December 12, 2014

神々の山嶺

神々の山嶺〈上〉 (集英社文庫)神々の山嶺〈下〉 (集英社文庫)

キーワード:
 夢枕獏、山、エヴェレスト、人生、求道
山岳小説。以下のようなとあらすじとなっている。
カトマンドゥの裏街でカメラマン・深町は古いコダックを手に入れる。そのカメラはジョージ・マロリーがエヴェレスト初登頂に成功したかどうか、という登攀史上最大の謎を解く可能性を秘めていた。カメラの過去を追って、深町はその男と邂逅する。羽生丈二。伝説の孤高の単独登攀者。羽生がカトマンドゥで目指すものは?柴田錬三郎賞に輝いた山岳小説の新たなる古典!
(上巻のカバーの裏から抜粋)
その男、羽生丈二。伝説の単独登攀者にして、死なせたパートナーへの罪障感に苦しむ男。羽生が目指しているのは、前人未到のエヴェレスト南西壁冬期無酸素単独登頂だった。生物の生存を許さぬ8000メートルを越える高所での吐息も凍る登攀が開始される。人はなぜ、山に攀るのか?永遠のテーマに、いま答えが提示される。柴田錬三郎賞に輝いた山岳小説の新たなる古典!
(下巻のカバーの裏から抜粋)
昨年夏のスゴ本オフ『山』のテーマの時に紹介されていた。そのときから気になっており、以前西新宿のブックファーストのフェアでも取り上げられていたので、その時に買って積んでいた。そして最近読んでみた。読んでみたら評判通りのTheスゴ本!!って感じの圧巻の小説。

山に憑りつかれるように魅せられた男、そしてその山屋を追っていくうちにその男自身に惹きつけられる男の話。一言でいうなら、ルパン三世のテーマ曲にある『男には自分の世界がある』というような内容が書き表されている。

ネパール語でサガルマータ、チベット語でチョモランマ、英語でエベレスト(エベレスト - Wikipedia)。世界最高峰のこの山の絶壁部分の南西壁の冬季、無酸素、単独で登頂しようする伝説の日本人クライマー、羽生丈二。中卒で山に登り始めてから、山のために定職には就かず、人間関係も希薄で、誰もやったことがない登山に挑戦し続けている。山に金とか女とか目的などがあるわけではない。人生で山しかない羽生丈二には明言できるような登る理由もなく、それは何のために生きるのか?に転換されても答えはない。それでも最高峰の神の領域に足を踏み入れて、命がけで挑戦していく。

そしてその羽生丈二に出会ってしまって生き方を変えられたカメラマンの深町誠。最初はジョージ・マロリーのカメラを手に入れたことから羽生丈二と関わることになり、羽生丈二のこれまでを間接的に取材し、そしてエベレスト付近で羽生丈二と行動を共にすることで、ジョージ・マロリーが1924年にエベレストの登頂に成功したのかどうかのフィルムの情報を得るつもりが、次第にその本来の目的も忘れ、羽生丈二の生き様に惹きつけられ自分の中にどこか満たされず燻っていたものが焚き付けられていく。

この小説の何がスゴいのかというと、文章のリズム感だろうか。夢枕獏の作品はあまり読んだことがないが、短い文章で改行が多く、一見詩のような文体のようになっている。しかし、それが登山での足の歩み1歩、1歩を間接的に表現されているようにも思える。と同時に、それぞれの登場人物の登攀中の苦しみ、辛さ、葛藤、自問自答など極限状況の心情がダイレクトに読み手に流れ込んでくる。

そして、8000メートル級の世界ではどんなに高地トレーニングを積んでも高山病になり、酸素は薄く1歩の歩みで喘ぎ、テントの中でも寝ているだけで体力を消耗し、幻聴を聞いたり幻覚が見え始め、風速50メートルほどのジェットストリームによる風が襲い、上から石が降ってきて直撃すると致命傷になり、ほんの少しの気の緩みで滑落して死が待ち受けているマイナス25〜40度の過酷な世界にあたかも自分もそこにいるかのような感覚になってくる。そして文体もあるが、面白さも相まってページがどんどん進む。

やはり何もかもを捨てて自分の人生、生命をかけてまで挑戦したり果敢に何かを成し遂げようとうする人物に魅了される。『月と六ペンス』では画家ポール・ゴーギャンがモデルの主人公、ストリックランドが貧困に陥るがただ絵を描きたいのだと言って妻子など他のすべてを捨てて、絵に生涯を投じていた。それと同じように羽生丈二という男は山にすべてを賭けていた。入念な準備をし、エベレストを地道に調査し、8年がかりで50歳近い年齢で挑戦している。こういうものを読んでしまったら、なんとなくぼーっと過ぎていく毎日を送る自分に、このままでいいのか?こんな生き方をすべきじゃないのか!?と自分自身も深町のように焚き付けられてしまう。人によっては今後の人生観に影響が出そうなほどの内容となる気がする。ちょっと山に行(逝)ってくるという人がいてもおかしくないくらい、いろんな意味で危険な作品でもある。僕は行かないけど。

登山などほどんどやったこともないし、それほど関心がない僕でも楽しめてかつそれに命を懸けた男の生き方にも魅了された。
 それを成し遂げるには、その行為者が神に愛されねばならない。
(下巻 pp.132)




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