October 03, 2015

職業としての小説家


キーワード:
 村上春樹、自伝、小説論、意志、開拓
村上春樹の自伝的な小説を書くことについてのエッセイ。以下のような目次となっている。
  1. 第一回 小説家は寛容な人種なのか
  2. 第二回 小説家になった頃
  3. 第三回 文学賞について
  4. 第四回 オリジナリティーについて
  5. 第五回 さて、何を書けばいいのか?
  6. 第六回 時間を味方につける──長編小説を書くこと
  7. 第七回 どこまでも個人的でフィジカルな営み
  8. 第八回 学校について
  9. 第九回 どんな人物を登場させようか?
  10. 第十回 誰のために書くのか?
  11. 第十一回 海外へ出て行く。新しいフロンティア
  12. 第十二回 物語があるところ・河合隼雄先生の思い出
    あとがき
(目次から抜粋)
村上春樹の作品の最初の出会いは高校卒業直後の18歳のころだった。何とも言えないもやもやしたいろんな気持ちを抱えて、何でか忘れたけどどこかのお勧めとして『ノルウェイの森』を近所の書店で読んだ。イスと机があるような大型書店だったので、ほとんど座り読みでタダ読みしてしまったのだけど。それまで上下巻のような長編小説をまともに読んだことがなかったのだけど、むさぼるように読んだ。読み終わって何とも言えない達成感とカタルシスのようなものを内に抱いていたと思う。それから読書、特に小説を読むきっかけになって、こんな読書ブログを書くまでになった。

ということで、村上春樹というのは僕にとっては別格というか、特別な作家に間違いない。長編作品をすべて読んだ作家は、安倍公房と村上春樹しかいない。それくらい村上春樹の作品というのは、自分の中での小説の一つの基準のようなものになっている。そして、大抵の主人公たちは、よく分からない出来事に翻弄され、超現実的な存在や悪と対峙せざるを得なくて、喪失感とどこか失望を抱いてハッピーエンドに結末を迎えない。そういう不思議でよく分からないものが出てくる物語がとても好きというか、自分にとてもあっていたのだと思う。

さて、本書は、著者が小説を書くことに関するこれまでの作家生活35年に渡る集大成みたいなのものが示されている。確かにそうだと思った。ところどころ他の本に示されているようなこと、例えばよく出てくるのは、ヤクルトスワローズの試合を神宮球場の外野席で見ていた時に、天啓のようにそうだ、小説を書こうと思って小説を書いて、夜な夜なキッチンで書いていたとか、ジャズバーを経営してた時に大変だったとか、お金がなくてちょうど3万円必要なときに道端で拾って借金を返せたとか、7年くらいかけて早稲田大学を卒業したといった小ネタなどが出てくる。

しかし、小説の書き方、これまでどのようにして小説を書いてきたのか?、そして自作について何を意識して書いてきたのか?、さらには小説家になるために何が必要か?といった、他の本にはほとんど書かれていなかったことが書かれている。これは一ファンとしてはとても興奮するというか、ずっと読みたかったような内容が書かれている!!!と思った。ついつい蛍光ペンで線を引きまくった。

例えば、まずデビュー作はとなった『完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望というようなものが存在しないようにね。』と始まる『風の歌を聴け (講談社文庫) [文庫]』は、小説の書き方も分からない状態だったので、感じたこと、頭に浮かんだことを好きなように書いていたらしい。その時に「普通じゃないこと」を意識して、最初は英語で書いていて、そこから何も難しい言葉を並べなくてもいいんだと気付いたというエピソードがあった。これは知らなかった。

また、小説家に必要な資質は、小説を書かずにはいられない内的なドライブ、長期間にわたる孤独な作業を支える強靭な忍耐力が必要とある。小説家になるためには、とりあえずたくさん本を読むことで、次は書くよりもまず自分が目にする事物や事象をとにかく子細に観察する習慣をつけること、素早く結論を取り出すことではなく、マテリアルをできるだけありのままに受け入れ、蓄積すること、さらには長期間書くためには心は強靭にしておき、そのためには入れ物である体力を増強し、管理維持することが不可欠とあるようだ。ここら辺はそうやってこれまでの作品を書かれてきたのだなと分かってよかった。

