January 07, 2012

闇の左手

闇の左手 (ハヤカワ文庫 SF (252))
闇の左手 (ハヤカワ文庫 SF (252))

キーワード:
 アーシュラ・K・ル・グィン、冬、SF、対立、調和
ヒューゴー賞を5度、ネビュラ賞を6度受賞した作家によるSF小説。以下のようなあらすじとなっている。
遥かなる過去に放棄された人類の植民地、雪と氷に閉ざされた惑星ゲセン。「冬」と呼ばれているこの惑星では、人類の末路が全銀河に類をみない特異な両性具有の社会を形成していた。この星と外交関係をひらくべくやってきた人類の同盟エクーメンの使節ゲンリー・アイは、まずカルハイド王国を訪れる。だが、異世界での交渉は遅々として進まない。やがて、彼は奇怪な陰謀の渦中へと……ヒューゴー、ネビュラ両受賞の傑作
(カバーの裏から抜粋)
去年の秋ごろからSF小説を読み込んでいこうと思っていた。ジュンク堂や紀伊国屋などの大型書店のSFコーナーを見て回ったりして、面白そうなものを探していた。しかし、本書はそこでは発掘されなかった。この作品を見つけたのは、松丸本舗の『本集』のSFコーナーだった。著者を全く知らず、最初はタイトルに惹かれて手に取ってみた。あらすじを見ても心躍るような冒険譚ではなさそうだったけど、松丸本舗にあるのだから外れはないだろうと思って買ってみたら、その通りだった。

著者は、『ゲド戦記』の原作者でもあるようだ。そんなことも知らず、かつ女性だとも知らずこの作品を読んだ。

カバーの裏のあらすじだけでは、本書の概要はいまいち分かりづらいので、解説の一部を引用。
 極寒の惑星ゲセンでは太古にハイン人による遺伝子実験がおこなわれた結果、住人はすべて両性具有だった。極秘の現地調査がおこなわれたのち、エクーメンからの使節として、ゲンリー・アイが単身ゲセンにおりたつ。アイはまず、カルハイド王国をおとずれるが、文化の厚い壁にはばまれて思うにまかせない。つづいておとずれたゲセンのもうひとつの大国、オルゴレインでも政略にまきこまれたアイは、追放されたカルハイドの元宰相エストラーベンとともに、生命の気配ひとつない真冬の大雪原を横断する無謀な脱出行に旅立った……。
(pp.370)
ゲンリー・アイは長身の黒人で、男性である。しかし、ゲセンの人々は両性具有であり、一生を通して父親にも母親にもなれる。ケメルと呼ばれる発情期に相手を見つけて生殖し、子供をもうける。そのため、父親的な立場だったものが後で子を産み、母親になったりする。

ゲセンの人々は中性的な顔立ちで、身長は高くなく、筋力もそこまではないが、マイナス50度の世界の極寒でたいした暖房がなくても耐えられるように進化している。そんな惑星に、エクーメンという銀河の連合体の使節として一人で宇宙船にやってきたゲンリー・アイは、ゲセンがエクーメンの同盟となって、知識、文化、政治的にも調和をもたらしたいと思っている。しかし、ゲンリー・アイが唯一頼れるがそこまで好きではない、首相の立場にあるエストラーベンは国王の側近の陰謀によって王国を追放される。

ゲンリー・アイは隣の国にオルゴレインに行って同盟の糸口を探すが、そこで逮捕されて刑務所に投獄されてしまう。その後、追放されてやってきたエストラーベンとともに脱獄し、カルハイド王国とオルゴレインの対立を鎮静化し、さらにはこのゲセン全体のためにもゲンリー・アイの宇宙船から通信をして、ゲンリーの仲間たちを呼び寄せることが重要であると理解する。そのためにつかまらないように、2人で80日ほどかけてソリとテント、食料を持ち、マイナス50度の大雪原を800マイルも横断するというお話。

単純なエンターテイメント的な要素としてのSF小説として読むと、肩透かしを食うかもしれない。まず、かなり読み進めるのがしんどいタイプの作品である。惑星冬の寒く厳しく、独自の政治的、生態的な描写が淡々と続く。

また、「シフグレソル」といった、ゲセンの文明全般における社会的権威に関する翻訳不能な原理のような用語や、民話的、宗教的な描写も多く、それらの概念を理解して読み進めていくのもしんどい。また会話も割と抽象的で単調な感じがする。全体的に起伏があまりなく、天候的な変化があまりない真っ白な大雪原に漂っているような感覚。逆にそれが本書の魅力でもあり、この作品の特徴なのだろう。

闇の左手』とは光のことである。その部分に関して、ゲセンの民話的な歌をエストラーベンが口ずさんでいる部分を抜粋。
光は暗闇の左手(ゆんで)
暗闇は光の右手(めて)。
二つはひとつ、生と死と、
ともに横たわり、
さながらにケメルの伴侶、
さながらに合わせし双手、
さながらに因-果のごと。
(pp.282-283)
ここがとても印象的。この後のゲンリー・アイとの会話でも、エストラーベンは、「われわれも二元論者だ」と言っている。

本書全体の印象は、表面的には二元論的な印象を与える。しかし、単純な二項対立に収まらない、光と闇の調和のようなもの、つまり大雪原を2人で苦労しながら横断する過程で、お互いを深く知り、認め合いながら異星人としてのゲンリー・アイを受け入れること、そして対立中のカルハイド王国とオルゴレイン、さらにはゲセンとエクーメンの関係の変化を暗に示しているのだろう。それが単純なエンターテイメント的な要素だけのSF小説と違う、この作品の深さである。

関係の変化、受け入れることが本作品のテーマなのかなと思った。やはり本書のカバーイラストのように、2人で食料を節約しながらソリを引き、極寒の大雪原を渡っているところがとても印象的。お互いをあまり信頼していない状況から、男でも女でもないエストラーベンと異星人かつ男であるゲンリー・アイの友情みたいなものが芽生えていく過程がよかった。

寒そうな描写満載なので、冬に読むのがおすすめかな。本書を読みかけの途中で地元に帰った時、雪の中をわざわざ1時間歩いてみたりして、より寒さの描写のリアルさを得ようとしたりもした。

一気に読み進められるような作品ではないけど、その分いろんな読み方、考え方ができる、優れた思考実験としてのSF小説だと思う。

冬が終わる前に、ぜひ読んでみたらよいと思う。



闇の左手 (ハヤカワ文庫 SF (252))
闇の左手 (ハヤカワ文庫 SF (252))
著者:アーシュラ・K・ル・グィン
販売元:早川書房
(1978-09)
販売元:Amazon.co.jp
読むべき人:
  • 二元論者の人
  • 男と女といった性別について考えてみたい人
  • 何かを受け入れようとしている人
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