May 06, 2012

今夜、すベてのバーで

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)
今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

キーワード:
 中島らも、アル中、肝硬変、バー、欠落
中島らも氏の小説。以下のようなあらすじとなっている。
薄紫の香腺液の結晶を、澄んだ水に落とす。甘酸っぱく、すがすがしい香りがひろがり、それを一口ふくむと、口の中で冷たい玉がはじけるような…。アルコールにとりつかれた男・小島容が往き来する、幻覚の世界と妙に覚めた日常そして周囲の個性的な人々を描いた傑作長篇小説。吉川英治文学新人賞受賞作。
(カバーの裏から抜粋)
中島らも氏のことはあんまりよく知らなかった。自分が大学生のころ、階段から転げ落ちて、そのまま亡くなられた人、という認識しかなかった。そもそも本業がなんなのか知らなかったし。Wikipediaを見てみると、パンクな感じで激しい一生を送られたようだ。本書は、どこかでタイトルに惹かれて買って積読状態だった。確かその当時、Bar巡りをしようと思っていたから。今も新宿三丁目を開拓しているけどね。

実際に読んでみたら、タイトルから想像していたものとは全然違った。いろんなお酒が出てきて、Barのうんちくとか粋な飲み方?とかそういうのが出てくるのかと思っていたら、アル中の話だった。

あらすじは簡単。酒飲みの35歳の男、小島が、アルコール中毒を自覚しつつもなかなか断酒できず、ほぼ肝硬変の状態のところで病院に担ぎ込まれてそのまま入院する。そこで医者の赤川、小島の友人の妹であり、小島の事務所の社員である天童子さやか、そして病院の入院患者たちとの関係が描かれている。

病院で入院している話で、妙にリアルな描写が多い。同じ病室で高齢のおじいさんが頭をぶつけて血だらけになったり、17歳くらいの演劇に関心がある少年がいたり、さらに病院食の描写とかトイレの蓄尿の描写とか。やはりというか、巻末に載っている山田風太郎氏との対談で、35歳の時に病院担ぎ込まれた経験があり、ほとんど実話だと語っている。なるどなぁと。実体験じゃないとここまでリアリティのあるものは描けないだろうね。

僕も入院したことがあるから、病院での入院生活というのがよく分かる。主人公、著者のように酒を飲みすぎて肝硬変になったわけではなく、腎臓が悪くなってだけど。相部屋だとまぁ、いろんな人がいて、テレビがうるさかったり、やたら話しかけてくる人とかね。著者はその周りの患者が面白くて、日記をつけていたらしい。僕は精神的にストレスになるから途中で個室にしてもらったけど。

主人公は肝生検という針のようなものを刺し、肝臓の細胞を採取するというものをやることになる。自分は腎生検をやったことがある。手術というほどではないけど、局部麻酔をしつつも、長い針で刺されるときは結構な痛みがあって、はぅあ!!って感じww一瞬だけど痛い。そうやって採取した細胞をいろいろ細かく検査する。そういう描写も、臓器は違うけれど、やったやったって感じで共感できた。

ただ、主人公の肝硬変の原因はアルコール中毒によって、毎日ろくに食べ物を食べずに、ウイスキーなどの強い酒ばかり飲んでいる生活を送っていたのが原因とはっきりわかっているが、僕の場合は医者に原因不明と言われて、ふむ、それは仕方ないなという感じでもある。

本書を読んでいると、やたらとアルコール中毒の人の生活とかアルコール中毒になる原因などに詳しくなれる。巻末に各種参考文献が示されているように、かなり専門書を基に描かれているようだ。そして久里浜式アルコール症スクリーニングテストというアルコール依存症をチェックできるテストがそのまま載っていたりする。主人公の小島は12.5点と重症。
自分もやってみたら、−6.1と全く正常の部類に入った。お酒は好きなほうだけど、かといってもともと強くもないし、腎臓が悪いのにそんなにたくさん飲めるわけもないので。最近は2杯で十分楽しく酔える。

アル中的な話ばかりに焦点を当ててしまったけど、主人公を取り巻く人間関係模様もちゃんと描かれていて、読み終わった後にある種の心地よさみたいなものを得られたと思う。読んでいる途中は、酒の飲みすぎは危険だなぁと思わされるのだけど。

一ヶ所何となく線を引いてしまった部分を引用。担当医の赤川と小島のやり取りで、小島の会話から始まるところ。
「だから、アル中ってのは、内臓とかそういうことももちろんネックなんだろうけど、もっとこう、何ていうか、内的な問題だと思うんですよ。なぜ、飲む人間と飲まずにすませられる人間がいるのかっていう。それがわかれば、ずいぶんとちがうと思うんですが」
「あんたはどう思うんだね」
「飲む人間は、どっちかが欠けてるんですよ。自分か、自分が向かい合っている世界か。そのどちらかか両方かに欠落してるものがあるんだ。それを埋めるパテを選びまちがったのがアル中なんですよ」
「そんなものは甘ったれた寝言だ」
「甘ったれてるのはわかってるんですが、だからあまり人に言うことじゃないとも思いますが、事実にはちがいないんです」
「欠けていない人間がこの世のどこにいる」
「それはそうです」
「痛みや苦しみのない人間がいたら、ここへ連れてこい。脳を手術してやる」
(pp.228-229)
ここが特に印象に残った。自分の中の欠落部分に思いめぐらしつつも、別にそれを埋めるものは酒ではなかったのだなと。

酒好きな人は一度は読んでみたほうがいいかもしれない。自分がアルコール中毒じゃないかと確認するのにもよいし、純粋にこれを読みながら酔うのにもね。

DSC_1338

タイトルのように、Barで読んでみたりもした。写真はザクロビールと。
お酒はほどほどに楽しむのがいいよ。



今夜、すベてのバーで (講談社文庫)
今夜、すベてのバーで (講談社文庫)
著者:中島 らも
販売元:講談社
(1994-03-04)
販売元:Amazon.co.jp

読むべき人:
  • お酒が好きな人
  • お酒の失敗が多い人
  • 自分の中に欠落したものがある人
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