November 25, 2012

料理人

料理人 (ハヤカワ文庫 NV 11)
料理人 (ハヤカワ文庫 NV 11)

キーワード:
 ハリー・クレッシング、料理、食指、欲望、支配
ハリー・クレッシングという作家の作品。以下のようなあらすじとなっている。
平和な田舎町コブに、自転車に乗ってどこからともなく現れた料理人コンラッド。町の半分を所有するヒル家にコックとして雇われた彼は、舌もとろけるような料理を次々と作り出した。 しかし、やがて奇妙なことが起きた。 コンラッドの素晴らしい料理を食べ続けるうちに、肥満していた者は痩せはじめ、痩せていた者は太りはじめたのだ・・・・・。 悪魔的な名コックが巻き起こす奇想天外な大騒動を描くブラック・ユーモアの会心作。
(カバーの裏から抜粋)
作者のハリー・クレッシングという人は、誰なのか素性が分かっていないらしい。著名な作家が覆面で書いたのか、それともまったく無名の作家なのか。ネットでググった限りだと、ロアルド・ダールだという噂があるようだ。とはいえ、著者が誰であるか、そもそもこの物語はどういうものか?という先入観を全く入れずに読んだほうがいい。

なので、以下ネタバレしない程度に本書について書いておくことにしよう。

簡単にあらすじを説明しておくと、コンラッドという料理人は、2メートル近くもある長身だが、細身でやややせ気味である。鷲鼻で瞳は黒く、どこか冷淡な印象さえ抱かせる。そのコンラッドは、ヒル家という田舎町の屋敷にコックとして雇われることになる。街に着くなり、肉屋、魚屋、八百屋に行っては食材の品質にケチをつけ、もっと上等なものをよこせと言ったりする高飛車な客となった。

そしてコックとしてヒル家で働き始める。古今東西のあらゆる料理本を持ってきており、独自のレシピもある。そして腕は間違いなく一流であり、田舎町コブとは違う都会のシティの一流の富豪の友人などがいたりする。ヒル家に料理をもてなしつつ、そこで一緒に働く執事、家政婦、使用人、ヒル家の双子の兄妹、ヒル夫妻、そしてヒル家の近くのヴェイル家を料理で虜にしていく。

主人公のコンラッドという男は冷淡で他人を見下しているような印象さえ抱かせる。どこか冷酷な部分も持ち合わせており、ヴェイル家のコックを憤慨させつつ自分と対峙するように仕向け、そして飲み屋でそのコックの手に包丁を突き刺したりする。かと言えば、ヒル家の人間には割と常識ある態度で接したり、最高の料理を日々提供し、ヒル夫人、その夫、そして徐々にコンラッドから料理を学ぶヒル家の長男ハロルドに対してさまざまなことに対して的確なアドバイスをしていく。

読み進めていくうちに、コンラッドという男が計り知れない存在だと分かっていく。と同時に、違和感が湧いてくる。おかしい、役に立たない人間や愚鈍な人間に対してはとことん冷酷な態度を示すが、ヒル家を取り巻く人間に対しては料理というもてなしをしつつ、至極まっとうな言動をとっている。その二面性がどこか危ういというか、この先このヒル家はどうなるのか?そして、一体この男は何を考えているのか!?と。

ある程度読み進めていくと、それとなく分かる。コンラッドの料理を食べていくうちに、ヒル家の人間は痩せていき、ヴェイル家の人間は太りつつある。これは…、なるほど、そういうことかと勘の良い読者は気づく。しかし、登場人物内で唯一分かっているのは、的確な診断ができず、疎ましい存在だとコンラッドに印象付けられた、ヴェイル家の専属の医者だけであった。

もうこれ以上はネタバレになるので、あまり書けない。あとちょっと書いておくと、料理でコンラッドを取り巻く人も街もすべて思いのままに操っている。まさに究極の人心掌握術だなと。そしてそれは遅行性の毒のように徐々に浸透していく感じで、コンラッドという男は恐ろしい奴だなと思った。用意周到で頭も切れる、そして料理の腕は超一流ときている。そんな男を取り巻くこの物語がとても面白かった。読了後にニヤリとしてしまうような感じだった。

一ヶ所だけコンラッドがヒル家の人間に対して語っている部分でなるほどと思った部分があるので、そこを引用しておこう。
あなただって、自分の家の食卓の特別料理を町中のコックが作れるとしたらいい気持しないでしょう?その晩の自分の家でしている食事は他のどの家のものとも違う、そう思えてこそ本当に愉快なんですよ。それによって、同じ食卓にいる人たちは特別な経験を分け合っているということになり、お互いの気持が結ばれ、楽しい雰囲気がかもしだされているのです―そう思いませんか?
(pp.78)
一人で食事をしながら味わうのもいい。けれど、誰かと一緒においしいものを食べるのもまた、特別な経験を共有していることなんだなと気づかされた。

通勤電車の帰り道に読んでいたのだけど、料理の描写が多くて、自然と腹が減ってくる。そして洋風の料理を食べたくなってくる。これは間違いない。自然とおいしいものを食いに行きたくなるので、食費を抑えようと努力している人は読まないほうがいい(笑)。間違いなく、ちょっと高めのレストランに行きたくなるので。

Amazonの画像は新版なのだけど、自分は旧版のほうで読んだ。カバーイラストも旧版のほうがコンラッドのイメージにぴったり。Amazonのレビューを読むと、旧訳のほうがコンラッドのユーモアが効いているということだし。

cook

この作品を読めば、食指を動かされることは間違いない。そして、『料理』について考えるだろう。



料理人 (ハヤカワ文庫 NV 11)
料理人 (ハヤカワ文庫 NV 11)
著者:ハリー・クレッシング
販売元:早川書房
(1972-02)
販売元:Amazon.co.jp

読むべき人:
  • 料理が好きな人
  • 食べることが好きな人
  • 人心掌握術に関心がある人
Amazon.co.jpで『ハリー・クレッシング』の他の作品を見る

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コメント一覧

1. Posted by ブックエス★料理書籍・専門ブログ★   August 13, 2013 13:15

4 記事を読ませていただきました。料理本というより、小説の性格が強いようです。

2. Posted by Master@ブログの中の人   August 13, 2013 23:43

本書は小説の性格が強いというよりも、そのまんま小説です。

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