December 06, 2012

街場の文体論

街場の文体論
街場の文体論

キーワード:
 内田樹、文学、言語、敬意、学問
フランス現代思想が専門の先生による文体論。以下のような目次となっている。
  1. 第1講 言語にとって愛とは何か?
  2. 第2講 「言葉の檻」から「鉱脈」へ
  3. 第3講 電子書籍と少女マンガリテラシー
  4. 第4講 ソシュールとアナグラム
  5. 第5講 ストカスティックなプロセス
  6. 第6講 世界性と翻訳について
  7. 第7講 エクリチュールと文化資本
  8. 第8講 エクリチュールと自由
  9. 第9講 「宛て先」について
  10. 第10講 「生き延びるためのリテラシー」とテクスト
  11. 第11講 鏡像と共-身体形成
  12. 第12講 意味と身体
  13. 第13講 クリシェと転がる檻
  14. 第14講 リーダビリティと地下室
(目次から抜粋)
本書は神戸女学院大学での最終講義「クリエイティブ・ライティング」で話したことを基に作成された本らしい。文学と言語についてこれまで著者が言ってきたこの総まとめ的な本ということになるようだ。これはすごく面白かったね。小説を読むのとはまた違った、知的刺激を一気に受ける、そういうドライブ感というか疾走感のある面白さ。そしてたくさん線を引いた。

最初は書くこと、文体についての講義から始まるのだけど、そこから村上春樹や世界文学論になったり、映画の話になったり、電子書籍が出ても紙の本がなくなるわけがないといったことや、少女マンガの読み方とか、専門のロラン・バルトのエクリチュール論へ、そして外国語を学ぶということ、そして学問とは?ということまで話題は多岐にわたる。話がいろんな方向に飛ぶのだけど、それらのつながりとか、普段得られない視点、考えないことがたくさん出てきて、脳内を一気に有機的に刺激される。

なので全体的なことをうまく書くこともできないので、恣意的にへーっと思った部分などを取り上げておくことにする。

やはり「文体論」とタイトルにあるのだから、最初は文体論に近いところ、「読み手に対する敬意」という節から。

受験生などは小論文の書き方などを学ぶ機会があったりするが、それらは点数を獲得するためだけの技術であって、自分が「本当にいいたいこと」にどうやって出会うか、自分に固有の文体をどうやって発見するかを教わるわけではない。そして、テストの解答のように問題を見たら、こういうことを書いたら採点者は喜ぶだろうという、読み手の知性を見下して書くというようなことほど不毛なことはない、そこには敬意がないと示されている。以下、ちょっと長いけど、敬意と文体の創造性に関する部分を引用。
 敬意というのは「読み手との間に遠い距離がある」という感覚から生まれます。自分がふだん友だちと話しているような、ふつうの口調では言葉が届かない。教師に対して失礼であるとかないとかいう以前に、そういう「身内の語法」では話が通じない。自分のふだん使い慣れた語彙やストックフレーズを使い回すだけではコミュニケーションが成り立たない。そういう「遠い」という感覚があると、自分の「ふだんの言葉づかい」から一歩外に踏み出すことになります。
(中略)
 情理を尽くして語る。僕はこの「情理を尽くして」という態度が読み手に対する敬意の表現であり、同時に、言語における創造性の実質だと思うんです。
 創造というのは、「何か突拍子もなく新しいこと」を言葉で表現するということではありません。そんなふうに勘違いしている人がいるかもしれませんけれど、違います。言語における創造性は読み手に対する懇請の強度の関数です。どれくらい強く読み手に言葉が届くことを願っているか。その願いの強さが、言語表現における創造を駆動している。
(pp.15-16)
大げさな表現ではあるけれど、これはもう自分の中でパラダイムシフトが起きたような感覚!!そういうことか!!っと感じた。そして著者が数十年に渡りたくさん読み書きしてきた結果、書くということの本質は「読み手に対する敬意」に帰着するという結論に達したらしい。なるほどなぁと思った。

現在は大学のレポートや仕事での報告書などに限らず、ブログ、Twitter、facebookなどなど、いろんなところで書くことができる。特にネット上で表現することはとても容易なのだけど、そこにどれだけ読み手に対する敬意があるのか?ということを考えるきっかけになった。

よくはてブでブクマ数を稼ぐ記事や炎上記事などは、なんだかディスリ合いであったり、そんなことも知らないのm9(^Д^)プギャーみたいなものが多かったりする。もしくは、いかに自分がいろいろと知っているか、どうだすごいだろ!!という自己顕示欲がとても強い記事もあったりする。そういうのは傍観している分には面白いこともあるけど、まったく読み手に対する敬意がないよね!?ということになる。アクセス数など瞬間最大風速的に記録をたたき出せるかもだけど、継続して読み続けたいかというとやっぱり違うよねって思うしね。

