July 27, 2014

マルドゥック・ヴェロシティ〔新装版〕

マルドゥック・ヴェロシティ1〔新装版〕 (ハヤカワ文庫JA)マルドゥック・ヴェロシティ2〔新装版〕 (ハヤカワ文庫JA)マルドゥック・ヴェロシティ3〔新装版〕 (ハヤカワ文庫JA)
マルドゥック・ヴェロシティ1〔新装版〕 (ハヤカワ文庫JA) [文庫]
マルドゥック・ヴェロシティ2〔新装版〕 (ハヤカワ文庫JA) [文庫]
マルドゥック・ヴェロシティ3〔新装版〕 (ハヤカワ文庫JA) [文庫]

キーワード:
 冲方丁、SF、加速、爆心地、虚無
マルドゥック・スクランブルの前日譚。以下のようなあらすじとなっている。
戦地において友軍への誤爆という罪を犯した男―ディムズデイル=ボイルド。肉体改造のため軍研究所に収容された彼は、約束の地への墜落のビジョンに苛まれていた。そんなボイルドを救済したのは、知能を持つ万能兵器にして、無垢の良心たるネズミ・ウフコックだった。だが、やがて戦争は終結、彼らを“廃棄”するための部隊が研究所に迫っていた…『マルドゥック・スクランブル』以前を描く、虚無と良心の訣別の物語。
(1のカバーの裏から抜粋)
廃棄処分を免れたボイルドとウフコックは、“三博士”のひとりクリストファー教授の指揮の下、9名の仲間とともにマルドゥック市へ向かう。大規模な再開発計画を争点にした市長選に揺れる街で、新たな証人保護システム「マルドゥック・スクランブル‐09」の任務に従事するボイルドとウフコックたち。だが、都市政財界・法曹界までを巻き込む巨大な陰謀のなか、彼らを待ち受けていたのはあまりにも凄絶な運命だった―。
(2のカバーの裏から抜粋)
ギャングの世代間抗争に端を発した拷問殺人の背後には、闇の軍属カトル・カールの存在があった。ボイルドらの熾烈な戦いと捜査により保護拘束された女、ナタリアの証言が明らかにしたのは、労組対立を利用して権力拡大を狙うオクトーバー一族の影だった。ついに牙を剥いた都市システムによって、次々と命を落としていく09メンバーたち。そしてボイルドもまた、大いなる虚無へと加速しつつあった―暗黒と失墜の完結篇。
(3のカバーの裏から抜粋)
冲方氏によるマルドゥック・スクランブルのほうが先に発表されており、スクランブルでは15歳の少女の復讐の物語であった。そのときの敵、ディムズデイル・ボイルドが本作では主人公となっている。つまり、ルーン・バロットとウフコックが出会う前の、良心のまだあった敵ではないボイルドの物語。

クランチ文体―「=」、「/」を多用した短い文章。
クランチ文体―体現止めが多い/ジェイムズ・エルロイに影響/臨場感あふれる文体。
クランチ文体―独特のリズム/物語の加速装置/虚無をまとうボイルドのリズム。

主人公ボイルドは、元軍人で禁じられた重力制御技術を体内に持ち、あらゆる物理攻撃をそらし、壁や天井を走ることもできる。かつて麻薬漬けの状態で味方を爆撃するという罪を背負い、最強の白兵戦兵器であるネズミのウフコック、さらには同様の技術を持つ仲間たちと都市にはびこる犯罪を取り締まるO9メンバーとして活躍していく。しかし、次第に都市を巻き込む企業とギャング一族の陰謀に巻き込まれていき、いろいろなものを喪失していく。

明らかに前作と雰囲気も物語構成もテーマ性も文体のリズムも何もかもが異なっている。『ボイルド』の名の通り、ハードボイルド的で、コーチとよぶ警察の中間から事件解決の手ほどきを学び、徘徊者(ワンダー)として刑事のように事件解決に迫る。本格的なミステリ要素が強く、どちらかというとSFを媒体とした警察小説のようでもある。

もちろん、本作の魅力は事件解決、陰謀の謎が暴かれていくミステリ的な要素だけではない。あとがきに冲方氏が最初の執筆の動機として、「特殊な力を持った集団同士が戦い合う娯楽活劇」と示すように、さまざまな異能なキャラが出てくる。ボイルドの中間では、半不死のヤツ、盲目だがワイヤー武器と複数の目を持つ男、その相棒である話すこともできる不可視の軍用犬、顔面を意図した人間に変形できる男、声を操るヤツ、パチンコ玉のようなものを掃射する義手を持つ女がいる。

敵対する奴らは、カトル・カール=誘拐/暗殺/脅迫/拷問を得意とする13名のメンバーからなる半分アンドロイドのような狂ったやつら。全員が医療技術の心を持ち、金で雇われれば、ターゲットを四肢切断し、絶妙なところで命をつなぎとめて心身ともにこれ以上ないというくらいの苦痛をもたらす。人間的な容貌とは程遠く、トナカイ型、下半身が車輪のヤツ、噛みつきが得意で顔の半分が機械化している奴らなどなど、イカれっぷりの描写が半端ない。

そして、単純なミステリとは違うのは、圧倒的な戦闘描写があること。前作も同様に戦闘描写が自然と脳内に再現されるようであったが、今作はさらにその脳内映像化がより鮮明になっているような気がする。それは間違いなく独特のクランチ文体からなる文章のリズムによるもの。もちろん、最初は違和感があり、慣れるまでほんの少し時間がかかる。しかし、次第に自然とページがどんどん進む。それはまるで、重厚なモンスターマシンが徐々に加速度を付けて限界点を突破していくように。

前作よりもかなり残虐で暴力的になっている。拷問の結果の惨殺体やボイルドの大砲のような64口径の銃撃で血しぶきをあげて肉体を吹き飛ばしたり、最強の敵によって仲間がバラバラにされてしまったりとかなり血みどろになっている。マルドゥック・スクランブルは劇場アニメ化されたが、本作は暴力的過ぎてアニメ化するのに限度がある気がした。こちらを見た後にヴェロシティを読んだので、ボイルドのイメージがより具体性を持つことができた。

物語自体はあまり救いのないような、切ない感じだった。スクランブルの結末がプロローグとして始まり、100章から徐々にカウントダウンし、ボイルド自身の爆心地(グラウンドゼロ)に向けて加速度がつき、虚無へと誘われるボイルドの圧倒的な筆力による物語を堪能せよ!!

あと、マルドゥック・スクランブルはハリウッド映画化するとかしないとか。ところで、次回作「マルドゥック・アノニマス」はいつ発売になるのだろうか!?早川書房のTwitterアカウントによれば、今春(2014年)予定とつぶやいているのだけど、まだ発表されていないようだし。それまでは、『マルドゥック・フラグメンツ (ハヤカワ文庫 JA ウ 1-11) [文庫]』を読んで気長に待つか。





冲方 丁
早川書房
2012-08-23

読むべき人:
  • サイバーパンク的バトル作品が好きな人
  • ハードボイルド作品が読みたい人
  • 虚無へのカウントダウンを堪能したい人
Amazon.co.jpで『冲方丁』の他の作品を見る

bana1 ベロシティクリック☆  にほんブログ村 本ブログへ



トラックバックURL

コメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価:  顔   星