August 10, 2013

緑の家

緑の家(上) (岩波文庫)緑の家(下) (岩波文庫)
緑の家(上) (岩波文庫) [文庫]
緑の家(下) (岩波文庫) [文庫]

キーワード:
 バルガス=リョサ、ペルー、アマゾン、構造、ジャングル
ペルー・アマゾンを舞台とした小説。今回はあえて、目次もあらすじも示さないことにする。岩波文庫で、あまりあらすじが載っていないということや、目次も単に1章とそっけないものでしか示されていないし、なによりも、この作品をあらすじで要約することはとても困難なことであるから。内容についても、どこまで示せるかわからない。

代わりにこの物語の出会いの話から示そう。

いつだったか、2,3年前に新宿の紀伊国屋本店の文庫本フェアのようなものがやっていた時があった。そのとき、この作品が目に留まった。岩波文庫にしては珍しい写真付きの表紙で、書店員さんのポップ書きがカバーに貼られていた。曰く、『さまざまなばらばらなエピソードが最後に収束していき、さながら漫画のワンピースのような作品』というようなことが書いてあったと思う。ほう、ワンピースかとその時は思ったのだけど、結局買わなかった。

そしてしばらく経ってから、たまたま別の書店(確か今はもうなくなってしまった松丸本舗)で本作品の著者であるバルガス=リョサの本を買った。バルガス=リョサの本を過去に読んだことがあるわけでもないし、そもそもどこの誰かもよく分かっていなかった。ノーベル文学賞を受賞しているんだねとWikipediaを見て知ったくらいであった。

その別の本を読む前に、1作品は小説を読んでおいた方がいいなと思ったし、何よりもワンピース的な物語というところに惹かれて買って読んでみた。

結論。読了までに1ヶ月半もかかったが、全容をはっきりと理解できなかった。

最初の20ページでこの物語の洗礼を受ける。1ページに改行が全くなく、誰が何を言っているのかも分かりにくい描写が続く。1文1文は別に難解ではない。ちゃんと読めばわかる。しかし、それがずっと続くと、読み手を拒むようでもある。

その20ページを超えると、すでに読者はジャングルに誘われている。確かにこの物語はアマゾンの奥地のジャングルを舞台としている部分があるが、舞台としてのジャングルではなく、この特殊な物語構造のジャングルにはまり込んでいる。どういうことかというと、あるシーンで2人が会話をしている部分があるが、次第に誰が何を言っているのかが分からなくなる。つまり、そこのシーンには2人しかいないはずが、もう2人ほど脈絡がなく出現する。注意深く読んでいくと、どうやら最初の2人の会話の直後に、回想シーンが盛り込まれているのに気づく。

普通は回想シーンなどは、回想部分が分かりやすく視覚的に示されているが、括弧で区切られている会話の次の行の会話が、引用のように段落を下げるでも空行があって区切りを示すでもなく、全く同じ記述で書かれている。そこに気付かないとまったく意味が分からなくなる。そしてアンセルモ、ボニファシア、ラリータ、フシーア、アキリーノ、リトゥーマなど大量に出てくる南米特有のなじみのない名前の登場人物たちのせいもあって、ますます訳が分からなくなる。さらにどうやら時系列も前後して錯綜しているらしいということが分かる。もっと言うと、ダメ押しの岩波文庫特有の読みづらいフォント!!

解説に以下のように示されている。
 数多くの人物が登場し、しかも四十年におよび年月の間に起こった出来事を語ったこの小説は、上に述べたような五つのストーリーが組み合わされて展開してゆくが、その際作者はそれぞれの物語を小さな断章に分割し、時系列を無視して並べ、さらに人物の内的独白まで織り込んでいるので、読みはじめた読者はおそらく戸惑いを覚えるだろう。しかし、読み進むうちに個々の断章がジグソー・パズルのピースのように徐々に組み上がって行き、少しずつ全体像が浮かび上がってくる。そして、読者はその中から広大なペルー・アマゾンを舞台に繰り広げられるさまざまな人間たちの姿と現実が浮かび上がってくるのを目のあたりにすることになると同時に、物語小説としての面白さも満喫するはずである。
(下巻 pp.480-481)
解説には五つの物語の概要が示されていて、最後にそれを読んで初めてそういう話だったのか〜と分かる感じで、読了後は完全にポルナレフの『あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!』状態であったww

今まで読んだ小説の中でもかなり読了まで苦労した作品で(他には『ニューロマンサー』、『魔の山』)、読み進めるのは楽ではない作品なのだけど、不思議と物語の行方に引き付けられて、挫折するほどではなかった。訳が分からない状態、物語の構造の中に遭難している状況を楽しめるような、そんな不思議な感覚。

僕は全く事前知識もないままに読み始めてしまったので、戸惑いと分けのわからなさで、ジグソー・パズルのように組み上がっていく感覚はあまり得られなかった。なので、この本はスゴ本の部類なのだろうけど、そのスゴさがいまいちピンと来ていないもどかしさのようなものが残る。だからまた最初から勢いをつけて読み返したほうがよいような気がする。さすがにすぐには読み返さないだろうけど・・・。

もし、この作品を事前知識なしの初見で全体像を把握できたのなら、きっと大規模なシステム関連図とかE-R図とかクラス図とか各種UML図などなど、いろいろなモデリング能力、全体把握能力がかなり優れていることの証明になるのではないかとも思った。そういう自分の全体像の把握能力を試すという観点から読んでみても面白いかもしれない。

上巻351ページ、下巻492ページの物語で、1ヵ月はジャングルにいる感覚を楽しめる、そんな特殊な作品。時間と気持ちに余裕がある人はぜひどうぞ。



緑の家(上) (岩波文庫)
M.バルガス=リョサ
岩波書店
2010-08-20

緑の家(下) (岩波文庫)
M.バルガス=リョサ
岩波書店
2010-08-20

読むべき人:
  • ラテン文学が好きな人
  • アマゾンに行ったことがある人
  • 物語のジャングルに迷い込みたい人
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