September 27, 2015

バビロンに行きて歌え

キーワード:
 池澤夏樹、兵士、都会、ロック、歌
オムニバス的な小説。以下のようなあらすじとなっている。
一人の若き兵士が、夜の港からひっそりと東京にやって来た。名もなく、武器もなく、パスポートもなく…。突然、この海のような大都会に放り込まれ、さまよい歩く異邦人。その人生の一場面で彼とすれ違い、あるいはつかの間ふれあい、そして通り過ぎていく男や女たち。彼を中心に、この不可思議な大都会と、そこに生きる様々な人間像を鮮やかに、感動的に描いて新境地を拓いた長編小説。
(カバーの裏から抜粋)
図書館で借りた本。なんとなく著者のエッセイを借りようかと思っていたのだけど、文庫コーナーに行くとこの小説を発見した。あらすじを読んでみると面白そうだと思って借りて読んだら、当たりだった。さすが自分の直観だな!!と思った。

主人公はターリクというベイルートから東京に密入国した20歳くらいの兵士である。故郷での作戦行動によってまずい立場となり、亡命してきた形で船で東京にたどり着くが、頼れる先もパスポートもなく、日本語も分からない状態である。そのため、まずは寝床を探し、捨て犬を使って散歩しているように歩くことでアラブ系外国人が1人いることの不自然さを中和し、警察に捕まって強制送還されないように隠れるように生きていくしかない。そんな状態でいろんな人に助けられながら、次第に歌うことで大都会東京での自分自身の生き方を確定していく。

主人公は変わらないのだけど、12編の短編小説が連なって長編作品になっているような作品となっている。各章ごとに人物の視点は変わり、主人公ターリクそのものが登場しない章もあるが、必ず間接的にターリクとつながった話になっている。

最初はターリクが東京に来る章(「夜の犬」)、次にターリクが拾った捨て犬が交通事故にあったことから世話になる獣医との関係の話(「老獣医」)、ターリクが受け取るはずだったパスポートの発行先の某国大使館員の話(「ブループレート」)、ターリクが出会った女性プログラマー兼経営者との恋愛模様(「恋の日々」)とどんどんつながっていく。

ターリクはもともと声質がよかったということもあり、居候している先のロックバンドをやっているメンバーからヴォーカルをやらないかと言われて歌い始める。その歌は、アラブ的で、戦争をしている故郷についての郷愁とか大都会での行き場のない自分自身の気持ちなどを乗せて、次第に人を惹きつけていく。そういうロック的な描写もよく、感情移入できた。

基本的には主人公ターリクの物語であるのだけど、その中心の外にターリクを取り巻く人々の物語も同時に描写されているのがよかった。それぞれが生き方の方向性を模索しているようで、ターリクに直接的にしろ間接的に出会ったことでよい方向に変わっていく。また、ターリク自身は故郷と違って狙撃されたりする心配はないが、大都会で生き延びていく必要があり、いろんな人に助けられて物語が進んでいくのが温かい感じがしてよかった。

なんというか、とても読みやすい小説だと思った。描写がすんなり頭に入ってきて、それぞれの章で視点や登場人物が変わってもターリクが主人公であるという横串のようなものは変わらず、自分の感覚と波長が合っていて、違和感もなく素直に受け入れられるような、そんな作品。大抵の小説はそうはならないのだけどね。

著者の作品、本は他に以下を読んだことがある。他にも小説とか旅行記があるらしいのでいろいろ読んでみたい。あとエッセイも。

本作品の読了後は、暖かい気持ちになれて、とても心地よいものだった。




読むべき人:
  • 心地よい作品を読みたい人
  • ロックバンドをやっている人
  • 大都会東京でサバイブしている人
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