September 01, 2013

夢を与える

キーワード:
 綿谷りさ、夢、芸能界、アイドル、信頼
綿谷りさの3作目の小説。以下のようなあらすじとなっている。
幼い頃からチャイルドモデルをしていた美しく健やかな少女・夕子。中学入学と同時に大手芸能事務所に入った夕子は、母親の念願どおり、ついにブレイクする。連ドラ、CM、CDデビュー…急速に人気が高まるなか、夕子は深夜番組で観た無名のダンサーに恋をする。だがそれは、悲劇の始まりだった。夕子の栄光と失墜の果てを描く、芥川賞受賞第一作。
(カバーの裏から抜粋)
去年文庫化されたこともあり、買って読んでみた。そして、この作品がこのブログでの700冊目となる。

綿谷りさは、僕と同学年なので、やはり同時代を生きる作家としてデビュー当初から注目の存在であった。高校2年生の7月ごろ、クラスメートから同学年の女の子が書いた作品が面白かったからおススメと『インストール』を受け取り、授業中に隠れて読んだという思い出がある。ちょうどそのころから2chにはまりつつあった身としては、面白い設定だなぁと思っていた。

そして、19歳のとき、『蹴りたい背中』で最年少芥川賞を受賞となった。わりと出版直後のちょうど10年前に読んだのを覚えている。そんで、2007年の本作品の出版後に、たまたま何も知らずにふらっと三省堂神保町店に行ってみたら、店内のアナウンスがあって、綿谷りさのサイン会があるとのこと。しかし、事前に整理券が必要らしいが、当然持ってはいなかった。まぁ、しょうがないよねと『夢を与える』を買おうとレジに持っていったら、店員さんにサイン本が買えると言われた。それでサイン会場の8階に行けとのこと。期待した。がらにもなく。ところが、扉の前の受付で整理券がないからだめだと拒絶された。で、結局何も買わなかったという、若干切ない思い出がある・・・。

前置きはこの辺にして、本題に入ろう。

この作品は23歳くらいに書かれたものらしい。『インストール』と『蹴りたい背中』とは全然印象が違ったというのが読了後の感想。23歳でここまで書けるものかと思った。長編で320ページ近くあるし、登場人物も明らかに多く出てきているし、一人称から三人称になっているので、作家としての成長のようなものを感じた。作品発表当時のインタビュー記事を見ると、芸能人としてCMに出たり、テレビの仕事をしたり、モデルを仕事にしている主人公像は、文壇のアイドルと称されていた著者の実体験から来ているのかと期待させるけど、どうやら違うらしい。ふーんと思った。

タイトルになっている『夢を与える』というのは、主人公である夕子は、アイドルとして『夢を与えられるようになりたい』と言っているものから来ている。しかし、以下のようにも語っている。
「でしょ。そう、”与える”っていう言葉が決定的におかしいんだと思う。お米は無理で夢だけが堂々と”与える”なんて高びしゃな言い方が許されてるなんて、どこかおかしい。大体この場合の”夢”って一体どういったものなのか、まだ分からない。いままで散々言ってきたけれど」
(pp.144)
夕子が望む夢と夕子を商品として扱う周りの大人たちの求めている夢のギャップが破滅の始まりとなっていく。芸能界ではありふれたようなスキャンダルなのだけど、最後4分の1あたりから徐々にどこまで堕ちていくのだろうか?と期待と不安が加速しつつページも進んでいった。そして結末は前2作にくらべて爽やかさなどあまりなく、アイドルとしての商品価値のなくなった主人公だけが残されて終わる。

本当の芸能界はどんな感じか分からないのだけど、幼少のころから普通の女の子のように学校生活を楽しむこともできず仕事漬けの毎日で、初めて好きになった人と付き合い始めたことがきっかけでここまで破滅になってしまうのも、なんだか切ないなと思った。それでも、人生10代ですべてが決まるわけでもないし、まだ他の世界でも生きていけるじゃないかとも思った。また、アイドル、芸能人として生きるのは大変なんだねとも思った。

個人的には前2作よりもこっちの作品のほうが面白いなと思った。読み始める前はあまり期待していなかったのだけど、意外にも後味のよろしくないバットエンドの作品も書けるのだなと思った。他にもいろいろと出版されているので、同時代を共有する作家として注目していきたいと思う。



夢を与える (河出文庫)
綿矢 りさ
河出書房新社
2012-10-05

読むべき人:
  • 芸能人になりたい人
  • 破滅の物語が読みたい人
  • 夢について考えたい人
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