September 07, 2014

ウルトラ・ダラー

キーワード:
 手嶋龍一、インテリジェンス、偽札、思惑、外交
インテリジェンス小説。以下のようなあらすじとなっている。
1968年、東京、若き彫刻職人が失踪した。それが全ての始まりだった。2002年、ダブリン、新種の偽百ドル札が発見される。巧緻を極めた紙幣は「ウルトラ・ダラー」と呼ばれることになった。英国情報部員スティーブン・ブラッドレーは、大いなる謎を追い、世界を駆けめぐる。ハイテク企業の罠、熾烈な諜報戦、そして日本外交の暗闇…。わが国に初めて誕生した、インテリジェンス小説。
(カバーの裏から抜粋)
かつて参加した『本好きが選んだ新潮文庫の160冊』の会のスゴ本オフでいただいた作品。もう2年も経っているのだなぁ。それだけ積んでしまったということで、そろそろよいころあいかと思って読んだ。

インテリジェンス小説というのは、簡単に言えばスパイが活躍する小説。スパイ、エージェントというと、イアン・フレミング原作の007シリーズが有名で、東西冷戦にからんだお話が多い(映画は全部見ているが、原作は一作品も読んだことはないけど)。本作の舞台の半分以上は現代の日本がお話で、北朝鮮が作成しているという精巧な偽ドル札を英国の秘密諜報員が追うというお話。

物語の詳細とかはネタバレするとだめなので、特に解説はしないけど、現実と虚構を織り交ぜた各国の置かれた状況、外交的な駆け引き、思惑などが偽ドル札から北朝鮮による拉致被害などにも絡んでいって、想像以上に展開していく物語の構成力はスゴいと思った。これは著者のような職業経験を持ちえないと絶対書けないだろうなと。

実在の人物、たとえば北朝鮮の金正男がディズニーランドに遊びに来るために偽造パスポートでやってきたというエピソードも入っていたりする(あと噂によると赤坂見附でよく飲んでいたとか聞いたことがある)。また、日本の外交官の登場人物もそれなりに近いモデルがいるのではないかなと思わせてくれて、物語りに深みを与えている。

しかし、ところどころに出てくるインテリジェンス的なやり取りとはあまり関係ない料亭での食事、英国人主人公のスティーブンが習っている篠笛、そしてその師匠の身にまとう着物、スティーブンの乗るクラシックカー、サンデーサイレンス産駒など競馬の話など、博学なネタが満載なのだけど、その頻度にどう?これ知っている?とオッサンに酒の席で薀蓄を垂れられているように感じて、若干鼻に着くのは否めない。

あとは物語の構成的なものは各国を舞台に飛び回るのがよいのだけど、特に主人公の人物像というのはあまりパッとしないというか、人物描写がよろしくないなと。Amazonのレビューにもあったけど、掘り下げがなく、ぼやけた人物像であんまり感情移入できる感じでもなかったかなと。他の人物も似たような感じ。

個人的には主人公スティーブンがオックスフォード大学の恩師と会っていろいろと会話するシーンで、インテリジェンスとは何かを教授が説いている部分がなるほどと思った。以下その部分を引用。
「あの河原の石ころを見たまえ、いくつ拾い集めたところで石ころは石ころにすぎん。だが、心眼を備えたインテリジェンス・オフィサーがひがな一日眺めていると、やがて石ころは異なる表情をみせ始める。そう、そのいくつかに特別な意味が宿っていることに気づく。そうした石だけをつなぎ合わせてみれば、アルファベットのXにも読み取れ、サンスクリット語の王にも読み取れ、漢字の大の字にも見えてくる。知性によって彫琢しぬいた情報。それこそ、われわれがインテリジェンスと呼ぶものの本質だ」
 雑多な情報のなかからインテリジェンスを選り分けて、国家の舵を握るものに提示してみせる―これこそが情報士官の責務だ。
(pp.73)
いろんなことにも応用できそうだなと思った。例えば株価予測について分析したりとか、お仕事で業務分析をする場合などにも。

最近読んだインテリジェンス小説は以下だな。これはジェフェリー・ディーヴァーが著者。こっちはエンタメ作品としてはハラハラさせてくれる感じで面白い。『ウルトラ・ダラー』はほとんどドンパチしたりするような派手さはないのだけど、国同士の思惑、次の一手が実際にあり得るかもしれない、と思わせてくれるところがスゴい感じで、面白かった。

同じ主人公、スティーブンが出てくる続編もあるらしい。こっちも暇なときに読んでみるか。

本作品は、小説として読むと若干微妙な部分があるけど、作り話のような半ノンフィクションな本として読むと面白いと思う。



ウルトラ・ダラー (新潮文庫)
手嶋 龍一
新潮社
2007-11-28

読むべき人:
  • インテリジェンス作品が好きな人
  • 北朝鮮の動向に関心がある人
  • 日本の置かれた状況を考えたい人
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