個人的には村上春樹の生活スタイルにあこがれを抱いてしまう。早朝の日の出くらいから起床し、コーヒーを飲みながらそこから執筆を開始し、5,6時間かけて10枚書く。それ以上書けてもきっかり10枚でやめて、午後からは泳いだりランニングしたり、読書をし、夜は早目に就寝し、それを毎日淡々と続ける。締め切りに追われるのではなく、自分に合ったスケジュールで自分の好きなように書きたかった、とあった。とても自由な感じで羨ましいなと思った。僕もそんな生活をしたいなと思った。まぁ、休職という期間限定で半分実現してはいるけど、ずっとは無理だな。

本書で特に参考になったのは、「第十回 誰のために書くのか?」で、いろんな人が読んで好き勝手評価するのだから、それらを全部納得させる作品など書けっこないので、自分の書きたいものを書きたいように書いていこうと考えられたようだ。そこに続く以下の部分が特になるほどと思った。
 もちろん自分が楽しめれば、結果的にそれが芸術作品として優れているということにはなりません、言うまでもなく、そこには峻烈な自己相対化作業が必要とされます。最低限の支持者を獲得することも、プロとしての必須条件になります。しかしそのへんさえある程度クリアできれば、あとは「自分が楽しめる」「自分が納得できる」というのが何よりも大事な目安になってくるのではないかと僕は考えます。だって楽しくないことをやりながら生きる人生というのは、生きていてあまり楽しくないからです。そうですよね?
(pp.254)
暇で今後の自分の仕事を含めての生き方をどうしようかな〜?と模索している身としては、これはやはりそうだよね、と納得した。もう好きなことして生きていってもいいじゃないか!?と。そういう小説に限らない仕事の考え方、生き方もとても参考になる。

小説家になりたい人はぜひ読んでみるといいのではないかと思った。ただ、著者も示すように、自分のやり方を書いただけで一般化できないかもしれないとあった。まぁ、そうだよねと思う。このやり方を踏襲してどれだけの人が小説家になれるんだろうか?とも思った。

小説家は身近な職業ではないし、知り合いにもほとんどいないし、なんだか不思議な職業だったりする。作品を発表しても酷評されたりもするけど、著者はそれでも常に全力投球していて、プロ意識が高く、常に作品を書くときに新しいことに挑戦されていたりする。日本だけにとどまらずにアメリカをはじめとして、再度新人のような状態で海外展開を独自に考えてやっていったということも書いてあった。そういう部分もとても勉強になった。

何というか、本書は映画DVDなどの特典映像に監督の作品解説とかメイキングシーンが含まれているような本だと思った。好きな映画だったら、そういう監督や脚本家が何を意識して映画を作っていたのかが分かったりするととても面白くかつ興味深く見れるし。そのような内容を読者に語りかけて講演をするように、そしてわかりやすくかつ面白く示されていた。

読んでよかった。大満足だ。



職業としての小説家 (Switch library)
村上春樹
スイッチパブリッシング
2015-09-10

読むべき人:
  • 村上春樹の作品が好きな人
  • 小説家になりたい人
  • 仕事や生き方を模索している人
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1. 「職業としての小説家」村上春樹  [ 粋な提案 ]   December 07, 2015 11:40

いま、世界が渇望する稀有な作家── 村上春樹が考える、すべてのテーマが、ここにある。 自伝的なエピソードも豊かに、待望の長編エッセイが、遂に発刊! 目次 第一回 小説家は寛容な人種なのか 第二回 小説家になった頃 第三回 文学賞について

コメント一覧

1. Posted by 藍色   December 07, 2015 11:44

こんにちは。同じ本の感想記事を
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