December 28, 2012

夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです

夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです 村上春樹インタビュー集1997-2011 (文春文庫)
夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです 村上春樹インタビュー集1997-2011 (文春文庫)

キーワード:
 村上春樹、インタビュー、井戸、引き出し、物語
村上春樹のインタビュー集。以下のような目次となっている。
  • アウトサイダー(聞き手 ローラ・ミラー(Salon.com 1997年))
  • 現実の力・現実を超える力(聞き手 洪金珠(時報周刊 1998年))
  • 『スプートニクの恋人』を中心に(聞き手 島森路子(広告批評 1999年))
  • 心を飾らない人(聞き手 林少華(亞洲週刊 2003年))
  • 『海辺のカフカ』を中心に(聞き手 湯川豊、小山鉄郎(文學界 2003年))
  • 「書くことは、ちょうど、目覚めながら夢見るようなもの」(聞き手 ミン・トラン・ユ
  • イ(magazine litt´eraire 2003年))
  • 「小説家にとって必要なものは個別の意見ではなく、その意見がしっかり拠って立つことのできる、個人的作話システムなのです」(聞き手 ショーン・ウィルシー(THE BELIEVER BOOK OF WRITERS TALKING TO WRITERS 2005年))
  • サリンジャー、『グレート・ギャツビー』、なぜアメリカの読者は時としてポイントを見逃すか(聞き手 ローランド・ケルツ(A Public Space 2006年))
  • 短編小説はどんな風に書けばいいのか(聞き手 「考える人」編集部(考える人 2007年))
    「走っているときに僕のいる場所は、穏やかな場所です」(聞き手 マイク・グロッセカトヘーファー(DER SPIEGEL 2008年))
  • ハルキ・ムラカミあるいは、どうやって不可思議な井戸から抜け出すか(聞き手 アントニオ・ロサーノ QueeLeer 2008年)
  • るつぼのような小説を書きたい(『1Q84』前夜 聞き手 古川日出男 モンキービジネス2009年)
  • 「これからの十年は、再び理想主義の十年となるべきです」(聞き手 マリア・フェルナンデス・ノゲラ The Catalan News Agency 2011年)
  • あとがき
  • (初出一覧)
(目次から抜粋)
作家の村上春樹氏は、テレビも出ず、ラジオにも出たりしない。基本的に自分の仕事は書くことであるから、というのが主な理由らしい。しかし、本書のように、少なからずインタビューは受けるようだ。その主な理由は、作品が出版されて、ある程度読者が大体読み終えている時期に、事実ではないことに対する正しい認識を示すため、あるいは物語が生まれた経緯や執筆にかかわるエピソードを示すことで読者に楽しんでもらうためとある。また、さらには創作のプロセス、執筆の技法などを語ることも抵抗はないとある。

しかし、著者が答えたくないと思っているのは、各作品のテーマであったり、物語の意味性、文学的位置、メタファーの解析などらしい。よって、インタビューの中ではそれらについてはほとんど触れられていない。

本書は村上春樹氏の初めてのインタビュー集である。なので、これまで読んだことのないような作品に対する取り組み方、小説に対するプロ意識、これまで影響を受けてきた作家や物語の創作プロセスがとても興味深く示されている。

村上春樹氏にとって、作家として小説を書くというのは、夢の中にあるような暗くて奇妙なものがある無意識のような世界に入っていき、そこから奇妙なものを取り出し、それらを材料として物語を紡ぎだすことと示している。そして、本書のタイトルは、以下のフレーズによるものとなっている。
作家にとって書くことは、ちょうど、目覚めながら夢見るようなものです。それは、論理をいつも介入させられるとはかぎらない、法外な経験なんです。夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです。
(pp.165)
これが普通の人よりもうまく、そして意識的にできるということから、作家として今までやってこれたというようなことが示されていた。

