August 17, 2013

密会

キーワード:
 安部公房、病院、交接、疎外、患者
安部公房の小説。以下のようなあらすじとなっている。
ある夏の未明、突然やって来た救急車が妻を連れ去った。男は妻を捜して病院に辿りつくが、彼の行動は逐一盗聴マイクによって監視されている……。二本のペニスを持つ馬人間、女秘書、溶骨症の少女、<仮面女>など奇怪な人物とのかかわりに困惑する男の姿を通じて、巨大な病院の迷路に息づく絶望的な愛と快楽の光景を描き、野心的構成で出口のない現代人の地獄を浮き彫りにする。
(カバーの裏から抜粋)
今は短い夏休みで(なんとか5日間は取得はできたが)、実家に帰省中である。大学生のころから、夏休みは無性に青春小説を読みたくなる。それと同時に、大学生のころに安部公房の作品をよく読んでいたことから、夏になると思い出したように読みたくなってくる。そして、未読のこの長編小説を読んだ。青春小説のような爽快さと読了後の心地よさは、残念ながら微塵もない。しかし、これはスゴ本だった。
弱者への愛には、いつも殺意がこめられている―
(pp.4)
こんな警句のような一文から物語は始まる。閉鎖した空間での、異様で、欲望にまみれて猥雑な、そして間接的なエロスがふんだんに盛り込まれた物語が。

32歳で身長176cm、体重59kgで(大体僕と似たような体型だ)、ジャンプシューズという、靴底がばねになっていて跳躍力が増すスポーツ用品の営業の仕事をしている。ある日の午前4時過ぎに、呼んだ覚えのない救急車がやって来て、妻を連れ去ってしまう。そして、男は妻を捜し出すと同時に、体が馬のような馬人間に男が盗聴によって監視されている状況を自分でノートに記録させる仕事を依頼する。

そして妻が連れ去られたと思われる病院にたどり着き、そこで妻を捜しつつ、盗聴されている病院全体の警備主任に就かされることになる。同時にその病院全体が色情にまみれた閉鎖空間である状況を徐々に理解していく・・・。

読んでいる途中から何ともいえない不気味さと異様さを感じてきて、なんだか見てはいけないものを見ているような気になってくる。しかし、さまざまな欲望を持つ多彩な登場人物の思惑があり、主人公はそれらに翻弄されるだけなのだけど、その先にいったい何が待ち受けているのか!?と続きがどんどん気になっていく(特に半分を過ぎたあたりから)。そして、ページをめくるスピードが徐々に加速し、迷路のような病院のシステム(建物の物理的なものと色情を管理、事業化するような仕組み)に読者もはまり込んでいくような感じだった。

馬人間というのは、あまり言及できないのだけど、人間だけど馬のような男で、インポテンツに悩まされている。そして、その秘書は試験管育ちで人間同士の関係感覚が完全に欠落しているが、主人公に好意を寄せている。そして、溶骨症という骨がとけて体が縮んでいく病気の13歳の少女は馬人間の慰みもので、その父親は警備主任で馬並みであり、さらに主人公の妻は・・・。このようないろいろな異様さをはらんだ登場人物たちが物語のアクセントになっている。

この作品のスゴさは、この異様さを形容する圧倒的な文体だなと思った。描写が詳細すぎると読むのが面倒になってきてスピードをつけられないのだけど、安部公房の文体は無駄がなく、あまりなじみのないような比喩表現でも不思議と脳内でその状況をイメージできてしまう。そしてだんだんとこの病院の全体像が少しずつ主人公の記録によって明かされていく物語構成もスゴいとしか言いようがない。

そして、直接的な交接行為の描写がないのだけど、のぞき穴とか少女と主人公の関係、馬人間の実験、病院での盗聴、そして最後の妻の描写がとてもエロスに満ちていて、読んでいてこれは18禁じゃないか!?とまで思ったw別に程度としてはそこまでエロいものでもないのだけど、たぶん一般的なものよりも幾分ベクトルが違うような気がして、これを10代で読んでしまうと、その人の人格形成に幾分影響を与えるような気がしないでもないww

安部公房の作品は、不気味で異様な、そして主人公が翻弄されていくような物語としては一級品だなと思う。そういう非日常で不安を誘う物語は、やはり時間と精神に余裕のある夏休み中にどっぷり浸かるに限る。他にもこのブログで取り上げた作品は以下となる。
『密会』は著者の医学部卒という経歴が存分に活かされていて、エロく、そして面白いスゴ本だった。



密会 (新潮文庫)
安部 公房
新潮社
1983-05

読むべき人:
  • 異様でエロスに満ちた作品を読みたい人
  • 夏休み中の人
  • 病院通いをしている人
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