November 16, 2014

旅行者の朝食

キーワード:
 米原万里、ロシア、小咄、旅、食い気
ロシア語通訳者による食エッセイ。以下のような内容となっている。
「ツバキ姫」との異名をとる著者(水分なしでもパサパサのサンドイッチをあっという間に食べられるという特技のために)が、古今東西、おもにロシアのヘンテコな食べ物について薀蓄を傾けるグルメ・エッセイ集。「生きるために食べるのではなく、食べるためにこそ生きる」をモットーに美味珍味を探索する。解説・東海林さだお
(カバーの裏から抜粋)
この本は2年前の『旅』がテーマのスゴ本オフでいただいたもの。ずいぶん放置していたし、そろそろ『旅』な気分だったり何かエッセイを読みたいと思っていた。個人的にはこれは『旅』よりも『食』的な印象を強く受けた。

著者の米原万里のことは正直何も知らなかった。著者紹介には元ロシア語会議通訳、作家とだけある。他にどんな本を書いていて、どういう経験をされているのかもしらずに読んでみたら面白かった。さすがスゴ本。2006年に逝去されているようだ。残念。

面白かったエッセイのタイトルを列挙しておこう。
  • ウォトカをめぐる二つの謎
  • 旅行者の朝食
  • キャビアをめぐる虚実
  • 夕食は敵にやれ!
  • シベリアの鮨
  • キッチンの法則
  • 食い気と色気は共存するか
『ウォトカをめぐる二つの謎』では、ウォトカを最も美味しく飲める理想的なアルコール比は39度でも41度でもない、40度である、と発見したのは化学元素の周期律を発見した化学者メンデレーエフであると、自著に書いたらいろいろと情報の出所に問い合わせがあったとか。実際はガセネタだったらしいけど、そこに至るまで、ロシアのウォトカ事情、歴史がいろいろと分かって面白い。

本書のタイトルにもなっている『旅行者の朝食』というのは、ネタバレするから詳細は示さないけど、普通の旅行中の朝食のことではなく、そこにはロシア人が何度聞いても笑い転げる小咄(フォークロア)がネタになっていて、ロシア人の友人に「何なのよ、『旅行者の朝食』って!?」と問い詰めるが、「クックックックッ」と笑いをかみ殺すような反応が返ってくるようだ。これはなかなか面白いエピソードだと思った。ここもロシア人の気質などが窺い知れる。ここは読んで確認がよろしい。

『キッチンの法則』では面白い法則がいくつか示されている。「料理上手は掃除下手、掃除上手は料理下手」という古今東西を貫く法則があるらしい。ほうほうと思いつつも、僕はどっちが上手が下手かも判断不能だが。他にも「台所器具の価格とその使用頻度は反比例する」とか「キッチンが立派になればなるほど、料理は粗末になる」、「料理を作るのにかけた時間とそれを平らげるのにかかる時間は反比例する」とか「一生懸命作った料理ほど客には評価されない」など著者独自の視点もある。料理をよくする人ならうんうん、と賛同するのではないかしら。

著者はどちらかというと「生きるために食べる」のではなく「食べるために生きる」と自認するほど食に関心が高いようで、個人的には激しく同意と思う。学生時代以前は好きなものを好きなだけ食えるほどのお金も食の範囲もないのだから、そんなに食に関心が向かないのだけど、ある程度の食経験が増えてくると、「食べるために生きる」という感覚が芽生えてくるなと。といいつつも、持病のせいで食事制限しなくてはいけない身なので、好きなものを好きなだけ食うということは依然としてできないのだけど。

著者の語り口がとても面白くて読ませられる。料理に関する挿絵や写真など皆無なのだけど、ロシアの見たことも聞いたこともないお菓子や料理が脳内で勝手に想像されて激しく食いたさをそそられる。よって『旅』的なテーマとして海外旅行中に読むのは絶対お勧めしないな。絶対後悔する。激しく腹が減ってしまうし、現地の食に満足できない場合は特に。僕は通勤の行きに読んでいたけど、それでも食指を動かされて朝から腹が減ってしまった。

気軽に読めるエッセイであまりなじみのないロシアのことも面白く分かるし、食に関する知見もいろいろと広まるのでお勧め。



旅行者の朝食 (文春文庫)
米原 万里
文藝春秋
2004-10

読むべき人:
  • 気軽なエッセイを読みたい人
  • ロシア事情に詳しくなりたい人
  • 食べるために生きている人
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