逆にRSSリーダーに登録して自分がコンスタントにウォッチし続けたいと思えるブログやネット記事などは、「お願いです。私の言いたいことをわかってください」という懇請の気持ちが強く表れていると思う。翻って、僕もこんな読書ブログを6年以上継続してきたけど、そこにちゃんと「情理を尽くして語る」ということや「読み手に対する敬意」を払ってきただろうか?と振り替えざるを得なかった。あんまり意識したこともなかったからね。書きたいことをいくらでも書ける時代に生きるのだから、こういうネットリテラシーのさらに上の次元の観点も持ち合わせたほうがいいね、と思った。

あとちょっと軽めの話題に目を向けると、著者と別の先生の対談で、その先生は少女マンガが全然読めないという話があって、それは少女マンガはセリフの層が多層的だかららしい。つまり、口には出さなかったセリフ、さらには「自分がそんなこと心に思っているとは知らない無意識」まで手書きの文字で吹き出しの外に書き込まれているのが特徴らしい。このナレーションの多層性が少女マンガを読みなれていない人にはハードルになるんだって。これはなるほど!!!そういうことだったのか!!とパラダイムシフトを起こさない程度に(笑)、地味に感嘆した。

漫画が大好きで、また昨日も朝から漫画喫茶で20冊くらい読んでいて(今はVacation中だよ!!)、青年誌系は連続して同じ作品を読み続けられるのだけど、少女マンガだけは1巻読むともう疲れて読めない。なんというか全部の文字を読み込んでいくと精神的に疲労するというか、グダグダといろいろと考えすぎだろ!!と思ったりして、女性心理が自分には分からないのではないかと思ってしまうほどでw。

なので、著者曰く、少女マンガは熟読してはいけない、ざっと読むといいらしい。半分意識を飛ばして、目を半眼にさせて、その代り繰り返し読まないと少女マンガは分からないとあった。なるほどね。熟読しないで読めばいろいろとまた新しい世界が開けてくるようだ。

ほかにもいろいろとたくさん線を引いたのだけど、最後に学問の本質的なことが示されている部分があるので、そこを引用。
 学問というのは、そういうものだと僕は思っています。どの専門分野でも、先駆者は前人未踏の地に踏み込んで、道を切り拓き、道標を立て、階段を刻み、危険な個所に鎖を通して、あとから来る人が安全に、道を間違えずに進めるように配慮する。そのような気づかいの集積が専門領域での集合的な叡智をかたちづくる。だから、どの領域でも、フロントラインに立つ人の責務は「道なき道に分け入る」ことだと思うんです。
(pp.271)
先人の分け入っていった業績などに敬意を払いつつ、これからの後進のために自分が何をできるか?ということを考えることが重要なんだなと思った。これは学問に限らず、お仕事でも大事なことだね。そして、僕がこのような読書ブログをやっているのも、ネットワーク越しの見知らぬ誰かに対して、自分と同じ轍を踏まないように道標を立てること、なのかなと思った。まだまだ専門領域の集合的な叡智とは程遠いのだけど。

この本は著者の30年に渡る研究や思索、読み書きの成果が凝縮されているような本だと思った。これが1,600円で得られるのはとても安すぎる!!というほどに。

講義録が基になっているので、臨場感あふれる講義を聞いているような感覚になる。そして、その疾走感は半端なく、変な例えだけど、競馬で最後の直線で先頭を走る2頭が並走してデッドヒートを繰り広げる!!みたいな感覚になる。なので、この本は1章ずつ読んでいくというようなことはせずに、抽象的でわかりづらい部分があっても、一気に読み込んでいくというのがいいと思う。

街場シリーズは他にもあるようなので、それらも読もうと思った。他には読書論とか中国論とか教育論があるようだ。ついでに、以前読んだ内田先生の本は以下。本書は、すべての書く人、学問をやっている人にぜひおススメの素晴らしい本だった。



街場の文体論
街場の文体論
著者:内田樹
販売元:ミシマ社
(2012-07-14)
販売元:Amazon.co.jp

読むべき人:
  • 知的刺激を受けたい大学生の人
  • ブログや本を書いている人
  • 学問について考えてみたい人
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コメント一覧

1. Posted by kaakun2009   December 16, 2012 11:34

5 『書くということの本質は「読み手に対する敬意」に帰着する』
貴重な道標をありがとう。

2. Posted by Master@ブログの中の人   December 16, 2012 12:56

>>kaakun2009さん

コメントありがとうございます

稚拙ながら自分もこのようなブログを書いている身なので、この書くという本質はとても身に染みるものがあります。

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