October 22, 2011

ねじまき少女

ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF)
ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)
ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF)

キーワード:
 パオロ・バチガルピ、SF、タイ、アンドロイド、カルマ
2009年のSF賞を総なめにした作品。以下のようなあらすじとなっている。
石油が枯渇し、エネルギー構造が激変した近未来のバンコク。遺伝子組替動物を使役させエネルギーを取り出す工場を経営するアンダースン・レイクは、ある日、市場で奇妙な外見と芳醇な味を持つ果物ンガウを手にする。ンガウの調査を始めたアンダースンは、ある夜、クラブで踊る少女型アンドロイドのエミコに出会う。彼とねじまき少女エミコとの出会いは、世界の運命を大きく変えていった。主要SF賞を総なめにした鮮烈作。
(上巻のカバーの裏から抜粋)
聖なる都市バンコクは、環境省の白シャツ隊隊長ジェイディーの失脚後、一触即発の状態にあった。カロリー企業に対する王国最後の砦〈種子バンク〉を管理する環境省と、カロリー企業との協調路線をとる通産省の利害は激しく対立していた。そして、新人類の都へと旅立つことを夢見るエミコが、その想いのあまり取った行動により、首都は未曾有の危機に陥っていった。新たな世界観を提示し、絶賛を浴びた新鋭によるエコSF
(下巻のカバーの裏から抜粋)
読むのしんどかったけど、読了したらこれは結構面白い!!と思えた作品だった。めっちゃ面白い!!絶対買い!!とまでは言えないかもだけど。

作品概要の説明は面倒なのでもう大御所の弾さんのところに外注(笑)。主要な登場人物が5人出てきて、そいつらが水没しかかっている近未来のタイ王国を舞台にそれぞれの思惑で行動していく。

下巻に訳者による登場人物の紹介が軽く示されているけど、それをまるまる抜粋するのも微妙なので、読了後の自分の勝手な印象から5人を示してみたいと思う。
  • アンダースン・レイク―外国人で工場を経営していて、ホク・センをこき使っている。物語の1行目から登場するけど、全体を通して影が薄いので主人公っぽい感じがしない。秘密任務を担っているらしいけど、最後のほうになるまでさっぱりわからなかった。エミコの実質的な主人となる。
  • タン・ホク・セン―中国系難民老人でアンダースンにこき使われているが、アンダースンの工場にある金庫の中身を常に狙っている。狡猾で用意周到なイメージで、実に抜け目ない。マレーシアで豪商だったが、家族が虐殺されたりとあまりよい人生ではない。一緒に工場で働いていた13歳の少女、マイに割と心酔。
  • エミコ―表紙にもなっている遺伝子操作されて生まれた新人類と呼ばれるアンドロイド。陶器のような肌にするために毛穴が少なく、活動しすぎると体温上昇によってオーバーヒートしてしまうので、常に水で冷やす必要がある。日本製で、京都にいたころは源道という老人の秘書として仕えていたが、タイで捨てられる。多言語を操れたりとかなり有能な働き手ではあるが、娼館で虐げられながら生き延びている。
  • ジェイディー・ロジャナスクチャイ―バンコクの虎の異名をもつ環境省の隊長。正義感が強いイメージでタイ王国に忠誠を誓っている感じ。後にバラバラに殺害されるが、霊となって部下のカニヤにまとわりついている。なんだかシェイクスピアのハムレットとかに出てきそうな幽霊のイメージ。
  • カニヤ・ティラティワット―ジェイディーの女性部下だが、ジェイディーの死後に隊長の座を引き継ぐ。下巻の物語をどんどんひっぱって、だんだんと虎になっていくイメージ。一番葛藤とか心理描画が描かれていたような気もする。自分の中では裏主人公。
他にも細かい登場人物がたくさん出てくるのだけど、正直人大杉!!って感じで、上巻を読み進めるのがかなり大変だった。

まず世界観を把握するのが大変だった。タイの街や中国人、タイ人の独特の名前になじみがなく、登場人物を想像しづらかった。さらには、漢字のルビにタイ語のカタカナ表記がたくさん出てきて、脳内をかき乱される感じがした。逆にその微妙な分からなさが引き合いに出される『ニューロマンサー』のように、この作品を特徴づけるようでもある。あと全編を通して細かい設定、カロリーマンとか蔓延する瘤病とか、環境省が保管する種子などやそれぞれの登場人物の思惑が説明不足なまま進む。さらに1章ごとに人物の視点が変わっていくから、なおさら誰がどこで何を意図して行動していくのか?があまりにもわかりづらくて、上巻読了までに若干挫折しそうになる。上巻読了までに3週間以上も時間がかかった。夜に仕事に帰ってきてから疲れている状態で読んでいて、寝落ちしたことが何度もあったけど、それは読みづらさも影響があったと思う。

しかし、下巻に入って一気にページが進んだ。それぞれの思惑からタイ王国を舞台に対立している勢力がぶつかり合っていく。それがなんだか先の読めない展開で、割と意外性に満ちていたと思う。断片的な登場人物たちが、最後に一つの舞台に集約されていくような感じだった。

読了後、これはなかなかの作品だなと思って感嘆してアマゾンレビューを確認すると、賛否両論な感じだった。まぁ、確かに冷静に振り返ってみると、細かい部分は気になるなぁと思ったりする。結局北にあると言われるエミコのようなねじまきたちが住む世界がちゃんとあったのかとか、何の説明もなく霊となって普通にカニヤと会話しているジェイディーの存在とか、日本人の描写とかね。そもそもこの作品の主人公は誰だ?とか。

でもこの作品は細かい部分には目をつぶって勢いで読んでいくとよいかもしれない。とにかく上巻をさくっと読み終わらないと下巻の面白さにたどり着けなくなる可能性があるので。

エミコが娼館でおもちゃのように扱われていたり、タイ市街戦などの描写もあったりで、ところどころでエログロだったりする。SFっぽさは確かに薄めなのだけど、そういう部分は割と強烈かもしれない。そういうのに耐性があまりない人は読まないほうがいいかもしれない。

タイ王国を舞台とした権力争い、遺伝子ハック、ディスク型殺傷兵器、蔓延する疫病、近未来なのに人力車が走る雑踏、ぜんまい動力、市街戦、宗教的な要素、日本製のねじまきなどなどいろんな要素が詰め込まれた世界観とか構成力はよかったかなと思った。物語そのものは面白いかはちょっとわからないけど、それでも読了後に何か強く残るものがあったのは確か。

あと、どうでもいいことだけど、社会人になって最初のプロジェクトの上司にタイ人がいたことを思い出した。日本語ペラペラで、お世話になったなぁと。また、それしか自分とタイの関連性はないのだなということを実感した。

近未来のタイの独特の世界観を味わいたい人はぜひ。



ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)
ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)
著者:パオロ・バチガルピ
販売元:早川書房
(2011-05-20)
販売元:Amazon.co.jp

ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF)
ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF)
著者:パオロ・バチガルピ
販売元:早川書房
(2011-05-20)
販売元:Amazon.co.jp

読むべき人:
  • タイに旅行に行ったことがある人
  • 日本製美少女アンドロイドが好きな人
  • アジアンなSF作品の世界観に没頭したい人
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