February 13, 2014

すべての美しい馬

キーワード:
 コーマック・マッカーシー、馬、メキシコ、旅、美
アメリカ人作家による青春小説。以下のようなあらすじとなっている。
1949年。祖父が死に、愛する牧場が人手に渡ることを知った16歳のジョン・グレイディ・コールは、自分の人生を選びとるために親友ロリンズと愛馬とともにメキシコへ越境した。この荒々しい土地でなら、牧場で馬とともに生きていくことができると考えたのだ。途中で年下の少年を一人、道連れに加え、三人は予想だにしない運命の渦中へと踏みこんでいく。至高の恋と苛烈な暴力を鮮烈に描き出す永遠のアメリカ青春小説の傑作。
(カバーの裏から抜粋)
本書は図書館で借りた。たまたま同著者の本を積読していただけで、特にコーマック・マッカーシーの本を以前に読んだことがあるわけでもなく、特に知っていたわけでもなかった。図書館で何か適当に借りようと文庫コーナーを眺めていたら、積読中の著者の本だなというただそれだけの理由で手に取ってみて、カバーの裏のあらすじを読んで、貸出期間中にまったく読了する気もなく借りた。他に3冊借りたのだけど、結局500ページもある本書のみを読了した。読んでよかった。きっとこの本に呼ばれて借りたんじゃないか?と思うほどだった。

あらすじには『青春小説』とあるが、青春小説というほどには甘酸っぱいものはなく、16歳の少年にとってはあまりにも過酷な物語ではないかと思った。

主人公のジョンは、ハイウェイがあって車も普通に走っている時代に、あてもなく友人と馬に乗って地元のテキサスからメキシコに向かう。道中でウサギを獲って食べたり、たき火を囲んで野宿もしたりする。そして途中で立派な馬に乗った14歳くらいの少年と出会い、その少年と少し行動を共にし、メキシコの牧場で馬の調教師、牧童として働き始める。

そこの牧場のオーナーの娘、17歳のアレハンドロに惹かれつつもいろいろと事件が起こり、主人公とその友人はメキシコの刑務所に入れられる。その刑務所特有の閉鎖的で暴力的な社会で生き延びるために戦わなくてはいけなかったりし、単純に少年が旅に出て成長するというような感じではない、よく言えばタフでハードボイルドな話。

主人公のジョンは、自分の家の境遇などもあったりして、どこか達観していて16歳の少年にしては大人びている印象を受ける。自分に起こったことを否定もせずに、当然のことだとどこか諦観にも似た境地で受け入れようとしている。対して相棒のロリンズは17歳で主人公よりも1歳年上なのだけど、割と短気でどちらかといえばやんちゃであまり深く考えずに直観的に行動するタイプで、主人公にいろいろと言ったりするが、それが主人公にとってよい刺激になってもいる。そんな二人の短い会話の連続がよかったりする。

読み始めて50ページくらいは、著者独特の文体に慣れるまで大変かと思う。一文がかなり長く、一般的に読点が入るようなところにそれがなかったり、会話も鉤括弧なしで示されている。登場人物の心情描写もあまりない。

しかし、風景、情景、そして馬の描写がスゴい。豊穣な言葉使い、比喩表現で、メキシコの牧草地、山脈、広がる青空、乾いた土ぼこりが立ち込めるメキシコの小さな街、そしてたてがみが揺れて汗ばむほどに躍動する馬たちが自然に脳内イメージできてしまう。一言でいえば、『美しい』、そんな文体。アメリカ文学でこんな豊かな表現に出会うとは思ってもいなかったから、良い意味で驚きだった。

なんとなく主人公が当てもなく旅立つことに共感を覚えた。いろいろあって、結局地元には留まってはいられない。しかし、行く当てが決まっていたり、目的が先にあるような冒険の旅に出るというのでもない。ただ、ここにはいられない、いたくはない、ここではない、どこかへ行かなくてはいけない、そして、馬だけが主人公の心のよりどころのような、そういう感覚に自分を投射しつつ共感できた。そしてこの物語は、特にハッピーエンドで終わっていないところが切ないというか、読後により心に残るような気がした。

この作品は本書から始まる『国境三部作』と呼ばれるものらしい。2作目の『越境 (ハヤカワepi文庫)』は別の主人公の話で3作目の『平原の町 (ハヤカワepi文庫)』は、本書と同じ主人公、ジョンが28歳になったときの物語らしい。ぜひこれらも読んでみたいな。

本書は馬が好きな人にはよい本だと思う。主人公の馬への愛情がよく表現されているし、一緒に馬に乗って旅をしている感覚にもなれる。そして、美しい世界に身をゆだねられる。



すべての美しい馬 (ハヤカワepi文庫)
コーマック マッカーシー
早川書房
2001-05

読むべき人:
  • 馬が好きな人
  • 圧倒的な文体を堪能したい人
  • ここではない、どこかを目指している人
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