June 08, 2014

100年の価値をデザインする

キーワード:
 奥山清行、デザイン、クリエイティビティ、日本人、ムーンショット
ワールドクラスで活躍するデザイナーである著者によるクリエイティビティ論。以下のような目次となっている。
  1. 第1章 世界で通用した「日本人としてのセンス」―僕はなぜフェラーリのデザイナーになれたのか?
  2. 第2章 「言葉の力」を発揮する―団体力のイタリア人、個人力の日本人
  3. 第3章 日本のものづくりの「殻」を破る
  4. 第4章 「ものづくり」の仕組みが変わった!―第二次産業革命時代にどう対応するか?
  5. 第5章 「本当に好きなもの」を作り、売る―プレミアム・コモディティを目指せ!
  6. 第6章 これからの一〇〇年をデザインする―新しい社会システムを作り上げる
  7. 終章 クリエイティブであり続けるために
(目次から抜粋)
著者はエンツォ・フェラーリをデザインした人で、GMやマセラティにも著属してデザインをやっていたり、その他にも秋田新幹線、ソファ、椅子、鉄瓶、最近ではヤンマーのトラクター、さらには都市計画などその対象は多岐にわたる。そんな世界で活躍されてきたデザイナーによって、クリエイティビティとはどういうことか?そして日本人である特性を活かして世界で勝負できるということが実体験などから示されている。

しばらく新書は全然読んでいなかったのだけど、書店でなんとなく見つけて読んでみた。かなり濃い内容で勉強になった。著者の本は以前以下のものを読んでいた。こちらは純粋にデザイナーとしての仕事論がメインなのだけど、本書は以下がメインテーマとなっている。
 もう一度言う。日本人には素晴らしいクリエイティビティの潜在力がある。それをフルに活かすには、まずは自分一人で世界に打って出ることである。それが、本書で僕が一番伝えたいと思っていることだ。
(pp.240)
まずクリエイティビティに対するイメージとして、先天的な才能であるという誤解があると著者は示す。実際は才能の差などはほとんどなく、必要なのは後天的なセンスと経験から得たスキルであり、さらには世の中を大局的に捉えるマクロな視点と課題の細部までを理解するミクロな視点を併せ持つことらしい。そして、目の前にある問題点や課題の根本的な原因を探り当て、その解決策を示すために必要なのがクリエイティビティであると。

簡単にまとめると誰でもできそうな感じはする。しかし、後天的なセンスと経験には相当の努力と修練とか時間がかかるのも確か。デザインコンセプトを決めるとき、「たくさんの中から選ぶからいいものが出てくる」という本質があるようで、そのため以下のように示されている。
 これは同じ世界を目指す後輩に向けてのメッセージだが、若いデザイナーは質を追うならひたすら数を出せと言いたい。頭を振り絞って考えて、その上で数を出すのだ。それだけでなく、労をいとわず体を動かせ。億劫がらずに現場に行け。手を動かせ。そこに答えがある。
(pp.33)
さらには量をこなすには体力がいるようだ。そして、プロは常に量をこなし、来るか来ないかわからないチャンスのために常に準備するからプロであるとある。なるほどなと。これらの仕事論の部分は、先ほど挙げた本に詳しいので、そっちをお勧め。

また、一般的に日本人は個人戦はダメだが、団体戦なら勝負になると思われているが、実際は逆であり団体力より個人力のほうが高く、世界で勝負して成功している人はみなそのような傾向があるようだ。そして個人として働いたほうが効率的であると。逆に団体力はイタリアのカーデザイナー集団のほうが高いと示されていて、それは会議での議論の仕方が根本的に日本とは違うからとあった。こういう部分は今までの自分の常識を覆されたようで、自分の中の視点が広がった。

著者が日本人としてフェラーリのデザイナーになれたのは、著者が自然と培ってきた日本の盆栽とか狭い建築様式の中に暮らしを表現したりするような「切り捨ての文化」をカーデザインに応用してシンプルであることを追求した結果らしい。そういう文化的な背景も強みになるようだ。

カーデザインで培ったデザインの経験値を家具に転換するところなどもスゴいなと思った。家具に使われている材料を工業デザインの経験から眺めてみると、材料費は妥当であるが、なんでこんなに価格が高いのか?を突き詰めていくと、中間マージンが大き過ぎて、そこにいろいろな業者が入って手数料をとっているかららしい。よって、大塚家具と組んで海外の製造現場と直結して従来の3分の2の価格で同様の品質のものが販売できるようになったらしい。

あとは都市計画までデザインが広がっているのがスゴい。3.11の東日本大震災の影響から災害に強い都市計画を考えた時に、人工的な高台を作って、その上にコンパクトな城塞都市のようものを作るというもので、それはフランスのモン・サン・ミッシェルのようなものになるようだ。さらに東京はより人口密度を高く、もっと立体的にすべきという主張があり、これはブレードランナーとかのようなサイバーパンクな街やフィフスエレメントの縦長に高層ビル群とか交通網が巡っているような近未来の街を想像してワクワクした。

そういえば、来年開業する北陸新幹線のE7系(新幹線E7系・W7系電車 - Wikipedia)も著者監修によるデザインらしい。著者のデザインした車とか家具はちょっと手が出せないけど、ちょうど実家の富山に帰るときに乗ることになり、著者のデザインを身近に感じられるので地味に楽しみだ。北陸新幹線の車中で他の著者の本も読みたいと思う。

ワールドクラスで仕事をするということはどういうことなのか?がとてもよく分かって、しかも著者独自の視点や経験も読んでいてとても面白い。こういう本はなかなかない。

英語に「ムーンショット」という言葉があるが、従来の意味は不可能に挑戦する馬鹿げたことだった。しかし、アポロ11号が月面に着陸した以降は、意味が変わり、著者によれば「不可能と思えても、夢を持ち続けて努力すれば、いつかは実現できる」と。そしてこの言葉が好きで、この言葉をプレゼントしたいと最後にあった。著者は大阪万博で近未来デザインの車を見た時に衝撃を受けて将来カーデザイナーになろうと決めたようだ。もしかしたら本書が、誰かにとっての「ムーンショット」になるべき可能性を秘めているような、そんな予感がした。




読むべき人:
  • すべてのデザイナーの人
  • 文化、日本人論が好きな人
  • 世界で勝負したい人
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