June 14, 2014

ザ・ロード

キーワード:
 コーマック・マッカーシー、道、旅、闇、火
アメリカ文学の巨匠によるSF小説。以下のようなあらすじとなっている。
空には暗雲がたれこめ、気温は下がりつづける。目前には、植物も死に絶え、降り積もる灰に覆われて廃墟と化した世界。そのなかを父と子は、南への道をたどる。掠奪や殺人をためらわない人間たちの手から逃れ、わずかに残った食物を探し、お互いのみを生きるよすがとして――。世界は本当に終わってしまったのか? 現代文学の巨匠が、荒れ果てた大陸を漂流する父子の旅路を描きあげた渾身の長篇。ピュリッツァー賞受賞作。
(カバーの裏から抜粋)
コーマック・マッカーシーの作品は、以前図書館で借りた『すべての美しい馬』というものを読んだことがある。この本を借りた時に、『ザ・ロード』のほうを積読していた。

本書は例によって、西新宿のブックファーストのフェアで買った(余談だけど、よいフェアを頻繁にやっていて、本当によく買わされる)。そのときは著名人がおすすめする100冊とかそういう題目で、小説家の冲方丁氏が『これは真に迫るものがある』とかなんとかコメントと共にオススメされていた。『マルドゥック・スクランブル [完全版] 』が面白かったし、信じて買ってみた。そのときはコーマック・マッカーシーの存在など特に何も知らずに。

物語の世界は近未来のアメリカのどこかで、その世界は核戦争か何かで世界が崩壊している。灰が降り積もり、日照時間も少なくなり、牛や鳥などその他の動物がどうやら絶滅しており、人も大勢死んでおり、文明も崩壊している。かつて栄えていた街は人影もなく廃墟と化し、食べ物のあまりなく、道路には散乱するゴミ、捨てられた車、そしてミイラ化した死体、焼けた死体などがところどころにある。そんな中、40歳くらいの『彼』と『彼』の子供で、10歳くらいの男の子が二人で寒さをしのぐために歩いて南を目指すというお話。

本書の内容は、冒頭の2行にすべて集約されていると言っても過言ではない。
 森の夜の闇と寒さの中で眼を醒ますと彼はいつも手を伸ばしてかたわらで眠る子供に触れた。夜は闇より暗く昼は日一日と灰色を濃くしていく。
(pp.7)
親子二人は常に暗い『』の中で眠り、道中も人目について襲われないように気配を殺し、安全が確保できたときだけたき火を囲んで野宿し、そこで少ない缶詰などの食料を分け合って食べる。昼間は雨や雪が降り、そして常に寒さで震え毛布にくるまって二人で温めあっている。そして、道中の捨てられた家にある缶詰やリンゴ園のリンゴなどを拾ったりして、食料を手に入れて生き延びていく。表面的な物語としては、それらだけが淡々と繰り返されていく話。

それだけの物語なのだけど、親子が置かれた絶望的な状況の中での会話が胸に迫るものがある。男の子は世界が崩壊した後に生まれており、健全だった世界を知らない。そして、道中で起こる出来事に対して無邪気に何気ない質問をパパにたびたびする。その質問に対して、常に自分たちが生き延びるために合理的に判断し、男の子を説得しつつ、かつ自分自身にも言い聞かせるように『彼』は答える。それがコーマック・マッカーシー独特の鉤括弧のない文体で繰り返されて、より物語の中で際立って見える。例えば、象徴的な以下の部分など。
話してごらん。
少年は道のほうへ眼をやった。
話してほしいんだ。怒らないから。
少年はかぶりを振った。
パパの顔を見るんだ。
少年は彼に顔を向けた。今まで泣いていたように見えた。
話してごらん。
ぼくたちは誰も食べないよね?
ああ。もちろんだ。
飢えてもだよね?
もう飢えてるじゃないか。
さっきは違うことをいったよ。
さっきは死なないっていったんだ。飢えてないとはいってない。
それでもやらないんだよね?
ああ。やらない。
どんなことがあっても。
(pp.147)
このように、食料がないので、人が襲われて食われてしまう。そのため、殺される可能性が高く、かつ飢えもあって、常に死の影が付きまとっている。そして道端には焼き殺された死体や首だけが切り取られて串刺しになったりしているような、残虐な結果の描写も多く、10歳くらいの子供にとっては極めて残酷で過酷な世界である。『彼』はそんな状況を見せないようにするが、子供はもう何度もそういう状況を見てしまい、結果的に精神的にも成長していく。

また、道行く老人や飢えた男に遭遇したとき、男の子は食料を分け与えようとする利他的な心も持つ。しかし、自分たちが生き延びるためにはそれをやってしまってはダメだとパパは常に子に言い聞かせるしかない。また、パパは常に拳銃を手放すことはなく、親子に危害を加えそうな人間は躊躇なく撃つ。もう片方の手には子供の手を握りながら。そして、もうどうにもならないときは、その拳銃を使うしかないとまで決めている・・・。

主人公二人は名前が出てこない。唯一名前がついた登場人物が出てくる。名前は『イーライ』で、90歳くらいで眼がもうあまり見えない老人。この名前を見たとき、以下の作品を思い出した。似たタイトルでかつ崩壊した世界が舞台で世界観も似ている。この物語の主人公の名前は『イーライ』。『ザ・ロード』の解説には、イーライは旧約聖書の預言者エリヤと関係があるのではないかという説が示されている。『ザ・ウォーカー』は、主人公が崩壊した世界である本を運ぶ物語。一方、『ザ・ロード』は親子が二人で象徴的な『』を運んでいる。ググったら『ザ・ウォーカー』がパクッたのではないかとあった。それくらい似たような内容。両方映画化されており、『ザ・ウォーカー』のほうは見た。内容はまずまずだけど、小説は断然、『ザ・ロード』に軍配が上がる。

コーマック・マッカーシー独特の文体で、情景が脳内に自然と描写される。しかし、『すべての美しい馬』のような美しい情景とは言えず、灰色と白、黒などモノトーンで色彩を失った世界で、読み進めるのがだんだんと辛くなってくる。そのため、精神的に沈んでいるときにはあまり読むべきではないかな。

僕は本書をどちらかというと男の子の視点で読んでいた。しかし、もし子供ができたら『彼』の視点で読むのだろうなと思った。絶望的な状況でも、常に善い人として『』に包まれた世界を生き延びていかなくてはいけない。それを示唆する親としての『彼』。そして、最後は切なすぎて泣いた。それでも読了後に不思議と勇気づけられるような、それくらいのスゴ本だった。



ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)
コーマック・マッカーシー
早川書房
2010-05-30

読むべき人:
  • SF作品が好きな人
  • 勇気づけられたい人
  • 最近親になった人
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