August 09, 2014

天人五衰

キーワード:
 三島由紀夫、完結、人生、衰え、心々
豊饒の海シリーズ第四巻。以下のようなあらすじとなっている。
妻を亡くした老残の本多繁邦は清水港に赴き、そこで帝国信号通信社につとめる十六歳の少年安永透に出会った。彼の左の脇腹には三つの黒子が昴の星のようにはっきりと象嵌されていた。転生の神秘にとり憑かれた本多は、さっそく月光姫の転生を賭けて彼を養子に迎え、教育を始める……。存在の無残な虚構の前で逆転する<輪廻>の本質を劇的に描くライフワーク『豊饒の海』完結編。
(カバーの裏から抜粋)
第三巻があまりにも仏教思想的な話が多くて、物語中の本多の思考の渦に飲みこまれたような感覚であったけど、最終巻はそこまで観念的なことはあまり描かれていなかったように思える。結末を除いては。

第四巻で転生したとされる安永透は、中卒で両親を早くに亡くしており、静岡の清水港で船の行き来を港に連絡するという仕事をしていた。たまたま訪れた本多がその少年の本質を見抜き、養子に迎え入れる。安永透は美しく、またIQ150もある聡明な人物で、高校に遅れて入学するも、その後東大に進学している。

しかし、本多によるテーブルマナーやそこでの会話など上流階級のお作法を仕込まれていくうちに、安永透もまた本多の醜悪さを見抜き、しだいに本多に対して暴力的にも反発していく。

安永透は家のメイド3人を毎晩変えて過ごすという何ともやりたい放題なことをしており、本多は本多で安永透が転生の結果であれば20歳ごろに宿命的に死ぬことをかけていたのだが、実際は死ななかった。そして、本多は覗きの趣向から警察沙汰にもなり、老齢な醜態もさらしていく。

前三巻は転生した人物(一巻は大元となる松枝清顕)が主人公として焦点をあてられているのだけど、本作は安永透にあまり焦点があてられていない。全編を通して、物語の裏主人公は、転生を見守ることしかできない本多繁邦なのだなと思った。タイトルにもある天人五衰というのは、死の直前に現れる5つの兆しのことを示すらしい。やはり本多の視点を通して、三島由紀夫という男が最後に何を考えていたのかが垣間見えるような気がする。この作品は連載を1年早めて完結したようで、この原稿を書き終わってから自決に向かったようだ。だからある意味遺書的な内容でもある。

結末はあまり語れないのだけど、これまでの内容をすべて覆すようで、読んでいるときは三,四巻は蛇足的な感じがした。しかし、結末がこの転生の物語を収束させるためには必要な気もする。理屈ではいまいち腑に落ちない側面も残るが、そこは条理を超えたものを感じるしかないのだろう。

もう少し年老いた時に読めば納得できるのかもしれないなと思った。また、何とか全四巻、案外挫折することなく最後まで没頭して読めた。全四巻を通して一番面白いと思ったのは『奔馬』だな。これが一番三島由紀夫を体現しているような気がする。

18歳の夏休みに金閣寺を読んで挫折し、三島由紀夫の作品からずいぶんと遠ざかっていたが、挫折を克服できたような境地になった。




読むべき人:
  • 転生の物語が好きな人
  • 衰えを実感している人
  • 人生について考えたい人
Amazon.co.jpで『三島由紀夫』の他の作品を見る

bana1 豊饒の海クリック☆  にほんブログ村 本ブログへ



トラックバックURL

コメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価:  顔   星