僕にとって村上春樹氏というのは、やはり特別な作家なのだと再認識した。18歳のとき、『ノルウェイの森』を読んである意味衝撃を受けて、そして読書に嵌るきっかけとなった。一人の作家に対して集中的に作品を読むということを基本的にしてこなかったが、村上春樹氏だけは例外となり、長編作品はすべて読んできた。僕はこの10年で以下の順番で作品を読んできた。
  1. ノルウェイの森
  2. 風の歌を聴け
  3. ダンス・ダンス・ダンス
  4. 1973年のピンボール
  5. 羊をめぐる冒険
  6. スプートニクの恋人
  7. 国境の南、太陽の西
  8. 海辺のカフカ
  9. 世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド
  10. アフターダーク
  11. ねじまき鳥クロニクル
  12. 1Q84
どうしてこうなったのかはよく分からない部分がある。『僕』を主人公とした初期4部作がシリーズものとは知らなかったし、また本書を読むまで、『海辺のカフカ』が『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の続編を意識して書かれたものとは知らなかった。厳密には続編ではないのだけど。本書を読むことで、主に『ねじまき鳥クロニクル』以降の作品からの著者がチャレンジしてきたこと、意図してきたことの変遷がとてもよく分かる。一人称から三人称への挑戦であったり、創作のプロセスであったり。そういうのを一度知ると、もう一度刊行順に再読したくなってくる。著者がドストエフスキーのような物語と物語を重層的に重ねていく「総合小説」を書きたいという意欲があるが、今の社会には当時ドストエフスキーが読まれていたようなブルジョアジーの知的階層はなくなってきており、完全に大衆化してきている。そういう状況で深い物語とか深い文学を書くのにはどうすればいいのかということが問題になってくるらしい。以下、長いけどとても印象に残った部分を引用。
 そういうふうに教養体系みたいなものがガラガラ変わっていく中で小説がどのようにして生き残っていけるのかということを、僕は、やっぱり考える。文学というのは別にそういうことを考えなくていいんだと言われればそうなのかもしれないけど、僕が考える物語というのはそうじゃないんです。僕は文芸社会の中で育ってきた人間じゃないから、やっぱりひとりの生活者として、生活の延長線上にあるものとして、文学を考えます。僕の考える物語というのは、まず人に読みたいと思わせ、人が読んで楽しいと感じるかたち、そういう中でとにかく人を深い暗闇の領域に引きずり込んでいける力を持ったものです。できるだけ簡単な言葉で、できるだけ深いものごとを、小説という形でしか語れないことを語る、というのをしないことには、やはり、負けていくと思う。もちろん、ごく少数の読者に読まれる質の高い小説もあっていいと思います。そういうものを否定するわけじゃない。でも僕が今やりたいのはそういうものじゃない。
 僕はむしろ文学というものを、他のものでは代替不可能な、とくべつなメディア・ツールとして、積極的に使って攻めていきたいというふうに考えるんです。
(pp.152)
村上春樹氏の物語に妙に引き寄せられるのは、著者の物語の中にある深い暗闇に自分の中の何かが呼応しているからではないかと思った。だから、一人の作家に対して傾倒するようなことがない自分が、長編をすべて読んでこれたのだと思う。

そして、『この小説という形でしか語れないことを語る』という部分こそが、物語、小説を読む意義なのではないかと。小説は他のジャンルの本を読むよりも時間がかかったり、何かを伝えるための描写や会話が回りくどい物だったりする。しかし、主人公の視点やさまざまなエピソードを通して長い時間をかけて読み解いていく過程が、とても重要と感じる。たぶん、日常生活をなんとなく生きているのでは得られない、自分の中のわだかまりなどが消化(昇華)される装置、カタルシスが物語、小説の役割なのかなと。こういう部分を小説家である視点から語られるのはとても興味深く思った。

他には作品の創作プロセス以外にも、高校生くらいはどういう少年だったかとか、小説家になる前は何をやっていたのかとか、著者自身の昔のことに対する質問にも答えられている。ちなみに、高校生くらいのときはドストエフスキーやトルストイなどが好きだったようだ。そして、15歳のときにカフカの『』を読んで、あれはすごかったなぁと述べられている。僕は最近この『城』を読了したのだけど、よく15歳でこの作品を読んですごいと思えるなぁと思った。

本書は今まであまり語られなかった部分に多く言及されている。600ページ近くもあり、著者もあとがきで示しているが、インタビューは同じ様なことを聞かれて困るとあり、似たような内容の部分も多い。しかし、それらを通して、著者が一環してどういう姿勢で物語を生み出してきたのかがとてもよく分かり、ファンのみならず、小説を書きたいという人にもとても勉強になるのではないかなと思った。

本書は、自分の中の深い闇の部分に通じる村上春樹氏の作品群へ結び付けられるような、心静かに訴えてくるスゴ本だった。



夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです 村上春樹インタビュー集1997-2011 (文春文庫)
夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです 村上春樹インタビュー集1997-2011 (文春文庫)
著者:村上 春樹
販売元:文藝春秋
(2012-09-04)
販売元:Amazon.co.jp

読むべき人:
  • 村上春樹のファンの人
  • 小説家になりたい人
  • 物語の持つ役割について考えてみたい人
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