ。性格は義理人情的。
そんなこんなで「ありえそうもない」設定のキャラ5人組が悠有の時間跳躍能力をきっかけにひと夏を駆け巡る。

みんなそれぞれキャラの特性があって、頭がよくて、高校1年生の夏休みを必死に過ごしている感じがした。それぞれがディレッタント的、そして衒学的に自論を好き放題に語っている。宇宙論であったり、サリンジャーのライ麦畑を独自の解釈で訳すとか。まずは悠有の時間跳躍能力を調査するために、時間旅行系のフィクション作品を徹底的に洗い出し、それをマトリックスに分類したりしている。

そこでさまざまなSF小説や映画がたくさん示される。それを見ると、読者のSF度をうまい具合に刺激される。ほうほう、その作品が出るのかとか、そんな作品知らないとかいろいろ。悠有の喫茶店、兼住居も「夏への扉」という名前だし、そこで飼われている猫の名前なんて「ピート、もしくはペトロニウス/ジェニィ/ク・メル/チェシャ/ハミイー/アプロ」といろいろと呼ばれている始末だしね。この作品は定番だね。あとはところどころに他の作品の固有名詞やセリフが出てきたりする。ホビット荘とかアナキンとかゴーストがそうささやく、とか「猿の惑星」の解釈とか。もちろんお決まりの時間旅行映画の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」もちゃんと出てくる。読みながら出てくる作品一覧を作れば面白いのではないかと思ってたら、ちゃんと作っている人がいた。まぁ、ここのリストの5分の1も鑑賞してないねぇ。

そんな感じで、最初の50ページくらいまでは、漫画的なキャラの個性に戸惑い、鼻につく感じがするが、慣れてくると自分自身が少し頭がよくなった気分にさせてくれる。そしてどんどん物語の勢いに引き込まれていって、7月はじめから9月半ばまでの2ヶ月間の、決して広くない街にたくさんの要素が詰め込まれたひと夏が描写されている。

時間跳躍能力によって、タクトをはじめ周りの世界を置いていって未来に行ってしまう悠有に対して、911テロの後の2003年の舞台にいるタクトは未来に関して以下のように言っている。
「どうせ何もないぜ。未来なんか」
(中略)
「ろくなもんじゃない」
(中略)
「悲惨な事故とか、戦争とか、原発事故とか。そんなのばっかりでさ。地球温暖化と氷河期とが襲ってきて、もう大変。円もドルも暴落しちゃって。で、その後で年金が大崩壊する。あと、関東大震災パート2な。これは間違いない。東京には住まないのが懸命だね、絶対。
(2巻 pp.289-290)
2011年の現在、このセリフの半分は現実のものとなっている状態だね。中東のジャスミン革命が起きたり、それに連鎖してエジプトでデモが起きたり、911テロの首謀者が死んだり、東日本大震災が起きて津波で街が流されて、そんで今も原発問題が依然残っているし。そんなこんなで最近は超円高でドルがやばいって噂だしねぇ。タクトの予言的中って感じだね。ちなみに、この作品が書かれたのは2005年となる。

そして、悲観するタクトに悠有がほんとに?と問う。
 うそに決まっているだろ、悠有。未来はあるよ。たとえ、ろくなもんじゃなくても。そこには火星もある。星を渡る船もある。たくさんの悲惨とほんの少しの幸福、失敗した都市と綺麗な公園、汚れた海と深い夜空がある。
 ぼくらは押し流されてゆく、可能性という名の圧力によって。悠有は、ほんのちょっとだけ先回りをするだけなんだ。ぼくらはたぶん、何者かになる。コージンも、響子も、涼さえも。ぼくは?さて、それは分からない。でも、きっと何かになろうとするだろう。
(2巻 pp.291)
主人公のタクトは、大学進学に向けてこの街の何もかもを置いて東京に行くことを恐れている。その先に何もない未来が待ち受けているのでないかっていう不安があったりで。自分とは逆だなぁと思った。

地元には人も仕事も、可能性も未来もないと思って高校卒業後、飛び出した。anywhere but here(ここ以外の何処かへ)といった感じで。あれからもう10年近く経って、自分が求めていた未来が手に入ったのか!?と思い悩むときもある。何者かになれたのだろうか?とか、本当に地元は何もなかったのか?って。そんなことをこの作品を読みながら考えた。

物語の結末は結構賛否両論があるかもしれない。そこまで引っ張っておいて、そんな感じかよって思わせられるかもしれない。また、ところどころ、著者の知識レベルというか、ありあえない高校生たちの思考回路に置いていかれそうになることもあるし、SF作品の解釈など細かいところに突っ込みを入れたくなるかもしれない。けれど青春小説として、細かいことを気にせずに一気に勢いで読めばいいんではないかと思う。

ちなみに、以下に著者のインタビュー記事がある。恋愛要素とか思春期特有の内面的な葛藤があまりないかもしれないけど、爽快感抜群で夏を疑似体験するにはとても良い作品だと思う。なんとか8月31日のぎりぎり暦の上での夏が終わる前に読めてよかった。SFと青春小説という二つの要素のいいとこどりで、自分の読書欲を存分に満たしてくれた。

まだまだ暑い日が続くかもしれないけど、僕の中でいろんな意味で夏が終わった気がした。まだ夏を終わらせたくない場合は、この作品の世界観にどっぷりつかって、タイムトラベラーになることだね。



サマー/タイム/トラベラー (1)  ハヤカワ文庫 JA (745)
サマー/タイム/トラベラー (1) ハヤカワ文庫 JA (745)
著者:新城 カズマ
販売元:早川書房
(2005-06-16)
販売元:Amazon.co.jp

サマー/タイム/トラベラー2 (ハヤカワ文庫JA)
サマー/タイム/トラベラー2 (ハヤカワ文庫JA)
著者:新城 カズマ
販売元:早川書房
(2005-07-21)
販売元:Amazon.co.jp

読むべき人:
  • SF作品が好きな人
  • 暑い夏の青春小説を読みたい人
  • 未来について衒学的に考えてみたい人
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