January 24, 2015

オスカー・ワオの短く凄まじい人生

キーワード:
 ジュノ・ディアス、呪い、ドミニカ、オタク、サファ
ドミニカ系アメリカ人による小説。以下のようなあらすじとなっている。
オスカーはファンタジー小説やロールプレイング・ゲームに夢中のオタク青年。心優しいロマンチストだが、女の子にはまったくモテない。不甲斐ない息子の行く末を心配した母親は彼を祖国ドミニカへ送り込み、彼は自分の一族が「フク」と呼ばれるカリブの呪いに囚われていることを知る。独裁者トルヒーヨの政権下で虐殺された祖父、禁じられた恋によって国を追われた母、母との確執から家をとびだした姉。それぞれにフクをめぐる物語があった―。英語とスペイン語、マジックリアリズムとオタク文化が激突する、全く新しいアメリカ文学の声。ピュリツァー賞、全米批評家協会賞をダブル受賞、英米で100万部のベストセラーとなった傑作長篇。
(そでから抜粋)
今年最初の本はこの作品。いつもは遅くとも10日以内に更新していたが、今年はだいぶ遅くなった。

本書はBRUTUSの読書入門で訳者によって世界文学のページで紹介されていた。そこで『ドミニカ共和国生まれで日本のポップカルチャー好きなアメリカ在住の作家が書いたドミニカ共和国とアメリカが舞台の本(pp.036)』と示されていた。さっそく行きつけの大型書店で探したらなかった。そこで訳者の21世紀の世界文学30冊を読むをちょっと立ち読みしたら本書が紹介されていて、『読まずに死ぬと後悔するほどの傑作』というようなことが書いてあったので、ぜひ読まなくては!!と思った。近所の図書館で検索してみたら、置いてあったので借りて2週間の貸し出し期限で読了した。

主人公はドミニカ生まれで、太っていて不細工で、ファンタジー小説やSF映画、テーブルトークRPG、アメコミなどが大好きなナードよりなオタクである。さっぱりモテなくて、暴走気味に女性に近づくときに好きなSF作品などを話題として相手のことをまったく考えずに話し、そしてキモがられて拒絶されている。また、SFやファンタジー小説を書くのがライフワークとなっている。名前の由来はオスカー・ワイルドのもじりとなっている。

オスカーの家系はアフリカを発祥としたとされる凶運の『フク』と呼ばれる呪いに翻弄される。物語は最初は1974-1984年のオスカーの幼少期に唯一モテた話から始まり、1982-1985年のオスカーの姉、ロラの視点に変わり、思春期のボーイフレンドとの関係、母親との確執が示されている。また1955-1962年にはオスカー、ロラの母親の思春期時代にモテまくった話、そしてギャングと恋におち次第に暴力的に虐げられる話が続く。さらには1944-1946年にはオスカー、ロラの祖父であり、医者で裕福なアベラードが当時ドミニカを支配していた独裁者、ラファエル・トルヒーヨから自分の妻と娘をいかに守るか奮闘しながら、最後には転落する様子が描かれている。

ところどこにオスカー視点(といいつつ語り手はたまに神の視点での著者であったり、大体はオスカーの大学時代に知り合った友人、ユニオールの語り)に移り、オスカーの一生が友人関係やオスカーのうまくいかなかった恋路から自殺未遂をしたり他者の暴力によって負傷したりするエピソードが独特の語り口調で示される。

この作品の何がスゴいのかというと、物語を脚色したり比喩のアクセントとしてSF、ファンタジー小説(特に『指輪物語』が頻出)やアメコミ作品(『ウォッチメン』、『ファンタスティック・フォー』などマーベル系)や映画(『猿の惑星、『マトリックス』、『ゴースト/ニューヨークの幻』など)、カードゲーム(該当箇所を探すのが面倒だから省略w)、アメリカのテレビドラマ(これも多すぎるしマイナーなのばかりなので省略)、日本のアニメ(『宇宙戦艦ヤマト』、『キャプテンハーロック』、『超時空要塞マクロス』、『AKIRA』)やゲーム(オスカーがプレイする『スト2』やドミニカの辺境で不毛な地域を例えるために『聖剣伝説』シリーズに出てくる「ガラスの砂漠」まで!!)などの固有名詞が頻出し、そのすべてに訳者注が示されている!!これはよくここまで調べたなぁと思った。きっと自分の好きな作品が必ず2,3個は出てくることは間違いない。また、作者のジュノ・ディアズはどれだけオタクなんだ!!と感嘆させられる。

オタク的なポップカルチャーが特徴的であるが、ドミニカで1940〜1960年ごろにトルヒーヨによる独裁、恐怖政治の状況が示されており、勉強になったというか、こんな悲惨な世界があるのかと思った。秘密警察によって住民たちは監視されており、トルヒーヨを嘲笑しただけで数時間後には広場で死体となっていたり、国の女はすべて自分のものだと言わんばかりにやりたい放題で、気に入らないやつを投獄してそいつの土地や家や経営する店などを徴収したりする。ドミニカはそんな悲惨で暗黒な歴史があったのだなと、自分の知らなかった世界を垣間見た。

いわゆるマジックリアリズム的な手法の代表作であるラテンアメリカ文学の『百年の孤独』のような感じでもあるが、そこまでぶっ飛んだ感じでもない。とはいえ、呪いやその対照的な祈り、『サファ(冒頭でマコンドで大事な言葉だったと出てくる)』という概念も出てきたり、神のような存在である黄金のマングースが出てきたり、不吉な予感の象徴のようなサルバドール・ダリの絵に出てくるような顔のない男が出てきたりもする。また『百年の孤独』のようにページがまったく進まないということはない。むしろ著者独自の語り口調でスピードをつけて一気読みできる部類(でも激しく続きが気になる!!、という展開でもない)。

訳者があとがきで『ここまで新しくて面白い、というのは尋常なことではない。その点で、本書の登場は二十一世紀のアメリカ文学における一つの事件である。 (pp.407)』と示されている。読了後の率直な感想を示せば、めちゃくちゃ面白い!!!絶対読まなくては損だ!!とまでは思わなかった。それでも、一家3代に渡る物語の構造が重厚だがマジックリアリズムのポップバージョンのようでもあり、主にドミニカという舞台、物語の進行を半ば無視して別の話を展開する著者によるかなり多い原注などもあって今まで読んだことのないタイプの作品だと思った。

また、なによりもまったくモテなくても2次元に逃避せずに3次元の女性に向かってがんばるオスカーに共感できたし、僕も頑張ろうと不思議と勇気づけられた気がした。結末はちょっぴり切ないけれど。

以前からアメリカ(大陸)文学は面白い作品が多く、スゴい!!と思っていたが、この作品によってまたそれを裏付けられた。そういった意味では、この作品は十分スゴ本の部類に入ると言ってもよいだろう。




読むべき人:
  • ドミニカを舞台とした作品を読みたい人
  • アニメやゲーム、映画などが好きなオタクな人
  • まったくモテない人
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