December 25, 2014

ニュークリア・エイジ

キーワード:
 ティム・オブライエン、核、戦争、不安、総合小説
アメリカ文学作品。以下のようなあらすじとなっている。
元チアリーダーの過激派で「筋肉のあるモナリザ」のサラ、ナイスガイのラファティー、200ポンドのティナに爆弾狂のオリー、そしてシェルターを掘り続ける「僕」…’60年代の夢と挫折を背負いつつ、核の時代をサヴァイヴする、激しく哀しい青春群像。かれらはどこへいくのか?フルパワーで描き尽くされた「魂の総合小説」。
(カバーの裏から抜粋)
舞台は1958年から1995年までのアメリカ。主人公ウィリアムは1995年時点で49歳。詩で自分を表現する元フライトアテンダントの妻、ボビと12歳になる娘、メリンダがいる。ウィリアムは核弾頭によってもたらせられる終末を恐れており、妻と娘を守り、自分自身の信じるもののために家の庭に穴を掘り続けている。しかし、妻と娘にはまったく理解されず、気が狂っていると思われている。

1958年の章は、ウィリアムが12歳のところからスタートする。その当時から最後の審判がやってくることを確信し、家の地下室に手製のシェルターを作成している。そして高校生あたりになっても、その傾向は変わらず、結果的に両親に精神科通いを進められるが、自分はいたって正常であり、友達も意図してあまり作らず、常に終末に備えていると担当医に告げる。そして、大学では『爆弾は存在する』と一人で紙をもって活動し始めたところから、元チアリーダーで魅力的なサラ、肉体派のナイスガイ、ラフティー、爆弾狂のオリー、その友達の200ポンドのティナが仲間に加わる。

物語としては、とりわけ面白いわけではない。主人公のパラノイア的な言動が多く、妄想のような心情描写も長く、読み続けていると疲弊するというか、どこか辟易としてくる。また、主人公を愛している、追いかけられたいのと言っている割には、どこか満たされないものを抱えて主人公を翻弄するような典型的な女、サラにもあまり感情移入できない。さらに、60年代アメリカを代表するような政治家、軍事関係者、ロックバンドなどの訳注を参照しなくては分からない固有名詞が頻出している。

しかし、東西冷戦、キューバ危機、泥沼化していくベトナム戦争、核弾頭をいくつも全米の基地に抱え込んでいて、いつそれらが発射されるかわからない60年代から70年代のアメリカの置かれた不安な情勢が主人公を通して描かれていた。パラノイア的に自分が掘っている『穴』に掘れよと催促され続ける主人公。狂っているのは、主人公なのか、それともその主人公を取り巻く世界なのか!?そういうこともいろいろと考えさせられる。

著者はベトナム戦争に歩兵として参戦しているらしい。また、『世界のすべての七月』にもベトナム戦争に従軍して人生がよくない方向に変えられた人物が出てくる。本作の主人公はベトナム戦争への徴兵を忌避し、国外逃亡している。そういう部分もあって、著者自身の全編ベトナム戦争など戦争や紛争に対する恨みつらみが込められているようでもあった。翻訳は村上春樹で、村上春樹自身の文体と著者の物語が相互作用しているような気がする。おなじみの「やれやれ」も多く出てくる。村上春樹の作品を読んでいるような気にさえする。また、村上春樹は訳者あとがきで『それぞれの読者に対して異なった捉えかたを要求する小説である』と示している。そして以下のようにも示している。
僕はこの小説を読み終えたあとで、誰かとすごく話しあいたかった。そしてもし誰とも話あえないのなら、(中略)何かすがるべき言葉が、空白を埋めてくれるべき言葉がほしかった。
(pp.650)
よって、読了後に空白をもたらす作品であると。そのため、この作品を『現代の総合小説』と呼びたいとあった。

語り合いたいとまではいかないけど(語る場も特にないし、だからここに書くしかない)、主人公のようにずっと自分や家族を脅かす存在に対する不安に決定打を打ち出せないまま生きながら、自分自身のよりどころとなるものを獲得しようと奮闘し続きながらもがいている部分に共感できたし、他の作品に比べてここに何か書き落としておきたいという気にさせられた。

60〜70年代のアメリカの情勢、空気感が村上春樹のコメント付きの詳しい訳注もあって、よくわかった。と同時に、普段の生活で覆い隠されている自分自身に内在する不安とか飢餓感、恐れているものを掘り起こされるような、そんな作品でもあった。



ニュークリア・エイジ (文春文庫)
ティム オブライエン
文藝春秋
1994-05-10

読むべき人:
  • 戦争小説を読みたい人
  • 60年代以降のアメリカの情勢を知りたい人
  • 何かに恐れを抱きながら生きている人
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