March 09, 2014

春の雪

キーワード:
 三島由紀夫、恋路、貴族、破滅、桃紅柳緑
三島由紀夫の遺作となった豊饒の海シリーズ第1巻。以下のようなあらすじとなっている。
維新の功臣を祖父にもつ侯爵家の若き嫡子松枝清顕と、伯爵家の美貌の令嬢綾倉聡子のついに結ばれることのない恋。矜り高い青年が、〈禁じられた恋〉に生命を賭して求めたものは何であったか?――大正初期の貴族社会を舞台に、破滅へと運命づけられた悲劇的な愛を優雅絢爛たる筆に描く。現世の営為を越えた混沌に誘われて展開する夢と転生の壮麗な物語『豊饒の海』第一巻。
(カバーの裏から抜粋)
豊饒の海はシリーズ全4巻までからなる作品である。この作品は確か、4年ほど前、まだ新宿三丁目のジュンク堂が残っているときにそこで買ったと思う。2chのまとめスレか何かで、絶対お勧め本のようなものとして挙げられていたのが気になって買った。しかし、それから4年間、読むことはなかった。

読まなかったのは全4巻という長さもあるが、何よりも、文豪、三島由紀夫という存在であったから。僕にはまだ読めないと思っていた。描かれている日本語、世界観が理解できないと。

僕は18歳の夏、大学1年生のとき、暇を持て余していたというのもあり、小説だ、文学を読むんだ!!と意気込んでいた時期があった。大学1年目の夏休みは特に働くでもなく、毎日文庫小説を1日1冊のペースで読んでいた。現存する作家の作品なら1日で読めたが、文学らしい文学はまだ読んでいなかったので、何か読もうと思った。

ちょうど実家に帰省中だったこともあり、母親の持っていた太陽の光を浴びすぎてきつね色に焼け焦げた『金閣寺』を読もうと思った。確かに最後までページをめくったことは覚えている。一応は読了できたが、何も頭に残っていない。つまり、文章の表層を追うのに精いっぱいで、何も読めなかった。そもそもまだ小説を読む経験値が少なかったので、独特の描写が脳内でイメージできておらず、登場人物の心情の機微が何一つわからなかった。ある意味挫折したのであった。

それから、三島由紀夫を筆頭とした日本文学を代表する作家の作品を自然と避けるようになった。きっと読めないし、面白くはないだろうなと。そして、結果的に今まで海外文学作品を多く読むようになっていった。

今年(2014年)の2月15日は東京をはじめ、大雪となって雪が積もった日だった。予定されていたイベントも中止になり、暇ができたこともあり、本棚の積読本を消化しようと思った。そこで普段東京で積もることのない雪を契機として、本書の『春の雪』を読み始めた。

大抵の小説は50ページほどで、作品の世界観や文体に慣れて面白いか面白くないかがわかり始めていく。しかし、この作品は50ページでは判断できなかった。100ページあたりまで読み進めた時に、意外にもページ数を気にせずそこまで読めていた自分に気づく。案外読めるものだと。そして、200ページを超えたあたりから、主人公清顕とその幼馴染であった聡子の住む予定調和の世界がだんだん揺らいでいき、これはスゴ本だという確信を抱き始める。

本書の舞台は大正初期の貴族社会ということもあり、普段見慣れない日本語、単語が頻出している。一読しただけでは、分かりにくい描写もある。しかし、2回、3回と同じ文を読み直すと腑に落ちるというか、運ばれてきた料理の香りがふわっと広がるように、情景や心情がイメージできた。

三島由紀夫の文体では、登場人物の心情が視覚的に描写されている。そしての描写は、自分の知らない日本語で書かれ、一級の絵画を見ているような気になる。たまたま昨日モネ展を見てきたというのもあるが、色彩豊かな印象派の作品を見ているような、そんな感覚に浸れた。

また、日本語の奥深さを味わった。このような日本語で書かれた作品は今まで読んだことがなかった。いつも翻訳された世界文学を読んでいたが、初めて日本文学のよさを実感できたのではないかと思った。これを日本語ネイティブとして読めるのは、ある意味幸せなことではないかと思えるほどに。

一昔前、少なくとも二十歳前後でこれを読んでもまず読めなかったし、登場人物の思惑、行動理念などに共感を得られなかっただろう。それが30歳になった今、自分自身の精神的成熟を伴って、やっと三島由紀夫が読めるようになったのだ!!という成長の喜びも得られた。

清顕と聡子、その他二人を取り巻く登場人物の心情の移り変わりの描写が圧倒的にスゴい作品。




読むべき人:
  • 20歳くらいの人
  • 美しい日本語の世界に浸りたい人
  • 叶わない恋愛をしている人
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