May 17, 2012

僕らが働く理由、働かない理由、働けない理由

僕らが働く理由、働かない理由、働けない理由 (文春文庫)
僕らが働く理由、働かない理由、働けない理由 (文春文庫)

キーワード:
 稲泉連、働く、社会、不安、青春
不安な社会を生きる若者たちのインタビューがまとめられた本。以下のような目次となっている。
  1. 第1章 納得のいく説教をされたいんだ―無気力な大学生の曖昧な未来
  2. 第2章 あんな人間になりたくない―「営業」職への苛立ち
  3. 第3章 すべてを音楽に捧げて―エリート・コースからミュージシャンへ
  4. 第4章 友達の輪を求めて―楽しきフリーター生活
  5. 第5章 引きこもりからの脱出―彼が苦悩の年月を受け入れるまで
  6. 第6章 働くことは続けること―ヘルパーとして生きる
  7. 第7章 俺はなんのために生きているんだろう―若き学習塾経営者の葛藤
  8. 第8章 石垣島で見つけた居場所―サーファー、海人になる
(目次から抜粋)
本書は、2001年、著者が大学3年生のころに書かれた本となる。著者は高校を中退し、大検を経て早稲田大学第二文学部に入学し、しだいに「社会に出ていくことへの不安」を感じていたようだ。そして、その違和感を基に、自分の身近にいる若者たちはどんな子供時代、青春時代を送ってきて、これから社会へ飛び立とうとしているのかが気になり、7人の男たちにインタビューをしてまとめられたのが本書となる。

以下あとがき部分に本書の経緯を引用しておく。
 社会に出るための心の準備ができていないから不安なのか?それとも「働く」ことが嫌なのか?だいたい、その「社会」って場所に行くために人は心の準備などをするのものなのか?……そもそも社会ってなんだ?働くってなんだ?

 本書はそんな気持ちで取材を続けた結果生まれた。
 僕は、周りにいた友人や親戚や、偶然出会うことになった二十代〜三十代前半の人たちに、「あなたはどうしてそこにいるのか?どうして働いているのか?あるいは、なぜ働いていないのか?」といった問いを投げかけた。その答えを聞けば、「社会」に出るということがどういうことなのか、という曖昧な疑問を解くヒントが見つかるかもしれないと思ったからだ。
(pp.290)
7人の男たちの生い立ちは実にさまざま。大学5年生で、卒業後は就職せずにフリーターになる人、専門学校卒業後に自動車販売の営業職に就いているが、辞めたいと思っている人、名門中学に入学してバンド活動に目覚めた人。

さらには、ゲームが好きで専門学校に行くも、ゲームだけがすべてではないと悟り、そのままフリーターになった人、高校生から引きこもりになってしまったが、アメリカで空手に自分の道を探った人、高卒後、スキー用品店から老人介護のヘルパーになって活躍する人、ミュージシャンを目指していたが、塾講師として月収100万円を得るまでに成功したが、何のために生きているのだろうと悩む人、大検取得後、沖縄で漁師になった人などなど。

それぞれがいわゆる世間一般で言う、普通に小学校、中学校、高校も問題なく過ごし、そして大学生になって就職するというレールからは大きく逸脱している。みなどこか社会への不安や自分自身の中にあるうまく言語化できないもどかしさのようなものを抱えて、思い悩みつつも、それでもそれぞれの道で活路を見出されている。

客観的に本書を読むと『So What?』という部分もある。それぞれの生い立ちから現状までが淡々と著者の読ませる文章で書かれているが、特に彼らの生き方が劇的に好転したり、何か答えを見出せているわけでもないから。でも、その『So What?』の部分に対する純粋に共感できる部分、自分はどうなのだろう?と自然と考える部分を大切に読んだほうがよい気がした。

プロローグに以下のような部分が示されている。
 なぜこうまで自分が不安になるのかわからない。なぜ自分にとって社会がこうまで大きな壁となって立ちはだかっているのか。それは、社会に対して感じる圧倒的な違和感と言い換えることができるのだが、そうした違和感は僕だけが抱いているものなのだろうか。
(pp.15)
これは僕も大学生のころに常に感じていた。

大学1年生のころ、ちょうど季節的には今頃で、学生生活も少し慣れたころ、なんとなくこのままぼーっと大学生活を送っていくことに対するどうしようもない不安を感じていた。第1志望ではなかったし、入試科目も少なかったり、講義の教養科目もほとんどないので、専門バカになって社会に出てから全く通用しなくなるのではないか?と感じ、このまま社会人になっていくことに対して不安があった。そこから読書を始めるようになった。

それから大学3年生になって就職活動が始まり、より社会へ出るということへの意識が強まっていく中で、その当時講義をフルコマでこなしつつも19時から深夜までシステム開発のバイトをやっていて忙殺されており、将来はあんまり働きたくないなぁとも感じていた。ずっと好きな本を読んだり、映画を見たりしてゆっくり過ごせたらなぁと思っていた。それは今も変わらないのだけど。

常に不安で押しつぶされそうだった。何とか就職活動がうまくいって、卒業して社会人になったのはいいけど、そこからまた苦難が待ち受けていて、学生時代に感じていたものとは全く異質で、さらに強烈な不安に苛まれることになった。だから本書を読んでいると、昔の自分を思い出しつつも、現状の抱えている自分の不安がオーバーラップして共感できた。とはいえ、本書を読んでも社会への不安の対処法、働くことの意義などの答えなど何も得られない。

もともと何か答えを探そうと期待して読んだわけではなかったので、それでいいのだと思う。何かしら感じた部分、自分なりの働く意義やこれからの将来へ向けてどうするべきか?ということを考えるきっかけになると思う。

本書が描かれたのはもう10年前ほどの社会状況なのだけど、10代後半から20代を通して生きる若者たちの普遍的な社会への不安、体制への不満、ぼやけたアイデンティティ、空回りする情熱、思い通りにならない苛立ち、家族関係や友人関係などの葛藤、将来の見えない空虚感などはいつの時代にも共通認識としてあるのだと思う。そういうよい部分も悪い部分もひっくるめた、著者の読ませる文体よって描かれる『青春』が本書にはある。

同じようないろんな人にインタビューしてまとめられた本として、以下がある。これもレールから外れた様々な職業の人たちが出てくる。あわせて読んでおくとよいかも。

働く意義が見出せなかったり、自分自身が将来どうなっていくのかわからない不安というのは常に付きまとうもので、簡単に対処できるものではないなぁと実感している。しかし、活路を見出すというように、考えなくてはいけないし、かといって考えているだけでは何も始まらないので、行動しなくてはならない。考えながら行動していったら、あるとき、自然と不安が軽減されていたり、自分なりの働く意義が見出されているのだと思う。もしそうでなかったら、人生なんて不安と苦悩だらけでまったく残酷だよ。

社会へ出ることへの不安を感じている大学生や、すでに働いているけど何のために働いているのかよく分からない社会人の人は、読んでみたらいろいろと考えるヒントになると思う。



僕らが働く理由、働かない理由、働けない理由 (文春文庫)
僕らが働く理由、働かない理由、働けない理由 (文春文庫)
著者:稲泉 連
販売元:文藝春秋
(2007-03)
販売元:Amazon.co.jp

読むべき人:
  • 就職活動中の大学生の人
  • 入社3年目くらいの人
  • 不安の中で生きている人
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