May 16, 2015

重力が衰えるとき

キーワード:
 ジョージ・アレック・エフィンジャー、サイバーパンク、イスラム、ボンド、重力
サイバーパンクSFハードボイルド作品。以下のようなあらすじとなっている。
アラブの犯罪都市ブーダイーンで探偵仕事を営むマリードは、ある日ロシア人の男から行方不明の息子の捜索を依頼される。だがその矢先、依頼人が目の前で殺されてしまった! しかもなじみの性転換娼婦の失踪をきっかけに、周囲では続々と不穏な事件が。街の顔役の圧力、脳を改造した正体不明の敵……マリードは今日もクスリ片手に街を疾走する。近未来イスラム世界で展開するサイバーパンクSF×ハードボイルドミステリ。
(カバーの裏から抜粋)
年齢30歳くらいのマリードは、街を支配するパパと呼ばれるマフィアのボスの配下に入ることを避け、独立した探偵業を営んでいた。ブーダイーンという街は性転換者があふれ、脳を改造し、モディ:人格モジュールを差し込むことによって過去に実在した偉人の人格、架空の物語の主人公の人格を身に付け、さらにダディ:能力アドオンモジュールによって外国語を瞬時に話したりすることができる未来。

そこで次々と主人公マリードを取り巻く人物が残虐に殺されていく。どうやら敵はジェームズ・ボンドのモディを使った冷徹な殺し屋らしい!!マリードとジェームズ・ボンドの攻防が始まる!!というお話。

敵の通称ジェームズ・ボンド、というのは説明するまでもなくイアン・フレミング原作の007の主人公で、この時代ではもう紙の本はあまり流通しておらず、ジェームズ・ボンドの作品も過去の遺物として扱われている。敵はこれを使ってウォッカ・マティーニを飲み、イギリスのために戦う存在ではなく、完全に殺しの能力を獲得するためだけにボンドになりきっている。しかも心臓をえぐって死体のそばに置くなど、残虐で異常性も持ち合わせている。いつも正義のジェームズ・ボンド視点の作品ばかり見ているから、敵役なのはなんだか新鮮な感じがした。

敵はジェームズ・ボンドのモディを使う殺人者、ということしか分かっていない状況から、誰が何のために殺していくのか?という過程が分かっていくのが警察ミステリっぽく面白かった。そこにサイバーパンク的な要素、脳内麻薬を仕込んだり、ニードルガンという武器やモディ売り場、モディ、アドオンをつけることでマトリックスのように能力拡張ができる仕組みなどがアクセントになっている。ただネットワーク空間の描写などコンピュータ的なのはほとんどない。主人公は電話を腰に付けているけど、今のようなスマフォのような感じでもなさそうだった。

あとはブーダイーンというイスラム世界がさらに独特の雰囲気を醸し出していた。マフィアのボス的なやつと会うときは常に本題に入る前に儀式的にコーヒーを何杯も飲み、「あなたにアッラーのご加護がありますように」と相手を祝福する言葉を掲げたりする。暑く砂埃が舞う、そして退廃的な街をイメージしていた。

ニューロマンサーのような分かりにくさはほとんどなく、さくさくとページが進んで読みやすい。サイバーパンク的な要素は控えめで、どちらかと言うと、フィリップ・マーロウのようにタフでどこかユーモアを忘れない主人公によるハードボイルドミステリ作品だった。割と熱中して読めた。でも、結末はどこか切ない。

言ってみれば、アラブの近未来が舞台で、ジェームズ・ボンドとフィリップ・マーロウが対決するような物語にどっぷりつかりたい人にはお勧めだ。



重力が衰えるとき (ハヤカワ文庫SF)
ジョージ・アレック・エフィンジャー
早川書房
1989-09-15

読むべき人:
  • サイバーパンク作品が好きな人
  • 007作品が好きな人
  • フィリップ・マーロウ作品が好きな人
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